大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

電池の常識を一変させた「エネループ」。発売から20年間の軌跡を追う

 パナソニックエナジーのニッケル水素充電池「eneloop(エネループ)」が、2005年11月14日の発売以来、ちょうど20周年の節目を迎えた。

 旧・三洋電機が開発したエネループは、何度も繰り返し使うという電池の使い方を訴求。充電1回あたりの電気代が約1円という経済性の高さや、環境に配慮した電池として、使ったら捨てる乾電池とは一線を画した利用提案を行なってきた。現在、グローバル70カ国以上で販売され、累計出荷本数は6億本以上に達している。

 20周年を迎えたこの日は、グローバルサイトに記念バナーを掲載した以外に対外的な活動はないが、パナソニックエナジーでは、今後1年間に渡り、20周年の節目にあわせた取り組みを、国内外で実施することを検討しているという。エネループの20年を振り返ってみた。

「すぐに使える」充電池の誕生とブランドの歩み

 エネループが発売されたのは、いまから20年前の今日のことだ。

 当時、エネループを開発、製品化した三洋電機は、「地球が喜ぶ、いのちが輝くこと」を目指すブランドビジョンとして「Think GAIA」を打ち出したばかりであった。それを具現化する第1号製品に位置づけられたのが「エネループ」だった。

エネループの歴史
国内におけるエネループの歴史

 かつてのニッケル水素電池は、自己放電が宿命とされ、乾電池とは異なり、購入してもすぐに使えないことが大きな欠点で、販売店の店頭には並びにくかった。だが、三洋電機では、負極に使用する水素吸蔵合金の分子構造を改良することで、自己放電を抑制できることを発見。満充電から1年を経過した時点での残存率が85%を達成したことで、販売店での在庫が可能になり、広く販売ができるようになった。これが、エネループの誕生につながっている。現行モデルでは、10年後の残存率で70%を維持しており、非常用として購入している人も多い。

2005年に発売した当時のエネループ
2005年当時のエネループのパッケージ

 また、電池としては異例ともいえる「白」をベースにしたデザインを採用するとともに、ロゴマークには地球をイメージさせる青を施し、地球環境に配慮した製品であることを、デザイン面から訴求した点でも話題を集めた。乾電池の多くが、パワー訴求や大容量訴求のために黒や赤、ゴールドといった力強さを前面に打ち出した配色やデザインであったことと比較しても異例の電池であったといえる。

 2011年のパナソニックによる三洋電機の完全子会社化によって、新たな体制の中で事業を継続。2013年には、本体のデザインを一部変更し、表記していたロゴを「eneloop」から「Panasonic」へと変えた。その後、パナソニックの充電池事業は、エネループとともに、旧・松下電器からの流れを汲む「充電式エボルタ」を並列させて推進。繰り返し使用回数が多い「長持ち」が特徴のエネループと、容量が大きく、1回の充電による使用時間が「長持ち」の充電式エボルタという特徴をそれぞれに訴求してきた。

 だが、2014年以降は、海外の充電池事業をエネループに一本化。現在も、海外販売されているエネループには、三洋電機時代と同様に、電池本体に「eneloop」のロゴが大きく表記されている。

 また、日本では、2023年に、充電池ブランドを再編し、乾電池は「エボルタ」、充電池は「エネループ」に棲み分けることにした。これによって、「パナソニックの充電池=エネループ」という訴求が可能になり、顧客やパートナーとのコミュニケーションも分かりやすくなったといえる。

繰り返し回数と容量の進化、拡充するラインアップ

 一方で、技術進化も遂げている。

 エネループの繰り返し利用回数は、2005年の発売時点では、1,000回(旧JIS規格)だったものが、2009年の進化によって1,500回に、2011年には1,800回に増加。2013年には2,100回へと増やしている。現在は、新たなJIS規格に準拠し、繰り返し回数は600回となっているが、これは2013年に発売したものと同じ水準である。

エネループの技術進化

 また、2005年の発売以来、スタンダードモデルでは、単3形では1,900mAh、単4形で750mAhという容量を継続してきたが、2023年に充電池をエネループに一本化したのにあわせて、単3形は2,000mAh、単4形は800mAhに進化。従来の充電式エボルタが単3形で1,950mAh、単4形で780mAhを上回る容量を実現し、エネループが持つ繰り返し利用回数600回を維持しながら大容量化した。

 そのほかにも、2006年には、正極出代の改善により、機器との接触性を高めたり、電池チューブのラベル化により耐久性を改善したり、2007年には、電池ラベルの抗菌加工、2016年には、長期放置後の放電時の作動電圧改善により、長期放置後の作動性の向上を高めるなど、細かな進化も遂げている。

 現在、スタンダード版のほか、低容量のお手軽モデルとするエネループライト、大容量のハイエンドモデルのエネループプロに加え、単1形および単2形モデルも用意している。

多様な製品展開と充電器の進化

 エネループの歴史の中では、製品群の広がりに向けて、いくつかの取り組みが行なわれてきた。

 その1つが、2006年に開始した「エネループユニバースプロダクツ」である。エネループによって、電池を繰り返し利用するための具体的な提案を行なった製品群であり、太陽光で充電する「エネループソーラーチャージ―」、手などを暖めることができる「エネループカイロ」、寒い場所でのPC利用などでも暖かい環境をつくれる「ポータブルウォーマー」、USB出力付きの充電器セット「エネループモバイルブースター」などをラインアップ。さらに、充電式ひざ掛けの「エネループソフトウォーマー」、首回りを暖める「エネループネックウォーマー」のほか、電動ハイブリッド自転車である「エネループバイク」まで製品化した。

2006年に開始した「エネループユニバースプロダクツ」はさまざまな製品が用意された

 もう1つの取り組みが、「エネループトーンズ」である。カラーバリエーションを広げ、エネループを楽しく利用する取り組みとしても注目を集めた。最初に登場したのは、2009年に発売した紙巻きクレヨンをモチーフにした「エネループトーンズ」で、累計出荷1億本を記念して10万パック限定で発売された。

 2010年にはShiny & Lovelyをコンセプトにしたラメ入りの「エネループトーンズグリッター」を発売、2011年にはチョコレートカラーの「エネループトーンズショコラ」を発売。さらに、ディズニーとのコラボレーションモデルも用意し、一時期は、毎年のように、新たな「エネループトーンズ」を市場に投入し、女性ユーザーが多いエネループならではのカラーバリエーションの取り組みとしても話題になった。

エネループトーンズはさまざまな製品が用意された
エネループトーンズではディズニーとのコラボモデルも用意
人気を博したエネルーピー
2010年11月の発売5周年イベントに登場したエネループとエネルーピー

 ちなみに、この頃になると、充電池としてのエネループの認知度は急速に高まり、充電池をエネループと呼称するといった状況が生まれるほどだった。

 そして、エネループにおいては、隠れた取り組みとして見逃せないのが、充電器の進化である。

エネループの充電器の歴史

 エネループは、2005年の発売以来、充電器とのセット販売を開始。その後、一度に充電できる本数を増やしたり、急速充電に対応したり、先に触れた「エネループユニバースプロダクツ」の中で、太陽光パネルを搭載した充電器なども発売してきた。

 2013年以降は、エネループと充電式エボルタの双方に対応した充電器を発売。その後も毎年のように、使い勝手を高めるために充電器のラインアップを拡充している。

現在の充電器のラインアップ
パナソニックエナジー エナジーデバイス事業部コンシューマーエナジービジネスユニット グローバルマーケティング戦略部プロダクトマーケティング2課 主幹の黒田靖氏

 パナソニックエナジー エナジーデバイス事業部コンシューマーエナジービジネスユニット グローバルマーケティング戦略部プロダクトマーケティング2課 主幹の黒田靖氏は、「最近では、USB出力付き充電器のラインアップを増やし、災害発生時などに、エネループ充電器からUSB接続し、USBポートを持った機器に充電ができるようにしている。今後は、市場の変化を捉えながら、新たな充電器の投入も検討していきたい」と語る。

 黒田氏は、1992年に大阪市立大学 (現: 大阪公立大学)大学院修了後、同年に三洋電機に入社。エネループが発売となった2005年からエネループシリーズの商品企画を担当。現在も、グローバルマーケットに対して、消費者視点に立った製品戦略と、持続可能性への配慮を両輪とした取り組みによって、エネループブランドの進化を主導する役割を担っている。

 「エネループの特徴である『繰り返し利用する』という使い方を普及させるには、充電池を簡単に正しく、安全に利用してもらうための仕組みが必要である。パナソニックエナジーでは、そうした狙いから充電器の品揃えに力を入れてきた」とする。

 エネループにとって、繰り返して使ってもらうために、充電器を広げることは重要な要素であり、20年間に渡り、進化した充電器を、充電池本体とセット販売するといったことにも積極的に取り組んできたが、その姿勢は今後も変わらないという。

 なお、エネループには、「エネルーピー」と呼ぶ、犬の姿をしたマスコットキャラクターがいる。最初は、非売品の簡易バッテリチェッカーとして登場。胴体部分にエネループをセットし、胸のボタンを押すと、鼻の部分が光り、発光状態によって、電池残量を知ることができるというものだ。人気を博したキャラクターで、その後、エネループに、エネルーピーを同梱したセットも発売された。

20年貫く「For Life & The Earth」の理念

パナソニックエナジー エナジーデバイス事業部コンシューマーエナジービジネスユニット グローバルマーケティング戦略部ブランドコミュニケーション課の水田一久氏

 20年目の節目を振り返り、エネループのデザインを手掛けたパナソニックエナジーCEBU グローバルマーケティング戦略部ブランドコミュニケーション課 課長の水田一久氏は、「エネループは、20年間に渡って、『For Life & The Earth(地球と生命のために)』というブランドコンセプトをまったく変えてこなかった。このブランドコンセプトは、20年間に渡って、エネループのモノづくりを推進する上で、原点に戻ることができるワードであり、エネループの進化を支えてきた」と語る。そして、「20年間、このブランドコンセプトを、誰にも書き換えられないように守ってきた。それが私の重要な役割だった」と笑う。

 水田氏は、1993年に京都市立芸術大学を卒業後、同年に三洋電機に入社。2005年からエネループシリーズのグラフィックデザインおよびプロダクトデザインを担当。エネループの象徴ともいえる白と青の組み合わせによるデザインを行なった人物としても知られる。これまでに、グッドデザイン賞大賞(内閣総理大臣賞)、グッドデザイン賞金賞、ドイツiFデザイン賞金賞、オーストラリア国際デザイン賞金賞、日本パッケージデザイン大賞金賞など、数多くのデザイン賞を受賞している。

 水田氏が言うように、エネループは、2005年11月14日の発売以来、「For Life & The Earth(地球と生命のために)」というブランドコンセプトを掲げてきた。

エネループのブランドコンセプトは「For Life & The Earth」

 「クリーンエネルギー社会の実現に向けて、『くり返し使う』ことと、『地球に対する配慮』することを、この言葉に込めた。新しいライフスタイルを提案する電池として、これまでとは異なる提案を行なった」と、水田氏は、20年前にブランドコンセプトを提示した当時を振り返る。

 そして、「この20年間を通じて、繰り返し利用することができる電池があるということが多くの人に伝わった。そして、価値貢献ができたと考えている。だが、まだまだ利便性を高める提案ができるのではないかとも考えている」とも語る。

 黒田氏も異口同音に、「三洋電機から生まれた技術が、今でも、当時のブランドのままで継続し、20周年の節目を迎えることができた。かつてのカドニカ電池や、デジカメなどには専用充電池が用意されるなど、さまざまな技術や形状がある中で、エネループは、乾電池型の充電池として市場に投入し、その使い勝手の良さを認識してもらうことができた。使うたびに、いちいち買いに行かなくてもいい、いちいち捨てなくてもいいという使い方が、エネループによって提案できた」とし、「ニッケル水素電池の技術は、これから大きく進化することは考えにくいが、より使い勝手を高めるための提案はできる」とする。

 一方で、「地球に対する配慮』に向けた取り組みも継続的に行なっている。

 最近では、2023年に、カナダで実施した「エネループ環境ドネーションプログラム」への取り組みがある。特別デザインを施した「専用エネループ充電器キット」を販売。収益の100%(最大5万カナダドル)を、環境保全団体を通じて、環境保護活動に活用するという取り組みだ。

現在のエネループ
日本で販売されているエネループは紙パッケージを採用している
エネループはさまざまなデザイン賞を受賞している
エネループ環境ドネーションプログラム向けに特別デザインを施した専用エネループ充電器キット

 「単に、限定デザインのモデルを発売するのではなく、エネループがどうやって環境に貢献できるのかといったことに実験的に取り組んだ。当初予定した数量は完売となり、計画通りの成果があがったと考えている。ハードルが高い取り組みではあったが、ほかの国でも取り組んでみたい施策である」(パナソニックエナジーの水田氏)と位置づける。

 最近では、日本において、リチウムイオン電池によるモバイルバッテリの発火が相次いでおり、ニッケル水素電池であるエネループと混同するケースが見受けられるという。

 「安全性が高いニッケル水素電池のメリットを訴求していくことも大切だと考えている」(水田氏)とも語る。

 これも、人と地球のことを考える「For Life & The Earth」のブランドコンセプトの具現化につながるというわけだ。

 パナソニックエナジーは、2025年11月14日午前0時(日本時間)に、エネループのグローバルサイトに20周年記念バナーを掲載した。最初のページには、「For Life & The Earth」の文字を掲げている。その姿勢が、これからも変わらないことを示すユーザーへのメッセージだといえる。

グローバル展開の現状と今後の課題

 現在、エネループは、全世界70カ国以上で販売され、累計出荷本数は6億本以上に達している。ただ、6億本を達成したのが2023年春のことであり、逆算すると、20周年の期間中である2026年11月までの間には、累計出荷本数は6億5000万本に到達する可能性が高い。

 現在、エネループが重点市場としているのが、日本および米国である。

 日本では、エネループの根強いブランド力を生かしながら、パナソニックグループが持つ販売網を活用する一方、米国市場では、エネループの認知度向上施策の展開とともに、「For Life & The Earth」のブランドコンセプトによって培ってきたエネループが提案できる充電池の価値を訴求しているところだ。

 パナソニックエナジーの水田氏は、「日本は乾電池が主流の市場であり、充電池の市場規模はまだまだ低い。パナソニックの電池事業も、乾電池のエボルタ『が』あって、充電池のエネループ『も』あるという形で進めている。だが、北米ではパナソニックの乾電池のシェアが低く、パナソニックの電池事業では、エネループ『を』主軸に展開することができる。エネループのシェアを伸ばしていける余地が大きい」と語る。

 調査によると、日本では40~50代にエネループの認知度が高いのに対して、米国市場では20~40代の認知度が高く、若年層に対する広がりが期待できる市場ともいえる。「米国では、エネループのデザインが評価されたり、環境配慮ブランドであることが評価されたりしている」という。

 エネループのグローバルサイトでは、英語やドイツ語、ポルトガル語、中国語で情報を提供しているが、約半分が米国からのアクセスだという。また、Facebookでは約111万人のフォロワーが登録しているほか、公式YouTubeチャンネルでもグローバルに情報を発信しており、米国市場での訴求強化に向けた発信体制も整えている。20年目以降のエネループは、米国での事業展開の強化が、成長戦略のポイントになりそうだ。

エネループのグローバルサイト
2025年11月14日から、20周年記念バナーが掲示されている
Facebookでは約111万人のフォロワーが登録している

 だが、エネループを取り巻く環境は、決して順風満帆とはいえない。

 というのも、乾電池そのものの市場規模が縮小傾向にあり、それに伴い、乾電池型の充電池の市場も縮小傾向にあるからだ。

 黒田氏は、「いまは乾電池や充電池の勢いが落ちている。使われている機器が変化し、ユーザーの考え方も変化してきている」と前置きし、「従来は、乾電池を使用するデジタルカメラに使用したり、ゲーム専用機のリモコンに利用したりといったことが多く、そこに性能が高く、長持ちし、繰り返し使えてコストが安いというエネループのメリットが訴求できた。だが、乾電池そのものの用途が減り、同時に充電池の特徴である繰り返し使うことが便利な用途が減っている。乾電池への回帰トレンドを構築することに加えて、楽しみを継続するために必要な機器や、すぐに電池が交換できなかったら困る機器、交換頻度が多い機器など、充電池ならでは特徴が生かせるアプリケーションを創出していく必要がある」とする。

 スマートドアロックへの活用など、スマートハウスの領域における新たな利用提案など、乾電池型の充電池のメリットを生かせる領域の提案が、これからは必要になってくるだろう。

 水田氏は、「これまでのエネループは、コアとなる『For Life & The Earth』というブランドコンセプトは変えなくても、時代に応じてコミュニケーション方法を変えてきた。今後も、その考えは変わらない」とし、新たな用途提案や新たな市場開拓を進めながら、エネループのメリットを訴求しつづける方針を示す。

 そして、世界的な環境意識の高まりの中で、「エネループを利用することで、知らないうちに環境貢献ができるという特徴も訴求していきたい」とする。

 また、日本では、20年という歴史を刻んできたことで、それに伴って、エネループを認知している世代の上昇を生んでいることも確かだ。改めて若年層に対する認知度を高める施策が必要になるだろう。

 エネループが、次の節目となる5年後の25周年を迎えた際に、ブランドコンセプトの「For Life & The Earth」は、どんな形で市場に浸透しているのか。

 25周年目のエネループの次の姿にも期待したい。