■西川和久の不定期コラム■
米Appleは10月23日(現地時間)、新型のiMac、Mac mini、Retina解像度の13型MacBook Pro、第4世代のiPad、そして以前から噂されていたiPad miniを発表した。今回両iPadとアクセサリなどが編集部から届いたので、試用しつつ思いつくまま書いてみたい。
日本時間の10月24日深夜、筆者はリアルタイムで発表会の映像を観ていた。事前に色々リークがあったため、(本当か嘘かは別問題で)ある程度内容は分かっており、iMacとMac miniのIvy Bridge版、Retina解像度の13型MacBook Pro、iPad mini、そしてこのiPad Retinaディスプレイモデル(以降iPad 4)と、結果的には噂の通りだったが、驚いたのは、iMacとiPad 4だ。
iMacは現在の筐体そのままIvy Bridge化するのだろうと誰もが予想していたと思うが、それに反して、エッジ部分が5mmまで薄くした新しい筐体で登場。これはかなりのインパクトで、「そこまでやらなくても(笑)」と言うのが第一印象。機会があればこの連載で扱ってみたい逸品だ。
そしてiPad 4は、多くのスペックは“新しいiPad”(以降iPad 3)そのまま、iPhone 5とiPad miniに合わせて、従来の30pinコネクタをLightningコネクタへ変更する程度のマイナーチェンジだと考えられていた。
ところが予想に大きく反して何とプロセッサをA5XからA6Xへ変更。基本性能を大幅に向上させた。このA6Xプロセッサは、iPhone 4Sに対するA5Xプロセッサと同じ考え方で、iPhone 5用のA6プロセッサを2,048×1,536ドットの解像度で耐えられるよう、主にGPU周りを強化(クアッド化)したバージョンとなる。
これは完全に寝耳に水。ほんの半年ほど前(3月16日発売)に購入した“新しいiPad”が“新しかったiPad”になったと、ネット上でもかなり話題になっている。主な違いは以下の通り。
iPad 4とiPad 3(Wi-Fiモデル)の主な仕様比較 | ||
iPad 4 | iPad 3 | |
ディスプレイ/解像度 | 9.7型LEDバックライトIPS液晶/2,048×1,536ドット(264ppi) | ← |
プロセッサ | A6X/デュアルコア1.3GHz | A5X/デュアルコア1.0GHz |
メモリ | 1GB | ← |
前面カメラ | 1.2MP | VGA |
背面カメラ | 5MP | ← |
Wi-Fi | IEEE 802.11a/b/g/n | ← |
Bluetooth | 4.0 | ← |
コネクタ | Lightning | 30pin |
バッテリ | 42.5Wh | ← |
※サイズ・重量は変わらず、241.2×185.7×9.4mm、652g |
この表からも分かるように、違いは3カ所。プロセッサ、前面カメラ、コネクタ。プロセッサはA5X/デュアルコア1.0GHzからA6X/デュアルコア1.3GHzへ、前面カメラはVGAから1.2MP、そしてコネクタが30pinからLightningへ変更された。
サイズや重量、バッテリ駆動時間などはそのまま従来通り。また同時にiPad 3は生産終了となる。メモリ容量は16GB/32GB/64GBあり、価格はWi-Fiモデルで42,800円/50,800円/58,800円と据え置きだ。
iPad/表 | iPad/裏 | iPad/電源スイッチ、消音スイッチ、ボリューム、リアカメラ |
ACアダプタ | Lightningコネクタ | iPad 3とiPad 4の発色の違い |
編集部からiPad 4が届き、iPad 3とどの程度違うのか色々試したところ、やはり描画はかなり速い。Webページのレンダリングを比較する動画を掲載したので参考にして欲しいが、感覚的に倍近く違う。これはちょうどiPhone 4SとiPhone 5との違いと同じと言っていいだろう。おそらくゲームなどもよりスムーズに動くと思われる。
もう1点は発色の違いだ。比較している写真で分かると思うが、iPad 3の方は若干緑被りしている。ただこの件は初期のiPad 3で起こる現象で、途中から修正されているという噂もある。もちろんiPad 4の方が正確だ。また発熱もiPad 3では裏側がほんのり暖かくなるものの、iPad 4では冷たいまま。ただし、この寒くなってきた時期なので、たまたまの可能性も否定できない。
外観に関しては全く同じで唯一コネクタが変わっている。30pinのコネクタから変更されたLightningコネクタについては、後半にまとめてあるので、そちらを見て欲しい。
ここで不思議なのは次に紹介するiPad miniの内蔵スピーカーがiPadとしては初のステレオ仕様なのに、このiPad 4ではモノラルのままと言うこと。唯一スペックで劣っている点となる。
Lightningコネクタに変更されている関係で、既存のケースはそのまま使えず、このタイミングであれば移行もスムーズ。少なくともiPad miniより左右のスピーカーの幅も広く配置でき、よりステレオ感が増すだけになぜ対応しなかったか不思議だ。
【動画】iPad 3 vs iPad 4/Webブラウザ表示比較 |
興味深いのは、非RetinaディスプレイのiPad 2(16GB/16G+3Gモデルのみ)が未だラインナップに残っていること。同社のサイトにはiPad mini/iPad 2/iPad Retinaディスプレイモデルが3つ並んでいる。恐らく価格面や用途によっては9.7型の非Retinaディスプレイモデルも必要との判断なのだろう。実際今iPad 2を使っても画面が粗く見える(と言ってもPCの世界では一般的な荒さ)以外は特にこれと言った不満も不都合も無く使えている。
さてiPad 3を所有する筆者が一通り試した感想は複雑だ。速度の違いは2倍も違えば圧倒的なのだが、知らなかったら知らなかったでiPad 3は普通に使える。アプリにもよるだろうが、遅くてイライラすることも無い。これはiPhone 4SとiPhone 5との関係と似ている。
もしiPad 2ユーザーであれば、間違い無くiPad 4をお勧めするが、そこはこれからご紹介するiPad miniがあり、どちらを選ぶかはユーザー次第と言ったところか。
●iPad 2をギュッと濃縮!?ご存知のように、iPad miniの噂はかなり前から言われ続けていた。ただ、ジョブズが小型iPadを完全否定していただけに、結果出ないのではという話もあった。結局、iPhone 5の発表会では見送られ、やっと今回発表となった。
ただこのタイミングは偶然なのか、合わせたのか分からないものの、Nexus 4/7/10、Kindle関連、SurfaceやWindows Phone 8など、一気に色々出てきたタイミングと一致。混乱しつつも、筆者としては楽しい10月末から11月頭となった。
ザックリiPad miniを表現すると「iPad 2のスペックのまま7.9型へ濃縮した」となるだろうか。ただし細かい部分としては、前面/背面カメラ、Bluetooth、コネクタなども同時に変わっている。主な違いは以下の表の通り。
iPad miniとiPad 2(Wi-Fiモデル)の主な仕様比較 | ||
iPad mini | iPad 2 | |
ディスプレイ/解像度 | 7.9型LEDバックライトIPS液晶/1,024×768(163ppi) | 9.7型LEDバックライトIPS液晶/1,024×768(132ppi) |
プロセッサ | A5 | ← |
メモリ | 512MB | ← |
前面カメラ | 1.2MP | VGA |
背面カメラ | 5MP | 720p |
Wi-Fi | IEEE 802.11a/b/g/n | ← |
Bluetooth | 4.0 | 2.1+EDR |
コネクタ | Lightning | 30pin |
サイズ | 200×134.7×7.2mm | 241.2mm×185.7×8.8mm |
重量 | 308g | 601g |
最大の特徴はiPad 2の1,024×768ドットの解像度のまま9.7型から7.9型へなったこと。これに伴い132ppiから163ppiとなり、Retinaではないものの、表示が全体的に若干細かくなっている。サイズは241.2×185.7×8.8mmから200×134.7×7.2mmへ、重量は601gから308gとなった。
7.2mmの薄さにも驚くが、それより以前Nexus 7の時にも書いた、300g台という軽さはある意味驚異的で、カバンに入れてしまうと、入っていることすら忘れそうになる重さ。そして片手で持っても重いと感じない重さだ。1度これを経験してしまうとiPadはズッシリ重たく感じてしまう。
iPad/表 | iPad/裏 | iPad/電源スイッチ、消音スイッチ、ボリューム、リアカメラ |
ACアダプタ | Lightningコネクタと両サイドにステレオスピーカー | iPhone 4S、iPad mini、iPad 4のサイズ比較 |
動作速度は厳密に計ったわけではないが、体感的にはiPad 2と同等だ。iPad 2からiPad 3になった時も解像度は高くなったものの、処理時間に関してはA5とA5Xの図式通りほぼ同じだったので、画面の綺麗さ以外は差は無かった。これが今回iPad miniでも等価であり、Webページのレンダリングもほぼ同じ。もたつく感じは全く無く、画面が小さくなった分、目の錯覚か、動き自体が軽やかに見える。
【動画】iPad 2とiPad mini/Webブラウザ表示比較 |
筐体は、iPhone 5の技術をそのまま用いたエッジの面取りに加え、フロント・リア共非常に美しく、そして手触りも良い。これ以上ない高級感だ。iPad miniを見た後では、どんなタブレットでもチープな玩具に見えてしまうほど。この辺りの演出は同社独自で、他社が追随できないポイントとなる。加えて左右のフチが非常に狭く、全体と液晶パネルの配置の割合も美しい。もちろん液晶パネルのクオリティも抜群だ。
そしてiPadとしては初めて内蔵スピーカーがステレオ仕様となった。配置上、左右の幅が狭いだけにその効果は疑問だったが、試した結果明らかにステレオ感のある再生となる。ただ、iPhoneも含め、個人的にはモノラルスピーカーの古いラジオっぽい雰囲気も嫌いでは無かったが……。
iPad miniはSiriに対応 |
さてiPad miniは冒頭に書いたように、iPad 2をギュッと濃縮したイメージが強く、Siriは動かないものと勝手に思っていた。しかしご覧の通りSiriに対応している。であれば、iPad 2も対応して欲しいところだが、これは技術的と言うより大人の事情なのだろうか。
以前からiPadの記事では、カメラの機能はこれを持って撮影するのはカッコ悪く、また手ぶれし易いため実用的では無いと書いたが、iPad miniのこのサイズであれば、十分実用的。参考までにiPad miniで撮影した写真を3枚掲載した。当日あまり天気が良くなかったので、室内の写真であるが、かなりの描写力で全く問題無いレベルだ。
リアカメラサンプル1。ISO125、F2.4、1/24秒、焦点距離3mm | リアカメラサンプル2。ISO640、F2.4、1/15秒、焦点距離3mm | リアカメラサンプル3。ISO250、F2.4、1/20秒、焦点距離3mm |
このiPad mini、実は単にiPad 2の小型版と言う見方だけでなく、iPod touchの大型版、LTEモデルをモバイルルーターにと思っている人も多いようだ。
iPad miniの価格は16GB/28,800円、32GB/36,800円、64GB/44,800円。対してiPod touchは、32GB/24,800円、64GB/33,800円。同容量なら約1万円ほどのアップとなる。
従来のiPadはサイズ・重量的にiPod touchとは全く比較にならなかったものの、iPad miniはカバンへ入れるならもはや同じ。300g程度だと入っていることすら忘れる重量だ。そうなると、より長時間のバッテリ駆動、画面が大きくアプリを操作しやすい、iPad専用アプリが使えるといった観点から、iPod touchではなく、iPad miniを選ぶユーザーが出てきてもおかしくないだろう。
iPhone 5でLTEを体感した人の多くは、もうモバイルルーターは止めて、iPhone 5+LTEのテザリングで十分との話をよく聞く。もちろん7GBのリミットがあるため、ある程度用途は限定されるものの十分なパフォーマンスだ。これをiPad mini+LTEでと考えるのは自然で、少なくともiPhone 5よりはバッテリが長持ち。加えて先のiPod touchの話と同様、カバンに入れるのならもはや無視できるサイズと重量だ。
●Lightningコネクタに対応する各種アクセサリなどiPhone 5も合わせて、新モデルの最大の特徴は、長年使われてきた30pinコネクタからLightningコネクタへ変更になった点だろう。非常に小さく筐体を薄くでき、裏表が無いコネクタは、おそらく同社はかなり前から実装したかったと容易に想像がつく。
ただ30pinコネクタを中心とするエコシステムがあまりにも膨大なため、その影響はかなり大きい。1番影響があるのはDock式の製品、特にオーディオ関連だ。以前何かのニュースで、ビジネスホテルがDock対応のスピーカーを全室に設置した途端、iPhone 5が発表され途方に暮れた……という記事を読んだ。同じような話は大なり小なりかなりあるだろう。
「Lightning to 30-pin Adapter」を使えば一応流用可能とは言え、写真からも分かるように、この上に乗せると不安定で実質使えない状態になる。従って、「Lightning to 30-pin Adapter」→「30pin延長ケーブル」か「Lightning to 30-pin Adapter(0.2m)」で、直接上に差さず、横に置いて使うこととなり、トータルの見た目が悪くなる。ホテルなどに常設すると紛失する恐れもある。
加えて単にコネクタの形状だけを変更する「Lightning to 30-pin Adapter」が2,800円(0.2mのケーブル付きは3,800円)は高いと思っている人も多いだろう。ただこれには仕方が無い事情があり、Lightningは全ての信号がデジタル、対して30-pinはオーディオ出力など一部アナログ信号が混じっている。従って、単に配線の組み換えだけでは対応できず、小さいコネクタ内へD/Aコンバータなどのロジックを内蔵し処理している関係で、コストアップしているのだ。
その他のケーブルは、30pinの時と同じ構成で、唯一違うのは「iPad Camera Connection Kit」。もともと“SDカードリーダー”と“USBコネクタ”の2つが1つのパッケージになっていたものが、「Lightning to SD Card Camera Reader」と「Lightning to USB Camera Adapter」の2パッケージに分離された。
また当初ヨーロッパのみで販売されていた「Lightning to Micro USB Adapter」が、最近になって1,880円で国内で販売されるようになった。日本でも発売して欲しいというユーザーの声に同社が応えた格好だ。Androidなどと充電器を共通化でき便利になる。
当初“風呂の蓋”と言われた「Smart Cover」は、iPad mini用も発売されている。また初期に購入したSmart CoverはiPad 4でも利用可能だ。これとは別に「iPad Smart Case」もあり、裏側まで含めてスッポり保護できるカバーとなる。どれもカバーを開くとONとなる機能付きだ。カバーやケースは純正だけでなく、今後、各社からさまざまなものが発売されるので、楽しみにしたいアイテムと言えよう。
iPad Smart Case/Smart Cover(iPad用)/Smart Cover(iPad mini用) | iPad Smart CaseへiPad 4を入れたところ |
●iPad mini vs Nexus 7
Nexus 7を発売日に購入した件は、以前レポートを掲載した通り。vs iPad miniで気になっている人も多いのではないだろうか。
物としての完成度、動作速度や滑らかさ、液晶パネルのクオリティ、タブレット用アプリの多さは、圧倒的にiPad miniが勝っており、恐らく両機種持っている方も同じ意見だろう。ただ2ショットの写真からも分かるように、Nexus 7の方が一回り小さく、片手で持つと、この若干の差であるがiPad miniの方が幅が広く握りにくい。
解像度やアスペクト比も違うため、主に電子ブック用途の場合は色々な意見があるようで、実際試用&比較レポートも数多く載っている。ただ、筆者の場合は、ある特定のアプリさえ動けば困らない使い方しかしていない関係上、この点に付いては全く気にならない。
逆にもう1点気になるのは画面の粗さだ。Nexus 7は216ppi、iPad miniは163ppi。個人差もあるだろうが、このサイズのデバイスは至近距離で見ることが多く、iPad miniは文字などのドットが分かってしまう。もしiPad miniがRetinaディスプレイなら問題無いが、主に消費電力とコストの兼ね合いで今回は見送ったものと思われる。
どの項目に重心を置くかは人それぞれ。筆者の場合、たまたま用途が、余暇にゴロゴロしつつ、お酒を飲みながらFacebookやTwitter、Flipboardを使う程度なので、先に購入したNexus 7でいいやとなったまでだ。
iPad miniとNexus 7の2ショット | iPad miniとNexus 7のサイズの差 | 同じIPSパネルでもiPad miniの方が視野角は広い |
Nexus 7を片手で持った場合 | iPad miniを片手で持った場合 |
【動画】Nexus 7とiPad mini/Webブラウザ表示比較 |
さて、初代から3世代のiPad全て買い続けてきた筆者は、今回iPad 4もiPad miniも見送ることにした。ただこれは両iPadが気に入らないのでは無く、スマートフォンも含めると既に計10台ものタッチパネル搭載機を所有している関係で、もう個人では扱い切れない状況にあるのが最大の理由だ。iPhone 5をパスした理由もここにある。たまには(初めて)全て1世代スキップするのもありかなと思っている。
以上のように第4世代iPad、そして新たに登場したiPad miniは、どちらもハードウェア的にもソフトウェア的にも非常に魅力的な製品だ。既に第3世代のiPadや、7型クラスのAndroidタブレットを所有しているユーザーから見れば買い増しは微妙かもしれないが、まだ何も持っていない人はもちろん、2世代以上前の旧モデル所有者であれば、文句なしでお勧めの逸品と言えよう。iPad 4かiPad miniかは用途や好みに応じて選んで欲しい。