瀬文茶のヒートシンクグラフィック

【番外編】Devil's Canyonの殻割りで、次世代ポリマーTIMを実力チェック

 Haswellにオーバークロック向けの改良を施したDevil's Canyon。その大きなトピックとして取り上げられたのが、CPUダイとヒートスプレッダ間を熱的に接続するTIM(Thermal Interface Material)の問題を改善したという点だ。

 このTIMの問題については、本連載でも約2年前のIvy Bridge発売時に取り上げたことがある。Sandy Bridgeでは金属で接合(ソルダリング)されていたCPUダイとヒートスプレッダが、Ivy Bridgeではサーマルグリスでの接続に変更され、それが熱輸送経路上で大きなボトルネックとなるという問題だ。CPUを定格で動作させる分には無視できた問題だが、このボトルネックがCPUダイの冷却を妨げ、結果としてCPUのオーバークロックを制限する枷となっていた。

 Devil's Canyonでは、Ivy Bridge以来2年ぶりにTIMの仕様が見直され、“次世代ポリマーTIM”(Next-Generation Polymer Thermal Interface Material)と呼ばれる新しいTIMを採用することで、このオーバークロックの枷を改善したと言う。今回は、Devil's Canyonの上位モデルのCore i7-4790Kを殻割りし、次世代ポリマーTIMがどの程度の性能を実現しているのかをチェックする。

次世代ポリマーTIMの見た目をチェック

 さて、まずは次世代ポリマーTIMとはどのようなものなのか、殻割りしたCPUでその見た目をチェックする。

Core i7-4790K
殻割り後のCPU表面。CPUダイ脇に小型の実装部品が密集している
ヒートスプレッダ側
CPUコアに残った次世代ポリマーTIM。パサパサなので再利用は難しい

 殻割りしたCore i7-4790Kに塗布されていた次世代ポリマーTIMは、一般的なサーマルグリスと見た目に大きな違いは無い。従来のIntel製CPUに塗布されていたサーマルグリス同様、パサパサに乾燥した状態であり再利用は困難だ。一度ヒートスプレッダを取り外すと、TIMは必ず塗り替える必要がある。

次世代ポリマーTIMの実力を探る

 次世代ポリマーTIMの実力を測るため、今回は比較用としてサーマルグリス4製品と液体金属1製品を用意した。比較用製品のスペックについては、以下の表を参照してもらいたい。

比較用に用意したTIM
【表1】比較を行なうTIMのスペック
製品名熱伝導率
Arctic Cooling MX48.5W/mK
Arctic Silver AS-059.0W/mK
Prolimatech PK-311.2W/mK
GELID GC-EXTREME8.5W/mK
Cool Laboratory Liquid Pro82.0W/mK

 テストでは、Core i7-4790Kを定格クロックの4.0GHzに固定した場合と、全コア4.6GHzにオーバークロックした場合の2条件で、ストレステスト実行時のCPU温度を測定し、TIMによるCPU温度の違いを比較する。

 CPUクーラーにはCRYORIGの「R1 Universal」を搭載し、CPUのヒートスプレッダとCPUクーラー間のTIMにはProlimatechの「PK-3」を利用。室温28.0±0.5℃の環境下で、ストレステストPrime95 v26.6のSmall FFTsを用い、同テストの実行開始から20分後のCPU温度を「ロード時」、テスト終了から10分後のCPU温度を「アイドル時」として測定を行なった。

 なお、ストレステストに用いるPrime95には、AVX2やFMAといった最新の拡張命令に対応したv28.5が存在するが、同バージョンをCore i7-4790Kで実行した場合、一般的なアプリケーションのフルロードとは比べ物にならない程CPU温度が上昇してテストが成立しないため、今回はあえて古いバージョンを利用した。

CPU表面の実装部品は、ショートを防ぐため耐熱絶縁テープで養生している。
テスト用の機材
【表2】テスト機材一覧
機材製品名
CPUCore i7-4790K
CPUクーラーCRYORIG R1 Universal
マザーボードASUS MAXIMUS VII GENE
メモリ32GB DDR3-1600(8GB×4、9-9-9-24、1.5V)
ビデオカードCPU内蔵グラフィックス
電源ユニットSilverStone SST-ST85F-G-E
OSWindows 8.1 Pro Update 64bit

 それではテストの結果を紹介する。4.0GHz、4.6GHzの2条件で測定したCPU温度をまとめたものが、以下のグラフである。

【グラフ】テスト結果

 次世代ポリマーTIMのパフォーマンスは、4.0GHz時、4.6GHz時とも、比較用に用意した製品に劣る結果となってはいるが、サーマルグリス系製品との温度差は1~4℃と小さい。Ivy BridgeやHaswell世代のTIMは、今回比較したような市販の高性能サーマルグリスを相手に、10℃以上の差をつけられていたので、次世代ポリマーTIMが従来のTIMを大きく上回る性能を実現していることは明らかだ。

 比較製品中、もっとも低いCPU温度を記録したのは液体金属の「Liquid Pro」だ。次世代ポリマーTIMとの温度差は4.0GHz時に7℃、4.6GHz時に10℃。サーマルグリスでもっとも低い温度を記録した「GC-EXTREME」に対しても、4~6℃の差をつけており、サーマルグリスと金属接合の違いがはっきりと表れている。

市販の高性能サーマルグリスに匹敵する次世代ポリマーTIM

 今回の検証の結果、IntelがDevil's Canyonで採用した次世代ポリマーTIMが、市販の高性能サーマルグリスに匹敵する性能を持っていることが分かった。Ivy BridgeやHaswell世代のTIMとは雲泥の差であり、熱輸送経路上のボトルネックが大幅に軽減されたことは間違いない。

 もっとも、液体金属Liquid Proとの間には明確な差がついており、次世代ポリマーTIMによる改善が、金属を用いた接合に匹敵するレベルでは無いことも事実である。TIMを液体金属に変更することを前提とするならば、殻割りを行なう意義は失われていない。

 従来のTIMと金属接合の中間、高性能サーマルグリスと同程度な次世代ポリマーTIMの実力は、期待を超える程ではないが、及第点を与えられる性能ではある。この性能があれば、より発熱(TDP)の大きなCPUへの採用も可能だろう。今後、次世代ポリマーTIMがどのグレードの製品にまで採用されていくのか、筆者としては気になるところである。

(瀬文茶)