大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
すべてが“エヴァ仕様”の特製モバイルノートを作った富士通
~徹底した原作再現のデザインはどうやって生まれたか?
2020年7月3日 09:50
富士通クライアントコンピューティング(FCCL)が、エヴァンゲリオン仕様の「LIFEBOOK UH90NERV」を、台数限定で7月10日から発売する。
855gの軽量化と、24時間駆動を実現する「LIFEBOOK UH90」をベースに、エヴァンゲリオンの世界観でデザインした特別モデルだ。本体天板やスクリーンセーバー、付属のマウスなどには、作品に登場する特務機関「NERV(ネルフ)」のロゴマークを使用。エヴァファンにはたまらないノートPCが完成したと言える。
デザインを担当した富士通デザインの山下慶太氏、三澤建人氏をはじめとするFCCL関係者に、エヴァンゲリオン特別仕様モデルへのこだわりなどを聞いた。
エディオンとのコラボ
エヴァンゲリオン特別仕様モデル「LIFEBOOK UH90NERV」は、全国に家電量販店を展開しているエディオンの「エヴァンゲリオン×エディオン限定コラボ商品」の1つとして商品化されたものだ。
2020年6月27日に予定されていた「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の公開を記念し、FCCLのノートPCをはじめ、マウスコンピューターのゲーミングノートPC、バッファローの無線LANルーターのほか、各種ポータブルドライブやUSBメモリ、体組成計、コーヒーメーカー、高さ2mのエヴァンゲリオン初号機の鑑賞用彫像などの各種コラボ商品を用意。エディオンでは、これを「家電補完計画」と名づけ、「各メーカーと手を組み、商品をエヴァンゲリオン化し、遊び心のある生活を提案」する取り組みと位置づけている。
FCCLのLIFEBOOK UH90NERVは、エヴァンゲリオン×エディオン限定コラボ商品の第1弾として、バッファローのWi-Fi 6対応無線LANルーター「WXR-5950AX12/EVA」とともに用意されたもので、エディオンAKIBAでは、店外に大型装飾を展示しているほか、エディオン名古屋本店、エディオンなんば本店、エディオン広島本店では、8月31日までの期間限定で特設展示ブースが設けられ、コラボ商品の展示が行なわれている。
また、エディオングループ全店で、フォトスポットの設置や、エヴァンゲリオンに登場する碇ゲンドウによる店内アナウンスを行なっているほか、今後は、常設しているディスプレイや大型ビジョンでオリジナル動画などを放映する予定だという。
ちなみに、エディオンは、プライベートブランドとして「KuaL」を展開。今回の特別仕様モデルもKuaLブランドとなっている。
エヴァンゲリオン特別仕様モデル「LIFEBOOK UH90NERV」は、すでに、エディオンのエヴァンゲリオン特設コラボサイトで予約ができるほか、エディオングループの店頭でも販売されることになる。価格25万円。1人1台限定となっている。
なお、「シン・エヴァンゲリオン劇場版」は、2020年6月27日に公開が予定されていたが、新型コロナウイルス感染症の影響を受けて、公開日を延期。現在、近日中に公開予定であることが発表されている。
FUJITSUロゴさえ消してこだわり抜いた意匠
エヴァンゲリオンは、1995年に、「新世紀エヴァンゲリオン」としてTV放送が開始。世界的な人気を誇るアニメーション作品だ。未曾有の大災害「セカンドインパクト」後の世界を舞台に、人型決戦兵器「エヴァンゲリオン」のパイロットとなった14歳の少年少女と、次々に襲来する謎の敵「使徒」との戦いを描いている。2007年からは、映画として、新シリーズ「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」がスタートし、これまでに3作が公開されている。
「LIFEBOOK UH90NERV」では、TV版や劇場版で描かれているエヴァンゲリオンの世界をもとに、細部にまでデザインにこだわり、独自の世界観が満載のノートPCとなっている。
なかでも、象徴的なデザインが、やはり天板と言えるだろう。天板には、「NERV」のロゴマークが入り、所有感を満足させる仕上がりとなっている。
天板に描かれた「NERV」とは、エヴァンゲリオンに登場する特務機関であり、兵器であるエヴァンゲリオンを保有。「サードインパクト」を防ぐために、人類を脅かす「使徒」を殲滅する役割を担う。
LIFEBOOK UH90NERVのデザインを担当した富士通デザイン ソリューション&プラットフォームデザイングループの山下慶太氏は、「特務機関ということもあり、標準モデルにはない落ち着いた黒を選定して塗装。そこに、赤いNERVのロゴマークを施した」とする。
PCを利用しているさいに、相手にロゴマークが見えるほか、PCを小脇に抱えて持ち運ぶさいにも、「NERV」のロゴが生えるデザインとなっている。
一方で、山下氏は、「目立つ部分だけでなく、目につかないところにもこだわった」とする。「目につかない」という点から注目しておきたい部分の1つが底面部だ。
型番や製造番号などが記された銘板シールとともに、「警告」、「高温」といったシールを貼付。これらの漢字には、一般的に「エヴァフォント」と呼ばれるエヴァンゲリオンで使用される「マティスEB」書体を使用。「これまでのFCCLのモノづくりの発想では、底面のラベルにわざわざ特別なフォントを使用して、新たなものを作り上げるということはなかった」(富士通クライアントコンピューティング プロダクトマネジメント本部チーフデザインプロデューサーの藤田博之氏)というように、これまでの同社の常識を破ったデザインだ。
このように、普段は見えないところにも、エヴァンゲリオンの世界観を表現しているのだ。
PCを開くと、そこにもエヴァンゲリオンの世界が広がる。
キートップのフォントには、エヴァンゲリオンの世界観に合わせたものを採用。「キーボードは苦労した部分の1つ。黒を基調とし、キートップの文字や側面を赤くした。ここでは、先に赤を塗装し、その上に黒を塗装して、文字の部分をくりぬくという手法を用いた。黒の上に赤を塗装すると、赤が暗くなるという課題を解決し、赤の発色性を実現した」(山下氏)という。ここでも、キートップの漢字や数字については、エヴァンゲリオンの作品で使用されているフォントを使っている。
また、タッチパッド部には、NERVの施設内に表示されるスクリーンのイメージをもとに、「NERV:1st Command Center PC」の文字が描かれている。FCCLが、タッチパッド部分にこうした細かいデザインを施したのは、エヴァンゲリオン特別仕様モデルがはじめてだ。
さらに、液晶ディスプレイ上部に設置されたカメラ部分にも、細かいデザインを施している。
「主人公である碇シンジが、エヴァンゲリオン初号機に搭乗したさいに、銃をかまえると、照準をあわせるグラフィックが登場する。ここにヒントを得たデザインになっている」という。
こうした細かい部分にまで施されたディティールグラフィックも、富士通デザインのデザイナーたちのこだわりだと言える。
じつは、エヴァンゲリオンの世界観を追求した結果、こんなことも起こっている。
液晶ディスプレイ下部には、通常モデルであれば「FUJITSU」のロゴが入っているが、そこには、ロゴの代わりに、「NERV ONLY」の赤い文字が入っている。そのデザインに象徴されるように、PC本体にはFUJITSUロゴがまったくはいっていないのだ。唯一、背面部の銘板シールに「FUJITSU CLIENT COMPUTING LIMITED」の文字が入るだけだ。
富士通デザインの山下氏は、「最初からFUJITSUロゴを入れることは考えずにデザインした。その考え方が最後まで採用された」とする。
一方、電源を入れると、随所に盛り込まれたエヴァンゲリオン特別仕様ならではの工夫を楽しむことができる。
BIOSロゴでは、「NERV ONLY」、「関係者以外使用禁止」の文字が表示される。SSDによる高速起動が特徴のUH90だが、ワクワクしながら短い起動時間を楽しむことができる。
そして、注目しておきたいのは、エヴァンゲリオン特別限定コンテンツとして用意された8種類の壁紙と3種類のスクリーンセーバーだ。8種類の壁紙は、NERVのロゴが使われたデザインなどが用意され、好きなものを選ぶことができる。
ちなみに、正式には発表されていないが、特別仕様モデルでは、8種類の壁紙以外にも、特別に2種類の隠し壁紙を用意しているという。エヴァンゲリオンファンならば、納得の壁紙と言えるものであり、購入者はそのあたりも楽しみにしてほしい。
3種類用意されたスクリーンセーバーは、この特別仕様モデルでは、「画面保護映像システム」と呼びばれる。これも、エヴァンゲリオンの世界観を意識して、あえて命名したものだ。
スクリーンセーバーでは、目の前にユーザーがいなくなったことを検知すると起動。「MAGI PATROLLING」と表示され、あたかもNERV本部に設置されているスーパーコンピュータ「MAGI」が、ユーザーが離席したさいのPCを監視し、保護してくれるような演出が行なわれる。画面上には、左から右に線が動き、PCの前に人がいないかどうかを、MAGIがセンシングしているような雰囲気が作られている。
そのほかにもNERVロゴが回転する立体的な表現を用いたり、ホログラム調にリンゴロゴが一瞬だけ浮かび上がったりといった工夫を施したものや、使徒襲来時にNERV本部のスクリーンに表示される画面を再現したものが、スクリーンセーバーとして用意されている。
これらのオリジナルスクリーンセーバーとともに注目しておきたい専用アプリの1つが、「主電源供給システム」である。これは、バッテリ残量表示アプリであり、バッテリ残量が少なくなると、NERV本部の壁面スクリーンのUIをイメージした画面に、残りの駆動時間を表示しながら、使徒襲来時の緊迫感を漂わせて、PCの「活動限界」を知らせてくれる。
「活動限界は、エヴァンゲリオンの世界観を感じられる重要な要素。これをアプリのなかで活かしたいと考えた。0.3秒ごとにアニメーションが動くなど、作品と同じような動きをする作り込みを行なった」(富士通デザイン ソリューション&プラットフォームデザイングループの三澤建人氏)という。
「主電源供給システム」が自動的に起動するのは、残量時間が1時間を切った場合と、30分を切った場合。残り5分になると、「活動限界」の文字も表示されることになる。通常利用時も、同アプリによって、残量時間を全画面表示したり、小さく常駐表示することも可能だ。
ノートPCの場合、バッテリ残量が少なくなると、困ることが多いが、特別仕様モデルの場合は、主電源供給システムを起動させるために、バッテリをギリギリまで使ってみたくなる。「最近増加している在宅勤務時であれば、すぐにACアダプタをつなげことができるので、バッテリが切れる直前まで使ってほしい」と、山下氏は笑う。これもエヴァンゲリオン特別仕様モデルならではのPCの新しい使い方だ。
もう1つ、ユニークな仕掛けが、ACアダプタのケーブルを抜いたさいに表示される「アンビリカルケーブル断線」という表示だ。これも、エヴァンゲリオンの作品のなかで使われる言葉の1つだ。再び、ACアダプタを接続すると「アンビリカルケーブル接続」と表示されることになる。
今回の特別仕様モデルでは、限定デザインのマウスと液晶クロスも付属している。ここにも、それぞれNERVのロゴが入っている。
「最初の段階から、マウスとクロスは付属させたいと考えていた。マウスは、デスクトップPC向けの富士通オリジナルマウスをベースに、色を変え、ロゴなどをデザインした。だが、液晶クロスは、標準添付をしたことがなく、販促品でも用意したことがなかった。そのため、ペンダーを探すところからはじめている。本体の量産工程のスケジュールにあわせるようにベンダーを探し、発注し、短期間で付属させることができた」(山下氏)という。
特別仕様モデルは、LIFEBOOK UH90をベースにしているだけに、性能面でも、充実した仕様となっている点も見逃せない。
CPUには、Core i7-8565Uを搭載。855gという「扇げる」ほどの軽量化を実現した13.3型液晶ノートPCでありながらも、約200kgfの天板全面加圧試験や、約76cmの垂直落下試験などをクリアした堅牢性を実現。24時間のロングライフバッテリにより、長時間利用も可能だ。
さらに、インターフェイスも通常モデルと同様に、給電および充電が可能なUSB 3.1 Type-Cのほか、HDMI出力端子や有線LANポートなどを搭載。キーボードも、指がフィットしやすい球面シリンドリカルキートップの採用とともに、指の力に応じてキーの重さを調整する「2段階押下圧キー」を採用。キーストロークは約1.5mm、キーピッチは約19mmと、打ちやすい環境を実現している。
そして、通常モデルでは、メモリが8GBだが、これを特別限定モデルでは、16GBに拡張。SSDも通常モデルでは512GBであるものを1TBに拡張している。
「上限に近いスペックとすることで、特務機関NERVをコンセプトとしたPCとして、ふさわしい仕様にした。価格設定も、同等スペックのWeb販売モデルに比べて、2~3万円差で収めることができた」(富士通クライアントコンピューティング コンシューマ事業本部マーケティング支援統括部セールスサポート部の那須久功部長)とする。
エヴァ特別仕様モデルの話に社内が興奮
今回のエヴァンゲリオン特別仕様モデルの商品化の発端は、エディオンのバイヤーからの強い働きかけだったという。
エディオンでは、各バイヤーが担当する分野において、コラボ商品の企画を提案することになっていたようだが、ノートPCによるコラボ商品に関しては、担当バイヤーから、FCCLのLIFEBOOK UH90で作り上げたいとの要望が出ていたという。
FCCLに、エディオンから最初に打診があったのは、2019年12月。社内では、2020年1月中旬から、実際にデザインの検討を開始した。じつは、エヴァンゲリオン特別仕様モデルの商品化に、FCCL社内はおおいに沸いた。
新川崎にあるFCCL本社は、2019年11月に移転したばかりであり、働き方改革のリアル実験場とも位置づけられ、オフィスの中央部には、まったく仕切りがない状態で会議ができるように、高さのある大きな机と高い椅子を配置している。
エヴァンゲリオン特別仕様モデルの会議もここで行なわれたが、行なわれている会議の内容が、エヴァンゲリオン特別仕様モデルであることがわかると、多くの社員が集まってくる状況になったという。
エンジニアやデザイナーのなかには、エヴァンゲリオンの熱狂的なファンもおり、エヴァならではの専門用語が飛び交い、ストーリーを知らない社員は会議に入りにくくなる場面もあったようだ。
先に触れたように、エディオンの担当バイヤーの要望によって、ベースとなるモデルは、最初からLIFEBOOK UH90に決まってはいたが、別のPCの担当者からは、自らが担当するPCでやってほしいという提案もあったという。
山下氏は、「本来ならば、デザインが完成したあとに、試作ができあがるが、初期のデザインスケットの段階で、各部門が勝手に試作を作ってきた。これまでにないほど、全員が主体的に動いていた」と笑う。
また、特別仕様モデルの場合、生産台数が限定されるとともに、手間がかかることが多いため、量産モデルの間に挟み込むことが敬遠される場合もある。
今回のエヴァンゲリオン特別仕様モデルも、細部にまでこだわったデザインを行なっているのに加えて、キーボードの生産を担当する海外拠点では、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で操業が一時停止したり、国内では、テレワークの拡大などによってPC需要が高まり、計画を上回る台数で操業していたりといった状況にあり、この時期には、手間がかかる特別仕様モデルの生産は避けたいというのが本音だったと言えるだろう。
だが、そのあたりの懸念は杞憂に終わり、特別仕様モデルの量産もスムーズに進んだという。
藤田氏も、「このスピードでものづくりが進むならば、標準モデルの新製品も、もっと早く完成させられるのではないか、と思うぐらいのスムーズさだった」とジョークと飛ばす。
2020年1月から開始したデザインは、3月末にはすべての作業が完了し、その後は、量産に向けた準備に移行したという。国内開発、国内生産というFCCLならでの体制を活かした事例とも言えるだろう。
FCCLでは、2018年に、川崎フロンターレのJ1リーグ優勝を記念した特別モデルを限定発売した経緯がある。じつは、今回のエヴァンゲリオン特別仕様モデルの商品化には、このときの経験が生きている。
優勝記念モデルでも、天板やキーボード、タッチパッド、電源ボタンなどに、川崎フロンターレのロゴを入れるなど、優勝記念モデル限定のデザインを施している。このときに、デザインがどこまでできるのか、生産においては、どこに時間がかるのかといったノウハウなどを蓄積していた。その経験が、今回のスムーズな商品化につながっている。
企画化からエヴァ特別仕様モデルが完成するまで
では、エヴァンゲリオン特別仕様モデルは、どんな観点から企画が進んでいったのだろうか。
山下氏は、その経緯を次のように話す。
「エヴァンゲリオンの魅力は、ロボットものの作品としてのカッコよさ、軍事組織やメカのカッコよさ、魅力のあるキャラクター、グラフィックデザインのカッコよさ、音楽のカッコよさ、そして、意味深な専門用語や発せられる名言といった6つの要素で構成される。
その一方で、人気を博しているエヴァグッズは、ロボットの造形を楽しむもの、軍事物として作品の世界観を再現したもの、エヴァならではのグラフィックスセンスを採用して商品化したもの、キャラクターものとして楽しむといった4つに大別できる。
その観点から考えると、ノートPCをエヴァンゲリオン特別仕様として商品化する場合には、作品の世界観を忠実に再現する軍事物、あるいは、グラフィックスセンスを採用したグッズのいずれかだと判断し、そこに、エヴァンゲリオンの6つの魅力をかけあわせることを考えた」。
富士通デザインでは、この考え方をもとに、まずは、「松」、「竹」、「梅」の3つの商品企画をまとめた。
結果から言うと、商品化されたエヴァンゲリオン特別仕様モデルは、「松」をベースにしている。竹は、ソフトウェアなどの搭載や、細かいディテールへのこだわりをなくしたもの、梅は、エヴァンゲリオンならではのグラフィックスセンスを反映し、初号機の紫や緑といった色を配したものだったという。
「松」と「竹」で目指したのは、軍事物として作品の世界観を再現したものだ。特務機関「NERV」をイメージし、ロボットに用いられる初号機などの言葉、あるいは作品に登場するキャラクターのイラストを施すといったことは行なわなかった。
ただ、軍事物として世界観を目指したものの、NERVのなかで使用されるPCとしてはデザインされていないという点も見逃せない。その点は、エヴァンゲリオンの世界観を崩さないこだわりとも言える部分だ。
「当初は、NERVのなかで使われているような世界観を目指したが、NERVで使用されるPCということを追求していった場合、操作性や視認性などが最優先されるのは明らかだ。キーボード部分1つをとっても、黒をベースに赤いキートップの文字よりは、視認性が高いデザインが採用されることになる。当然、特務機関が天板に大々的にロゴマークを入れることも考えられない。つまり、官給品ということにはならない。あくまでもNERV風デザインというスタンスにしている」(山下氏)。
もし、官給品を前提としたデザインにすれば、それは、かなりシンプルになるだろう。
その点では、エヴァンゲリオン特別仕様モデルとして、ユーザーが期待するワクワク感や、量販店店頭に並んだ時のインパクトなども考慮してデザインされたものが、今回の商品だと言える。エヴァンゲリオン特別仕様モデルは、こうした作品の世界観を大切にした上で、デザインが行なわれたことになる。
そして、「主電源供給システム」で表示される活動限界についても、コックピット内のデザインではなく、NERVの施設内のスクリーンに映し出されるデザインを採用したのも同様の考え方が背景にある。コックピット内のデザインが、PCの画面上に表示されるという、作品の世界観から見た違和感を払拭するとともに、ノートPCがNERV本部とリンクするイメージを生み出すために採用したUIデザインなのである。
富士通デザインの山下氏は、エヴァンゲリオン特別仕様モデルを手にしながら、「100点に近い出来栄えになった」と自信をみせる。「初期のデザイン段階で提示したものの、ほぼすべてを実現することができた。富士通デザインの立場から、FCCLのカスタマイズ力の強さを改めて認識した」とも語る。
実際、発売前ではあるが、SNSなどでは、デザイン性の高さに対する評価が相次いでいる。
「あえてやり残したことをあげれば、操作音や音楽などの取り込み。短期間の開発であったことからそこまでできなかった点が悔しい。開発期間の問題や、権利の問題をクリアするための時間があれば、そうしたことにも挑戦してみたかった」とする。
一方、FCCLの那須部長は、今回の成果をもとに、「もし、今後もコラボモデルや特別仕様モデルの提案があれば、前向きに受けていきたいと考えている」とする。そして、「FCCLには、こうしたニーズに対応できる体制が整っている。エヴァンゲリオン特別仕様モデルは、そうした取り組みを広げるきっかけになればいいと考えている」と語る。
FCCLが持つ、柔軟性を活かせる国内開発、国内生産の特徴を活用することで、日本のユーザーのニーズに応えるコラボモデルや特別仕様モデルが、これから続々と登場することにも期待したい。