山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
自炊で使える「裁断機」4製品を比較する
~折りたたみ収納が可能な新定番「200DX」も徹底チェック
(2012/12/6 00:00)
本を裁断、スキャンしてスマホやタブレットで読む、いわゆる「自炊」のブームによって脚光を浴びた機器といえば、1つはドキュメントスキャナ、もう1つは裁断機だろう。元々は他の用途を想定して設計された製品でありながら、自炊に適しているという口評判が立って爆発的に売れたという点で、この2つには共通項がある。
実際、ドキュメントスキャナについては、ここ1年ほどで「本のスキャンに使える」ことをメーカーがカタログなどで公式に明言する製品が現れつつあり、裁断機についてはキャッチコピーだけにとどまらず、既存製品の設計を改め、自炊に最適化した製品が登場しつつある。
今回は、そうした製品の1つであり、11月に発売されたばかりのダーレ・ジェーピーエヌ(以下ダーレ)の新製品「200DX」と、これまで幅広く利用されていた普及タイプの3製品、計4種類の裁断機をまとめてチェックしていこう。
カジュアルユースに向いたカール事務器「DC-210N」
トップバッターは、カール事務器の「ディスクカッターDC-210N」。ディスクカッターという製品名が示すように、裁断用の台に位置合わせの定規とカッターが合体した極めてオーソドックスな製品である。価格は18,900円とそこそこ高額だが、実売では1万円を切っている店舗もあり、入門用の製品として人気が高い。
見た目ではどのようにカットするのか分かりにくいのだが、ホルダーと呼ばれる部品をレールに沿って往復させ、ホルダー下部に取り付けられた丸刃を用いて原稿をカットする構造になっている。「定規に沿ってカッターを往復させる」のを効率化した製品だと考えればよい。少ない枚数であれば1往復もせずにカットが完了する。多くの枚数を挟んでいれば3往復くらいはさせる必要がある。かなり強固に原稿を挟み込むこともあり、裁断面が歪みにくいのは利点だ。
裁断枚数はPPC用紙換算で40枚ということで、例えば240ページ120枚の文庫本であれば、あらかじめカッターで3つのブロックに切り離し、それぞれを本製品で裁断するという手順になる。本1冊を一発で裁断できる後述の垂直裁断式の製品に比べて作業の手間はかかるが、外から見て刃が露出しておらず、構造からして刃の部分に指を入れるのも難しいので、子供のいる家庭などでは、垂直裁断式の製品に比べて安心だろう。
注意したいのは、筐体が平坦なのでコンパクトなように見えるが、実は設置面積自体は垂直裁断式の製品とそう変わらないことだ。本製品の360×490mmに比べて、後述の「PK-513L」は402×400mm、200DXは340×400mmということで、設置面積自体にあまりメリットはない。「薄型軽量で片付けやすい」というのが説明として的確だろう。
といったわけで、これから自炊する蔵書が何百冊もある人にはおすすめしにくいが、利用頻度がそれほど高くなくまずは入門用の製品を探している人や、工作など自炊以外の用途にも利用する人、あるいは価格や片づけやすさ優先で選びたい人におすすめの1台と言える。品質も高く、また後述する製品群と違って見た目に威圧感がないのも、おすすめしやすいポイントと言えるだろう。
重くてゴツいが安価、厚みのある原稿にも向く「大型ペーパーカッター」
次に紹介するのは、通称「大型ペーパーカッター」、「大型裁断機」などと呼ばれる製品だ。メーカー不詳の製品だが、同型とみられる品がプラタやオウルテック、ノバックなど複数の販売元を経由して流通しており、多くの店舗では実売価格が1万円を切っていることから、ネットで見かける機会はそこそこ多い。
実物を見てまず驚かされるのが、写真から想像するよりはるかに巨大で、しかも重いことだ。設置面積の広さは写真をご覧いただくとして、重量は17kgと、PK-513Lの12.3kg、200DXの9.8kgとはかなりの差があり、一度設置したら動かすのは困難だ。少なくとも使う時だけ取り出す製品ではない。またレバーが手前に突出していることもあって、威圧感もかなりのものだ。
もっとも、本製品で見るべきなのは、最大37mm(取扱説明書では40mm)という驚異的な最大裁断厚だ。週刊少年漫画誌を分冊せずにセットでき、しかも比較的すんなりと切れてしまう。ただし垂直裁断式ではなく遮断機式なので、レバーを下ろす際にそこそこの力が必要なほか、注意していないと裁断面が斜めになったり、端だけが切れていないことが起こりうる。PK-513Lや200DXであれば、週刊少年漫画誌は分冊しないとセットできない反面、本製品と同等以下の力で比較的まっすぐ裁断でき、端だけがカットされずに残ることもまずないので、一長一短である。
原稿のセットは他製品に比べてやや面倒だ。正面のハンドルを回してレバーを上げ、原稿を入れて再度ハンドルを回して固定し、あわせて側面をガイド部で押さえて万力で固定する。どちらかというと業務用の製品に近い構造だ。しっかり固定できるのはよいことだが、PK-513Lや200DXに比べると手間がかかることは否めない。同じサイズの原稿を連続カットする分にはガイドを毎回移動させなくて済むのだが、そうでなければいつしかガイド部で側面から押さえることをせず、ハンドルだけで固定するようになってしまう。
実売価格1万円を切っており、同じ価格帯で探すのであればカジュアルユースに向いたDC-210Nよりも自炊向けではあるのだが、刃が常時出たままなので子供のいる家庭ではやや危険なこと、また後述する2製品に比べると溶接などの造りが粗雑で、さらに裁断面に機械油が付着しがちだったりと、デメリットも多い。価格相応といえばその通りであり、これらデメリットを理解した上で使いこなせる人向けの製品ということになるだろう。
垂直裁断式のスタンダードモデル、プラス「PK-513L」
プラスの「PK-513L」は、レバーを下げることで刃が上から下に垂直に下りて原稿をカットする、いわゆる垂直裁断式の裁断機だ。自炊用のスタンダードとして人気が高く、刃のメンテナンス性を高めた自炊用モデルPK-513LNとともに、ハウツー記事で紹介される機会が多い製品である。カットできる紙の厚みは最大15mmとされている。
裁断までの手順はここまで紹介した2製品に比べるとシンプルで、ガイドに沿って原稿をセットしたのち、ロックを外してハンドルを押し下げるだけ。一見すると原稿を固定する機構がないように思えるが、ハンドルを押し下げた時点でまず原稿が上から押さえ込まれ、その状態で刃が下まで降りるという、固定と裁断がワンアクションで行なえる仕組みになっている。それゆえ、原稿を固定する手間がかからないので、大量の原稿を取り替えながら裁断する場合でも、手間は最小限で済む。
筐体に赤色LEDが内蔵されており、カットラインを光で表示できるのも特徴だ。厚みのある原稿ほど、どの位置でカットされるのか見分けにくく、いざカットする際に見当違いの位置に刃を入れてしまいがちだが、本製品ではLEDの光によるカットラインが原稿の上の面に表示されるので、かなり正確に位置を合わせることができる。
実売価格は2万円台後半で、先の2製品に比べると値は張るが、裁断までの操作が簡単なのは大きな強みであり、いったんこちらの製品を使ってしまうと、さきの2製品は面倒に感じられるほどだ。普段刃が露出しないなど安全性にも配慮されており、家庭での利用にも支障はない。ネックとなるのは、ハンドルが上に上げた状態でしか固定できないため、未使用時でも435mmの高さを占有してしまうことで、それを改良したのが次に紹介するダーレの200DXということになる。
折りたたみ収納が可能なダーレ「200DX」
最後に紹介するのは、ダーレの「スタックカッター デューロデックス200DX」。先に紹介したPK-513Lの発展型と言っていい製品だ。外観が酷似しているのはOEM元が同じためであり、製造元がユーザーの声を取り入れて再設計した、自炊向けの裁断機ということになる。先行して販売されていた「180DX」の裁断枚数をさらにパワーアップさせたのが、この200DXである。
裁断の機構そのものはPK-513Lと大きく変わるところはなく、原稿をセットしてLEDの光源で位置合わせを行ない、ロックを解除してハンドルを押し下げることでカットされるという流れになる。ロックレバーの位置がPK-513Lと若干違うことを除けば、使い方はなんら変わらない。固定と裁断がワンアクションでできる機構も同様だ。
PK-513Lと比較した場合の本製品の大きな違いは2つ。まず1つは裁断できる紙の厚みで、PK-513Lが15mmまでだったのに対して、本製品は18mmまで対応する。3mmというとほんのわずかに思えるが、本、特にコミックや単行本において「もうあと何mmか薄ければ分冊しなくてもカットできるのに……」というのが軒並みカットできてしまうのは大きい。市販されている本の中で、15mm以上18mm未満という本はそこそこの数がある。それらを設計に反映させているという点で、自炊用を標榜するだけのことはある。
もう1つは、PK-513Lでは上げたままでしか固定できなかったハンドル部を、下げた状態でロックでき、かつ本体を立てて収納できることだ。家庭で裁断機を利用する場合は設置場所がネックになることが多いが、レバーを下げて固定したまま立てられる本製品であれば、使わない時は棚に収めたり、壁際に寄せて置くことができる。レバーの固定時に添え木を抜くひと手間がかかるため、ワンカットするたびに取り出したり片づけたりするのはあまり効率的ではないが、例えば平日はずっと収納しておき、土日のみ引っ張りだして集中的に作業するといった利用スタイルにはぴったりだ。
カットした原稿の排出面に当たる背面側はまっすぐに切り落とされているため、PK-513Lに比べて設置面積もコンパクトだ。また脚部にはゴム足ではなくプラスチックのパーツが用いられており、机上への設置時に形がつきにくくなっているとのこと。筆者のようにフローリングの床に置いて使っている場合は、PK-513Lに比べて多少すべりやすいのだが、机上で使っている人にはメリットは大きいはずだ。
出荷が始まったばかりの製品ということもあり、実売価格は37,800円とそこそこ値が張るのが唯一のネックだが、新規に購入するのであればPK-513LやLNよりもこちらを選んだ方が、長い目で見てメリットは大きいだろう。国産ということで品質も高く、研磨などのメンテナンスパックが用意されているのも、裁断枚数が多い自炊に向いた製品としてポイントが高い。
総評
といったわけで、従来モデル3製品+200DXの計4製品を紹介したが、PK-513Lをこれまで積極的に推薦してきた筆者としては、これを超える200DXという製品が出てきたことに感動すら覚える。PK-513Lが抱えていた「置き場所が邪魔」、「裁断可能枚数がもうちょっと増えるとよい」といった問題点に対応してきている点はすばらしい。もちろん従来モデルも機能や価格などそれぞれにメリットがあり、ユーザーによっては別の製品がよいという場合もあるだろうが、これまでより一層選択の幅が広がったのは、ユーザーにとってはありがたいことだ。
片手持ちの読書に適した7型クラスのタブレットが増え、さらにドキュメントスキャナの定番モデルであるScanSnapの新製品「iX500」も投入されるなど、自炊周りのマーケットが再度活性化する兆しもある。今回紹介した200DXは、将来的には同じOEM元から他社へ供給される可能性もあると思われ、自炊のスタンダードモデルとなっていく可能性は大きい。自炊ユースで裁断機を探す人は、チェックしておいたほうがよさそうだ。