ディスプレイに使う電力もより賢く



 省電力というと、何が何でも電力を使わないためには……といった考えになりがちだが、実際には同じ製造プロセスを用いて設計しているならば、ある処理量をこなすための電力効率には限界がある。技術的前提が同じならば、一定処理量をこなすための電力は同じになるのだ。

 最低限必要な電力が同じなら、省くことができるのは無駄な電力ということになる。適応的な(その場の状況に応じて動的に)電力制御を行なうというのは、まさに状況に対して自動的に最適化することで、無駄な電力を省くことに他ならない。Intel Developers Forum2009(IDF 2009)で発表されたClarksfieldは、まさにそうした思想で最新のNehalemアーキテクチャが持つパフォーマンスを、ノートPCの限られたフォームファクタへと押し込めることに成功した。

 しかし、こうした省電力のコンセプトは、なにもCPUだけに通用するものではない。CPUよりも大きな電力を消費しているディスプレイとその周辺デバイスに関しても事情は同じだ。ノートPCのバッテリ持続時間という観点で見ると、すでに限界近い省電力措置が図られているCPUに注目するよりも、液晶ディスプレイ周辺の消費電力をいかに抑えるかの方が効果的だ。

 そのことは以前から言われ続けてきたことなので、Intelはかねてより、内蔵グラフィックスコントローラにディスプレイ省電力機能を盛り込んだり、あるいは業界内でディスプレイの省電力化を図るための周辺デバイスや技術の開発を支援してきた。しかし、それらのほとんどは実際には使われていない。

新しいコントロールパネル

 しかし、IDF Showcaseでデモを行なっていた担当者は、新しいバージョンの省電力機能に自信満々である。

 まずは「Intel Display Power Savings Technology」。DPSTという機能だが、DPSTの1.0と2.0は評判が悪く、ほとんどの製品で機能がONになっていない(ONを選択できない機種も多い)。理由は明快で、階調数が減り、画質が見た目にも落ちていたからだ。


Intel Display Power Saving Technologyでは映像の明るさを上げてバックライトを下げる

 しかし、最新版のDPSTではむしろ階調特性が向上するという。DPSTの基本的な仕組みは、表示している映像の明るさをリアルタイムに検出し、表示する映像のゲインを上げ、その分、バックライトをその分だけ下げるというものだ。こうすることで、同じ明るさの映像を表示する場合でも、バックライトの明るさを下げることが可能になる(あるいは同じ消費電力なら、より明るい画面にできる)。

 この機能を実現するには映像のヒストグラムを検出し、ゲインアップを適切に行ないつつバックライトの明るさを変えなければならない。また、液晶パネルの書き換えとバックライトのブライトネス制御を同期させる必要もある。こうした機能を実現するための機能は、Intelの5シリーズチップセットですでにサポートされているとのことだ。


40Hzと60Hzをシームレスに遷移するsDRRS技術

 もう1つはsDRRSという技術。こちらも5シリーズチップセットにすでに盛り込み済み。これは液晶パネルのリフレッシュレートを下げることで、液晶パネルの制御回路が消費する電力を下げる機能である。具体的には60Hzのリフレッシュを40Hzに下げることが可能だ。しかし、それだけであれば、すでに類似の省電力対策をメーカーが独自に行なっていた。ところが、それらは手動でリフレッシュレートを切り替える方式だった。

 40Hzに固定していれば省電力だが、しかし動画表示時にフリッカーが出たり、マウスカーソルを見失いやすくなるといった問題が起きる。しかし、sDRRSでは画面の継続的な書き換えが発生していない状況では40Hz表示とし、マウスカーソルを動かしたり動画再生を行なうと60Hzへとリフレッシュレートを自動的に上げることでフリッカーを防ぐ。sDRRSの「s」はシームレスの頭文字で、文字通り境目なく40Hzと60Hzを行き来する。

 実は何も考えずにこの切り替えを自動で行なうだけではリフレッシュレート切り替え時にチラつきが発生する場合があるが、Intel側で液晶パネルベンダーと協業し、フリッカーを出すことなくシームレスにリフレッシュレートを変更できるようにしたという。

ALS機能

 また、ALSはアンビエントライトセンサーのことで、環境光の明るさをセンサーで検出し、それをバックライトコントロールに利用しようというものだ。暗い場所で利用する際には自動的にバックライトが暗くなるため、トータルでの消費電力低減に役立つ。同様の提案は従来も行なっていたが、システムコントロールチップの仕様がPCメーカーごとに違うため、これまではセンサーの標準化を果たすことができなかったそうだ。現在は導入へのハードルも下がってきているようなので、普及に期待をしたい。

 さて、これらの対策でどのぐらい消費電力が落ちるのだろうか。実際に実験評価用の液晶パネルで見ると、バックライトで3W、液晶駆動部で0.2Wの消費電力削減効果となった。バックライトの省電力効果は表示している絵柄に依存するが、見たところ画質面の劣化はほとんど見られない。全体が白っぽい絵柄の場合、バックライトの省電力効果は薄れるだろうが、それにしても十分に試す価値のありそうな機能に見えた。


低消費電力技術による効果液晶の応答性を高める機能

 このほか、液晶の応答性を高めるオーバードライブ制御のための回路も現在の内蔵グラフィックスには組み込まれており、各液晶パネルの特性に合わせてボケ低減の効果が得られる。さらに120Hzリフレッシュの液晶パネルもドライブが可能で、将来的にはフレームシーケンシャル方式の3D表示や倍速動画表示といったTVライクな機能にも利用できるかもしれない。

xvYCCへの対応

 また液晶パネルの色再現域が拡大してきたため、xvYCC(xvColor)への対応も果たしている。どのように対応しているかというと、画面上で内蔵グラフィックスの動画サーフェイスを合成する際、映像がxvYCC対応のものならば、RGB変換時に切り捨てられるはずの色を活かし、実際の液晶パネル上の色へと自動的にマッピングするのである。

 PCのRGB画面と動画のYUV色データのマッチングは、今まであまり考えられて来なかった。RGBとYUVの色空間が混在する中で、それぞれの色情報を正しく扱うのはエンドユーザーにとってあまりに難しい。動画の色はコンピュータの色表現と異なるので、正しく管理しようとするとOSだけでなく、GPUとの連携が不可欠になる。ユーザーが気にせず、正しく色が扱える仕組みへと繋がってほしいものだ。


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(2009年 9月 25日)

[Text by本田 雅一]