後藤弘茂のWeekly海外ニュース
32コアで破格の1,799ドル。AMDが「2nd Gen Ryzen Threadripper」を8月13日から出荷
2018年8月6日 22:31
32コアの2nd Gen Ryzen Threadripperがついに登場
AMDが、ついに最大32コア/64スレッドの「2nd Gen Ryzen Threadripper」のベールを剥いだ。予約が開始された新Threadripperは、32コアから12コアまでの4つの製品ラインナップで市場に登場する。PC向けCPUの最高コア数の記録を大幅に塗り替える新CPUだ。Threadripperファミリで、AMDはハイエンドデスクトップ(HEDT)のリーダシップを握っている。
2nd Gen Ryzen Threadripperは4 SKU(Stock Keeping Unit=アイテム)で構成されている。16コアと12コアの「Xシリーズ」、そして32コアと24コアの「WXシリーズ」だ。
WXシリーズは、従来のThreadripperの2倍の最高32コアのCPU製品だ。32コア/64スレッドの「2990WX」と、24コア/48スレッドの「2970WX」の2 SKUとなる。どちらも、従来のThreadripperと同じSocketTR4で、同じマザーボードを使うことができる。
特筆すべきは動作周波数で、ベースは3.0GHzだが、ブーストはいずれも4.2GHzとなっている。サーバー向けのEPYCでは、32コア/64スレッドでベースが2.2GHzブースト3.2GHzなので、同じCPUコア数でも2nd Gen Threadripperのほうがはるかに動作周波数が高い。14nmプロセスから12nmプロセスへの移行と、TDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)引き上げ、それにCPUのブースト制御技術の向上によると見られる。
Xシリーズは2個のダイがアクティブになっている、第1世代のThreadripperと同種のシリーズだ。16コア/32スレッドの「2950X」と、12コア/24スレッドの「2920X」の2 SKUとなる。2nd Gen Ryzen Threadripperは、今までの第1世代のThreadripperと平行して販売されるが、Xシリーズが実質的に置き換わって行くと見られる。
4つのSKUのうち、ハイエンドの32コア/64スレッドの2990WXは、本日より予約が開始され8月13日から出荷される。次に16コア/32スレッドの2950Xが8月31日発売、24コア/48スレッドの2970WXと12コア/24スレッドの2920Xは、10月から出荷される。
AMD社内の情熱から産まれたThreadripper
「Threadripperという製品ラインは、高性能を求めるAMDの文化を示す最高の例だ。Threadripperはもっともデマンディング(要求の多い)なユーザーのために設計された。コンピュータの性能に決して満足することがないユーザーたちだ」。
AMDのJim Anderson氏(Senior Vice President and General Manager, Computing and Graphics Business Group, AMD)は、Threadripperという製品のコンセプトは、AMDの文化から来ていると説明する。Anderson氏は、2nd Gen Ryzen Threadripperの技術発表イベント「AMD Tech Day」で、次のように語った。
「最初のThreadripperのプロジェクトは、AMDの中のごく少数の社員の情熱からスタートした。彼ら自身がPCエンスージアスト達であり、どうすれば最高性能のPCを作り出すことができるか、熱心に議論した。もともと、正式なビジネスプランではなかった。結論が示されたのは2016年のCOMPUTEXの頃だった。私自身も、このプロジェクトに興奮してすぐに同意した。私も元のキャリアはCPUのアーキテクトであり、高性能なCPUを愛しているからだ」。
AMDがThreadripperを投入した結果、HEDT市場は塗り替えられた。2017年前半までのHEDTのトップはIntelのi7-6950Xで、10コア/20スレッドで1,723ドルだった。AMDは、999ドルのThreadripperによって、CINEBENCH R15の性能比では約1.5倍、価格に対する比較では2.5倍の性能を達成したと説明する。もちろん、IntelがCore i9ですぐに逆襲し、それ以来、HEDT戦争が続いている。
AMD社内のPC好き達の発案から産まれた最初のRyzen Threadripperは、市場で成功を収めた。そして、AMDは、さらに高い性能を求めるユーザーが存在することを確信したという。その結果、32コアまでの2nd Gen Threadripperが産まれたという。
「ハイエンドのコンテンツ制作、たとえば、3Dモデリングやハイエンドビデオ編集などに携わるクリエイターたちは、性能に満足することがない。そこで、彼らに向けた後継のThreadripperを提供することにした」(Anderson氏)。
ハイエンドのコンテンツクリエイターに向けた32コアのWXシリーズ
AMDは、2nd Gen Ryzen Threadripperの想定ユーザー群を2つに大別している。1つは、クリエイターとイノベーターとAMDが呼ぶ、職業上でハイエンドCPUを必要としているプロフェッショナルたちだ。昔の基準で言えば、ワークステーションクラスとなる。32/24コアのThreadripper WXシリーズは、この層をメインターゲットとする。AMDがWXシリーズとXシリーズで、ターゲットユーザーを区分しているのは、価格帯が異なるだけでなく、もう1つアーキテクチャ上の理由もあるが、それは製品発売時の記事で説明したい。
AMDは、プロフェッショナルクリエイターが32コアの2990WXを必要とする理由を、デモで説明した。AMDが用意した3Dグラフィッックス制作やビデオ編集などのデモでは、32コア/64スレッドがすべてフルに近い稼働状態になる様子が示された。
また、AMDは、GPUが多用されるレイトレーシングでも32コアThreadripperが力を発揮することをハイブリッドのレイトレーシングで示した。CPUとGPUでレイトレーシングを分散する技術だ。
レイトレーシングでは、光線の反射がコヒーレントすることが多い箇所は並列処理が得意なGPUで簡単に高速化できる。しかし、光線の反射が分散して命令ストリーム上で条件分岐によって分岐し、それがネストする場合は、GPUでは処理があまり速くならないケースが出てくる。とくにAMD GPUは64スレッドを束ねるWavefrontを使うため、レイトレーシングでは効率が悪い場所が発生することがある。
AMDは今回、分岐が多いレイトレーシング部分をThreadripperに投げることで高速化するアプローチを発表した。メニイコアCPUとGPUの組み合わせによる処理の分散で、全体の性能を引き上げる。CPUとGPUそれぞれの利点を活かす解法だ。
32コアのThreadripper 2990WXが対抗するIntelのCPUは、18コア/36スレッドの「Core i9-7980XE」となる。1,999ドルのCore i9-7980XEに対して、200ドル低い1,799ドルとつける。さらに、性能ではコア数の多い2990WXが大幅に上回るとAMDは説明する。
ゲーマーとPCエンスージアストに向けた16コアのXシリーズ
2nd Gen Ryzen Threadripperのもう1つのターゲットユーザー層は、ゲーマーやPCエンスージアスト。一般的なエンドユーザーの頂点で、第1世代のThreadripperの支持層でもある。このユーザー層に対しては、AMDは16コアまでのXシリーズ「2950X」と「2920X」を推進する。
価格は16コアの2950Xで899ドルと、第1世代のThreadripperより100ドル引き下げた。2nd Gen Ryzen Threadripperでは、12nmのZEN+コアで、キャッシュレイテンシが短縮され動作周波数が上がり性能を引き上げられている上に、価格は引き下げられたことになる。Intelの10コア/20スレッドの「i9-7900X」の999ドルに対しても100ドル安い。AMDは、i9-7900Xに対して性能で上回ると説明する。
AMDは、Tech Dayにおいて、32コアの2990WXのオーバークロックデモも行なった。CINEBENCH R15でのスコアで競った。現場では、最高で7,618スコアだったが、実際にはさらに上回るケースがあるという。