山口真弘の電子辞書最前線

シャープ「PW-AC20」
~通勤電車内でのTOEIC学習に向いたコンパクトモデル



PW-AC20。机の前に座って学習するという利用スタイルではなく、通勤電車の中などで立ったまま使うことが想定されている。今回紹介しているブルーのほか、シルバー、ピンクの計3色をラインナップ

発売中
価格:オープンプライス



 シャープの電子辞書「PW-AC20」は、TOEIC学習向けのコンパクトモデルだ。片手で操作できるBlackberryに似た筐体に、TOEIC学習に適した多数のコンテンツを搭載し、通勤中や就寝前のスキマ時間を用いて効率的な学習が行なえるよう、ハードおよびコンテンツの両面で工夫が凝らされた電子辞書である。実売価格は12,000円前後だ。

 電子辞書の英語モデルや海外旅行向けのモデルというのはさして珍しくないが、英語学習用途、それもTOEIC受験目的だけに特化したモデルは珍しい。しかも座学ではなく持ち運びを前提にしたコンパクト筐体となればなおさらだ。

●筐体は「PW-AC10」と同一。淡色系のボディカラーが特徴的

 まずは外観と基本スペックから見ていこう。

 ハードウェアについては、兄弟モデルに当たる「PW-AC10」と大きくは変わらない。Blackberryによく似たストレートタイプの本体は、電池を含め約98gと軽量で、携帯性は抜群。片手持ちでの操作も容易だ。カラー液晶は2.4型で、解像度は320×240ドット。必ずしも大きいとは言えないが、本体サイズと可搬性を考えるとバランスのとれた大きさだと言えるだろう。液晶は発色もよく見やすい。

 筺体色については、ピンク、ブルー、シルバーの3色がラインナップされている。いずれも基調色である白との組み合わせだ。PW-AC10がビビッドなカラーと黒の掛け合わせでかなり重量感があったのに比べると、淡色系の春らしいカラーリングだ。中でもピンクとブルーは、どちらかというと女性向けということになりそうだ。

 キーボードはQWERTY配列。超小型キーながら、そこそこ突起があるため指先で押しやすく、隣のキーに干渉することも少ない。上部ファンクションキーも段差が設けられているため押し間違えにくい。全体的にキーの押下感がすこし硬めだが、ストレートタイプでバッグの中で押されやすい構造であることを考えると、これくらいが妥当だろう。

 キーレイアウトおよびバランスも合理的だ。片手でホールドした際のホームポジションでは、親指がちょうど中央の決定キーにかかるようになっており、収まりは非常によい。単4電池を液晶画面の真裏に収納する構造上、バランス的にやや頭でっかちなきらいはあるが、慣れてくれば気にならないレベルだ。動作もきびきびとしておりストレスが溜まらない。

 PW-AC10と異なるのは、音声出力に対応したこと。そのため本体左側面にイヤフォンジャックを備える。本体にスピーカーは搭載されないため、リスニングなどでは必ずイヤフォンを使う形になる。またカードスロットなどはなく、コンテンツの追加機能は備えない。コンテンツ特化型のモデルということで、このあたりは妥当な設計だろう。電池寿命は約110時間と十分な長さだ。

本体はBlackberryライクで片手でも持ちやすい。ちなみにイヤフォンジャックを除き、筐体そのものは兄弟機であるPW-AC10とほとんど変わらないCD-Rとのサイズ比較。かなりコンパクトだiPhone(左)とのサイズ比較。まさにスマートフォンサイズで、人前で使っていても電子辞書だと思われることはあまりなさそう
下部から見たところ。裏面にゴム足などはないため、机上に置いた状態での操作はやや不得手左側面から見たところ。兄弟機であるPW-AC10にはなかったイヤフォンジャックが追加されている右側面から見たところ。とくにキーや端子類はない
キーボード上部のファンクションキーは、従来はコンテンツ呼び出しに割り当てられていたが、本モデルでは音量調整関連のメニューに割り当てられているリング状のキーで上下左右に移動し、中央の検索/決定キーで決定する仕様になっている。本体はほぼ左右対称なのでどちらの手でも操作できるが、左手だとイヤフォンジャックが邪魔になる場合もある本体背面上部に単4電池×2のボックスを搭載。重量バランス的にはやや頭でっかち
文字サイズは、広辞苑では4段階で変えられる
ジーニアス英和辞典では文字サイズは3段階可変と、コンテンツごとに異なる

●ハードおよびコンテンツは「通勤電車内のTOEIC学習」に特化

 冒頭で述べたように、本モデルはTOEIC向けを謳った製品だ。TOEIC受験者の年齢層は幅広いが、なかでも学生は学校指定の電子辞書を所持しており、その中にTOEIC関連コンテンツが含まれているケースが多い。そのことから考えると、本製品は自己啓発もしくは業務上での必然性があってTOEIC学習に励む社会人をメインターゲットに作られたモデルということになるだろう。

 社会人向けとみなせば、軽量、かつコンパクトな本製品の仕様は合理的だと感じる。通勤中に電車の吊革に片手でつかまったまま、あるいは寝転がって両手が自由に使えない状況下でも、片手でホールドして操作しやすい本製品は、机の前に座って学習する時間のない社会人にぴったりだからだ。

 こうした利用シーンを想定して設計されているのはハードウェアだけではない。コンテンツにも同じことが言える。具体的には、単語と熟語の習得、文法チェック、特定パートの模試といった各分野において、片手の操作だけで学習がすすめられるよう、操作性が工夫されている。具体的に言うと、キーボードから単語をポチポチ入力していくような回答方法は控えめで、基本的には選択肢のどれかを選ぶだけで回答できるようになっているのだ。

 ということで、それらTOEIC対応コンテンツを順に見ていこう。単語と熟語の習得には「キクタン」および「キクジュク」が用意されている。音楽のリズムに合わせて発音と意味をくりかえし聴くことで、知らず知らずのうちに単語や熟語を覚えてしまう「チャンツ」と呼ばれる学習方法を採用している。イヤフォンでこれらをくりかえし聴くことで、単語と熟語を覚えるという学習スタイルだ。

 もう1つは、TOEICリーディングセクションの単文穴埋め問題を集中的にトレーニングするためのコンテンツ「1日3分TOEIC Test Part5!」だ。空欄に入る正しい単語を4つの選択肢から選ぶ問題と、ヒントをもとに穴を埋める単語を入力する問題とが用意されている。それぞれの問題の傾向についての解説も充実している。

 最後に文法チェック。こちらは「新TOEICテスト文法特訓プログラム」というコンテンツが用意されている。代名詞や副詞、形容詞など20のカテゴリそれぞれについて、解説と練習問題が用意されており、これらを1日に1項目ずつをマスターしていくことで、必須文法事項を20日間で習得できるとされている。

 これらTOEICコンテンツについて、同社ではおよそ2カ月でマスター可能な分量であるとしている。もちろん個人差はあるだろうが、本製品を購入して集中的にTOEIC学習に取り組むというやり方は、普通の問題集を用いた座学ではなかなか意欲が沸かないユーザーにとって、魅力的な学習方法と言えそうだ。

英語系コンテンツとして、英和/和英/英英辞典を一通り網羅しているTOEIC対策用に6つのコンテンツを搭載。「キクタン」「キクジュク」はTOEICの点数ごとにグレードが分かれている音楽のリズムに合わせて発音と意味を聴いて覚える学習方法「チャンツ」に対応。ちなみにこのチャンツ、前回紹介したカシオ「XD-B8500」も搭載しており、昨今の電子辞書の中では1つのトレンドになりつつある
「キクジュク」の一覧画面。熟語が並んでいる熟語を選択して意味を表示したところさらに例文とその訳を表示したところ
例文や訳を部分的に隠してのチェックも行なえるTOEIC Part5の穴埋め問題をトレーニングするためのコンテンツ「1日3分TOEIC Test Part5!」。解答テクニック、問題本編、問題チャレンジ編の3つに分かれる解答テクニックを表示したところ。品詞、動詞、前置詞といったカテゴリごとに問題の傾向と対策が表示される
問題本編。空欄内に入る単語を、A~Dの選択肢から選んでいく8問解答すると正答率が表示されるこちらは問題チャレンジ編。さきほどのような選択肢ではなく、ヒントをもとに単語の綴りを直接キーで入力する
「新TOEICテスト文法特訓プログラム」。代名詞や副詞、形容詞など20のカテゴリそれぞれについて、解説と練習問題が用意されている各カテゴリの解説。問題を解く前に読み物としてチェックしておきたい練習問題。A~Dの選択肢で解答していく。1日に1つのカテゴリをマスターしていくことで、20日あれば完了するとしている

 操作性について、実際に使っていて1つだけ気になったのは、選択肢を選ぶタイプの問題で、キーボード上の「A」、「B」、「C」、「D」それぞれのキーを使って回答する仕様になっていること。本製品ではQWERTYキーを採用しているため、これらのキーは盤面のあちこちに散らばっており、正確に押すためにはキーボード盤面をいったん目で見る必要がある。

 もし、あらかじめ隣り合っているキーないしボタンで回答するのであれば、視線を画面に固定したまま指先だけで回答ができるはずで、現行の仕様はちょっと操作しづらい。ハードウェアとコンテンツの仕様を合わせこむのは難しいとは思うが、利用頻度が高いだけに、コンテンツ中断時に用いる「Y」、「N」キーと合わせて、後継モデルでの解決を望みたいところだ。せめて上下キーでの選択は可能にしてほしいと感じる。

●広辞苑搭載のコンパクト電子辞書を求めているユーザーにも向く

 TOEIC以外の搭載コンテンツおよびメニューについても紹介しておこう。

 本製品には全部で12のコンテンツが搭載されており、このうち6つが前述のTOEIC関連、残りのうち3つがその補助となる英和/和英/英英辞典、それ以外の3つが国語系のコンテンツだ。冒頭でも述べたようにコンテンツの追加には対応しないので、本製品で利用できるコンテンツはこれがすべてということになる。

 コンテンツのラインナップとしてはTOEIC専用機だが、広辞苑第六版を搭載していることから、広辞苑の機能を利用したいユーザーにも向く。広辞苑搭載でコンパクトタイプの製品を探しているのなら、本製品もしくは兄弟モデルにあたるPW-AC10が、キヤノンのストレートモデルなどとともに候補になることだろう。

 このほか本製品では、電子辞書ならではの一括検索機能も用意されているが、そもそものコンテンツ数が少ないうえに半数がTOEIC関連ということもあり、一度の検索で複数コンテンツの意味が見比べられる一括検索機能のメリットはあまり享受できない。このあたりは致し方ないところだろうが、もう少しコンテンツがあってもよいと感じるユーザーはいるかもしれない。

広辞苑など、国語系のベーシックな3コンテンツを搭載従来の電子辞書と同様に単語帳およびカード式単語帳機能も搭載しているが、これだけTOEICに特化していると影が薄い
消費税電卓機能も搭載設定画面。アルカリ乾電池のほかエネループおよびエボルタも利用可能

●従来の電子辞書と競合しない、移動中に使う「学習デバイス」

 以上ざっと見てきたが、これまでコンパクトタイプの電子辞書と言えば、持ち歩いて図書館の自習室などで使う用途か、あるいは海外旅行などに携行するというタイプが主だった。本製品のベースとなった兄弟機のPW-AC10は、このうち後者の方向性を指向したモデルであった。

 その点本製品は、通勤時間や余暇を使ってTOEIC学習に役立てるという、これまでになかった方向性が示されている。本製品が競合するのは従来の電子辞書でなく、通勤電車の中で使われる可能性のあるデバイス、つまり携帯電話やスマートフォン、もしくはずばりTOEICの参考書や問題集ということになりそうだ。そうした意味からも、本製品は電子辞書というよりも、電子辞書機能の付いた学習デバイスと言ったほうが正しい。

 実際に使った限りでは、こうした学習方法を効果的にリードするため、ハードとコンテンツがきちんと噛み合っており、学習機器としての完成度は高いと感じた。本製品のような方向性が多くの人に支持されるのであれば、今後の電子辞書の進化の方向性に影響を与える可能性が高いだけに、本製品がこれからユーザーに受け入れられていくか、大いに興味のあるところだ。

【表】主な仕様
製品名PW-AC20
メーカー希望小売価格オープンプライス
ディスプレイ2.4型カラー
ドット数320×240ドット
電源単4電池×2
使用時間約110時間
拡張機能なし
本体サイズ(突起部含む)68.6×118.6×18.8mm(幅×奥行き×高さ)
重量約98g(電池含む)
収録コンテンツ数
12(コンテンツ一覧はこちら