瀬文茶のヒートシンクグラフィック

RAIJINTEK「NEMESIS」

~新興メーカーのフラッグシップCPUクーラー

 今回はRAIJINTEKブランドのハイエンドCPUクーラー「NEMESIS」を紹介する。購入金額は8,424円だった。

350W以上の放熱能力を持つと言うハイエンドCPUクーラー

 2013年に設立され、冷却パーツを中心に製品展開を行なっている新興メーカーRAIJINTEK。同社のCPUクーラー最上位モデルとなるのが、今回紹介するミッドシップレイアウト採用の大型サイドフローCPUクーラー「NEMESIS」だ。

 NEMESISのヒートシンクは、銅板を接地面に採用したベースユニット、1ブロックあたり43枚のアルミニウム製放熱フィンを備える2ブロックの放熱ユニット、5本の8mm径ヒートパイプによって構成されている。ハイエンドモデルらしく、ヒートシンクは細部までしっかり作られており、放熱フィンやベースユニットと、ヒートパイプの接続部はロウ付けを施すことで熱伝導を改善。また、ヒートシンク全面に光沢感のあるニッケルめっきを施すことで、色の統一された高級感の外観に仕上がっている。

 特徴的なヒートシンクの構造として、2ブロックの放熱ユニットがそれぞれ異なる形状の放熱フィンによって構成されていることが挙げられる。恐らくはヒートシンク内での空気の流れを改善するための設計なのだろうが、この構造についてRAIJINTEKからの詳しい解説はない。

 冷却ファンには、25mm厚の140mm径ファンが2基同梱されている。2基のファンは形状こそ同じだが、1基は600~1,000rpmの範囲で回転数を調整可能なPWM制御対応仕様で、もう1基は回転数1,000rpm固定仕様となっている。敢えて、PWM制御対応ファンと固定回転数ファンのハイブリッド構成としている理由は何かしらありそうだが、NEMESISのマニュアルでは、2基のファンの配置についての指示はない。

 ヒートシンクへのファンの取り付けには、専用のゴムブッシュを用いる。例外として、ヒートシンク中央に配置するファンに関しては、ゴムブッシュ以外に金属クリップでの固定方法が用意されており、固定方法についてはユーザーが任意で選択できる。なお、標準搭載の140mm径ファンは、120mm角ファンとネジ穴位置の互換性があるため、冷却ファンに市販のケースファンを利用することも可能である。

NEMESIS本体
ヒートシンク側面。吸気側(左)と排気側では、放熱ユニットの厚みが異なっている。
リテンションキット
マニュアルとグリス。マニュアルは他の製品と共通の汎用品で、NEMESISの特徴的な仕様についての説明が欠落している。
ファン固定用具。基本はゴムブッシュだが、中心のファンのみ金属製クリップでの固定も可能。
標準搭載の140mm径ファン。2基ともフレームや羽根の形状は変わらない。
2基の140mm径ファンは、PWM制御対応品(4ピン)と、固定回転数(3ピン)のハイブリッド構成。
ファン取り付け時。写真では、中心に配置するファンを金属製のファンクリップで固定している。
メモリスロットとのクリアランス(ASUS MAXIMUS V GENE利用時)
拡張スロットとのクリアランス(ASUS MAXIMUS V GENE利用時)

 大型CPUクーラーに物理的な干渉問題はつきもの。NEMESISも例外ではなく、2基の140mm径ファンを搭載する標準構成では、特にメモリスロットとのクリアランスが深刻だ。

 テストに用いたMAXIMUS V GENEとの組み合わせでは、全高32mm程度のローハイトメモリとの組み合わせでも、冷却ファンがメモリに乗り上げてしまう。ファンの固定にゴムブッシュを用いるNEMESISは、その仕様上ファンの固定位置を上下にずらすことが困難なので、32mm以上の高さがあるメモリモジュールと組み合わせる場合、メモリスロット側のファンを外すか、120mm角ファンに変更するなどの対策が必要となる。

 NEMESISのリテンションキットには、マザーボード表面側に土台を組んで、ブリッジバーでベースユニットを押さえつけるタイプのリテンションが採用されている。このリテンションキットのクオリティは上々で、ヒートシンクとのマッチングも悪くない。長めのプラスドライバーがあれば取り付けは容易だ。

冷却性能テスト結果

 それでは、冷却性能テストの結果を紹介する。今回のテストでは、マザーボード側のPWM制御設定を「20%」、「50%」、「100%(フル回転)」の3段階に設定し、それぞれ負荷テストを実行した際の温度を測定した。

 なお、先に述べたとおり、NEMESISが備える2基の冷却ファンは、PWM制御対応ファンと非対応ファンのハイブリッド構成だ。このため今回のテストでは、メモリスロット側に固定回転ファン、ヒートシンク中央部にPWM制御対応ファンをそれぞれ配置し、グラフ中の回転数は「(固定回転数ファン/PWM制御対応ファン)」という形で表記している。

【グラフ】テスト結果

 冷却性能テストの結果、NEMESISは3.4GHz動作時にCPU付属クーラーを33~35℃下回る、50~52℃という大幅な温度低下を実現した。また、オーバークロック動作時についても、4.4GHz動作時に66~69℃、4.6GHz動作時ですら74~78℃を記録。PWM制御の差によるCPU温度の差が小さいのは、常時1,100rpm前後で動作している固定回転ファンの影響が大きいとみられるが、もっとも発熱の大きい4.6GHz動作ですら余裕十分と言った具合のNEMESISのパフォーマンスは驚嘆に値する。

 動作音については、常時約1,100rpmで回転する140mm角ファンがある関係で、常にそれなりの風切り音が発生している。問題なのは、中心部に配置した冷却ファンの回転数を上げた時で、PWM制御50%設定時あたりから、2基のファンが共鳴するかのような奇妙な風切り音が鳴り始め、それぞれ単体で動作させた際より大きなノイズを発するようになる。また、中央部のファンを金属製のクリップで固定した場合、ファンの振動によってヒートシンクからビビリ音が発生する。可能であれば、ゴムブッシュで固定した方が良いだろう。

アラは目立つが、この価格帯ではベストの冷却性能が魅力

 冷却性能テストでNEMESISが示したパフォーマンスは、1万円を超える空冷最高峰のCPUクーラーと比較しても、全く引けを取らない優秀なものだ。この優れた冷却性能は、それだけで8,480円という価格を正当化できるものである。

 申し分の無い冷却性能を持つNEMESISだが、明らかに良くないと言える要素も複数抱えている。具体的には、メモリとの干渉具合、動作ノイズ、マニュアルのクオリティの低さ。とりわけ深刻なのがマニュアルのクオリティだ。

 NEMESISには、標準ファンがPWM制御対応品と非対応品のハイブリッド構成である点や、2ブロックの放熱ユニットがそれぞれ異なる形状をしているなど、なんらかの意図があるはずの仕様があるにも関わらず、マニュアルは他のCPUクーラーと共通の汎用品で、NEMESISの持つ特徴について正しい利用方法が提示されていない。これはあまりにも不親切で説明不足だ。ぜひ改善してもらいたい。

 実際に運用するにあたっては、メモリの組み合わせや動作時のノイズについても考慮すべきだが、CPUクーラーに冷却性能を求める場合、NEMESISはこの価格帯でベストな選択肢だ。大幅にオーバークロックしたCPUの常用を望むユーザーにとって、NEMESISは選択肢に加えるべき製品の1つである。

RAIJINTEK「NEMESIS」製品スペック
メーカーRAIJINTEK
フロータイプサイドフロー
ヒートパイプ8mm径5本
放熱フィン86枚(43枚×2ブロック)
サイズ(ヒートシンクのみ)140×130×166.5mm(幅×奥行き×高さ)
重量(ヒートシンクのみ)1,050g
付属ファン140mm径25mm厚ファン(回転数固定)×1基
電源:3ピン
回転数:1,000rpm
風量(最大):70.2CFM
ノイズ:23dBA
サイズ:140×150×25mm
140mm径25mm厚ファン(PWM制御対応)×1基
電源:4ピン
回転数:600~1,000rpm
風量(最大):70.2CFM
ノイズ:23dBA
サイズ:140×150×25mm
対応ソケットIntel:LGA 775/1150/1155/1156/1366/2011
AMD:Socket FM2+/FM2/FM1/AM3+/AM3/AM2+/AM2

(瀬文茶)