山田祥平のRe:config.sys

スーツケースに入ればなんでもモバイル

スーツケースに収まったU2417H

 移動しながら使う「線のモバイル」ではなく、出先で落ち着く「点のモバイル」を想定したときに、移動先ではできるだけ本拠地と同等の環境を得られるのが望ましい。そのためには、非モバイルデバイスの可搬性も徹底的に追求する。今回は、24型ディスプレイを持ち込んだ今回のバルセロナ出張の顛末をお届けしよう。

24型ディスプレイをホテルの部屋に持ち込む

 MWC取材でスペインのバルセロナへ行って来た。その出張前に、デルの発表会で24型の狭額縁ディスプレイ「U2417H」が発売されることを知った。展示された実機を見てみると実に魅力的だ。なにしろディスプレイの4辺、左右と上の枠が5.3mm、下は8.3mmと、ほとんど目立たない。その出で立ちは24型の板そのものだ。パネル表面はノングレアで照明の映り込みがほとんど無いというのもうれしい。

 何よりも魅力を感じたのは、その重量だ。スタンドを含まない場合、3.18kgしかない。しかも本体内に電源が内蔵されている。これならスーツケースに入れて強引に持ち出せる。理想のモバイルディスプレイに近いものがある。ぼくが使っている航空会社では、エコノミークラスの無料手荷物は1個23kgに制限されているのだが、毎回の出張での重量は20kgを下回っている。いつもの装備と仮定して、そこに3.18kgの追加があったとしてもなんとかなるだろうと考えた。

 そもそも、出張になぜ24型ディスプレイなのか。3.18kgという重量増で得られる環境としては、かなりの満足度が得られることが分かっているからだ。出張時のマルチディスプレイ環境は、継続的にいろいろと試してみている。10型クラスのモバイルディスプレイを2台持参していたこともあるし、最近は、数台のPCやタブレットを1つのキーボード/ポインティングデバイスで操作し、クリップボードを共有したり、アプリを使ってタブレットを拡張ディスプレイとして利用するといった方法を実践していた。だが、24型のディスプレイが1台あれば、こうした面倒くさいことを考えなくても、拡張ディスプレイとしてPCにケーブル接続するだけで、カンタンに広大な作業空間が得られるのだ。

 ざっくり言って、24型というサイズは、12型モバイルノートPCの液晶ディスプレイに対して4倍の作業領域になる。つまり、ノートPC 4台分のスペースだ。それがどれほどの快適さを提供するかは想像に難くない。アプリケーションも対応が必要となるが、Windows 10でのマルチディスプレイ環境は、本体と拡張ディスプレイ側でスケーリング値を別にできるので便利だ。

 ただ1つ残念なのは、この製品のアスペクト比が16:9であるところだ。、16:10ならもっと良いのだが、この原稿を書いている時点で、Amazon.co.jpでの販売価格が29,976円であることを考えると、仕方がないことなのだろう。さらに、背面の膨らみがもう少し薄かったらという点もある。

 製品にはスタンドが付属する。これが優れもので、高さを調節できるのはもちろん、角度調節や回転もできる。取り付けも工具不要でカンタンだ。ただ、機能が優れている分、重くかさばる。しかも、パネル本体と同じくらいの重量があるため、今回は持参を断念し、パネル部だけを持参した。手元にあった大型タブレット用のスタンドなどをいろいろ試してみたが、背面の膨らみなどの関係で、パネルのみを自立させるのは中々難しいことは分かっていたが、「設置場所の奥に壁などがあればなんとかなるだろう」という判断でそのまま持っていくことにした。ただ、自宅でも使うような場合には、このスタンドの秀逸な出来映えを高く評価したいと思う。

 さて、バルセロナに確保した安宿で、室内の家具などを工夫して設置したときの様子がこれだ。

 24型のパネルは、あっさりとスーツケースに入ってしまう。100均で調達した発泡スチロールの板でパネル表面と裏側を保護し、周りに衣服類を詰めればいい。最近は空港のセキュリティが厳しいので、スーツケースにはこれ以外に2台のPCを入れて仕舞っているが、それでも今回のチェックイン時、スーツケースの重量は22.8kgだった。制限ギリギリだが、観光旅行と違い、戻りはおみやげ満載ということがないので問題ない。

 パネル以外に必要なのは、電源ケーブルとPCとの接続に使うDisplayPortまたはHDMIケーブルだ。接続ケーブルが付属品として添付されているのも親切だ。

 今回の出張期間は9泊11日だったが、このディスプレイのおかげで、ホテルの部屋での作業は、実に効率的なものになった。このくらい長い出張をノートPCだけで乗り換えるのは厳しい。とはいえ、会期中あまりにも慌ただしく、ホテルではほぼ寝るだけで、部屋でじっくり原稿を書いている時間がほとんど無かったというのは内緒だ。

弱い電波は強くすればいい

 一方、インターネット環境はどうだったか。今どきのホテルはほとんどの場合Wi-Fiが完備されている。今回宿泊したホテルも同様だ。昨年と同じ宿を確保したので、そのことは分かっていた。ただ、与えられる部屋によっては電波が弱くて困る場合もある。

 そんなときに頼りになるのが「無線LAN中継器」だ。今回は、発売されたばかりのエレコム「WTC-1167HWH」を持参した。出張から戻ってきたら、さらに高速版の「WTC-733HWH2」も発売されていた。コンセントに直接挿せるタイプのコンパクトな筐体で、それを宿のWi-Fiに接続し、電波を中継するリピーターとして機能するデバイスだ。一旦接続すると、自動的にSSIDが接続先のものに切り替わり、宿のWi-Fiアクセスポイントが部屋の中にあるかのように振る舞う。

 今回の部屋は、Wi-Fiの電波環境がそれなりに強かったので、このデバイスの恩恵を得ることはあまりできなかったが、電波が弱くて仕方がないといった環境では、心強い味方になるはずだ。当たり前だが、あまり持ち運びは考慮されていないので、コンセントに差し込むプラグ部分が出っ張ったままで、収納時に邪魔に感じるかもしれない。これが格納できるようになっていれば、もっと良かったと思う。

 自宅等で使う場合にも便利な無線LAN中継器だが、欲をいえば、出張先のホテルではWi-FiにWAN接続し、自分専用の独立した無線アクセスポイントとしてLANを構築できるルータ機能があればよかったと思う。そうすれば、持ち込んだデバイスそれぞれで宿のWi-Fiへの接続を設定しなくても、行った先、行った先で、このデバイスだけをWi-Fi接続すれば、ぶら下がるデバイスはいつものWi-Fiとして独立したLANを構成できるからだ。LANが独立していることでセキュリティ面でも安心できるし、同一LAN内を要求するユーティリティソフトウェアなどを使う場合にも便利だ。

現地での線のモビリティ確保

 最後に、今回のモバイル通信事情について書いておこう。スペインの各キャリアが、プリペイドサービスにおけるLTE通信を解禁したのは2015年のことだ。前回のMWCではまだ不完全だったため、今年は以前のSIMを維持せず、現地で調達することにした。別途ドイツテレコムのSIMを維持しているので、購入時まではそのローミングでしのぎ、到着の翌日、SIMを購入するという段取りだ。

 今回は、下記の3事業者のSIMを入手してみた。全て通話可能なもので、チャージがないと基本的に半年で失効する。結論としては「.Tuenti」をなんらかの方法で維持するのが楽な印象だが、もうすぐEU圏でのローミング時における追加チャージ禁止が実施されるので、訪欧時にこうして時間と手間をかけて現地SIMを購入するのも今回が最後かな、とも思う。

 ちなみに今回入手したSIMは全て、「iPhone 6s Plus」とHUAWEIの「Mate S(グローバル版)」に装着したところ、APNの設定などを何もしなくても通信ができた。なお、スペインのLTEは、B3(1,800MHz)/B7(2,600MHz)/B20(800MHz)が使われており、この3バンドを全てサポートしている端末がほとんどないのが残念だ。

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Movistar

 Movistarは、シェアナンバーワンのスペインにおけるドコモ的キャリアで、ダウンタウンのカタロニア広場に面したキャリアショップで購入した。SIM代金は無料。SIM発行直後は残高がゼロなので、ショップに設置されたATMで、現金を使ってチャージする必要がある。この時クレジットカードは使えない。

 13ユーロで1GB、追加75MBごとに1ユーロのタリフを申し込むつもりが、店員が渡した紙幣の10ユーロと5ユーロを分けてチャージしたせいで、13ユーロプランを認識し損なって、7ユーロプランになってしまった。その結果、250MB/2ユーロで毎日更新状態となる。

 加入者用のWebサイトは、不完全ながらインターフェイスを英語に変更できるが、如何せんチャージに日本のクレジットカードが使えないので、使い切りのキャリアとして考えるしかない。

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.Tuenti

 .Tuentiは、Movistarのセカンドブランド。本当にMovistarと同等かどうかは、使ってみないと分からない、というのは日本のドコモ網を使ったMVNOと同様だと考えて良いだろう。ただ、実感としては遜色がなかったと思う。

 今回は、前出のMovistarのショップで同時購入した。SIM入手時には30ユーロ必要だが、そのまま全額がチャージされる。

 契約したタリフは1GB/月で7ユーロのものだ。したがって、開通時には23ユーロが残高となっている。そして、その1GBを使い切ったら1GB/8ユーロで追加できる。あと1ユーロ追加チャージすれば3GB分の24ユーロなので、4GBが31ユーロと考えて良さそうだ。

 ちなみに購入時、店員は1GBを使い切ったら買い直すしかないという説明をしたが、これは誤りだ。そのMovistarのキャリアショップのスタッフはレベルが低かったが、滞在中、別の人に付き合って購入したときに対応していたスタッフはきちんと説明していたので、こればかりは人によるといったところだろうか。

 .TtuentiはWebサイトが秀逸だ。プラン変更などの手続きが英語で完結できる。何から何までシンプルかつ明解で、これは高く評価したい。日本のクレジットカードが使えるというのもポイントが高い。

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Vodafone

 Vodafoneは、Movistarの西側の通りを少し南に歩いたキャリアショップで購入。Vodafone yuというサービスが提供されている。通常は20ユーロで2GBのプランのところ、今回はキャンペーンで4GBというプランが用意されていた。SIM代は無料で、その場で支払う20ユーロがそのままタリフに充当される。過去の経験では、Webで日本のクレジットカードを使ってチャージができた。

 3つのサービスを使ってみて、全体の安定感としてはMovistar、そして.Tuentiもほぼ同等だった。Vodafoneも同様で、何のトラブルもなく、混雑するMWCの会場でも、ビクともせず快適に使えた。ただ、郊外におけるLTE接続率という点では、Vodafoneが比較的安定していた印象がある。

 いずれにしても、海外におけるモバイル通信は、キャリア側が使うバンド、端末の対応バンドが合致する必要がある。ただSIMロックフリー端末に現地SIMを装着したからといって、安定した通信ができるわけではない。無線機なのだから当たり前だ。だからこそ、キャリアも端末ベンダーも使用バンドについて明確にしておいてほしい。近年は、幾分まともになってきたように思うが、xxxxGHz帯といった表現ではなく、FD-LTE Band nといった表現で、無線機のスペックとして明示して欲しいものだ。

(山田 祥平)