Hothotレビュー
物理トリガーボタン搭載。高性能でも低発熱なゲーミングスマホ「Black Shark 5 Pro」
2022年8月11日 06:16
「Black Shark 5 Pro」は、スマートフォン業界の雄Xiaomiが送り出すゲーミングスマートフォンだ。Black Sharkはもともと2017年にベンチャー企業としてスタートしたのだが、目をつけたXiaomiが早速同社に出資。Snapdragon 845を纏った「Black Shark」の初代を2018年5月という異例のスピードで投入した。
その後、Qualcommの新SoCとともに世代を重ね、最新のBlack Shark 5 ProはSnapdragon 8 Gen1という最新のハイエンドSoCを搭載して、満を持しての投入となる。今回1台お借りしたので、レビューをお届けしよう。
新世代SoCで速度向上だけでなく、温度も抑えられる
Black Sharkシリーズはハイエンドを貫いており、SoCにはSnapdragon 8シリーズを採用し続けている。Black Shark 5 Proも、最新のハイエンドSoCであるSnapdragon 8 Gen1を採用している。
付随するメモリやストレージも抜かりなく、メモリはLPDDR5、ストレージにUFS 3.1を搭載。つまりゲームを高速に処理するというのはもちろんのこと、SoC内蔵GPUの性能を発揮する上で重要なメモリ帯域幅や、ゲーム体験に関わるロード速度の部分もスキのない性能になっているわけだ。
実際にベンチマークを実施してみたが、Antutu Benchmark v9.4.3では堂々の1,030,314というスコア。3DMarkも実行してみたところ最高負荷のWild Life Extremeを推奨され、2,584を記録するなど、Black Sharkシリーズの名に恥じない高性能を発揮した。
ゲームのロード時間について、個人で購入したSnapdragon 870搭載スマートフォン「Black Shark 4」と、オープンワールドRPG「原神」のタイトル画面の門をタップして、キャラクターが操作できる画面に遷移した時間を計測したり、2つの街の間でワープにかかったロード時間について調べてみたが、大差は見られなかった。
パーツの高性能化に伴い重要となってくるのが放熱設計だが、本製品はプロセッサ裏表両側にベイパーチャンバープレートを装備することで対処している。液晶側のベイパーチャンバーの面積は4,323平方mm、背面側のベイパーチャンバーの面積は997平方mmとなっている。ちなみにこのベイパーチャンバーは通常のものとは異なり、複数の毛細パイプと冷却液用チューブを設けるといった工夫でさらに冷却効率を向上させているとのことだ。
このベイパーチャンバーに加え、片状黒鉛やグラフィン、相変化材料なども組み合わせることで放熱性を高め、ゲームプレイ中のフレームレートの安定化を図っている。実際、オープンワールドRPG「原神」の各種画質設定を最高にした状態で、フレームレートを60fpsに設定してプレイしてみたところ、40分経過しても60fpsを維持していた。
Black Shark 4ではプレイから20分経ったあたりからフレームレートが50fpsや45fpsに一時的に落ち込むシーンも見られたわけだが、このあたりはプロセッサの世代の進化とともに、最適化や放熱の最適化が進んでいると見ていいだろう。
本体の発熱だが、原神プレイ30分経過時点でのホットスポットはカメラ下部で42℃程度。旧モデルのBlack Shark 4では43.1℃あったので、新モデルは性能向上を図りながら温度低減も実現できているわけである。
このほか、120fps対応タイトルを含め、筆者が日頃よりプレイしているなどもいくつかプレイしてみたが、いずれも満足の行く性能であり、同時に許容可能な筐体温度を維持していた。
なお、この温度はバッテリ駆動時の温度であり、充電しながらだともう少し温度が上がる。発熱を抑えるためにゲーム稼働中はバッテリ充電を行なわず、システムが必要な電力のみ給電するモードもあるのでそちらも駆使したい。
最短17分で充電完了する120W急速充電
Black Shark 5 Proのもう1つの特徴は、120WというPC顔負けの急速充電に対応している点。120Wの充電器が付属しており、最短17分で満充電にできることが謳われている。
実際に残容量5%の状態で、本体の電源を入れたまま充電を行なってみたところ、20分程度で満充電となった。おそらく電源を切るか、周辺温度がもう少し低い冬場であれば17分という短時間を達成できるのだろうが、それでも20分というのは驚異的な速度である。1日ほとんどバッテリを使い切って自宅に戻っても、シャワーに行く前に充電器に繋いでおけば、シャワーが終わってサッパリした頃には満充電になっているというイメージだ。
本体の急速充電対応は素晴らしいのだが、付属のACアダプタがUSB Type-Aだというのはやや閉口ものである。Quick Charge 3.0には対応するため一応は他社のスマートフォンに急速充電できるが、USB PD非対応なので、ほとんどのPCを充電できず、ガジェットをたくさん持つユーザーからしてみれば汎用性が低いと言わざる得ない。本製品はほかのUSB充電器でもそれなりの速度で充電できるので、付属のACアダプタを使う必然性が低いように思う。
付属のUSB充電器による充電中の発熱は抑えられている印象であった。とは言え、それでもゲームをしながら充電を行なうとそれなりの熱を持つようになるため、熱によるバッテリ劣化を防ぐためか、ゲーム稼働中はバッテリを充電せず、システムが必要な電力のみ給電する「バイパス充電」モードを備えている。また、一定温度に達すると自動的に充電速度を遅くする機能もある。
なお付属するケーブルもUSB Type-A→USB Type-Cであり、コネクタもまっすぐケーブルが伸びるタイプ。直接給電しながらの本体横持ちのゲームプレイに配慮するのであれば、給電しながらでも手への干渉が少ないL字型やコの字型のものが欲しかったところなのだが、「17分で充電完了するのだから充電してからゲームをプレイすればよい」というメッセージが強い。このあたりは、横持ち時に下にもUSB Type-CコネクタがあるROG Phoneの方が親切だ。
ゲーミング向けの機能が満載
ゲーミングスマートフォンを名乗っているからには、ハードウェアのみならずソフトウェア面での最適化や対応も求められるわけだが、Black Shark 5 Proはその点でも恥じない充実さだ。
まず1つ目は「Shark Space」で、これはランチャーの役目を果たすほか、着信拒否や通知の拒否など、ゲーム向けの一部機能の設定が行なえる。もっとも、「ゲームしかやらない」ユーザーならともかく、一般的なアプリも使うのであればこれにお世話になることはないだろう。
コアとなる機能は、ゲームプレイ中に右上角もしくは左上角からスワイプインして表示されるオーバーレイ「ゲームアシスタント」に集約されている。ここで、トリガーボタンの設定やマクロの記録、ゲームの各種設定を行なう画面にアクセスできる。先述の着信拒否や通知拒否などもこのウィジェットから行なえる。
ゲーム設定においては、性能とバッテリ/発熱のバランスを3段階に調節できるほか、ディスプレイのリフレッシュレートやカラー調整、タッチ感度の調整が行なえる、といった具合だ。また、ボイスチャットの際に自分の声を変更できる「ボイスチェンジャー」、ネットワークの優先度を調節できる機能、ゲーム中の音楽効果で背面のライティングを変更させる機能なども設定できる。
ここでちょっとユニークなのが「Hang Up」機能で、ゲーム継続中という状態を維持しながら、別のアプリが使える。単純にバックグラウンドに回しただけだと、ゲームが中断されたり、場合によってはメモリを開けるために終了されたりしてしまうわけだが、Hung Upを使えばこれを防げるというわけだ。
Shark Spaceと同様、本機のみに備わっているもう1つのゲーミング関連の要素(?)が、ブランドイメージ萌えキャラクターの「Shark Chan」だ。ロック画面で適用できる壁紙が1種類用意されているほか、専用アプリもあり、ホーム画面に常時表示させられる3Dのマスコットもある。
この3Dマスコットは放置しているといくつかのリアクションをするほか、タッチすると笑ったり怒ったりとしっかりと反応し、しかもちゃんと日本語を喋る。ただしホーム画面に常駐している場合は、マスコットをタップしてしまうと、「アハハハハ、もうイヤ~♪」、「あっ、イジわる~い♥」という、電車の中やビジネスの場では赤面してしまうであろうセリフが問答無用で流れるので、くれぐれもスピーカーの音量には注意したい。
物理のトリガーボタン
ここまで紹介してきたものは、機能によってはBlack Sharkだけのオリジナルとは言い難いところもあるのだが、唯一他社製品と大きく差別化されているのはポップアップするトリガーボタンだろう。他社は表面を軽くタッチすることで反応する静電容量式が多いのだが、本製品は物理的なスイッチとなっている。
この物理スイッチだが、通常時は本体内に格納されているのだが、すぐ横にあるスライドスイッチを(外側に)スライドすることで、マグネットの力により浮上する。マグネットと言われると、ポップアップした後、遊びが大きいように思われるかもしれないが、模式図を見るとポップアップ時は物理的に支えられているようだ。実際、大きく沈み込まずに浅いストロークで反応できるようになっている。
このクリック感は、他社のような振動による擬似的なモノとは一線を画するものがある。静電容量式ではどうしてもその存在感を忘れがちになるのだが、物理ボタンは使う気にさせてくれるのがいい。また、静電容量式だとちょっと姿勢を変えようとしたときに誤操作してしまうこともあるのだが、ボタン式だとその確率も下がる。
ゲーム中でない場合は、このボタンにショートカットを割り当てることができ、デフォルトでは右(縦持ちでは下)が片手モード(いわゆる全体画面を小さくして片手でも操作しやすくするモード、左(同上)がスクリーンショットとなる。しかし、そもそもデフォルトではボタンを出しっぱなしにしていると、不意の落下などによる故障を避けるためボタンを収納してくださいといったメッセージが通知欄に表示されるため、基本的にはゲーム中で使われるのが前提だろう。
ちなみにBlack Shark 4でも同様のトリガーを備えているのだが、Black Shark 5 Proではポップアップするためのスライドスイッチの高さが抑えられ、ポケットのふちなどに引っ掛かりにくくなった。Black Shark 4では、何らかの拍子でスライドスイッチが何か引っかかって、ボタンがポップアップしてしまうことが多かったが、Black Shark 5 Proでは改善されたようだ。
が、改善されたとは言え、「物理ボタンを使うためにスイッチを手動でオン(しかも左右2つ)にしなければならない」というのはやはり面倒であり、できればゲームが始まったら自動でポップアップ、終わったら自動で収納してほしいところである。ゲームで白熱している最中に、物理ボタンでスキル発動させようとしたら収納したままで発動せず逆にやられてしまった……というのはBlack Shark 4時代に何度か遭遇した。
とは言え、競合の「RedMagic」シリーズも基本的にゲームスペースボタンをオンにしないと静電容量式スイッチは反応せず、自動的に機能するのは「ROG Phone」シリーズぐらいなので、このあたりは「横持ちにしたらスライドスイッチをオンにしておく」、「縦持ちにしたら戻す」習慣づけで対応したい。
144Hz対応のOLEDやカメラ性能は優秀
ディスプレイには10bit表示対応の6.67型OLEDディスプレイを搭載。解像度は2,400×1,080ドットで、リフレッシュレートは144Hz、最大輝度は1,300cd/平方mで、コントラスト比は6万:1超え、色域はDCI-P3 111%といったハイスペックなものになっている。実際に見ていても非常に鮮やかで美しいという印象だ。タッチサンプリングレートは720Hz(マルチタッチは360Hz)、タッチ反応速度は8.3msとなっており、ゲーム用としては申し分ない。
本体右側面には電源ボタン兼指紋センサーを搭載している。指紋センサーはディスプレイ内への搭載がトレンドなのだが、反応速度や認識率の面ではやはり本製品のような外付けの方がいい。ちなみにBlack Shark 4では電源ボタンの位置が“スイートスポット過ぎる”きらいがあり、ちょっと本体を握ったらすぐにロック解除してしまう。Black Shark 5 Proではやや上寄りとなり、意図しない解除がなくなった。もっとも、これは筆者がBlack Shark 4に慣れているだけかもしれない。逆に、音量ボタンもやや上に移動したため、片手では操作しにくくなった印象を受ける。
本製品のもう1つの強化点がカメラである。メインカメラはBlack Shark 4はが4,800万画素、Black Shark 4 Proが6,400万画素だったが、Black Shark 5 Proは1億800万画素となった。ただ、写真の雰囲気はBlack Shark 4と大差ない印象で、全体的な画作りとしては印象重視といったところ。透き通るような青い空、シャープな建物のテクスチャ、若々しい草など、いずれもうまく表現できている。
あえて難癖をつけるとすれば超広角カメラだろうか。プレビューでは四隅まで真っ直ぐな線として表示されるが、実際撮影される写真はプレビューよりやや広く、四隅がかなり歪んだ樽型収差の画像となっている。自然風景を撮影するのであれば大した問題はないが、人物や建物は気をつけた方がいいだろう。
ゲーミングスマホとしては完成度が高いが、問題は同じXiaomi傘下のライバル
Black Shark 5 Proを2週間程度試用してみたが、ゲーミングスマートフォンとしては高い完成度にあると感じた。何より競合と比較して物理スイッチのボタンを2基備えているメリットは大きく、1回これに慣れてしまうと、「ほかはあえて物理スイッチではないトリガーボタンを搭載した意味があるのか?」と疑問に思うほどであった(もちろん、これはあくまでもトリガーボタンを使う人前提の話である)。
ともすればライバル不在で独走かと思われるBlack Shark 5 Proなのだが、残念ながらそうではない。そう、同じXiaomi傘下のPOCOから、「POCO F4 GT」が先日より日本国内で投入されてしまったからだ。
こちらもスライドスイッチでポップアップする物理スイッチによるトリガーボタンを搭載し、プロセッサも同じSnapdgoran 8 Gen 1、しかもメモリ12GB/ストレージ256GBのモデルは、“たったの”8万4,800円だ。同じ構成でBlack Shark 5 Proは11万8,800円。3万4,000円の差額でもう1つエントリー向けスマホが買えてしまうのである。
機能の違いを挙げるとすれば、ディスプレイが120Hzか144Hzか、カメラセンサーが6,400万画素か1億800万画素かといった細かい程度の差違いしかない。むしろ、Black Shark 5 ProはIPX2防水でしかないのに対し、POCO F4 GTはIP53の防水防塵性能を備えているし、赤外線リモコン機能もあるのだから、POCO F4 GTの方がいいと感じるユーザーの方が多そうではある。
ちなみに、筆者はPOCO F4 GTを試していないのだが、Black Shark 5 Proにだけありそうな機能として、ゲームをウィンドウ化してほかの作業をしながらプレイができる「FreeForm」や、先に挙げたShark Chanがある(Shark Chanは絶対実装されないだろうが、POCO Chanは出ないとも限らないし、同じMIUI 13ベースなのでFreeFormもサクッと実装はされそうではあるが)。といったところで、よりコスパに優れたPOCO F4 GTか、(現状では)よりゲーム機能が充実したBlack Shark 5 Proか、悩む日々が続きそうだ。