無償提供されるオンライン版Office 2010とは



 マイクロソフトがOffice 2010のテクニカルプレビューの開始を発表し、Office 2010(Word、Excel、PowerPoint、OneNoteを含む)、Visio 2010、SharePoint Server 2010、Project 2010のテクニカルプレビュー版(マイクロソフトによると、従来のβ1に相当するバージョンとの事)の配布が一部ユーザーに始まった。日本でもこのテストプログラムを受け付けていることは、本誌記事でも触れたとおりだ。

 このOffice 2010のテストプログラムが発表されたのと同時にアナウンスされたのが、Office Webの提供である。ワールドワイドで4億人のアクティブユーザーがいるというWindows Live(Office Liveではない点に注意していただきたい)のIDを持っていれば、無償で利用でき、Webブラウザで動作するWord、Excel、PowerPoint、OneNote(Office Web)が発表されたのだ。

オンライン版Wordの画面。リボンによるユーザーインターフェイスや文書レイアウトなどはリッチクライアントと同様に再現される。スペルチェックが動作している事も見て取れるオンライン版Excelの画面。セル内データのビジュアル表示機能もきちんと動いているPowerPointの画面をオンラインの文書キャビネットで閲覧しているところ。図形オブジェクトの立体表示など、細かな文書の再現性がきちんと保たれている。このままスライドショーを開始することも可能

 Windows Live IDで利用可能なOffice Webは個人向けとの位置付けで、利用する際に広告が表示されるようになる見込みだという。このため、企業向けにはマイクロソフトオンラインサービスのメニュー、あるいはボリュームライセンスユーザー向けのオンプレミス環境(サーバを企業自身が抱える環境)にもOffice Webが提供される。これら企業向け版は個人向け版よりも機能が上との情報もあったが、マイクロソフト日本法人によると両者の機能に差はないという。

 マイクロソフトは従来からのWindows上で動作するOfficeアプリケーション群を“リッチクライアント”と呼んでおり、明確にオンライン版とは区別している。Office Webはリッチクライアント版Officeよりも機能が少ないためだ。

 オンライン版のワープロや表計算といったアプリケーションは、GoogleがGoogleドキュメントの名称で先行している。文書を保存するストレージサービスや文書検索などのサービスも統合されたGoogleドキュメントには、オンラインサービスならではの長所もあるが、機能面だけを見ればリッチクライアント版Officeには到底敵わない。文書の互換性という面でも、充分に満足できる結果を出せていないと感じている人が多いだろう。

 ではOffice Webの実力は、どのようなものなのだろうか? リッチクライアント版については、別途、日本語版のテクニカルプレビューが開始されてから取り上げたいが、ここではまず、Office Webについてわかっている範囲で言及したい。

 Office Webのテクニカルプレビューは夏の「終わりぐらいの開始(マイクロソフト談)」との事で、まだ具体的な日取りは決まっていないようだが、現状、どこまで動作するかは見ることができた。

 まずGoogleドキュメントなどと同様、文書を管理する文書ストレージのユーザーインターフェイスが提供され、ここで各種文書の管理やプレビューができる。表示の崩れなどは見られず、リッチクライアント版のWordで文書を開いた場合とほぼ同じ表示。レイアウトの崩れなどはない。ここで「編集」というボタンをクリックすると、Office 2007から実装されたリボンが画面上部に現れ、リボンを切り替えながら文書の編集を行なえる。Excelの場合も同様で、関数やパラメータの変更を行なったり、新たにグラフを作成することもできる。

 PowerPointの場合、Webブラウザ上でプレゼンテーションの再生ボタンをクリックすれば、そのままWebブラウザがフル画面モードになり、プレゼンテーションスライドの再生が始まる。

 文書の閲覧はもちろんの事、簡単な編集を行なう程度であれば、別途、コンピュータにOfficeをインストールしておく必要はないのでは、と思わせる完成度の高さだった。また機能がリッチクライアント版より少ないとは言うものの、Googleドキュメントの各機能に比べればはるかに充実しているというのが実感だ。

 またOffice Webで文書をいくら編集したとしても、オンライン版には実装されていない機能で作られたレイアウトなどを壊さないというのも大きな特徴だ。Office 2010はリッチクライアント版、オンライン版、それにWindows Mobile版が用意され、それぞれで文書の編集を行なえるよう設計されているが、どの版で文書を編集しても体裁が壊れないよう配慮されている。

 Officeのアプリケーションをアクティブに利用する事はほとんどないが、閲覧や簡単な修正はよく行なうというユーザーは、このオンライン版でも充分と思う人が出てくるだろう。最終的にOffice Webの各アプリケーションが、どこまでの機能を実装するのかは、まだハッキリとは決まっていないというが、基本的な編集機能に関しては持ち合わせているように見えた。

 Office Webが有望なオンラインサービスで、しかも個人向けサービスに限っては無償で提供されるとなると、現在は多くのメーカー製PCに用意されているOffice Personal Editionが不要になるのではないかという疑問が生じるかも知れない。

 この点についてマイクロソフトは「Office Webの提供によってPersonal EditionのPCへのバンドルが大幅に減ることはない」と予想しているそうだ。機能面や細かな操作性で完全にリッチクライアント版と同じにならない部分がある、といった制限事項に起因する理由もあるのだろうが、筆者が感じたのはオフライン機能が実装されていない点である。Office WebにはGoogle GearのようなオフラインでWebサービスを利用するような仕組みは提供されない。

 Office Webは「いつでも、どこでも、どんな環境でもOfficeの文書にアクセスし、編集を加えることができる」というコンセプトを実現するため、リッチクライアント版Officeを補完するサービスという位置付けのようだ。

 それでも自宅で簡単な作業を行なうぐらいならば、Office Webで充分と考える人も少なくはないと思う。実際にどのような反応が市場で起こるかは、実際にOffice Webのテクニカルプレビューが開始され、もっと多くのユーザーのインプレッションが出てくるまでは予想できそうにない。

 とはいえ、深読みすればOffice Webを無償提供することに決めた背景には、リッチクライアント版Officeに対する絶対的な自信があるのかもしれない。

 なお、Office 2010のビデオ解説は「http://www.microsoft.com/office/2010/」で見ることが可能だ。この中にはOffice Webのごく簡単なデモンストレーションも含まれている。

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(2009年 7月 16日)

[Text by本田 雅一]