西川和久の不定期コラム

マウスコンピューター「LuvPad AD100」
~NVIDIA Tegra 250ベースの10.1型タブレット!



 iPad登場以降、国内外問わず、タブレットコンピュータの発表やリリースが相次いでいる。今回はその中でもAndroid 2.2搭載そしてNVIDIA Tegra 250ベースと言った、Android系のタブレットコンピュータとしては最新環境に対応したマウスコンピューター「LuvPad AD100」を試用したので、iPadとの比較を交えつつそのレポートをお届けする。

●使用感/ハードウェア編

 普段筆者はiPad(32GB/Wi-Fiモデル)を使っているため、Android 2.2そして、NVIDIA Tegra 250プロセッサを搭載したこのLuvPadには非常に興味を持っていた。まずAndroid 2.2は、2.1と比較して「Dalvik JIT」コンパイラを採用し従来の2~5倍高速作動、ブラウザの「V8 JavaScriptエンジン」でJavaScriptのパフォーマンスも2~3倍向上している。また「Flash Player 10.1」が使えるのも強みだ。

 次にNVIDIA Tegra 250は、モバイル端末用に設計された統合型プロセッサで、メインはDual Core ARM Cortex A9 CPU、単純処理と省電力用としてARM7 Processor、GeForce 6並の処理野力を持つGPU、HDビデオエンコーダ/デコーダ、オーディオプロセッサ、デジカメなどの処理に使うイメージプロセッサ……と、この手のプロセッサとしては強力な7種類のプロセッサが1チップになっている。

 iPadと比較して、プロセッサ単体の処理能力は簡単に比較できないが、スペックを眺めると、まずサイズ/重量が異なる。iPadの189.7×242.8×13.4mm(幅×奥行き×高さ)/680gに対して、LuvPadは169×260×13.9mm(同)/750gだ。大きさはこの程度なら一長一短。ただ重さが70gとは言え重いのがちょっと気になった。と言うのも、以前レビューでも書いたが、iPadでさえ長時間手で持つのは重く感じるからだ。実際持ってみるとサイズの割りにズッシリ重く思える。

 液晶パネルのサイズは10.1型で1,024×600ピクセル。ネットブックなどでよくあるサイズ/解像度となる。iPadは9.7型で1,024×768ピクセル。横縦比は約16:10と4:3。どちらがいいかは好みの問題だろう。HDコンテンツなど最近流行のコンテンツを再生する時には、前者の方が上下がブランクにならず、ほぼ全画面表示になるため迫力がある。その他の仕様は以下の通り。

LuvPad AD100の仕様
サイズ/重量169×260×13.9mm(幅×奥行き×高さ)/750g
ディスプレイ10.1型LEDバックライトワイドディスプレイ、1,024×600ピクセル、静電容量方式タッチパネル
ワイヤレス通信方式Wi-Fi (IEEE 802.11b/g)、Bluetooth 2.1+EDR
フラッシュ容量OS起動用:512MB、データ用:8GB
プロセッサNVIDIA Tegra 250 プロセッサ
メモリ512MB
OSAndroid 2.2
センサー加速度センサー、光センサー
バッテリリチウムイオンバッテリ(3,500mAh/7.4V)、充電時間約3時間、バッテリ駆動:最大約8.5時間
インターフェイスUSB mini Bタイプ、内蔵スピーカー、内蔵マイク、ヘッドフォン出力(ミニジャック)、mini HDMI(最大出力解像度1080p/HDCP非対応)、カードリーダ:microSDHC(最大32GB)

 メモリはiPadが256MBに対して512MB搭載。容量が半分のiPadでもそれなりに動いているので、倍の容量があればかなりスムーズな動きが期待できる。

 ネットワークはIEEE 802.11b/g、Bluetooth 2.1+EDR。iPadのWi-FiはIEEE 802.11a/b/g/n対応であるが、運用上は特に差は無い。Bluetoothは外部にキーボードやスピーカーなどを接続可能だ。

 そして最大のアドバンテージは、本体にUSB、HDMI、そしてmicroSDHCカードリーダを搭載していることだろう。iPadはUSBに関しては「iPad Camera Connection Kit」(2,980円)、ビデオ出力に関しては「iPad Dock Connector - VGAアダプタ」(2,980円)がオプション。また、ビデオ出力に関しては名前からも分かるようにVGA解像度出力であり、LuvPadの最大出力解像度1080pに完全に劣っている。さらにこのHDMI出力は、本体の加速度センサーと連動していて、縦位置にすればモニタ出力も縦位置、横位置にすればモニタ出力も横位置に表示が自動的に切り替わる。

 ストレージは、OS用に512MB、データ用に8GBを本体に内蔵している。一見データ用に8GBは少ないように思えるが、microSDカードを使えるので、後から必要なだけ増設可能だ。本体固定のiPadより、例えば音楽と動画でメディアを別けるなど運用しやすいと思われる。

 バッテリ駆動は最大約8.5時間と、iPadの最大約10時間と比較すると少し短め。この原稿を書くために画面キャプチャを撮ったり、動画を再生したり、ネットへ接続して遊んでいると、実際はもう少し短そうな雰囲気だった。充電は付属の専用ACアダプタを使用する。

フロントの下中央にAndroid固有の[HOME]、[BACK]、[MENU]ボタンがある。左上には電源やネットワークなどのステータスLEDリアの右上に[RESET]ボタン、上中央にmicroSDカードスロット上部にUSB mini Bタイプ、mini HDMI、ヘッドフォン出力、microSDHCスロット、電源コネクタ。ダイレクトにUSB、HDMI、microSDを扱えるのがiPadと大きな違い
右側にボリューム、電源スイッチ。左側の下側に電源ボタン、上側にボリュームがある。ただ下のこの位置に電源ボタンがあると、操作中に押してしまいそうだ左側の上に内蔵マイクがある付属のACアダプタは少し大きめだ。プラグの部分は交換式になっている。これは国内仕様

 各コネクタやボタンなどは掲載した写真を参考にして欲しいが、全体的な質感はiPadに軍配が上がる。LuvPadは特に裏のプラスチック感が強い。加えて液晶パネルのクオリティもiPadはIPSパネルで視野角も広く、発色や最大輝度などもかなり良い。また電源ボタンが縦位置の時に調度右手が持つ部分と重なっているのも気になった。

 マルチタッチに関しては、OS側の処理の関係かタッチパネル自体の感度が関係しているのか分からないものの、iPadの方がスムーズでより自然に扱える。先のデザインも含めこの辺りはマイナスポイントとなるが、Webブラウザの作動速度は、掲載した動画からも分かるように、LuvPadが倍近く高速だ。iPadの場合、ページ内の全データを書き終わるまで少し待つが、LuvPadは「ポン!」と一気にページを書き終える。このサクサク感はかなり快適。明らかにLuvPadのアドバンテージと言えよう。

 内蔵スピーカーから出る音に関しては、音質と言う面では若干iPadが上。ただし、出力に関してはほとんど差が無く、単体でもそれなりの音量で音楽や音声を聴く事ができる。

 iPadを含め各マシンとのサイズ比較は掲載した通り。iPadと比較して縦に長く幅は狭く高さはほぼ同じだ。その他、ThinkPad X201i、Eee PC 901-X、iPhoneに関しては、パネルサイズの違いがそのまま大きさの違いとなっているのが分かる。

iPadとの比較。画面サイズももちろんだが、縦横比の違いから幅は短く高さは高くなっている(縦置きの場合)iPadの液晶パネルのフチは均等な幅だが、LuvPadは左側がちょっと広めに余っている厚みは若干LuvPadの方がある
ThinkPad X201iとの比較Eee PC 901-Xとの比較iPhone4との比較
【動画】iPadとWebページ表示比較。LuvPadの方が倍近くレンダリングが速い

●使用感/ソフトウェア編

 ソフトウェアはAndroid 2.2がそのまま入っている状態に、日本語IMEのSimejiだけを追加した環境になっている。従って、例えば「設定の項目」や「時計」、「電卓」などは、他のAndroid 2.2が入っているスマートフォンなどと同じになる。また、LuvPadはバイブレーションモードにしても、それを実現するハードウェアを搭載していないので、実際には機能しない。

起動時の画面(ロック画面)[Home]画面標準で組み込まれているアプリケーション
設定設定/ワイヤレスネットワークの設定設定/端末情報

 動きなどは動画を掲載したのでご覧頂きたい。写真をスライドショーにした時のエフェクト、マルチタッチによるズームなど、スムーズに動いているのが分かる。動画に関しては、Windows 7にサンプルで入っている「野生動物.wmv」を試しにmicroSDへコピーし再生したところ、コマ落ちや引っかかりなど皆無で表示された。同社のFAQには対応フォーマットとして「MP4やAVIなど、一般的なフォーマットに対応しています。」と書かれているが、WMVもOK。標準で対応している動画フォーマットに関してはLuvPadの方が幅は広そうだ。

【動画】一通りの動き

 先に触れたが、LuvPadは日本語入力アプリ「Simeji」を標準搭載している。標準IMEとの一番の違いはiPhoneでお馴染みの「フリック入力」機能があること。他にも「ケータイ」、「フルキーボード」、「ポケベル」の計4種類の入力方式が用意され、日本語入力と英語入力で個別に設定できるなど、なかなか良くできたIMEだ。iPhoneやiPadに慣れていると、部分的にキー配列などが異なるので戸惑う部分もあるが、少し触ればすぐに慣れる。

 気になる点としては、タッチパネルの感度の関係なのか、iPadと比較して、該当キーを押しても反応しない事があり、何度か押しなおすことがあったこと。ただ、これは若干キートップに相当する面積が狭い関係から「押したつもり」になっているのが原因かも知れない。

Simeji/縦:ANKSimeji/縦:フリック入力Simejiの説明
Simeji/横:日本語Simeji/横:ANKSimeji/横:数字・記号

 Androidの操作系は、基本的に本体下にある[HOME]、[BACK]、[MENU]ボタンで、[HOME]はホーム表示、[BACK]は1つ前に、[MENU]はそのシーンで使えるメニュー表示となり、[HOME]ボタンしかないiPadとは操作系が異なる。加えてiPadの場合、[BACK]/[MENU]ボタンに相当する機能に関しては、各々のアプリケーションが自前で持つため、ある程度のガイドラインはあるものの、システムとしての一貫性は無く、Androidの方がシンプル。覚え易い操作系になっている。

 もう1つ大きな違いは、ユーザーが/(root)からファイルシステムを見れること。例えば「ES File Explorer」を使ってアクセスできる。/sdcardが内蔵の8GB、/sdcard2がmicroSDカードのマウントポイントだ。このES File Explorerは、ローカルファイルだけでなく、SMBを使ったWindowsネットワーク、FTP、Bluetoothを使ったネットワークなどにもアクセス可能となっている。標準ではネットワーク上のファイルを扱えないiPadと便利さという面ではこの点でも差が出る。掲載した画面キャプチャの1つは、Windowsマシンで公開しているMusicフォルダへ接続したものだ。ここからダイレクトにMP3ファイルの再生もできる。

 もちろんiPadも内部的にはファイルシステムを持っているものの、ユーザーからは全く見えない仕様になっている。この違いはもはや製品に対する哲学の領域であり、優劣を付けるものではないが、パワーユーザーにとっては見えるほうが何かと扱い易いのも事実だろう。

 Webブラウザは、iPadのMobile Safari同様、縦横表示はもちろん、ダブルタップによるズームやマルチタッチにも対応し、表示速度も速いため、かなり快適に操作できる。ただし、マルチタッチのスムーズさ、スクロール時の慣性/停止、ダブルタップした時のタグの解釈などは、あと一歩及ばずと言ったところか。

時計電卓メール/受信一覧
メール/詳細ES File Explorer/ローカルES File Explorer/LAN
ブラウザ/横表示ブラウザ/縦表示ブラウザ/ダブルタップで拡大
5ページ分のサムネイルYouTubeが再生できない設定に携帯電話用OSとしての名残が

 アプリケーションを使用して気になったのは、Android 2.2はもともとスマートフォン用OSなので、設定メニューに「マナーモード」などスマートフォン固有の項目が残っていたり、横位置にしても例えばメールが2ペイン表示にならずリスト表示のままなど、スマートフォン用の表示がそのままタブレットコンピュータにも適応されてしまい、大きい画面を有効活用できていないことだ。このあたりは現状仕方ない部分ではあるものの、ユーザビリティとしてはiPadと差が出る。

 もう1点、工場出荷状態では、Flash Player 10.1はインストールされておらず、YouTubeなど、Flashを使うコンテンツは全く再生できない。「http://www.youtube.com/html5」にアクセスし、H.264をvideoタグで再生する方法も試したが、ブラウザ自体がvideoタグ非対応で、同じく再生できなかった。さらにAndroid 2.2は、本来スマートフォンを対象としているためにAndroid Marketもアクセスできず、用途がかなり限定されてしまう。

 同社では主要モジュールやアプリケーションを自社サイトからダウンロード可能にする方針を明らかにしているので、それに期待したい。このままだと、せっかく高速なハードウェアなのに、それを活かせるアプリケーションが無いとは何とももったいない話である。


 以上のように「LuvPad AD100」は、39,800円と販売価格も安く、高速作動が売りのタブレットコンピュータだ。

 今すぐ何か実用的に使いたいのであればiPadをお勧めするが、Androidを使ったタブレットコンピュータやNVIDIA Tegra 250のハードウェア的な性能に関心のあるユーザーにとっては大変興味深い製品だ。一般向けに完成された製品というより、今後のある分野を開いていくための素材として捉え、「Androidのバージョンアップに付き合っていくか……。」ぐらいの気持ちで購入すると楽しめる製品だろう。