山田祥平のRe:config.sys

モバイル以上、デスクトップ未満

 長期の出張では、宿泊するホテルなどでの仕事環境をいかに整えるかがテーマとなる。それもまたモバイルだ。日常のデスクトップ環境との相似関係をいかに小さなものにするか。今回は、サンフランシスコ7泊9日のために準備した環境を紹介したい。

点のモバイルでは大きなディスプレイが欲しい

 Microsoftのカンファレンス「Build 2016」のために米サンフランシスコに来ている。ちょうど春休みということもあって航空機運賃が異様に高かったが、3日早く出発すればそこそこの価格で確保できるようなので、あえて早くに現地入りすることにした。サンフランシスコのホテル代は高騰の一途をたどっていて、こんな街でカンファレンスができないようにMicrosoftやApple、Intelが会場としてよく使う施設のMoscone Centerを爆破しようかという物騒な冗談が出るくらいだ。つまり、早着した方がトータルの金額は安くなるという算段だ。

 2月のMWCの時はDellから新しく発売された24型ディスプレイ「U2417H」を持ち込んだが(記事へのリンク)、今回はほぼ同時期に発売されたLGの24型ディスプレイ「24MP88HV-S」を試してみた。

 ベゼル幅2.5mmのフルHDディスプレイで画面のみの重量は2.9kgだ。スタンドはアーチ型のシンプルなもので高さ調整もできなければ、首振りやピボットもできない。できるのはチルトだけだ。その代りに重量は300gに抑えられている。本体と合わせて3.2kgとなる。かなり軽い。ただし、電源アダプタが外付けになっている。コンパクトなものだがちょっとめんどうくさい。いずれにしても両セットでスーツケースに問題なく収納できてしまう気軽さがある。

 ある程度長い出張には、Bluetoothスピーカーを携行するのだが、このディスプレイはアンプとスピーカーを内蔵していてHDMI経由のサウンドを再生できるのでその必要がない。とは言え音質には過度な期待をしてはならない。ちょっとおもしろいのは、MaxxAudioをディスプレイ内部に実装してあって、デフォルトでオンになっているので、それなりの補正をした再生音を出せるようになることだ。それにしたってまあ我慢ができるという程度ではあるのだが、ないよりあった方が数段ましだ。

 入力は3系統で、HDMI×2系統と、ミニD-Sub15ピンだ。DisplayPortがないのが惜しいが、この先、USB Type-Cに置き換わっていくことを考えると、現時点では問題ないし、当面はこのままの方が使いやすい。

 画面とスタンドは画面側にネックをネジ2本で取り付け、それをスタンドに装着して合体させる。つまり、ネックの取り付けにはドライバーが必要だ。簡単な作業だがちょっとめんどうくさい。ベゼルが狭いため、入力切替やボリューム操作などのOSD操作スイッチが画面底部に位置し、スタンドなしに強引に自律させてしまうとその操作ができなくなってしまうのが悩ましいところだ。

Skylake NUCの処理能力

 今回は、Intelの「NUC6i5SYK」をデビューさせた。Core i5-6250U内蔵のキットで、前世代のNUCからの変更点としてはHDMI端子がフルサイズになったところや、UHS-I対応SDXCスロットが装備された点などがある。これだけでもかなり使いやすくなっている。相変わらず電源は外付けで19V/65Wのコンパクトなものが付属する。プラグがレッツノートのものと同じなので、16V/44.8Wのものを装着したところ普通に稼働し、通常使用では問題なさそうだ。もちろん自己責任だが、種類の異なる電源アダプタは何かとやっかいなので、これはちょっとうれしい誤算だった。

 このNUCに、16GB(8GB×2)のDDR4メモリと、256GBのM.2 SSDを取り付けて、Windows 10をインストールした。M.2 SSDは、NVNeがトレンドだが、まだコストパフォーマンスが良くないので、半額近くで入手できる一般的なSATA SSDを選択した。

 驚いたことにWindows 10のNovember Updateをクリーンインストールしたところ、Wi-FiはもちろんGigabit Ethernet、サウンドなど、インボックスドライバが何もインストールされない。最初は初期不良かと思ったが、INFファイルと各種ドライバをダウンロードして適用したら正常に稼働した。最新のハードウェアとは言え、こういうめんどうくささもある。スリムでコンパクトな筐体で魅力的な製品だが、この辺り、ちょっとハードルが高いかもしれない。でも、動き始めると、このコンパクトな筐体にパワフルなPCが格納されていることに感動してしまう。

 もちろん、キーボードやマウスも別途用意しなければならない。注意が必要だとすれば、Bluetooth接続のキーボードを使う場合、何らかの原因でそのペアリングが解除されてしまったケースだ。現状では、Windowsのサインイン時、タッチ非対応デバイスではスクリーンキーボードが使えない。マウスだけでのログオンができないのだ。そうなってはまさに手も足も出なくなってしまう。出張先でこの状況は最悪だ。万が一のために無線アダプタやUSBで直結できるキーボードデバイスを用意しておいた方が良い。

Surfaceとの同時多発利用となんちゃってマルチディスプレイ

 日常の仕事環境は、デスクトップPCに3台の1,600×1,200ドットのディスプレイを接続して使っている。横向きは1台だけで、2台は縦向きだ。24型ディスプレイがあってもNUCだけではそれが横向きのフルHDディスプレイ1台になってしまうのだから何かと不便を感じる。

 そこで、Surface Pro 3を隣に置く。そこからメールとSNSアプリを起動しておき、NUC側ではWindowsの仮想デスクトップを1つ追加し、そこでもSurfaceと同じアプリを起動しておくことにした。作業中の視界にあるSurfaceでリアクションが必要な事案が発生すれば、仮想デスクトップに移動して作業するといった具合だ。

 これがなんちゃってマルチディスプレイだ。Surfaceに気付きを与えてもらって、実作業はNUCで処理するわけだ。仮想デスクトップ側ではiTunesを起動して音楽でも鳴らしておけば、わざわざデスクトップを切り替えなくても、タスクバー上のボタンをクリックするだけで、そのデスクトップに移動する。それができるようにするために、Windows 10設定のマルチタスクで、タスクバーには全てのデスクトップで開いているウィンドウを表示するように設定しておく。もちろんCtrl+Windows+左右方向キーでも切り替わる。

 Surfaceをディスプレイに接続し、本当のマルチディスプレイ環境を作っても良い。その方が日常の環境に近いし使いやすいかもしれない。だが、手元のSurface Pro 3のCore i5-4300Uよりも、NUCのCore i5-6250Uの方がCPU性能、グラフィックス性能ともに圧倒的に上だ。Skylakeの素性の良さは高く評価したい。2世代離れるとここまで違うのかということを思い知らされる。

 もっとも、自分が原稿書きモードに入ってWebや資料の参照とエディタ入力を目まぐるしく繰り返す場合は、Surfaceのマルチディスプレイ環境が良さそうだ。原稿を書くエディタはSurfaceの12型画面で十分だ。HDMI 2系統だから、それは必要に応じて切り替えれば良い。一般的なモバイルディスプレイではこうはいくまい。

 24型ディスプレイと、処理性能を確保できるNUCに、気付きのためのタブレット。これはもうモバイルではないと言われれば確かにそうかもしれない。だから「モバイル以上、デスクトップ未満」なのだ。

モバイル食らわばリアルデスクまで

 今回宿泊しているホテルは3度目の滞在になる。決して豪華なホテルではないが、サンフランシスコにしてはリーズナブルな料金だ。価格が価格なので、自分の引退とこのホテルの廃業とどちらが先だろうと思うくらいに古い建物だし、部屋もボロボロに近い。ただ汚くはないのが救いだ。

 値段につられて最初に恐る恐る宿泊した時は、部屋にデスクがなく、スタッフの許可をもらってエレベータホールから丸テーブルを持ってきて代用した。

 今回、そういうことがあっても困るので自分でデスクを持ってきた。BUNDOKというメーカーの「アルミロールテーブル BD-212」という製品で、デスクと言ってもキャンプ用の折り畳み式のテーブルだ。ぼくはAmazonで見つけたが、探すと輸入代理店で同等と思われる製品が見つかる。型番で検索すると、Amazonより詳しい紹介ページもあって概要が理解できたので購入することにした(楽天の販売ページ)。

 要するに、折り畳み型の脚部分と、風呂蓋のようにジャバラになった天板のセットで、組み立てると約70×70×70cm(幅×奥行き×高さ)のテーブルになる。組み立ては工具なども必要なく、とても簡単で慣れれば時間も1分かかるかかからないかだ。持ち運び用の袋が付いていて、折りたたんだ本体を格納し気軽に持ち運べる。重量は2.9kgだ。

 今回の渡米時には、このテーブルを機内に持ち込めないか尋ねたところ、長さが600mmを超える750mmのものは鈍器と見なされ持ち込みは不可とのことだった。似たような形状の荷物としては、大型三脚があるが、ぼくの使っている航空会社では600mmを超える大型三脚は持ち込めないとしていて、それと同等と見なされたようだ。そこで、預け入れ荷物としたが、投げられて壊れるのもいやなので、壊れもののタグを付けてもらうようにお願いしたところ、丁寧にビニールでくるみ、プラスチックのトレイに乗せて運んでくれた。ただ、斜めに格納すれば、スーツケースにも入ってしまうので帰りはそうしようかと思っている。

 サンフランシスコに到着後、ホテルにチェックインして部屋に入ると、部屋には立派なデスクが備えてあって拍子抜けした。でも、物を置けるスペースがあるというのは便利だし、大きな電灯スタンドをそちらに逃がすことで本来のデスクスペースを最大限に活かせるのはうれしい。PCのデスクトップも、リアルなデスクトップもやっぱり大きい方がいい。

 確実に部屋にデスクがあることが保証されるような良いホテルに宿泊できる時ばかりではない。でも、デスクがなくてもこのテーブルがあればなんとかなる。少なくともベッドで膝の上にPCを載せて原稿を書くようなことは避けたい。きっと次のCOMPUTEX TAPEIの取材の時の頼もしい相棒として活躍してくれるだろう。今回は、実用になるテーブルだということが分かっただけでも十分な収穫だ。

10kg未満で「点」と「線」の両モバイルをカバー

 今回持参したモバイルコンピューティング装備の内訳は、

  • NUC(メイン)
  • レッツノート RZ5(取材時用)
  • レッツノート RZ4(取材予備待機、新Build検証用、スペアバッテリ充電用)
  • Surface Pro 3(サブ)
  • LG 24型ディスプレイ
  • 折り畳みテーブル

となるが、これらを全部合わせても10kg以内に収まるというのは感慨深いものがある。そしてその気になれば衣服や身の回り品と合わせてスーツケース1つに入ってしまう。壊れやすいカメラや万が一のロストバゲッジのためにレッツノート RZ5は機内に持ち込むが、空港のセキュリティチェックがめんどうなので、ほかのPCはスーツケースに入れて預けてしまう。それでいてスーツケースの重量は預け入れ荷物の上限である23kg内に余裕で収まる。もうこれはモバイル以外の何物でもない。

 常宿があって滞在先の環境が十二分に把握できている場合の装備はいくらでもダイエットできる。でも、予想がつかない場合には万全を尽くし、少しでも快適に、そしていい仕事ができるように努力する。それもまたモバイルではないだろうか。

 13型程度のフルHD画面を持つモバイルノートPCを100%スケーリングで使っても、文字が小さいとか、使いにくいなどとは思わず、何の不便も感じないような視力を持つ若い世代であれば、このおっさん、いったい何をやっているんだと思うに違いない。

 だが、きっと君たちもあと10年すればこの気持ちを分かってくれると思う……。

(山田 祥平)