第17回「電池を使い切るエコな回路“ジュールシーフ”」



 使い終えた乾電池はどうしていますか? 完全に使い切ったと確信すれば、すっぱりと捨ててしまえるのですが、早めの交換を心がけていると、かなりの残量がある状態で古電池になってしまうので、捨てるに捨てられません。そういう電池は「判断保留」の状態で溜めておくしかありません。試しに、手元の古電池たちの電圧を測ってみたら、ほとんどが1.2Vから1.3Vでした。もったいないのですが、かといってもう一度使う気にはなりにくい残量です。

 今回はそうした微妙な電池を活用する回路を作ります。

乾電池1本で白色LEDを光らせる回路を作ります。電池の電圧が1.5Vをかなり下回っても動作します
名刺ケースに溜まっていく古電池。これを活用するのが今回のテーマです。実験には単4電池を使いました

 古電池でLEDを点けることができれば、資源の利用効率がアップしそうです。白色LEDにも対応していると、使い道が広がるでしょう。常夜灯や懐中電灯として使えそうです。

 同じ考えに至った人はすでにいて、うってつけの回路が考案されています。「ジュールシーフ」(joule thief)です。日本語にすると「エネルギー泥棒」といったところでしょうか。泥棒といっても、よそから盗んでくるのではなく、残り少ない電池のエネルギーをギリギリまで搾り取るのが目的です。

 この回路のより一般的な呼び方は「昇圧回路」です。1.5V以下の電源から白色LEDを駆動可能な電圧を生成する昇圧回路を作ります。

シンプルな回路です。しかし、この回路図では各部品の型番や値がわかりませんね。文中で説明していきますので、この段階ではどんな部品が登場するかだけ把握してください
コイルを自分で手巻きするところがジュールシーフの一番面白いところでしょう。

 ジュールシーフの主役はコイルです。コイルは「インダクタ」とも呼ばれます。抵抗(レジスタ)、コンデンサ(キャパシタ)と並んで、もっとも基本的な電子部品の1つです。回路図のなかではLと表記されることがあります。抵抗はRで、コンデンサはCでしたね。なぜLなのかは諸説あるようです(Wikipediaのコイル項目参照)。

 皆さんも小学生のときにエナメル線をくるくると巻いて電磁石を作ったと思います。あれもコイルです。電流を流すとそばに置いた方位磁石が動きました。コイルは磁気と電気の双方に関係する、構造は単純でも動作は複雑な素子です。

 コイルについて詳しくなりたい人はTDKテクノマガジンの「電気と磁気のはてな館」がオススメです。興味深く読めるコンテンツが集まっています。

 ジュールシーフで使うコイルは小学生の電磁石と同様に、自分で巻いて作ります。必要なのは、ドーナツ状の磁性体「トロイダルコア」と導線です。

 導線は被覆があるタイプなら大抵のものが使えます。問題はトロイダルコアで、扱いやすい大きさのものは入手しにくいかもしれません。裸のトロイダルコアを探すよりも、すでに電線が巻かれたトロイダルコイルを探すほうが簡単でしょう。我々が調べた範囲では、同じくらいの大きさならば、コア単体よりもコイルを買ったほうが低価格でした。ここでは、トロイダルコイルを入手し、それをほぐして使うことにします。

共立電子エレショップで購入したトロイダルコイル(右)とそれをいったんほぐして作ったジュールシーフ用トロイダルコイル(左)。コアの大きさが何種類かありますが、直径(外径)20mmから25mm程度のものが扱いやすいでしょう。写真のコアはかなり小さくて、直径12mmほど。それでも動作しました
こちらはジャンク店で見つけた直径20mmのトロイダルコイル。これを使って巻き方を説明します
巻かれている導線を根気よくほどきます。このコイルは単純なぐるぐる巻きのように見えますが、途中で交差している部分があり、一直線にはほどけませんでした(逆からほどきはじめていれば平気だったかもしれません)。何度かニッパで切って、作業を続けました
ほどき終わりました。必要なのはコアだけです
普通のビニール線(より線)も使えますが、単線のほうがカッチリと巻けます。色が違う線を2本用意してください(1色しかない場合は片方に印をつけておきます)。長さは40cmあれば足りるはずですが、コアの大きさにもよりますので、少し余分に見ておきましょう。写真の電線はブレッドボーディングにも便利なKQE 0.5mm。6色のワイアが2mずつ入っているパッケージを使いました。キレイですね
1冊丸ごとトロイダルコイルについて書かれた書籍があるくらいなので、きっと巻き方にも作法があると思われます。我々の場合は完全に我流です。2本をセットにして、なるべく等間隔になるよう心がけました
巻く回数は7回から10回と言われています。間をとって、8回か9回のものを最初のバージョンとしておきましょう
回路図を見ると、コイルの横に点が2個ありますね。この点は「巻き始め」の位置を示しています。一方の線の巻き始めともう一方の線の巻き終わりが電池の+極につながります。大事なところです。間違えないよう、この段階でその2本を組にしておきましょう
邪道かもしれませんが、線をねじって組になる線がわかるようにしました
ワイアストリッパで余分な線を切り落とし、被覆を剥いてできあがり

 コイルができたら、あと一息です。他に必要な部品はわずかです。抵抗はまず1KΩを用意しましょう。選択が難しいのはトランジスタですね。我々が試したもののなかで、動作させやすく、入手もしやすかったのは2SC2655です。LEDは白か青を想定していますが、それ以外の色も使えます。ただし、自己点滅型は動作しないはずです。

東芝の2SC2655-O。共立電子エレショップで63円でした。他にも使いやすいトランジスタはあると思いますが、今回のオススメはこれです
定番の2SC1815(左)と海外の作例で使われていることが多いフェアチャイルド2N3904(左)も試しました。2N3904はマルツパーツ館で5個105円でした。どちらも2SC2655に比べると動作する条件が狭いようです。2N3904だけ足がまっすぐなのは、ピン配置がE-C-B(エクボ)ではなく、E-B-C(エボク?)になっているためで、今回はこの配列に合わせて組みました。

 材料が揃ったら、回路図どおりに組み立ててください。コイルからの線は正しい位置につながっているでしょうか。LEDとトランジスタの向きを確認したら、電池をつないでみましょう。最初に試す電圧は1.2V~1.5Vがいいと思います。古電池がない場合は、新品でも大丈夫です。

 うまくいくと、LEDがまぶしく光るでしょう。うまくいかないときは、まったく光らない場合が多いと思います(ごく短時間、微かに光って消えるというパターンもありました)。

 光らなかった人は次にあげる方法を試してください。

1) 抵抗値を小さくしてみる
 1KΩでスタートした場合は470Ωを試してみましょう。

2) コンデンサを加える
 コンデンサを抵抗に対して並列に入れると動作することがあります。実験から得た印象では0.01μFから0.1μFくらいのものが効くようです。

3) コイルを巻き直す
 コイルの性質は多くの要素に左右されます。コアをいくつも用意するのは難しいでしょうから、同じコアを使って巻く回数を少し増やして試し、それでもダメなら減らしてみましょう。

ブースター(?)となるコンデンサを加えた回路図です。まずは手元にある0.1μF以下のものを試してみましょう。どのくらいがベストかはわかりません。1,000pFでも効くときがありました
0.022μFのコンデンサを加えた回路が動作しているところ。トランジスタは2SC1815です
最初に紹介した小さいトロイダルコアを使ったバージョン。トランジスタは2SC2655です
自分で巻いたトロイダルコイル以外でも動くかもしれません。これはトーキンの「ACラインフィルタ」と呼ばれるコイルです。見た目が良いので使ってみました。うまく動作しています

 どうやってジュールシーフは1.5V未満の電源で白色LEDを光らせているのでしょうか? オシロスコープで見てみると、仕組みが少しわかるかもしれません。

携帯型オシロスコープでLEDの両端の電圧を表示しているところです。このオシロ(Hantek DSO-1060)はラブロス・ダイレクトショップで59,800円でした。電池で動作するのでちょっとした確認に便利です。以下のキャプチャは別のオシロ(RIGOL DS1052E)で撮ったものです
トランジスタ=2SC2655、抵抗値=1KΩ、電池の電圧=1.23Vのときの出力波形です。高さ4V、幅1μ秒の山が連なっています。この山の部分でLEDが点灯し、谷の部分では消えます。つまり、点滅しているわけですが、人間の目には連続的な光に見えます
同じ回路の電池電圧が0.96Vまで低下したときの様子です。山が低くなっていますね。3V未満です。LEDはまだかろうじて光っている状態ですが、このあと少しすると完全に消えてしまいました
LEDが消えた回路に0.022μFのコンデンサを追加すると、輝きが蘇りました。1.23Vのときに匹敵する明るさです。山の形が鋭くなり、ピークは5Vを少し超えています
コンデンサ入りの回路の電池電圧が0.62Vまで低下したときの状態です。電圧のピークは3.5V近辺を維持しているものの、パルスの密度がスカスカです。LEDはかすかに光っています。このまま観察していると、だんだん周波数が下がり、消えてしまいました

 コイルとトランジスタによる発振回路、これがジュールシーフの正体です。1.5V以下の直流を3V以上のパルスに変換し、白色LEDを光らせます。電池が弱って、ある電圧を下回ると発振は止まってしまいます。我々の回路では、0.7V近辺が限界だったようです(正確には把握できていません)。もっと低い電圧で動作させるには、コイルの最適化が必要そうです。どんなコイルがベストかはわかりません。もう少し試行錯誤して、より高性能な泥棒を作ってみたいと思います。

 ジュールシーフに関するWebページはたくさんあります。日本でも多くの人が探求していますので、検索してみましょう。今回、我々が参考にしたのは下記のページです。