後藤弘茂のWeekly海外ニュース
半導体の技術トレンドが分かる国内のカンファレンス「COOL Chips XVI」
(2013/3/27 11:49)
3Dスタックから次世代不揮発性メモリまでのメインメモリの今後のリサーチ
半導体チップの国内のカンファレンス「COOL Chips XVI」が、4月17日より3日間、横浜情報文化センターで開催される。初日の4月17日にスペシャルセッションが行なわれ、4月18~19日にキーノートスピーチと招待講演、一般講演、パネルディスカッションが行なわれる。COOL Chipsは、1998年以来開催されているIEEEの国際シンポジウムで、今年(2013年)で16回目となる。
今回のCOOL Chipsの内容はバリエーションに富んでいる。プロセッサの省電力技術からメニイコア、次世代メモリ技術、自然言語認識、ボディーエリアネットワークなど、さまざまな技術が紹介される。半導体チップの最新動向を概観するには、適したカンファレンスとなっている。
毎年、旬の技術を取り上げるスペシャルセッションの今回のテーマは、「次世代メインメモリ技術」と「メニイコア」となっている。
DRAMによるメインメモリは、現在転換期を迎えており、DRAMインターフェイスやメモリセルそのものの革新が必要になりつつある。ペースが落ちたDRAMアクセス帯域を解決するためのソリューションとして、シリコン貫通ビア(TSV:Through Silicon Via)技術などを使った3Dスタッキング技術が提案されている。また、微細化の限界が近づいているDRAMメモリセルに替わるものとして、次世代の不揮発性メモリの開発が活発化している。
「Hot Research Issues in Main Memory Subsystem」と題したスペシャルセッションでは、こうした将来メインメモリ技術に対するリサーチの結果が紹介される。テーマとして取り上げられるのは、まず3Dスタッキング技術によるDRAMソリューション。TSVによるDRAMスタッキングは、すでにJEDEC(半導体の標準化団体)でも規格化のフェイズにある。
次に、DRAM代替として期待される次世代不揮発性メモリの中で「PRAM(またはPCRAM, Phase-Change RAM:相変化メモリ)」にフォーカスし、PRAM/DRAMのハイブリッドシステムを含めたソリューションの進展について説明される。不揮発性メモリの課題である、ウエアレベリングやエラー訂正、書き込みスピードの改善、データエンコーディングなどについても触れられる。さらに、PRAM大容量化のカギとなるMLC(Multi-Level Cell)PRAMについても説明される。
メニイコアでは、STMicroelectronicsの開発したマルチコア/マルチクラスタのSTHORMプラットフォームについての講演「STHORM: A Multi-Processor Platform and Programming Environment」が行なわれる。STHORMは「Platform 2012(P2012)」と呼ばれていたプロジェクトの発展形で、GPU以上のスループット/電力を狙う。講演を行なうのはSTMicroelectronicsのPierre G. Paulin氏で、同氏はプログラミングツールの専門家。STHORMプロジェクトでは、メニイコアのためのプログラミングモデルやツールの開発も行なわれており、それらについても説明される。
自然言語認識のIBMの「Watsonがキーノートスピーチに登場
IBMは2011年にクイズに答えられるコンピュータシステム「Watson」のデモを行なった。Watsonでは、自然言語の認識処理だけでなく、質問の意味の理解までを行ない、質問に対する解答を見つけ出す。Watsonは、有名なクイズTV番組「ジェパディ!(Jeopardy!)」に出演、人間のクイズ王と対戦して勝利した。
今回のCOOL Chipsでは、「Why and how “Watson” Answered Questions on the TV Quiz Show?」と題したキーノートスピーチで、IBMからWatson開発についての説明が行なわれるほか、Watsonの技術をヘルスケアなど他の用途に応用する可能性などが語られる。
COOL Chipsのキーノートスピーチでは、こうした未来指向の技術が織り込まれる。IMECによる「CoolChips at the core of a healthier world」と題したスピーチも同様で、将来のヘルスケアのカギとなる技術に触れる。生体の健康状態をモニタしたデータを伝えるためのボディエリアネットワーク(BAN)と超低消費電力チップについて説明が行なわれる。
キーノートスピーチでは、Intelによる「What Can Supercomputers Learn from Phones」と題したセッションも行なわれる。スーパーコンピュータとモバイルデバイスは、求められる電力効率の面で似通ってきている。そのため、効率化と電力マネージメントの面で、スーパーコンピュータが携帯電話の技術から得るものがあるのでは、という議論がなされている。Intelの講演は、そうしたディスカッションに沿ったものだ。
このIntelの講演が興味深いのは、スピーカーがMichael McCool氏である点だ。McCool氏は、元RapidMindの共同創業者。GPUなどに向けたデータ並列のためのプログラミング技術を開発していたRapidMindがIntelに買収されると、McCool氏もIntelに移籍した。日本で開催されたインテルソフトウェアカンファレンス 2012などでも来日している、並列プログラミングのディープな専門家だ。そのため、半導体設計とは違った視点からの見方が提示されるかも知れない。
キーノートスピーチではもう1つ。NECのベクタスーパーコンピュータSXシリーズの次世代マシンについての講演「Next Generation Vector Supercomputer for Providing Higher Sustained Performance」(百瀬真太郎氏)が行なわれる。
省電力技術とハイエンド16コアが並ぶ招待講演
招待講演では、日本からルネサス モバイルの「A 28nm HKMG Single-Chip Communications Processor with 1.5GHz Dual-Core Application Processor and LTE/HSPA+ Capable Baseband Processor」と題したセッションが行なわれる。アプリケーションプロセッサにベースバンド機能を統合した「R-Mobile U2 (RMU2)」の省電力技術についての説明が行なわれる。下は今年(2013年)2月のISSCC(IEEE International Solid-State Circuits Conference)で紹介されたRMU2だ。
富士通も招待講演で次世代の「SPARC64 X」の講演を行なう。京スーパーコンピュータの次のステップとなる16コアのCPUだ。下は昨年(2012年)の「Hot Chips」で紹介された際のスライドだ。今回のCOOL Chipsでは、「SPARC64 X: Fujitsu's New Generation 16 Core Processor for UNIX servers」でSPARC64 Xの概要に加えて、「Software on Chip(SWoC)」と富士通が呼ぶソフトウェアのアクセラレーションの仕組みについても解説される。
ARMも招待講演「Zero Overhead State-Retention Power-Gating and Gate-Bias on a Dual-Core ARM Cortex-A5MP Processor for 50-80% Idle Power Reduction」を行なう。これは、ステイトを保持できるステイトリテンションレジスタを使ったパワーゲーティング技術を実装したCortex-A5プロセッサに関する講演だ。パワーゲーティングの問題は、アーキテクチャルステイトのメモリへのセーブとリストアに伴うレイテンシだ。ステイトリテンションレジスタは、そうしたオーバーヘッドをゼロにする技術だ。