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ノートで8コア16スレッドの脅威! 「ROG STRIX GL702ZC」レビュー
2017年10月30日 11:00
ASUSより、Ryzen 7 1700(3GHz)を搭載した17.3型ノートPC「ROG STRIX GL702ZC(GL702ZC-R7)」(以下、GL702ZC)が発売された。価格はオープンプライスで、税別店頭予想価格は184,800円前後だ。今回、ASUSよりサンプルをお借りできたので、レビューをお届けしたい。
ノートPC史上初、8コア/16スレッドのRyzenを搭載
先日、モバイル向けの「Ryzen Mobile」ファミリがAMDより発表されたのだが、GL702ZCはそれを搭載しているわけではない。Ryzen Mobileは4コア/8スレッドのCPUに、Vegaアーキテクチャに準じたGPUを組み合わせたAPUであるのに対し、GL702ZCが搭載するRyzenはデスクトップ版のRyzen 7 1700そのものだ。そのため、8コア/16スレッドというノートPCとしては驚異的なマルチタスク性能を実現する。
デスクトップ向けCPUを搭載するノートPCは過去にもいくつかは存在する。最近のモデルとしては、マウスコンピューターの「m-Book P500」シリーズが挙げられるが、m-Book P500は最大でも4コア/8スレッドに留まり、モバイル向けCPUと比較した場合、アドバンテージは動作クロックだけだ。コア/スレッド数が最多の製品としては、ClevoのノートPCベアボーン「P570WM」をベースとしたLGA2011(Intel X79)CPU対応製品があり、こちらはCore i7搭載時で6コア/12スレッドまで、Xeon E5を搭載すれば16コア/32スレッドも可能であった。しかしそれ以来多コア製品は登場しておらず、本機は久々のモンスター級ノートとなる。
【22時訂正】記事初出時、GL720ZCが世界初の8コア16スレッドのノートであるとしておりましたが、P570WM+Xeonでより多コアの構成が可能でした。お詫びして訂正します。
しかもGL702ZCは、野暮ったい筐体ではなく、17.3型ゲーミングノートとしては標準的な厚さに収まっている。これを実現した背景には、Ryzen 7 1700の65Wという、8コアCPUとして優秀な熱消費電力(TDP)が貢献している。Ryzenは純粋な消費電力で比較した場合、Kaby Lakeアーキテクチャの同じTDPのものより高い傾向があるが、発熱が少ないため筐体の熱設計に余裕が生まれるのである。
しかし、GL702ZCはこのRyzen 7 1700のすべての性能を引き出せているわけではない。というのも、最大動作クロックが3.2GHzに制限されているからだ。おそらく発熱や消費電力とのトレードオフでこの値に設定されているのだろう。だがそこは倍率アンロックのRyzen。付属している「Gaming Center」ユーティリティや、AMDが公式に提供しているオーバークロックユーティリティ「Ryzen Master」で、動作クロックを自由に設定できる。
筆者が軽く試してみたところ、電圧を初期の状態から変更させずに、3.6GHzまでオーバークロック動作させられた。さすがに3.7GHz以降は電圧を少し盛らないダメな雰囲気だが、デフォルトの3.2GHzから12%の性能向上を実現できるだけでも、十分いじり甲斐のあるノートPCだと言える。
多コア/多スレッドは、1つのアプリを使っているときよりは、多くのタスクを並行して実行させているときに威力が発揮される。たとえばゲームをプレイしながらその画面を配信したり、複数のビデオや写真を同時に編集/処理させるといった用途だ。これまで、そのような作業を行なう場合はデスクトップPCが必須であったが、その作業をノートというフォームファクタで実現できるのが、GL702ZCの最大のメリットだ。
デスクトップ版と区別がつきにくいRadeon RX 580
GL702ZCはゲーミングノートという位置づけであるため、GPUにも高性能なRadeon RX 580を搭載している。AMDもNVIDIAも今世代からモバイル向けGPUにサフィックスをつけなくなったため、デスクトップ版との区別がなくわかりにくいが、本機に搭載されるGPUはおそらくモバイル向けだ。
GPU-Zでその仕様を見ると、SP数は2,304基、ROPは32基、TMUは144基、動作クロックは1,077MHz、メモリバス幅は256bit、メモリクロックは2GHz、容量は4GBなどとされている。つまり、ダイ的にはデスクトップのRadeon RX 580とほぼ同等で、動作クロックを抑えた(デスクトップ版は1,340MHz)モデルになるようだ。
これとは別に、ボード電力制限も68Wに抑えられており、負荷によっては1,077MHzに達しないようになっている。このため、性能はデスクトップ版の8割以下になると予想できるが、これについては後ほどのベンチマークで検証したい。
ゲーミングに特化したデザイン
筐体は多角形やエンボスを多用した、いかにもゲーミングマシンらしい風貌を持っている。一般ユーザーはMacBookが代表するような、無駄を一切用いないシンプルなものを好むと思うが、本製品はそれと対極的なもので、ゲーマーが好みそうなものである。
本体サイズは415×280×34mm(幅×奥行き×高さ)、重量は約3.2kgと、ゲーミング用の17.3型ノートとしては平均的だが、デスクトップ向けCPUを搭載していると考えれば驚異的だ。
いかにもゲーミング用らしい点と言えばキーボードだろうか。赤いバックライトを備え、近未来的なフォントが用いられているのはもちろんのこと、敢えて日本語ではなく英語配列のままにしている点や、FPSゲームで多用するA/W/S/Dキーのバックライトを強調させ、「W」のキャップに小さな突起を用意し、“ゲーミングホームポジション”がすぐにわかる点などが、その象徴だとも言える。
キーボードのストロークは公称1.6mmとこのクラスとしては浅いが、アクチュエーションポイントが浅く、その分反応性が高まる意味では悪くない仕様。キーピッチは約19mmが確保されており、タイピング音も静かで、打鍵感は申し分ない。カタログスペックでは1,000万回打鍵の耐久性や、30キー同時押しが謳われており、ゲーミング用としては文句なしだ。
1つだけ気になる点といえばカーソルキーの配置だ。本機はEnterキーの列とテンキーの間に少し余裕を持たせているが、カーソルキーの「←」、「↑」、「↓」はEnterキー側、「→」だけテンキー側に配置されており、「→」だけ若干離れている。筐体は左右にかなりの余裕があるし、20万円もするマシンなのだから、ここはケチって欲しくなかった。
タッチパッドはクリックボタンが一体となったタイプで、幅は約104mm、奥行きは約72.5mmと、このサイズにしては小さい。ツルッとしており長時間利用でも疲れにくいが、残念ながら使い勝手はさほどよくない。本機は基本的に机に置いてゆったり使うだろうから、外付けマウスを使えば問題ない。
17.3型の液晶は広視野角で、色味も正しく、見ていて疲れない。非光沢のため、黒の沈み込みが足りずあっさりとした印象を受けるが、映り込みは抑えられるため視認性は良い。また、この液晶はAMDのFreeSyncに対応しているため、対応3Dゲームではティアリングやスタッダリングの発生が抑えられる。DisplayPortやHDMIで出力してもFreeSyncに対応しているので、大型ディスプレイを接続してのゲームプレイも満足できるだろう。
驚異の330W ACアダプタを使用
本機はデスクトップ向けCPUと、Radeon RX 580というハイエンド構成のため消費電力も高い。加えてオーバークロックも可能なため、本機には19.5V/16.9A、つまり約330Wの出力に対応するACアダプタが付属する。このACアダプタは大型でたいへん重い。本体と一緒に持ち運べなくもないが、毎日背負えてモバイルするものではないのは確かだろう。
ちなみにノートPCということでバッテリを内蔵しており、一応のバッテリ駆動も可能だが、PCMark 8の「Home Accelerated」テストを使用したバッテリ駆動時間計測では、1時間6分の駆動時間予測が出た。もともとモバイルが前提の製品ではないため、バックアップ用として見たほうが良いだろう。ちなみにバッテリ駆動時は供給電力の関係で、GPUの性能が大きく制限される。
PCMark 8 | |
---|---|
Home Accelarated | 4027 |
Home Accelaratedバッテリ駆動時のスコア | 3346 |
Home Accelaratedバッテリ駆動時間 | 1h6min |
この高い処理能力と消費電力を支える排熱機構もよく考えられている。本製品の排気口は後部に集中しており、底面から吸気して後ろに出すようになっている。このため、右手でマウスを握ってそれが排気で熱くなるようなことはない。また、負荷時でも熱はキーボードの左奥の一部、そして右奥に集中しており、パームレスト部、こと左手を置くパームレスト部の温度はかなり抑えられている。よって、FPSゲームのようにW/A/S/Dキーを多用するシーンで、長時間負荷をかけていても、本体の熱が気になることはまったくない。
気になる騒音についてはどうかというと、CPUにのみ負荷がかかっているシーンでは、あまりファンの回転数が上がらず、比較的静かであった。このときの騒音はファンの軸音の方が気になるだろう。一方、GPUに対して高負荷がかかる3Dゲームプレイ中は風が勢い良く排出され、風切り音がかなりする。いわゆるうるさいと感じる類の甲高い音ではないのだが、いかんせん音量がそこそこあるため、数mほど離れたところでも気になる。家族と部屋を共有している場合や深夜は気になることだろう。
インターフェイスは、右側面がSDカードスロット、USB 3.0×2、ケンジントンロックポート。左側面はDC入力、Gigabit Ethernet、Mini DisplayPort、HDMI出力、USB 3.0 Type-C、USB 3.0、音声入出力と、ひととおり揃っており、困ることはないだろう。無線機能としてIEEE 802.11acとBluetooth 4.2も搭載している。ちなみに無線と有線のネットワークはいずれもRealtek製のコントローラを使用していた。
ユーティリティも充実
本体に付随するソフトウェアは比較的多い。たとえばCPUのオーバークロックが行なえ、動作の状況監視が行なえる「GAMING CENTER」を始め、音質の調整などが行なえる「Sonic Studio II」、アプリケーションごとに通信の優先度を設定できる「GAMEFIRST IV」などがプリインストールされており、プレイヤーが“PC処理のボトルネックのせいでゲームで負ける”ことを回避できるようになっている。
しかしその一方で、ゲームとはあまり関係のないソフトウェアのインストールを促すアプリ「ASUS Giftbox」や、セキュリティスイート「マカフィー」の体験版しか入っていないため、セットアップ当初よりさまざまな煩わしいメッセージに悩まされる。PC初心者に親切な仕様かもしれないが、はっきり言ってゲーミングノートを買う層には不要だろう。今後ASUSには一考してもらいたい点ではある。
ハイエンドデスクトップを凌駕する高性能
最後にベンチマーク結果をお届けしたい。使ったベンチマークは「PCMark 10」、「3DMark」および「ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター ベンチマーク」の3つだ。筆者はこれまでゲーミングノートPCのベンチマークを取ったことがないので、比較用として筆者自作PC(Core i7-5820K、メモリ16GB、SSD 512GB、GeForce GTX 1080ビデオカード)のスコアを掲載する。
検証機材 | GL702ZC | 自作デスクトップA |
---|---|---|
CPU | Ryzen 7 1700 | Core i7-5820K |
メモリ | 16GB(DDR4-2400) | 16GB(DDR4-2133) |
ビデオカード | Radeon RX 580 | GeForce GTX 1080(8GB) |
SSD | 256GB(SATA 6Gbps) | 512GB(Plextor M5P) |
OS | Windows 10 Home(Creators Update) | Windows 10 Home(Fall Creators Update) |
PCMark 10 | ||
Score | 4812 | 3681 |
Essentials | 8062 | 6775 |
App Start-up Score | 9079 | 5814 |
Video Conferencing Score | 8237 | 7508 |
Web Browsing Score | 7007 | 7127 |
Productivity | 6818 | 5228 |
Spreadsheets Score | 8536 | 7704 |
Writing Score | 5446 | 3549 |
Digital Content Creation | 5502 | 3822 |
Photo Editiong Score | 8320 | 2825 |
Rendering and Visualization Score | 6792 | 10063 |
Video Editing Score | 2949 | 1964 |
3DMark | ||
Ice Storm Extreme | 138474 | 144627 |
Graphics score | 220037 | 248027 |
Physics score | 60275 | 58813 |
Cloud Gate | 33006 | 35208 |
Graphics score | 68915 | 128462 |
Physics score | 11689 | 9944 |
Sky Diver | 26250 | 38722 |
Graphics score | 33370 | 64017 |
Physics score | 13710 | 14519 |
Combined score | 21376 | 26470 |
Fire Strike | 10515 | 17291 |
Graphics score | 10515 | 20973 |
Physics score | 16677 | 15538 |
Combined score | 3692 | 8053 |
Time Spy | 3728 | 7028 |
Graphics score | 3475 | 7186 |
CPU score | 6362 | 6251 |
ファイナルファンタジーXIV 紅蓮の解放者ベンチマーク | ||
1,920×1,080ドット高品質(デスクトップPC) | 9588 | 15563 |
1,280×720ドット高品質(デスクトップPC) | 11302 | 17943 |
スコアから分かるとおり、GL702ZCのPCMark 10のスコアは、2世代前のハイエンドPCを凌駕するものとなっている。これにはRyzen 7 1700の8コア/16スレッドの処理能力に加え、DDR4-2400メモリやSSDやが大きくスコアに貢献していると見られ、アプリの起動のテストや、写真の編集で大きくリードしていることが分かる。
さすがにグラフィックスについてはGeForce GTX 1080に敵わず、(スコアはこのレビューには未掲載だが)デスクトップ版のRadeon RX 580と比較しても8割程度の性能に留まっている。しかし最新のゲームでも、内蔵液晶のフルHD解像度までであれば、十分快適にプレイできるポテンシャルは秘めていると言えるだろう。
それにしてもCPUの性能については素晴らしいの一言で、(当然だが)一般的なノートPCとは一線を画する。写真編集や3Dコンテンツ/ビデオ制作においても、その威力を遺憾なく発揮できる。本機はれっきとしたゲーミングマシンなのだが、こういったコンテンツ制作もストレスなく行なえる汎用性の高さも、類を見ないものだろう。
意外にも注目したいコストパフォーマンス
ASUSのゲーミングノートPCというと、30万円~50万円、果ては80万円クラスを想像されるのだが、GL702ZCは意外にも20万円で買えてしまうのである。もちろん、それらの上位機種と比べると、グラフィックス性能が物足りなかったり、デザイン面でややチープに感じられることも確かなのだが、キーボードやディスプレイを含めてRyzenシステム一式が20万円で手に入ると考えるとお買い得感が高い。
もちろん、ある程度買う人を選ぶ製品であるのは確かなのだが、「5年前に組んだ自作PCを買い替えたい、予算は20万円、できればハイエンド、3Dゲームはちょくちょくやるけど、そこまで3D性能にこだわらない」というメインストリームユーザーであれば、乗り換え先としても視野に入れてほしい製品である。