瀬文茶のヒートシンクグラフィック

【番外編】Trinityのグリスは熱輸送のボトルネックなのか

 去る12月8日、秋葉原で行なわれたAMDのイベントで、Trinityこと第2世代AMD APUのコアとヒートスプレッダ間に塗布されたTIM(Thermal Interface Material)が、Intelの第3世代Coreプロセッサ、Ivy Bridgeと同じくグリスであることが明らかになった。

 Ivy Bridgeではコアとヒートスプレッダ間のグリスが熱輸送のボトルネックとなり、発熱の増大するオーバークロック動作に制約を課していたが、Trinityで採用されたグリスも同様のボトルネックとなって、APUのオーバークロック動作を制限するのだろうか。今回は、A10-5800Kのヒートスプレッダを取り除く“殻割り”を行ない、その影響のほどを確かめてみた。

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危険度の高いTrinityの殻割り。PCBに表面実装部品あり

 Trinityに採用されているTIMがグリスであることが公開されたAMDのイベントでは、その場でTrinityの殻割りが実演された。結果としてはPCBに傷をつけるなどして失敗に終わったのだが、その際に公開されたヒートスプレッダ除去後のA10-5800Kのパッケージを見ると、PCBのヒートスプレッダ搭載面には、APUコア以外にも部品が実装されていることが分かる。

 Ivy Bridgeの場合はCPUコア以外に部品が実装されていなかったため、比較的殻割りしやすいCPUパッケージだったが、Trinityはこれらの実装部品を回避して殻割りを行なう必要がある。カッターやカミソリの刃などを使ってTrinityの殻割りをするのであれば、一気にシール材を切り取るのではなく、外周から少しずつ削り取るように刃を入れていくとよいだろう。

AMD A10-5800K
殻割り後のA10-5800K
シール材除去後
PCBに残ったシール材と表面実装部品の位置をみると、PCBとヒートスプレッダの接合部からかなり近い位置に部品が実装されていることがわかる

グリスの塗り替えによる温度変化の確認

 それでは、Trinityでコアとヒートスプレッダ間のTIMを塗り替えたことによる温度変化の検証結果を紹介する。

 今回の検証では、殻割り前の温度データのほかに、本連載でCPUクーラーの検証に使用しているサーマルグリス「OCZ Freeze Extreme」と、熱伝導率82.0W/mkの液体金属「Liquid Pro」を用意し、殻割り後に除去したA10-5800KのTIMの代わりに塗布した際の温度を比較する。

 この検証内容は、以前行なったIvy Bridgeの殻割り検証と同じものだ。「OCZ Freeze Extreme」は、もともと塗布されているサーマルグリスの性能を確認することが目的で、「Liquid Pro」は、仮にコアとヒートスプレッダがソルダリングされていた場合どの程度の温度になっていたのかを確認することを目的としている。

OCZ Freeze Extreme塗布後
Liquid Pro塗布後。いずれもヒートスプレッダ取り外し後の写真。PCB上の実装部品は、導電性のあるLiquid Proの接触を防ぐため、耐熱絶縁テープで養生を施している

 テストの条件として、CPUクーラーにはThermalright製のCPUクーラー「Archon SB-E X2」を搭載したA10-5800Kを、3.8GHz@Auto、4.2GHz@1.3625V、4.4GHz@1.45Vの3つの条件で動作させ、温度データを取得した。なお、CPUクーラーとヒートスプレッダ間のTIMには、「OCZ Freeze Extreme」を使用している。

 なお、当初ヒートスプレッダを除去して直接CPUクーラーをAPUコアに設置させた状態での温度検証を行なう予定だったが、ヒートスプレッダ分の厚みがなくなったことで、CPUクーラーに利用した「Archon SB-E X2」のヒートパイプとリテンションが干渉し、APUコアにヒートシンクを設置させることができなかった。ヒートスプレッダを除去しての温度検証については、機会があればあらためて行なうこととしたい。

テスト検証結果

 さて、温度データを見てみると、Turbo COREを無効化した定格クロックである3.8GHz動作時は、殻割り前後で6~9℃の差が付いた。この差はオーバークロックのレベルに応じて拡大しており、4.2GHz@1.3625V時には9~13℃、4.4GHz@1.45V時には11~15℃もの差がついた。

 このテスト結果が示す通り、コアとヒートスプレッダ間のグリスは、Trinityでも熱輸送経路上においてボトルネックとなっている。元から採用されているグリスがOCZ Freeze Extremeと比較して性能面で劣っていることも、IntelのIvy Bridgeと同様である。

CPU温度に大きく影響するコアとヒートスプレッダ間のTIM

 今回殻割りを試したA10-5800Kは販売価格が1万2千円前後と、Ivy BridgeのIntel Core i7-3770Kと比べれば安価ではあるものの、Ivy Bridgeには無かった表面実装部品の存在が殻割りの難易度を高めている。TIMの塗り替えによるCPU温度の低下具合はなかなかのものだが、殻割りの難易度やAPUという製品の位置づけを考えると、オーバークロック動作のためにTrinityの殻を割るというのは現実的ではないだろう。

 メーカーを問わず、ヒートスプレッダを搭載するCPU(APU)では、CPUコアとヒートスプレッダ間に塗布されたTIMが、CPU温度を大きく左右する要素であることは明らかだ。そこにボトルネックが存在することにもどかしさを感じる筆者としては、TrinityのTIMについて、知らなければよかったと思わずにはいられないのである。

(瀬文茶)