山田祥平のRe:config.sys

なんでもかんでもモバイル

 スペイン・バルセロナで開催されたMWC 2016が閉幕した。そこで見たものは事前にインターネットで流通していた噂レベルの情報通りでもあったし、ちょっとした驚きもあった。でも、良くも悪くもモバイルでないものはこの世に存在しないのと同義ということを再確認した展示会でもあった。

まさかのSIMスロットなしタブレットがHuaweiから

 開幕前日の日曜日、今、もっとも勢いがあるとされているモバイルベンダーであるHuaweiがプレスイベントを開催し、その新製品として、「Matebook」を発表した。この製品は12型液晶を持つ640gのCore m搭載タブレットで、フォリオタイプのキーボードと合体させるタイプの2in1 PCだ。AndroidでもなくChrome OSでもなく、Windows 10搭載の歴としたPCだ。

 プレスイベントで発表された製品はそれだけだった。Huaweiは年初のCESでスマートフォンの「Mate 8」やタブレットの「Media Pad M2 10.1」を発表したばかりとは言え、これには驚いた。展示会のキャラを配慮すれば、発表するタイミングは、どう考えても逆だが、実際そうだったのだ。

 しかも、MatebookにはSIMスロットがない。つまり、モバイルネットワークには直接繋がらない。それをあえて唯一の製品としてMWCで発表したHuaweiだが、その背景にはいったいどんな思惑があるのだろうか。

 これまで同社とはあまり縁のなかったIntelやMicrosoftとのパートナーシップは、Huaweiという企業の将来を占う上でとても重要な意味を持つことになるかもしれない。発表会のステージには、IntelもMicrosoftもゲストとして登壇した。IntelとMicrosoftの組み合わせを実現するには、今のところWindows PCしかないわけで、うがった見方をすれば、両社との絆をHuaweiが美麗に演出したという考え方もできる。

HPからWindows 10 Mobile搭載スマートフォン

 一方、その日曜日の夜には、HPがWindows 10 Mobile搭載のスマートフォンとして、6型の「Elite x3」を発表した。「VAIO Phone Biz」に続き、まさに真打ち登場といったところだろうか。

 発売はまだずいぶん先の話になるが、日本での発売時には、KDDIが企業向けに扱うことも決定しているという。KDDIは、会期中に発表されたパナソニックのWindows 10 Mobile搭載ハンドセット「FZ-F1」にもコミットしていて、この春から夏にかけては、ずいぶんアグレッシブな活動を見せてくれそうだ。

 HPがWindows 10 Mobileスマートフォンを発表したことで、企業向けのスマートフォン事情は一変するだろう。そして、この巨人がWindows 10 Mobileにコミットしたことで、Microsoftはもう後戻りできなくなる。

 関係者の話を聞くと、同製品のVoLTEのコードなどは、Microsoftではなく、HPが書いたといった情報もあったりする。信憑性はともかく、このOSを一人前のものにするために、Microsoftの尻を叩き、それでMicrosoftが動かなければ自前でやるという力業で、HPが今は弱小勢力であるWindows 10 Mobileをスターダムに押し上げる。

 デバイスを提供するのは青いHPことHP Inc.(HPI)だが、当然、緑のHPことHewlett Packard Enterprise(HPE)も強力な支援をすることになるだろう。日本においても日本HPと日本ヒューレット・パッカードのタッグが、これからどのように機能していくことになるのかを知る絶好のショーケースにもなるんじゃないだろうか。

5Gに向けてのせめぎあい

 デバイス周辺の話題はさておき、今年(2016年)のMWCの重要なテーマに5Gがある。昨年(2015年)、一昨年辺りからの重要なテーマではあるが、今年はそれがさらにクローズアップされている。

 5Gの標準化は2017年から2018年へと段階的に進められるそうだが、そこには韓国の平昌オリンピックと、日本の東京オリンピックの開催がなんらかのバイアスとして機能することになりそうだ。Samsungの思惑と、ドコモの思惑というスパイスもあり、もうここまでくると、水面下でいったいどのような交渉や話し合いがもたれているのか想像が付かない。

 ただ、5Gは、まったく新しいテクノロジが突然変異のようにして出現するものではない。現行のLTEの技術のいわば進化形だ。だから、今、4Gの世界におけるスタープレーヤーは、そのまま5Gの世界でのスターとして君臨できるはずとされている。別の言い方をすると、新参者が躍り出てきて主役になるのは難しいとも言える。

 モバイルの世界におけるIntelやMirosoftは、連綿と通信の世界を築いてきたインフラベンダーやキャリアといった巨人たちに比べれば、新参者に近い存在だ。彼らが5Gの世界での存在感を確立できるかどうかは、今のタイミングがギリギリだと言えるだろう。今回は、ほとんど動きがなかったが、おそらくDellやLenovoも水面下でいろいろな活動を行なっているはずだ。

 そういう状況を俯瞰すると、IntelとMicrosoftのHuaweiとのパートナーシップや、HPの新端末、日本のパナソニックやKDDIの動きがなんとなく繋がっていく。

 PCの世界での巨人たちが裸の王様にならずにビジネスを進めていくことができるかどうか。今年のMWCのスローガンは「Mobile is Everything」。まさにその通りで、あらゆるものがモバイルの世界に収束していこうとしている。

(山田 祥平)