買い物山脈
キーボードの隠れた名作「TEX」、まだトラックポイント使ってない全人類に届け!
2023年12月5日 06:18
- 製品名
- TEX Shinobi
- 購入日
- 2022年2月22日
- 購入金額
- 22,800円
- 試用期間
- 約1年10カ月
- 製品名
- TEX Shura
- 購入日
- 2023年6月1日
- 購入金額
- 169ドル
- 試用期間
- 約5カ月
筆者はThinkPadのキーボードが大好きだ。その熱き想いは、これまでも弊誌にて「ThinkPad X1 nano」のレビューなどで存分に語ってきたが、キーボードの好みは人によって千差万別だ。
ThinkPadのキーボードの魅力の1つは、マウスの代わりにキーボード中央部に備える赤いポッチをポインティングデバイスとして操作する仕組み「トラックポイント」なのは言うまでもない。20年近い付き合いとなるトラックポイントだが、ノートPCで作業するようになったここ10年くらいは、写真のレタッチをする場合もお絵かきゲームを遊ぶ場合もこれ1つでこなすようになった。キーボードのエリア内から手を放すことなく、マウス操作が行なえるため、作業効率が非常にいいのである。
デスクトップPC中心で作業していた頃は、マウスもあれこれと試していた時期があったが、トラックポイントに慣れた近年は、デスクトップPCにもレノボから販売されている「ThinkPad トラックポイント キーボード II」を接続して作業するようになった。
筆者の作業スペースは基本的に狭くてあまりマウスを置く余裕がないため、無理してマウス用のスペースを用意しなくてもキーボードのみでマウス操作もキーボード操作も行なえる点がありがたい。つまり、現在の筆者にとってトラックポイントは最強のポインティングデバイスなのだ。
一方でThinkPad トラックポイント キーボード IIの最大の弱点は、キーボード部分である。ThinkPadに搭載されるキーボードがベースとなっているため、バリエーションは有線か無線かの違いくらいしかないのだ。
本製品は、アイソレーション設計のパンタグラフ構造を使用している。しかし、世の中を見渡すとメカニカル構造や、静電容量無接点方式などさまざまなスイッチが存在する。特にメカニカルキーボードは、キースイッチを好みに応じて交換することが可能なので、好みに応じてスイッチを交換できるのが強みだ。
「もしメカニカルキーボードにトラックポイントが載った製品があったなら、もっとトラックポイントの魅力を広く訴求できるのに……」
そんな筆者の願いを叶えてくれる製品として登場したのが、2020年頃から製品を展開している、台湾TEX Electronicsのメカニカルキーボードだ。
ちなみに世間的に今は、トラックポイントを搭載したキーボードとして10月末に販売を開始した「HHKB Studio」が話題で、周囲の評価やレビューなどを読む限りかなり評判が良いようだが、個人的にはTEXシリーズを推していきたい! というところで、この記事を書き進めている。
現在販売中の製品は、7段レイアウトの「TEX Shinobi」と、キー数を減らして5段レイアウトにしたコンパクトモデル「TEX Shura」の2製品だ。今回は、2023年に発売したTEX Shuraを同社直販サイトにて購入、先日手元に届いたので、筆者が以前より使用していたTEX Shinobiと合わせてご紹介したい。
なお、2製品とも台湾TEX Electronicsから直販で購入が可能なほか、国内ではセンチュリーの直販サイト「センチュリーダイレクト」にて取り扱いがあり、在庫さえあれば比較的簡単に購入が可能となっている。価格については後述するが、HHKB Studioと比較して安価に購入できる点も魅力の1つと言える。
理想のトラックポイント付きメカニカルキーボードTEX Shinobi
まずはTEX Shinobiから紹介しよう。TEX Shinobiは2020年頃に発売した7段構成のキーレイアウトを採用するメカニカルキーボードだ。同じく7段構成のキーレイアウトを採用する、IBM時代の「UltraNav付きトラックポイントキーボード」を知る人にはありがたさや懐かしさが感じられるレイアウトとなっている。
実際にF1~F12のファンクションキーを重宝する筆者にとっては、これらキーがちゃんとキーボード上にレイアウトされているのが非常にありがたい。また、左端に2段分の縦長の「ESC」キーを備えるほか、「PrtScn」や「PgUp/PgDn」などのキーが右上にまとめられており、これらのキーをFnキーなしで使えるのも魅力の1つだ。
重量は実測で約1.15㎏とかなりの重さだ。手に持つとかなりずっしりと重量が感じられる。しかし単体のキーボードは一般的にはテーブルなどに据え置きで使うため、多少重さがあっても気にならない。加えて入力デバイスは重い方が操作時にズレたりすることを防ぐ効果もあるため、重いことがプラスになる場面も多い。
TEX Shinobi最大の特徴はCherry MX軸を採用したメカニカルキーボードながら、G/H/Bの中央部に赤いポッチでお馴染みのトラックポイントを搭載していること。しかもレノボから正式にライセンス供与を受けた製品となっているため、その信頼度は高い。
実際に操作してみると、Windows側のマウスポインターの速度などの調整は必要ながら、調整を終えると敏感すぎず鈍すぎず、ほどよいマウスポインター操作が可能となっており、キーボードから手を放すことなく目的のポイントにサクッと移動ができ、トラックポイントらしさがしっかりと発揮できている。クリックボタンについても快適だが、少々高さが低いようにも感じる。
キースイッチについては、センチュリーダイレクト購入時には茶軸とSilent Red軸の2種類が選択できる。また、TEX Electronics直販サイトでは黒、青、茶、赤、Silent Red、Clear、Silver、Greenのいずれかが選択できるほか、キーキャップのプリントについてもUS-ASCII、EU-ISO-UK、EU-ISO-FR、EU-ISO-Nordic、EU-ISO-DE、日本語が選べるなど、かなり豊富なバリエーションが用意されている。
キータッチについては選択したCherry MX軸の特徴がそのまま出ることになる。筆者の購入したTEX Shinobiは、センチュリーダイレクトで購入したCherry MX 茶軸モデルのため、クリック感があるタクタイルにより、メカニカルキーボードらしい打鍵感が楽しめる。
キートップは中央部にかなり凹みのある形状となっており、タイピング時のちょっとしたズレが凹みにより収束する作り。平らな場所に配置して入力していると、快適に指が動き、誤入力が減ったような錯覚に陥る。キータッチの心地よさも相まって気分も上がる。
キーレイアウトはこの手の海外製品にありがちな英語配列だけでなく、日本語配列もちゃんと用意されている。筆者は英語配列だけで一生を終える予定のため、正直どちらでもいいのだが、日本人のファンが多いことを見越して日本語配列を用意しているTEX Electronicsはやはり侮りがたし。
また、同社ではWeb上で操作可能なレイアウト設定用ツールを用意しており、日本語(JIS)、ISO、ANSIのレイアウトが後からでも自由に設定が可能だ。設定したファイルをダウンロードして、キーボード内に専用の設定ファイル(.TEX)をコピーすることで簡単に変更が行なえる。この画面ではレイアウト以外にマクロ機能なども利用できる。
本体背面には6つのDIPスイッチを搭載。マニュアルを見ると、このDIPスイッチから簡単にCTRLとFnキーの入れ替えなどが行なえる。そのほかにも後述のBluetooth無線接続キット装着時にはここを変更したり、レイアウト設定ツールの設定ファイルを本体にコピーする際にも使用する。
付属品にはキートップ着脱用の治具が付属しているほか、交換用のキートップもいくつか付属していた。
個人的にツボだったのは、昔のThinkPad用キーボードに搭載していた紺色Enterキーが交換可能になっている点だ。ほかにもゲーミング用途向けに色違いのA/S/W/Dキーも用意されており、交換して利用できる。
もう1点驚愕なのは、なんと完成品以外にもキーボード自体を自分で組み立てる自作キットも用意する点だ。自作キットには、キースイッチが付属していないため、もし手元にキーボード1台分のキースイッチがあるなら、それらを使うことで、1台のキーボードを組み上げることが可能だ。価格については後述するが、キースイッチがなく、自力で組み立てる必要がある分だけ、完成品よりも若干割安となっている。ただし、安さゆえに在庫切れになっている場合も多い。
5段レイアウトのコンパクトモデルTEX Shura
2023年発売のTEX Shuraは、前述のTEX Shinobiの上部2列とパームレスト部を省略したことで、全体をコンパクトに凝縮した小型軽量モデルだ。冒頭でも触れたHHKB Studioとはキーボードレイアウトなども似ているので、こちらが競合になるだろう。
TEX Shuraについてはとにかく大きかったTEX Shinobiを小型、軽量化したのが最大のポイントで、かなり持ち運びやすいサイズ感となっている。もちろんG/H/B部に備えるトラックポイントも健在だ。
キータッチについては、今回は黒軸を選択したのだが、その仕様がそのまま現れている。リニア特性のため、クリック感はなく、キー荷重が高めのため、押し心地は茶軸より高く、クリック音がないため、比較的静かに利用できるのが心地よい。
キー配置については、ESC+数値のキーが最上段にくる5段レイアウトだ。6段レイアウトと比べると、英語配列の場合「'/~」を担うキーとF1~F12のファンクションキー、Insert/Deleteや、PgUp/PdDn、PrtScnなどのキーをFnキー併用で利用するスタイルになっているなど、コンパクトなキーボードではよく見かけるレイアウトとなっている。ただし「HHKB Studio」と比べると、上下左右移動のカーソルキーや、Backspaceキーの有無などの違いが見られる
本体重量は実測で約764gとなりTEX Shinobiと比べるとかなり軽量化されている。また、付属品にはTEX Shinobiの時に付属していた交換用キーキャップが減っており、代わりにトラックポイントのキャップが追加になるなど変化が見られた
シンプルなオプション装着で無線キーボードにもチェンジ可能だが……
TEX ShinobiとTEX Shuraの2製品は接続にUSB Type-Cを使う有線キーボードとなっている。ところがTEX Electronicsの直販サイトでは別売オプションとして、「BLE Upgrade Kits」と呼ばれるBluetooth接続キットが販売されている。こちらをキーボードに装着することで、なんと有線接続のキーボードがBluetooth接続の無線キーボードに早代わりするのだ。
ただし気になる技適についてTEX Electronicsに確認してみたが、残念ながら技適マークは取得していないため、国内でのBLE Upgrade Kitsの個人利用は行なえない。よって今回は記事執筆に際して「技適未取得機器を用いた実験等の特例制度」を利用して動作確認を行なっている。
BLE Upgrade Kitsは横長サイズの小さな棒状の作りで、キーボード背面部のカバーを外して装着する仕組みとなっており、キーボード本体を分解することなく簡単に着脱が可能。BLE Upgrade Kits内に充電用電池を内蔵し、装着後のバッテリ充電はキーボード接続用のUSB Type-C端子から行なえるという、無駄のない作りとなっている。
装着後のBluetoothペアリングについては、BLE Upgrade Kitsに備えるペアボタンを3秒押し続けるだけなので、比較的スムーズに作業が行なえる。難点はキーボード本体側の「CapsLock」用のLEDを使ってBluetooth接続の状態などをチェックする仕組みになっているのだが、このLEDがキーの奥側に設置されているため、やや見えにくいこと。BLE Upgrade Kits側に接続情報が分かるようなLEDランプがあればさらに使いやすかったと思うので、ここは次回以降は修正してほしいポイントだ。
1度ペアリングが完了すれば、以降はBluetooth接続の無線キーボードとして軽快に使える。TEX Shinobiは本体重量が比較的重めなので、あちこち持ち運んで使用したい場合はちょっと厳しいと思われるが、室内で持ち歩くくらいならそこまでの負担にはならないだろう。TEX Shuraくらいの重さであれば持ち歩いて使うことも容易だろう。
高コスパだからこそおすすめ
純正ThinkPadキーボードを除くと、3年前にはTEX Shinobiしかなかったトラックポイント搭載キーボードは、今年(2023年)になって、TEX ShuraとHHKB Studioの2種類が増えて3製品となった。キーボードレイアウトや利用可能なキーなど好みに応じて選べばいいと思うが、これまで以上にトラックポイントユーザーの選択肢が増えたことは大変喜ばしい。
ユーザーの選択肢が増えた一方で、冒頭でも触れた通り、筆者はトラックポイントをより多くの人に使ってほしいと考えている。その目的を達成するには、今回紹介したTEX ShinobiとTEX Shuraは最適なキーボードだと思う。その理由は販売価格だ。
コンパクトモデルTEX Shuraの直販サイトの価格はCherry MX黒軸/青軸/茶軸/赤軸スイッチ搭載モデルが169ドル。また、センチュリーダイレクトの価格は日本語配列のSilent Red軸スイッチのモデルが2万4,800円、日本語配列で茶軸スイッチのモデルが2万3,800円、英語配列のSilent Red軸モデルが2万5,800円となっている。
HHKB Studio(英語配列)と比べると、若干レイアウトは異なるほか、HHKB Studioにはジェスチャーパッドがあり、標準でBluetooth接続をサポートするなど機能面では大きく差がある。しかし、キースイッチの仕様やトラックポイントなど類似点も多いため、もしHHKB Studioの4万4,000円という価格が理由で躊躇している人がいるなら、ぜひTEX Shuraを試してみてほしい。マウス操作やタッチパッドと比べて、キーボードの範囲内でマウス操作まで完結できるこの仕組みは、作業効率をさらに高めること間違いなしだからだ。
なお、7段構成のTEX Shinobiは、Cherry MX黒軸/青軸/茶軸/赤軸スイッチ搭載モデルが185ドル、センチュリーダイレクトの直販価格は英語配列、茶軸モデルで2万3,800円、同日本語配列モデルが2万2,800円。英語配列のSilent Red軸モデルが2万4,800円、同日本語配列モデルが2万5,800円となっている。
自作キットを選んだ場合、センチュリーダイレクトの場合TEX Shinobiは1万9,800円、TEX Shuraは2万800円となっているが、現在はどちらも在庫切れ。しかし直販サイトではTEX Shinobi、TEX Shuraともに139ドルから少し割安となっている。前述の自作キットはキースイッチを直接挿すだけで組めるタイプだが、半田ごてを使って工作するタイプも用意されており、こちらはさらに低価格で購入できるようだ。
つまりSpace Saver II、作りませんか
ちなみにTEX ShinobiとTEX Shuraを比較すると、筆者個人の好みとしては断然TEX Shinobi。決め手となったのはやはり非常に重要なF1~F12のファンクションキーを備える点だ。
他社製キーボードなどでは、コンパクトなモデルほど、このファンクションキーを省略しがちなのだが、筆者としては、F5押下時の更新や、ファイル操作時のF2のファイル名変更など、ファンクションキーを使った操作が各種作業と紐づいて体に染み込んでいるため、これらキーが使えなくなると、途端に作業効率が大幅に低下してしまうからだ。
つまり個人的には、TEX Shuraにファンクションキーを追加した6段レイアウトのキーボードがあれば完璧だ。ズバリ分かりやすく言うと、IBM時代に販売していた「Space Saver II」が個人的には大好きなキーボードなので、是非、TEX Electronicsには次のモデルではそんな感じのコンパクトキーボードを開発してほしい。