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IPCが40%向上したAMDの次世代CPU「Zen」と2017年までのロードマップ

ニューヨークのNASDAQでアナリスト向け説明会を開催

 AMDは、次世代x86 CPU「Zen」とARM CPU「K12」を両輪として押し出して行く。Zenは、現在のBulldozer系CPUコア「Excavator(エキスカベータ)」より、40%もクロック当たりの命令実行性能が高くなる。また、GPUには、次世代の広帯域メモリ技術「HBM(High Bandwidth Memory)」を他社に先んじて採用する。

 今後数年間は、同社は新アーキテクチャと新技術のラッシュとなる。強力な新CPUコアとGPUコアを柱に、ゲームや、バーチャルリアリティなどの没入型プラットフォーム、そしてデータセンターといった市場を切り開く戦略だ。

 また、PlayStation 4(PS4)とXbox Oneで成功したセミカスタム型のビジネスも、拡大しつつあることも明らかにした。AMDは過去数年間、伝統的なPCプラットフォーム以外の市場の開拓に力を注いできた。新CPUコアによって、その戦略がますます具体性を帯び始めている。

2015 FINANCIAL ANALYST DAYの会場となった米ニューヨークのタイムズスクエアにあるNASDAQビル
Lisa Su氏(President and Chief Executive Officer,AMD)

 AMDは、米ニューヨークの証券取引所NASDAQで開催した「2015 FINANCIAL ANALYST DAY」で、同社の企業戦略の転換と、製品ロードマップの刷新を発表した。冒頭に登場したAMDのトップLisa Su(リサ・スー)氏(President and Chief Executive Officer,AMD)は、同社のビジネスの移行が順調に推移しており、伝統的なPCビジネス以外のエンタープライズ、組み込み、セミカスタムの売り上げが2014年は40%に達したことを説明。これらの市場の拡大によって、今後、同社のビジネスが急速に上向いて行く見通しであることも明らかにした。

Zenは現在のAMDコアよりも40%高いIPCの見通し

 同社が今回発表した製品ロードマップは、こうした企業戦略に沿っている。強力なCPUコアの投入にフォーカスし、プラットフォームをシンプルにし、性能レンジをスケーラブルにする。そのため、来年(2016年)には、新CPUコアZenを搭載したCPU製品を、ハイエンドのFXシリーズとして投入する。

 Zenは、現在のBulldozer(ブルドーザ)系マイクロアーキテクチャのCPUコアではなく、完全に新設計のコアとなる。シングルスレッド性能を高めたコアとなる見込みで、今年のAPU「Carrizo」に搭載されるExcavatorコアより、クロック当たりの命令実行性能IPC(Instruction-per-Clock)が40%も高くなるという。Bulldozer系はスレッド当たり整数演算パイプが2本だが、Zenでは3本以上になることは確実だろう。

 また、Zenは、AMDのCPUでは初めてSMT(Simultaneous Multithreading)をサポートすることが、AMDの技術戦略を統括するMark Papermaster氏(Senior Vice President and Chief Technology Officer,AMD)によって明らかにされた。SMTでは、IntelがHyper-Threadingを採用しているが、Zenの実装については、まだ一切明らかになっていない。また、キャッシュシステムを一新、広帯域かつ低レイテンシのキャッシュ階層の実装を行なうことも公表された。FinFET 3Dトランジスタ技術を製造プロセス技術に使うことによって、電力効率が大幅に改善されるとも説明された。

HBMメモリのGPUがいよいよ発表へ

 AMDは昨年(2014年)5月に、Zenと平行して高性能ARMコア「K12」を開発していることも明らかにしている。K12は、2017年に投入される見通しで、サーバーおよび性能が要求される組み込み市場向けの製品となる。Zen開発のノウハウがK12にも活かされると見られる。AMDの高性能CPUは、カスタム回路設計を多用するが、K12もそうした設計になると予想される。

 GPUでは、広帯域メモリ技術HBM(High Bandwidth Memory)を採用した製品が今年中盤に発表されることも明らかにされた。HBMはダイ(半導体本体)を積層するスタックDRAM技術で、500GB/sec以上のメモリ帯域を、GDDR5よりはるかに低い消費電力で実現できる。同社は、HBMを、まずGPUでのGDDR5の置き換えのビデオメモリとして採用するという。

 GPUコアは、来年(2016年)には現行のGCN(Graphics Core Next)を改良したGCN 3.0へと移行、FinFET 3Dトランジスタプロセス技術に移行し、電力効率を2倍に高めることを明らかにした。また、バーチャルリアリティに対する最適化も行なって行くという。

 CPUコアやGPUコアの改良によって、AMDは今後、APU(Accelerated Processing Unit)の電力効率も高めて行く。2020年までに、現在のさらに25倍の電力効率向上を目指すという。また、CPUとGPUを統合したHSA(Heterogeneous System Architecture)のプログラミングモデルも拡充して行く。マシンラーニングの市場にも組み込みたいとAMDは考えている。

SkyBridgeがキャンセルとなりシンプル化されたロードマップ

 製品ロードマップでは、昨年5月に発表したx86とARMの互換“チップ設計フレームワーク”「Project SkyBridge(スカイブリッジ)」がキャンセルになったことが明らかにされた。これは、x86とARMのプラットフォーム互換のニーズ自体が低かったとAMDは説明する。

 もっとも、SkyBridgeの本質は、ソケットやマザーボードといったレベルだけでなく、SoC(System on a Chip)内部のファブリックから互換にして、x86とARMの両アーキテクチャのSoCの設計互換性を高めるという点にある。この点が、ZenとK12世代で継続されるかどうかは、明らかにされていない。

 SkyBridgeは20nmプロセスで、今年(2015年)製造される予定だった。しかし、20nmプロセスはIPを設計し始めてみたものの、CPUには利点が少ないことが明らかになり、AMDはメインストリームの製品には20nmプロセスを採用しないことにしたという。現在の製品ロードマップでは、28nmのプレーナトランジスタプロセスから、14/16nmのFinFET 3Dトランジスタプロセスへとジャンプする計画となっている。

 SkyBridgeのキャンセルは、同社の設計リソースを集中させ、プラットフォームをシンプル化し、製品ラインを整理するという点では効果が高い。また、エンタープライズと組み込み、セミカスタムにフォーカスするという同社の戦略にも合致している。結果としてAMDのロードマップは、より堅固なものになっている。

(後藤 弘茂 (Hiroshige Goto)E-mail