第14回「テレビのリモコンでロウソクを点ける実験」



 まず始めにお断りしておきます。今回のテーマは「テレビのリモコンでロウソクを点ける」となっていますが、安定して動作する状態まで作り込むことができませんでした。その過程はのちほどご覧いただきますが、ロウソクに点火するという最後の課題をクリアしようとすると、電子回路とは関係ない部分で、可燃性の高い材料を使った工作が必要となるため、記事化するのは見送りました(その試行錯誤は煙で喉がいたくなるくらい行ないました)。

 結果的に今回のメインテーマは、ごく簡易的な回路でリモコンの信号を受信し電源のオンオフを実現する方法、といった感じです。どうぞご了承ください。

リモコンで青色LEDのオンオフをしているところ。家電用の赤外線リモコンなら、どんなものでも使えます

 さて、皆さんの身の回りには、家電製品を操作するためのリモコンがいくつもあるでしょう。それらは赤外線で情報を送っています。デジカメでリモコンの先端を見ながらボタンを押すと、青白く光るのが見えると思います。これが赤外線の光です。人間の目にとっては一瞬ですが、その光に「押されたボタン」を示す情報が含まれています。

電圧の変化を記録し、波形として表示する測定器「オシロスコープ」の画面です。キャプチャして説明(青字)を付けました。画面が狭いオシロスコープなので(ほぼQVGAサイズ)、キャプチャした画像も小さくなっています。オシロスコープに関する詳しい説明は、この連載の別の機会に行なう予定です

 上の写真はソニーのテレビ用リモコンの電源ボタンを押したときの信号です。フォトトランジスタと呼ばれる光センサで赤外線を受信し、オシロスコープで表示しました。赤外線がパルス状にやってきている様子がわかります。

 よく見ると、パルスの幅が何種類かあるのに気付くと思います。最初のパルスが一番長く、2つ目以降は短いパルス(画面上のS)と長いパルス(L)が入り交じっています。

 最初の長いパルスは信号の始まりを示し、続くパルスの長短の組み合わせでどのボタンが押されたかを表しています。ソニー以外のメーカーは、これとは違うフォーマットを用いているかもしれませんが、幅の異なるパルスの列で情報を表している点は同様です。

 信号を受信する側は、このパターンを解読することで、ユーザーの指示を理解します。そのために通常はコンピュータ(マイコン)が用いられます。

オシロスコープの設定を変更して、より瞬間的な信号の変化を捉えてみました

 次の画面も同じ信号を表示しています。それなのに形がまったく違いますね。最初のパルスの先頭部分を200倍に拡大すると、信号が一定の周期で震動しているのがわかります。その震動の周波数は約38KHzで、これはどの赤外線リモコンも共通です。

 赤外線リモコンは38KHzの信号を出したり止めたりすることで、情報を送っているわけです。これは、単純な赤外線のオンオフだけでは、無関係な光が混ざってしまったときに、本来の信号と見分けがつかないためでしょう。38KHzの赤外線だけに反応することが、リモコン受信装置には必要です。

赤外線リモコン用受信モジュールPL-IRM0101。秋月電子で110円でした

 今回作成する回路の説明に移ります。

 一番大事なのが赤外線を受信するセンサです。38KHzの信号だけに反応するリモコン用のセンサがあって、それを使うと、とても簡単に信号を受け取ることができます。

 我々が今回使ったPL-IRM0101は金属のケースに入っていて、ノイズに比較的強いと言われている製品です。赤外線リモコン用とうたわれているものならば、他の製品も同様に使えると思います。

 受信部はこのような専用部品を使うことで、すぐに作れるでしょう。問題は受け取った信号を解読する部分です。世の中には膨大な種類のリモコンがあって、それぞれがいくつものボタンを持っています。送られてくるパターンの種類は数えきれません。それを正確に解読するのはかなり面倒な作業です。Arduinoで学習リモコン的な仕組みを作る例もあるのですが、今回はすぐに作れて動作が試せることを重視し、この部分を思い切って省略してみました。つまり、受信したデータの解析はしません。

 こうすることでマイコンを使わない、とても単純な回路にできます。そのかわり、世の中のあらゆるリモコンのすべてのボタンに反応してしまいます。他にリモコンを使う人がいない状況、あるいは、誤動作しても悪影響がない用途でなら、使い道があると思います。

電源は乾電池を3本使って4.5Vとしています。青い部分は、テスト用にLEDと電池を接続しています。点灯時間を決めるコンデンサC1は、もっと大きい容量のものも用意しておくといいかもしれません
小型のブレッドボードの上にまとめました。赤外線センサの前に他の部品があると、信号を受け取りにくくなります。とはいっても、多少の邪魔は動作に影響しないようです
今回使用したリレー941H-2C-5D。5Vでオンオフでき、最大2A(30V)まで電流を流すことができます。5Vタイプのものならば、他の製品も使用可能です
リレーの内部は機械式のスイッチです。人間が指でツマミを動かすかわりに、電磁石が接点を動かします。電磁石に電流を流すと切り替わります。941H-2C-5Dのデータシート(PDF)によると、電磁石は1番と16番のピンにつながっています。スイッチは2組入っていますが、今回は片側(9/13番ピン)だけ使いました
リレーの電磁石には、並列にダイオードを付けます。電磁石のコイルが生み出す逆起電力を逃がすためもので、これがないと、他の部品がダメージを受ける可能性があります。手元にあった11EQS04を使用しましたが、1S4など多くの製品が使えます。パッケージ表面の帯(写真の場合は緑)がカソードを示し、こちらを電源のプラス側に接続します。LEDを光らせるときのカソードはマイナス側でしたね。今回の用途では逆向きになりますので、注意してください

番号名称型番/仕様参考価格(円)購入店
 赤外線リモコン受信モジュールPL-IRM0101110A
 リレー941H-2C-5D100A
IC1タイマーICLMC55520A
Tr1トランジスタ2SC18155A
D1ショットキーバリアダイオード11EQS0431K
R1カーボン抵抗器1MΩ1A
R2カーボン抵抗器10KΩ1A
R3カーボン抵抗器1KΩ1A
C1電解コンデンサ3.3μF10K
C2積層セラミックコンデンサ0.01μF31K
C3電解コンデンサ10μF10K
購入店:A秋月電子通商、K共立電子エレショップ
ブレッドボード、電池ボックスは含まれていません。コントロールする対象の回路(回路図の青い部分)の部品も含まれていません。

 解析のためのマイコンを使わないことにしたので、とてもシンプルで廉価な回路になりました。赤外線がリモコンからの信号を受け取ると、赤外線センサがリモコンからの信号を受け取ると、タイマーIC(LMC555)が動作し、一定時間リレーをオンにします。この時間はコンデンサC1で決まります。3.3μFのとき約4秒間でした。もっと長い時間オンにしたい場合は、容量を大きくしてください。

 リレーは今回初めて使う部品ですね。LEDをオンオフする程度ならば不要なのですが、いろいろな回路を接続できるようにするため取り入れました。仕様の上では、100Vをコントロールすることもできます。その場合は流す電流の最大値に注意が必要です(最大1A)。感電にも注意してください。ちなみに我々は、ブレッドボードで扱う電源は乾電池だけと決めています。

 リレーは動作時にカチリといい音がします。リモコンを押すとカチリと反応するのは気持ちがいいものです。採用した2つ目の理由はこれです。

 555でリレーを直接駆動することもできるように思えたのですが、実際にやってみるとうまくいきませんでした。そこで、トランジスタを介して制御しています。

赤外線リモコン(どれでもOK)をセンサに向け、ボタン(どれでもOK)を押すと、カチリと軽い音がして右側のLEDが点灯するはずです。回路図どおりの定数ならば約4秒で消えます。明るいLEDを接続して、ベランダや玄関前に置いておき、リモートで点灯できる照明として使ってみてはどうでしょう

 リモコン受信部はできあがりました。次はそれをロウソクの点火につなげる方法を見ていきますが、その前に、そもそもなぜロウソクなのかをお話ししたほうがいいかもしれません。

 実は、最初のアイデアはロウソクではなく、花火でした。怖い思いをしてライターで点火しなくても済む、遠隔操作の花火用点火装置を作ることが目標だったのです。しかし、室内で実験できないことからなかなか作業が進まず、そのうちに花火のシーズンが終わってしまいました。それでクリスマスや誕生日会でも使えるロウソク点火装置に変更しました。ロウソクに着火できるなら、花火も大丈夫だろう、ということでもあります。

 我々は低電圧の電子回路から火を生み出す簡単で廉価な方法を探しました。そういうちょっと特殊な方法は、Instructablesという、ハンドメイド愛好家の情報交換サイトで見つかることが多いです。ロウソクの点火に使えそうな方法もありました。スチールウールとマッチだけで実現する、とてもシンプルな方法です。

 結果的に、この方法だけでは安定して動作するところまではいかなかったのですが、できたところまで紹介します。

このロウソク(無印良品)に点火するのが目標です
リレーとの接続にはミノムシクリップを使用しました。回路図の青い部分をこれに置き換えます
これがスチールウールです。ホームセンターのキッチン用品コーナーにあると思います。ひとつの袋にこの大きさの玉が10個入っていて約200円でした。スチールの繊維が固まっていて、端を指でひっぱると、むしりとることができます。この繊維に電気を通すと燃えます
繊維1本1本はとても細く、加工が難しいので、数本を撚って太くします
スチールウールを切るときは、切りカスに気をつけましょう。息で飛んでPCなどの大事な機械のなかに入ると困ります
使うのはこのくらいの長さ。繊維1本の抵抗値は1cmにつき約3Ωですが、撚ることで、抵抗は小さくなります。それだけ電流は多く流れるようになります。我々は実験中の電源の単4電池2本を使用しました。大容量の電源は使わないほうがいいでしょう
マッチの頭の部分を切り取ります。これが着火剤になります
スチールウールとマッチをクリップでつまみます。この作業をするときは、電池を抜くなどして、誤ってリレーがオンにならないようにしてしてください。リモコンを操作しなくても、ノイズによって回路が作動することもあります
もう1つのクリップも噛ませます。このときの位置はどこがいいのか、まだ結論は出ていません。マッチの軸をもっと長くすると、作業性が良く、また燃焼時間も長くできるのですが、クリップやワイアまで燃える可能性が高くなります。この程度の大きさのマッチならば、被覆に炎がかかっても、溶けることはありませんでした
ロウソクにセットした状態。電流が流れると、スチールウールが光って燃えます。ほんの一瞬のことですが、マッチにうまく密着していると、引火します。コツが掴めると、ここまではかなりの確率でうまくいきます
【動画】点火! マッチの頭が燃えて、煙が上がりますが、ロウソクを点けるには至りません

 マッチの火力でロウソクを点けるには、それなりの時間がかかります。今回の仕掛けでは、持続時間が短すぎたようです。点火装置の火力をアップすると、クリップの被覆や周囲のものが燃える可能性が高くなります。また、大きくなってロウソクと密着させることが難しくなるでしょう。

 もう1つの方法はロウソク側に工夫をして、火がつきやすくすることです。性能の良い着火剤や可燃性の高い液体を添加することで燃えやすくなります。実際に少し実験しましたが、途中で「危ない方向に進んでいる」と感じ、深掘りするのをやめました。そのときすでに、部屋のなかはとても煙臭く、喉は痛み、机の上は悲惨な状態でした。本来のクリーンなプロトタイピングから離れすぎた印象です。

 リモコン操作でカチリとLEDが点灯するだけで、十分楽しめましたし、応用が利きそうにも思えました。着火装置の開発は不完全燃焼でしたが、いちおうの成果が上がったと考えています(もしもう一度、点火装置に挑戦するとしたら、ライターのボタンをサーボで押す仕組みにしたらどうでしょうか)。