最終回「エピローグ」



 今回は本連載の最終回です。ちょっと趣向を変えて対談形式でお送りします。まず、第1回「プロローグ」で設定した5つのテーマを振り返ってみましょう。

  1. 世界のキットを楽しもう
  2. オープンソースハードウエア
  3. もっとArduino
  4. 工具と測定器を試す
  5. コミュニティに参加しよう

メンバーA:連載を振り返ると、世界のキットという点で、キットの数はあまり多く扱えませんでしたね。紹介できたのはブラウン管を再利用するキット、それから入門者向けのキットというあたりでしょうか。

メンバーB:予想以上に皆さんの反応が良かったのは日本のキットを紹介した記事でした。夏の暑い頃、大阪日本橋のデジットを取材しましたが、店頭でしか見ることができないキットがいくつもあって、興奮したことを覚えています。現在は通販でも購入できるようになりましたが、このVFDキットもそのひとつです。

A:これは非常に魅力的なキットですが、製作や表示のハードルの高さがありました。制御にマイコンを使うなどの点で、記事中で紹介するのをためらいました。ただ、表示は美しくなかなか味わいのあるものです。

正しい商品名は「6管蛍光表示管キット」です。配線が面倒な蛍光表示管(VFD)も、専用プリント基板のおかげで比較的簡単に扱うことができます
Arduino Megaのソケットに直接挿して実験している様子です。かなり乱暴なやりかたですが、Megaはピン数が多いのでこういうことが可能です。表示しているのは、PROTOTYPERSという文字列です
【動画】Arduino Megaによりキットを制御/動作させているところ
キットに含まれるNECのVFDです。コントロールの仕方は7セグLEDと似ていますが、高い電圧を必要とします。共立電子のキットでは12~18Vを前提にしており、マイコン回路と電源を共用するときにちょっと工夫が必要です
当初は1つの電源からVFDキットとArduino Megaに15Vを供給しました。動作はしましたが、Megaの3端子レギュレータ(電圧を変換するIC)が触れないほど熱くなってしまったので、15Vを9Vに変換する3端子レギュレータを追加して、Megaにはその9Vを供給することにしました
9V用の3端子レギュレータ「7809」のデータシートどおりの回路を小さなブレッドボード上に組みました
やはりVFDは時計としてまとめてみたいと考えています

B:我々がVFDの料理に手間取っている間に、Adafruit Industriesから素敵なキットが発売されましたね。

A:Ice Tube Clock kitですね。とても魅力的なキットなので購入しようとしましたが、人気があるようで現在でも品薄です。とくにケース周りの作りが綺麗です。これは恐らくレーザーカッターを使って製作されていると思いますが、こんなキットを見ると我々もレーザーカッターを使ってみたくなりますね。

B:Adafruitのキットは本連載でも2つ登場しました。第13回「自由なLo-Fi楽器、Drawdioを作ろう」Drawdioと、第20回「テレビにつないで遊ぶ電子工作キット」Fuzeboxです。Adafruitの製品は内容の面白さだけでなく、そのすべてがオープンソースとして提供されている点に新しさを感じます。

A:それと、Adafruit Industriesではほかの作者の成果物も販売しています。Adafruitがオープンソースハードウェアコミュニティの中心となっているように思います。

Adafruitからも購入できる、Evil Mad ScientistMeggy Jr RGB。携帯ゲーム機の形をしていますが、ゲーム専用機というわけではなく、フルカラーマトリクスLEDを楽しむためのキットです
【動画】Meggyのデモの1つを動かしてみました。LEDの色が滑らかに変化するだけですが、インパクトがあります
8×8ドットのフルカラーマトリクスLED。国内の電子部品店では見かけることのない部品です
Meggyのケースもレーザーカッターで製作されています
プリント基板に自分で部品をハンダ付けします。この回路はArduinoと互換性があり、Arduinoの開発環境上で専用のライブラリを使うことにより、オリジナルのプログラムを開発することができます
電源は単3形乾電池2本。電池ボックスは、本体の裏側に面ファスナーで固定しています。出っぱってしまい持ちにくいのですが、このような荒っぽいところも、こうしたキットの面白さの一部です

A:Meggy Jr RGBもArduino互換機ですが、本連載ではほかにもいくつかArduinoを使ったプロジェクトを紹介しました。第5回「LEDディスプレイをPCにつないでみよう」の16セグLEDのコントロール、第6回「シンプルなのに出音がすごいシンセサイザ - Auduino入門」のAuduinoはわずかなパーツとArduinoを組み合わせたシンセサイザです。第9回「憧れの機能満載デジタル式FMラジオ」ではArduino互換機の自作もしました。

B:Arduinoを使うことで、以前の我々には難しくてできなかったことができるようになりました。ずっと作りたいと思っていたFMラジオやLCDゲームを(ごく簡単な形ではありますが)発表できたのも良かったです。

A:電子工作という立ち位置で見ると、Arduinoの大きな魅力は回路の複雑さを吸収してくれるところだと思います。高度な成果物を比較的容易に実現できるという点で、まだまだ紹介したいプロジェクトがたくさんありました。ただ、Arduino関連プロジェクト以外にも紹介したいものが多々あったので、Arduinoの作例は最小限に抑える結果となりました。

B:製作記事以外では、工具のエンジニアさんやテスタの三和電気計器さんの取材がとても勉強になりました。本当はもっとたくさんの工具や計測器、とくにオシロスコープのメーカーさんを取材をしたかったのですが、その機会を作ることができませんでしたね。

A:個人的にはアジレント社のオシロスコープを取材してみたかったです。ところで、第1回「プロローグ」で触れたデジタルオシロスコープキットが秋月電子さんで販売されるようになりました。

発売当時に我々が入手したのはSeeed Studio版で、チップ抵抗も含むすべての部品をハンダ付けする必要がありました。かなりタイヘンな作業でした。現在、秋月電子で販売されているLCDオシロスコープキットには、表面実装部品があらかじめ取り付けられているキットも用意されています
サンプリング周波数5MHzのデジタルオシロです。プッシュボタンだけで操作するので、少しまわりくどい感じはありますが、ちょっとした波形の確認には十分使えます。写真は1KHzの正弦波を表示しているところ
正弦波の生成にはFFTExplorerというJavaアプレットベースのソフトウエアを使いました。このようにパソコンの出力を観察してみるのも楽しいです
音楽をLCDオシロで観測中の様子。自作の音モノの動作確認にも便利ですね
プローブ(測定対象に接触させる部分)は自作する必要があります。不要となったRCAケーブルを改造するといいでしょう。

B:連載中に何度か、それぞれの分野の達人に登場していただきました。

A:同じ趣味を持つほかの人の作品を見るのは面白かったですね。作り手に接することで、自分ではまったく出てこなかったアイデアやテクニックを目の当たりにできるのは新鮮な経験でした。

B:arms22さんが厚紙をコンパスカッターで切って、スピーカーをさくっとマウントしてしまったときには、感動しました。あのテクニックは活用させていただいてます。

A:ところで、本連載でやり残したこともあります。たとえば電池についてより詳しく追求したかったということです。電池は身近な存在ですが、調べるほどにわからないことが多く、とても深い存在だと思います。そういったことをメーカーさんに直接訊いてみたかったですね。

B:それから、ハンダ付けについても、もっと勉強したかったですね。専門のメーカーさんから直接話を聞いて、もっと目からウロコを落としてみたいです。

A:課題として残っていると感じることもあります。本連載でもブレッドボーダーズでも、電源は単3形などの電池に限定しています。これは作例の再現しやすさを重視した結果ではありますが、我々が交流100Vにある種の恐怖感を抱いていることも理由の1つです。いずれはコンセントから電源を取った工作にも挑戦してみたいというのが正直なところです。

B:まだまだ体験していないことはたくさん残っていそうですね。プロトタイパーズの連載は今回をもって終了ですが、しばらくの充電期間を経た後、初心にかえってまたいろんな工作にチャレンジする予定です。

A:最後になりますが、我々にやらせてみたいことなどありましたら、お気軽に編集部までメールをいただければと思います。全24回の連載をご愛読いただきましてありがとうございました。