大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

NEC、2009年度はディスプレイ一体型PCに注力
~高塚常務にPC事業戦略を聞く



 NECパーソナルプロダクツは、2009年度の国内PC事業において、ディスプレイ一体型PCの事業拡大、ネットブック製品の継続投入などによるコンシューマ製品の強化や、セキュリティ機能の強化、環境対応などを図ったビジネス向けPCの強化などに取り組む姿勢を示した。NECパーソナルプロダクツのPC事業本部長である高塚栄取締役執行役員常務に、2009年度の国内PC事業戦略などを聞いた。

--まず、2008年度のNECのPC事業を振り返っていただきたいのですが。

NECパーソナルプロダクツ高塚栄取締役執行役員常務

高塚 第3四半期までは順調な推移をしていましたが、昨年(2008年)11月以降から市況環境が悪化し、今年(2009年)に入ってからは大手企業、中堅企業などの導入意欲が大きく減退しました。それが第4四半期の当社のPC事業にも大きく影響しています。昨年11月時点では、法人PC市場は、年明け以降には前年実績の6割程度にまで落ち込むのではないかという見方も出ていたほどですから、当社でも、かなり慎重な見方をしました。一方で、コンシューマPCは、ネットブックの動きもあり、出荷台数ベースでは前年実績を上回る形で推移していますが、これもいつまで続くかという点では予断を許しません。当社は昨年11月にネットブックを、年明けには第2世代のネットブックを投入し、カラーバリエーションも広げた。この分野では一応の成果をあげたと認識しています。また、従来からのノートPCにおいても、比較的順調な売れ行きを見せました。

--年初には275万台としていた年間出荷計画は、1月時点で250万台に下方修正しましたね。

高塚 法人PC市場の悪化が想定されましたから、それを見込んだ修正値でした。この数値目標は、確実に達成しました。

--2008年度の取り組みを総括した場合、国内PC市場にはどんなインパクトを与えたと考えていますか。

VALUESTAR N

高塚 技術トレンドを的確に捉え、タイム・トゥ・マーケットでの製品投入が出来たと考えています。その最たる例が、ディスプレイ一体型PCの投入です。「VALUESTAR N」シリーズでは、ノートPCよりも大画面でありながら、机への設置面積ではノートPCよりも小さいという提案を、他社に先駆けて行なうことができた。今や、デスクトップPC市場の6割がディスプレイ一体型PCが占めていますから、その成果を見ても、当社の新たな提案が受け入れられたといえます。夏モデルの「VALUESTAR N VN770/TG」は予想を上回る実績となり、ランキング上位を維持しています。17万円以上のデスクトップPCの領域は、需要が落ちていませんから、根強い需要があると考えていいでしょう。

 もう1つは、ネットブック市場への早い段階での参入です。国内PCメーカーでは、東芝とほぼ同時期にこの分野に参入し、家庭内や個人の2台目需要の創出に貢献できた。スピード感を持って、参入の決断を行なったと考えています。市場調査では、PCを欲しいという人たちが多いことが明らかになっていますし、持ち運んで使いたいというユーザーも少なくない。こうした利用層に、NECならではのネットブックが評価されたのではないでしょうか。

--法人PCでは、どんな成果がありましたか。

高塚 企業においては、個人情報の漏洩が課題とされていますし、環境対応も重要な要素となっている。とくに大手企業では、その意識が強い。クライアントPCにおいても、セキュリティ対策、環境対策が注目され、そこにNECとしての提案ができたと考えています。例えば、ビジネスノートPCの「VersaPro」では、「ECOボタン」を配置し、目に見える形でエコ対策が行なえるようにした。「ITでEco」という当社の考え方は、クライアントPCでも活かされているわけです。

--2009年度は、どんな点に力を注ぎますか。

高塚 やはり昨年に引き続き、ディスプレイ一体型PCに力を注ぎたい。ここでは、むしろ、新たなディスプレイ一体型PCの形を提案していきたいと考えています。日本の家庭には1億台のTVが普及していますが、そのうち4,000万台がリビングに設置する大画面TV。残りは自分の部屋などに設置する中小型のTVとなります。地上デジタル放送への完全移行を前に、大きな買い換え需要が見込まれるわけですが、自分の部屋には、TVとともにPCも置きたいという人が多い。今やPCは生活必需品になっていますから。しかし、ディスプレイを2台も設置すると、部屋の中を圧迫してしまう。それならば、TVも録画も、ウェブもメールも1台で利用できる方がいい。ここに、ディスプレイ一体型PCが入り込む余地があります。

 また、これまでのディスプレイ一体型PCの主流となっていた15型や17型では、ノートPCのディスプレイサイズとそれほど大差がなく、むしろ持ち運びができるノートPCの方が重宝されていた。だが、TVとしての視聴を考え、ディスプレイサイズが20型以上になってくると、ノートPCには実現できないディスプレイサイズとなり、しかも設置面積はノートPCよりも小さくて済むというメリットが出てくる。ディスプレイ一体型PCの方が有利になってくるのです。ここに、フルハイビジョンやBlu-ray Discドライブ、大容量HDDといった付加価値を提供する。

 ここ数年、デスクトップPCの構成比が減少していましたが、2009年度は、こうした提案を通じて、デスクトップPCの良さをもう一度認識してもらいたいと思っているんです。ノートPCを含めたコンシューマPC市場全体のうち、ディスプレイ一体型PCの構成比は約2割。今年度は、これを3割程度にまで引き上げたいと考えています。

--ネットブックは、継続的に投入していくのですか。

Lavie Light

高塚 引き続き新モデルを投入する姿勢には変わりがあません。2009年度は、モバイルWiMAXの本格サービスが開始されますし、それに伴ってカバーエリアも広がる。PCの機能と通信インフラを、縦軸と横軸に捉えて、モバイル用途での提案を加速させたい。

--一部メーカーでは、女性層を強く意識したネットブックも登場していますが。

高塚 当社でも、ブラックのほかに、ホワイト、ブルー、ピンクというカラーバリーエーションを用意していますが、あまり女性を意識した作りというのは考えていません。NECのブランドに相応しい、しっかりとしたモノづくりを行ない、その結果として女性にもご評価をいただければと考えています。

--年内にはWindows 7が発売されますが。

高塚 新たなOSの登場は、PC業界を活性化するという意味で大変期待しています。もちろん、発売前には買い控えという状況も一時的に見られるでしょう。ただ、過去に新OSが登場した時のデータを分析してみると、新OSの発売前の2~3カ月は需要が7~8%下がるのですが、発売後には10%以上の成長率となり、年間を通じてみると、前年実績を上回るという結果になっている。ですから、買い控えそのものはあまり気にしていません。Windows 7という新たなOSにおいて、NECとしてしっかりとして利用提案ができるかどうかが課題だと思っています。こあたりの詳細は現時点では話しにくいですね(笑)。

--法人向けPCでの展開はどうなりますか。

高塚 IT投資予算の抑制は、2009年度前半までは続くでしょう。しかも、新OS発売前という時期的要素も、導入を先送りにする理由の1つとなる。しかし、セキュリティ環境を強化したい、より効率的な活用を行ないたい、モバイル環境で利用したいという要求は常にありますし、これに加えて環境に対する要求も強くなっている。法人PCにおいては、“ECO=NEC”という認識が広がってきてますから、独自技術と標準技術を活用しながら、環境面からの提案を加速することができる製品も投入したいですね。

--4月1日付けで、パーソナルソリューションビジネスユニットに、新事業開発グループを設置しましたね。この成果はいつ頃出てきますか。

高塚 パーソナルソリューションビジネスユニットには、PCと携帯電話、ルーターなどの通信関連部門がありますが、これらを横断した新製品の企画や、新市場開拓を担うことになります。4月からすでに何度かミーティングを行ない、お互いがどんなことをやっているのか、どんなところで協力ができるのかといったことを情報交換するところから始めています。小型、軽量の端末を開発することを得意とする部門、長時間連続バッテリ駆動を得意とする部門、携帯電話のように無線技術をベースに開発を進めている部門などが、それぞれ得意分野を持ち寄れば、これまで以上にシナジー効果が発揮できるのは明らかです。

 具体的な成果が出るのは来年度以降になるでしょうが、その中では、これまでにない新端末の開発なども視野に入れています。また、新組織の役割は新製品開発に集中すると思われがちですが、実際には、それだけに留まらず、既存製品群に対して、携帯電話事業で培った技術やノウハウの応用、無線技術をいかに応用するかといったことも可能になると思います。この成果にはぜひ期待していただきたいですね。

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(2009年 5月 14日)

[Text by 大河原 克行]