■槻ノ木隆のPC実験室■
PFUのドキュメントスキャナ「ScanSnap」の主力製品が「S1500」になってから約9カ月、その下位機種にあたる「S300」の後継製品として「S1300」が11月16日に発表された。ちょっと発売から時間が経ってしまったが、評価した結果をお届けしたい。
●ハードウェア内部の大きな違いは無しS1300の見た目は、S1500と同じくシルバーとブラックを基調としたデザインに変更され、スキャンボタンもS1500とほぼ同じデザインに切り替わった。本体サイズは284×99×77mm(幅×奥行き×高さ)で、S300(284×95×77mm)とほとんど差が無い。本体重量は実測値で1,264gで、これもS300と大差ない感じだ(公称値はどちらも1.4Kg)。(Photo1~5)。
この印象は、給紙トレイを開くと更に強まる。給紙トレイの構造はS300と全く同一だし(Photo6)、トレイを開いた際の角度などもほぼ同等である(Photo7)。スキャン部の構造なども同一のようだ(Photo8)。こうなってくると、ハードウェア的にはS300とS1300はほぼ同一で、単に外側の意匠が変わっただけ、という感じがする。
同梱されるのは、本体とACアダプタ、USBケーブル、マニュアル、ドライバ/アプリケーションのDVD-ROM、USB給電ケーブル。相変わらずACアダプタは小型で軽い(146g)のに対し、電源のメガネケーブルがとても太く、重い(111g)。Adobe Acrobatを同梱したモデルが用意されないのは、価格を低く抑えるためだろうか | ScanSnap S1500によく似たデザインに。エッジが綺麗に落とされているのがS300との相違点その1 | この角度から見るとS1500の下位機種、というのが明確な造形 |
S300の場合、ここが楕円形の造形だったので大分印象が変わる(これが相違点その2)。前面側はS300より高く、その分天板の角度がなだらかになっており、高さそのものはS300と変わらないにも関わらず、S300よりも高さが減ったような錯覚を受ける | 背面もデザインこそ異なるが、電源/USBコネクタやケンジントンロック穴の位置などは全く一緒 | 厳密にはS300は給紙トレイの展開部が半透明の材質で、S1300は不透明なので、構造が一緒というべきなのだろうが、逆に言えば見えている範囲での違いは色のみといったところ |
S300の展開状態と比較するとやや立っているように見えるかもしれないが、これは写真の角度の問題。実際2台並べてみると、ほとんど差がわからない | 見た範囲では構造などに差は見当たらないし、開く角度もほぼ同じに見える |
実際スペックを比較すると、読み取り速度に関してスペック上は全く差が無く、ハードウェア的な違いでは
・自動認識が「カラー/白黒」から「カラー/グレースケール/白黒」になった
・自動解像度モードが追加された
・長尺読取(最大863mmまで)が可能になった
の3点のみが改良点として挙げられている。実はこれらの特徴はS1500では既に実現できているもので、S300にこうした部分の改良を施した、というのがハードウェア的な相違点となるだろう。もっとも、例えばS1500ではマルチフィード検出は超音波センサー+用紙の長さ検出で行なうが、S1300には超音波センサーが搭載されておらず、その意味ではファームウェア+ドライバで変更できる範囲で、S1500相当にしたというところだ。
ではソフトウェアの方はというと、これも基本的にはS1500相当にした事と、Windows/Macintoshの両対応にした事が相違点となる。まず添付ソフトとしては
・楽2ライブラリ パーソナル版がV5.0にバージョンアップ
・ScanSnap OrganizerがV4.1にバージョンアップ(Macintosh向けはなし)
・インテリジェント・クロッピング機能が搭載
・インテリジェント・インデックス機能(マーカー・インデックス/ゾーンOCR/キーワード付加/キーワード透かし表示)が搭載
・サーチエンジン選択機能が搭載
・名刺ファイリングOCRがV3.1になる(Macintosh向けはCardMinder V1.1)
・ABBY FineReader for ScanSnap 4.1が添付(Macintosh向けはなし)
・Scan to Microsoft SharePoint 3.3.5が添付(Macintosh向けはなし)
となっており、いずれもScanSnap S1500相当となっている。つまりS1300は、スペック上はS300の外形をS1500風とし、かつソフトウェアをS1500相当にバージョンアップした製品ということになる。
●操作感や性能は従来のままソフトウェアのインストールは、従来までとの違いもなく、特に問題もなく終了した。タスクバーのアイコンはS1500を思わせるもの(Photo9~11)である。ScanSnap Managerのバージョンは5.1となっている(Photo12)が、S1500に添付される5.0との機能的な差は、今回試用した範囲では確認できなかった。当然ながら操作感なども同じである。
ScanSnapが未接続(カバーを閉じた状態)はこのアイコン(左端) | ScanSnapがAC電源で起動中はこちら |
ScanSnapがUSB電源で起動中はアイコンが黄色に | S1500との差で言えば、S1500の場合はこの画面にe-スキャンのボタンが追加表示される程度だろうか |
Windows 7の64bit環境へインストールしたところ |
ところで、これまではWindows XP/Windows Vistaの32bit版で動作テストを行なってきた。Windows 7に関しては64bit版の売れ行きもかなり良いので、64bitのネイティブで動作するのか、はたまたXP Modeを使う必要があるのかは気になるところだ。結論から言えば、64bitで全く問題なく動作した(Photo13)。何パターンかで取り込みを行なってみたが、32bit版と64bit版、どちらでも同等の速度で同様な取り込みが行なえた。
問題は取り込み速度と品質である。今回もS1500のテストの時と同じように
(1) インプレスジャパン「DOS/V POWER REPORT」2008年1月号の特集1(カラー両面60ページ)
(2) 「Intel 64 and IA-32 Intel Architecture Software Developer's Manual Volume 3A:System Programming Guide, Part 1」のChapter 3の50ページ分(レーザープリンタ打ち出しで、片面50ページ。ただし1枚白紙ありで実質49ページ)
(3) 300dpiモノクロで印刷したビビちゃんとワーズさん
を用意した。ただし、読み取り速度が遥かに遅く、給紙トレイには50枚とかは到底乗せられない。結局(1)は10枚(20ページ分)、(2)は21枚(白紙を1枚含み実質20ページ分)に枚数を減らしてテストを行なった。テスト環境は下記の通り
CPU:Core i5-750
メモリ:DDR3-1333 2GB×2
マザーボード:ASUSTeK P7P55D
ビデオカード:ATI Radeon HD 3850
HDD:HGST Deskstar P7K500(HDP725050GLA360)
OS:Windows 7 Ultimate日本語版 32bit/64bit
(1) カラー原稿10枚(20P)
まずはA4のカラー印刷の取り込みである。
用紙サイズ:自動認識
傾き補正:なし
原稿の向き補正:あり
白紙の自動削除:あり
出力フォーマット:PDF
という条件での読み取り結果をまとめてみた(表1)。圧縮率は速度に余り関係ないが、後でファイルサイズの比較を行なうため、1/3/5の設定でそれぞれ取り込んでいる。また表1はACアダプタでの結果だが、USB経由で給電するとどの程度性能が落ちるかを表2にまとめた(こちらはカラー・圧縮率3のみを実施)。表は、読取完了までの時間/1枚あたりの読み取り時間/1ページあたりのデータ量として示してある。
画質/圧縮率 | カラー | |||||||||
圧縮率1 | 圧縮率3 | 圧縮率5 | ||||||||
ノーマル | 59秒84 | (10.0ppm) | 831.5KB/page | 59秒27 | (10.1ppm) | 310.5KB/page | 59秒41 | (10.1ppm) | 127.4KB/page | |
ファイン | 1分11秒28 | (8.4ppm) | 1316KB/page | 1分10秒73 | (8.5ppm) | 489.1KB/page | 1分11秒03 | (8.4ppm) | 206.1KB/page | |
スーパーファイン | 1分44秒50 | (5.7ppm) | 2871.3KB/page | 1分43秒32 | (5.8ppm) | 1026.2KB/page | 1分44秒00 | (5.8ppm) | 412KB/page | |
エクセレント | 6分16秒07 | (1.6ppm) | 11236.3KB/page | 6分14秒32 | (1.6ppm) | 3701.8KB/page | 6分12秒47 | (1.6ppm) | 1383.5KB/page | |
画質/圧縮率 | カラー高圧縮 | |||||||||
圧縮率1 | 圧縮率3 | 圧縮率5 | ||||||||
ノーマル | 59秒87 | (10.0ppm) | 407.6KB/page | 1分00秒44 | (9.9ppm) | 245.6KB/page | 1分00秒62 | (9.9ppm) | 157.9KB/page | |
ファイン | 1分12秒49 | (8.3ppm) | 617.7KB/page | 1分12秒91 | (8.2ppm) | 357.2KB/page | 1分12秒63 | (8.3ppm) | 100.8KB/page | |
スーパーファイン | 1分45秒59 | (5.7ppm) | 952.1KB/page | 1分45秒38 | (5.7ppm) | 225.2KB/page | 1分46秒34 | (5.6ppm) | 144.2KB/page |
画質/圧縮率 | カラー | |||
圧縮率3 | ||||
ノーマル | 1分54秒37 | (5.2ppm) | 311.9KB/page | |
ファイン | 2分21秒03 | (4.3ppm) | 490KB/page | |
スーパーファイン | 3分54秒94 | (2.6ppm) | 1017.7KB/page | |
エクセレント | 6分17秒63 | (1.6ppm) | 3769.9KB/page |
結果を見ると、やはりスペック通りになった。読取速度の公称値は表3の通りで、これに比べればノーマル~ファインまでは公称値を上回るスコアをACアダプタ/USBの両方のケースで出しており、優秀といえる。が、S300の読取速度も大体同程度なので、やはり機構面での差は無いようだ。S300でのテストの際はB5、今回はA4なのでそれを考慮すれば高速化されている、という見方もできるのだが、実はB5でもA4でもほとんど読み取り速度が変わらなかった。実際、S300でカラー/ノーマル/圧縮率3の条件で10枚読み込むのに必要な時間は59秒46となっており、読み取り速度はやはり10.1ppmとなっている。
もっとも、「機械部は完全に同一」というわけでもないようだ。というのは取り込み時のモーターの音が全く異なっているからで、音量そのものは同程度だが、ややS1300の方が高音にシフトしている感じを受ける。つまり相応に機械部の変更はあるが、スペックとしてはS300と同程度、ということだろう。
公称読み取り速度 | ACアダプタ | USB | |
ノーマル | 8ppm | 4ppm | |
ファイン | 6ppm | 3ppm | |
スーパーファイン | 4ppm | 2ppm | |
エクセレント | 2ppm | 0.5ppm |
取り込んだ画質だが、こちらはファイルサイズ、実際の取り込み品質共にほぼS1500の結果に等しいものになった。
(2)白黒原稿21枚(20P)
次はこちらである。条件は
用紙サイズ:自動認識
傾き補正:なし
原稿の向き補正:あり
白紙の自動削除:あり
出力フォーマット:PDF
となっている。ACアダプタでの取り込み結果を表4、USB経由での給電での結果を表5にまとめてみた。
結果はやはり表1/表2とほぼ同じ程度での読み取り速度になった。USB給電にすると読み取り速度が半減するのも同じだし、最高でも10ppm程度というのも同じである。特に白黒だから高速化する、という事もなかった。
画質/圧縮率 | 白黒 | グレースケール | |||||||||||
圧縮率1 | 圧縮率3 | 圧縮率5 | |||||||||||
ノーマル | 2分04秒21 | (10.1ppm) | 40.7 | 2分04秒00 | (10.2ppm) | 393.7 | 2分04秒65 | (10.1ppm) | 156.4 | 2分05秒35 | (10.1ppm) | 77.6 | |
ファイン | 2分35秒53 | (8.1ppm) | 53.6 | 2分33秒46 | (8.2ppm) | 582 | 2分34秒23 | (8.2ppm) | 228.3 | 3分33秒56 | (5.9ppm) | 229 | |
スーパーファイン | 3分42秒47 | (5.7ppm) | 82 | 3分42秒37 | (5.7ppm) | 1240.1 | 3分42秒37 | (5.7ppm) | 435.2 | 3分42秒06 | (5.7ppm) | 233.9 | |
エクセレント | 13分36秒03 | (1.5ppm) | 173.8 | 13分37秒97 | (1.5ppm) | 4499.1 | 13分37秒97 | (1.5ppm) | 1304.4 | 13分36秒85 | (1.5ppm) | 665.8 |
画質/圧縮率 | 白黒 | グレースケール | |||||||||||
圧縮率1 | 圧縮率3 | 圧縮率5 | |||||||||||
ノーマル | 2分04秒21 | (10.1ppm) | 40.7KB/page | 2分04秒00 | (10.2ppm) | 393.7KB/page | 2分04秒65 | (10.1ppm) | 156.4KB/page | 2分05秒35 | (10.1ppm) | 77.6KB/page | |
ファイン | 2分35秒53 | (8.1ppm) | 53.6KB/page | 2分33秒46 | (8.2ppm) | 582KB/page | 2分34秒23 | (8.2ppm) | 228.3KB/page | 3分33秒56 | (5.9ppm) | 229KB/page | |
スーパーファイン | 3分42秒47 | (5.7ppm) | 82KB/page | 3分42秒37 | (5.7ppm) | 1240.1KB/page | 3分42秒37 | (5.7ppm) | 435.2KB/page | 3分42秒06 | (5.7ppm) | 233.9KB/page | |
エクセレント | 13分36秒03 | (1.5ppm) | 173.8KB/page | 13分37秒97 | (1.5ppm) | 4499.1KB/page | 13分37秒97 | (1.5ppm) | 1304.4KB/page | 13分36秒85 | (1.5ppm) | 665.8KB/page |
●若干価格は安くなったが……
ということで、ざっとテストを行なった感想としては、性能面では従来型のS300と同一。普段から大量にスキャンを行なう用途にはまるで向かないが、何かあったときだけ引っ張り出してスキャンする(名刺とか、いまだと年賀状をスキャンして住所録を作るとか)という程度の用途には適している。USB給電を使うとかなり性能が落ちるので、非常用と割り切るべき。読み取り精度はS1500並。特にグレースケールをサポートしたことで階調表現に幅が出てきている。という感じで、少なくとも改善されたことは間違いない。
価格も若干下げられており、PFUダイレクトでの価格は単体モデルが27,800円、楽2ライブラリを同梱したモデルが32,800円となっている。ちなみに原稿執筆時点では、PFUダイレクトで筆まめとのセットとか楽2ライブラリのクライアントサーバモデルのセットなどもラインナップされている。従来のS300が単体では29,800円、楽2ライブラリのセットが33,800円だから、1,000~2,000円ほど安くなった計算だ。
S1300の発売に伴い、既存のS300が時々処分価格で販売されているのを見かけるが、もともと流通在庫がそれほど無かったのか、数量はそれほど多くないので、確実に購入するのであればS1300を狙うほうが賢明だろう。あと(筆者はMacintosh環境を持ち合わせていないので確認できないが)両方で使いたい場合や、どちらで使うかまだ決めてないという場合にも、今回の両プラットフォーム対応はありがたいだろう。
ということで、問題はもうS1300の性能で我慢できるか、S1500が欲しいかというところになる。取り込み画質を考えると、やはりスーパーファインがどうしても欲しいところで、そうなるとS1300での実質的な読み取り速度は6ppmをやや切ることになる。S1500は概ね20ppmというところで、「毎分6枚の読み取り速度が我慢できるか否か」でどちらを選択すべきか決まる、というあたりであろう。これが「6枚でもいい」という人であれば、S1300をお勧めしたい。
(2009年 12月 24日)