山田祥平のRe:config.sys

シェルまでとられて、どうするキャリア

 噂の「Facebook Home」の配信が日本国内でも開始された。まだ、一部の機種だけだが、このアプリをインストールすることで、手持ちのスマートフォンがFacebookフォンになる。今回は、このことから想像できるスマートフォンの未来について考えてみよう。

乗っ取られるシェル

 Facebook Homeは、いわゆるホームアプリと呼ばれるカテゴリに属し、言ってみればシェルを乗っ取る形になる。シェルはWindowsならExplorerに相当するが、一般的にはデスクトップUIがそうだ。これがWindows 8になって、新しいUIのスタートスクリーンになっただけで、大騒ぎになっているのだから、Facebook Homeがシェルになるということが、どれほどのことなのか、ちょっと詳しいユーザーなら想像できるだろう。

 もっとも、Android端末では、シェルを入れ替えるのは簡単だし、Playストアでもさまざまなものが配布されている。また、ドコモの端末であれば、端末ベンダー独自のものと、ドコモ独自のパレットUIがプリインストールされている。その気になれば、いつでも、好きなシェルを使えるわけだ。

 ただ、多くのスマートフォンユーザーは、シェルとしてのホーム画面を変えられるなどということは思いもつかない。Playストアでホームアプリを探し、今、使っているシェルと入れ替えることができることを知っているユーザーは一部のパワーユーザーだけだといってもいい。

 だが、ほぼ同時に配信が開始されたFacebookアプリの設定画面には、「FACEBOOK HOME」設定という項目が用意され、ここにチェックをつけると、Playストアに遷移し、Facebook Homeをダウンロードしてインストールすることができる。移行は実に簡単だ。

 Facebook Homeをインストールすると、まず、待ち受けスクリーンを全画面使って、最新エントリーの記事が表示されるようになり、横方向のスワイプでタイムラインを過去にたどっていくことができる。文字も大きく読みやすい。

 下部にはいいねボタンがあって、その場で「いいね!」することができるし、コメントボタンも表示され、個々のコメントを読むことができる。もちろん書き込むこともできる。端末をさわらずに放置すれば、絶妙な間隔でタイムラインが過去に流れていく。

 端末をロックしていても、自由にタイムラインを読んでいくことができる。写真が使われている記事では、その写真が大きく表示されゆっくりとメッセージの後ろでスクロールし、写真全体を把握できるようになっている。そして、記事内のURLをタップすればブラウザがそれを開く。ただし、リンクを開く前にさすがに、ここで初めてロックの解除が求められる。

 スクリーン下部には自分の顔がボタンとして表示され、これを左にフリックしてメッセンジャー、上にフリックしてそれまで使っていたホームアプリの各ページ、右にクリックして元のシェルに戻る。アプリを起動しようとすると、ロック解除が求められる。元のシェルに戻っても、乗っ取られたシェルが再設定されるわけではなく、一時的に以前のシェルが使えるだけだ。

 ロックを解除せずに、こんなに多くのことができてしまっては困るというユーザーのために、画面オン時にこのHomeを表示するかどうかは設定で決められるが、それを明示的に設定しようとするユーザーは少ないかもしれない。

あらゆるスマートフォンで同一のルック&フィール

 ぼくが使っているスマートフォンは、たまたまSamsungの「Galaxy S III」だったので、いち早くこのアプリを試すことができた。このスマートフォンでは、ベンダー独自のホームアプリとして「TouchWizホーム」、キャリア独自のホームアプリとして「docomo Palette UI」の2種類がインストールされている。FacebookのHomeは、そこに追加される形となる。

 ホームアプリは、設定メニューの「ホーム選択」で変更できるのだが、そのメニューからはTouchWizへの変更ができなくなってしまった。ただ、いったんdocomo Palette UIに変更すれば、TouchWizに戻すことができた。

 Facebook Homeがホームアプリとして稼働しはじめると、はっきりいって、どこのベンダーのどこのスマートフォンも、酷似したルック&フィールを持つようになる。もちろんキャリアも問わない。Androidスマートフォンならほぼすべてがそうなるだろう。Facebookでは、Appleと話し合いを続けながらiOSでのFacebook Homeをどうするかを協議しているそうだが、さすがにiOSはAndroid上でのようにはならないだろう。

 いずれにしても、今後、“LINE Home”だの、“Twitter Home”だのが出てくることは想像に難くない。本当なら、とっくの昔にGoogle+ Homeが出ていてもよさそうなものだが、それをやらなかったのは、OSベンダーでもあるGoogleの見識ともいえそうだ。

 どんなに端末ベンダーやキャリアが工夫をこらして端末をお膳立てしておいても、Playストアからダウンロードした1つのアプリの設定だけで、それをそっくり乗っ取ってしまえる。正直なところ、これからの展開が気になって仕方がない。

 Facebookにしても、Twitterにしても、また、LINEにしても、そのユーザー数は膨大だ。そして、そのユーザーの多くは、そのうちのどれかを使っている時間が、スマートフォンをいじっている時間の大半を占めるということも珍しくなさそうだ。中には、個人間のコミュニケーションであっても、TwitterのDMやFacebookのメッセージの方が、メールよりも頻度が高いというケースもあるだろう。

 そうしたユーザーにとって、これらのホームアプリは、実に便利な存在となるだろうし、多くのユーザーが受け入れることにもなりそうだ。なにせ、汎用機としてのスマートフォンが、これらのシェルをかぶることで、その専用機のように振る舞うようになるからだ。少なくとも見かけの上ではわかりやすいし、扱いやすくなる。機種変更をしても、キャリアを移っても、新しいことを覚える必要はない。もしかしたら、キャリアメールアドレスどころか、自分の電話番号さえよく覚えていないユーザーが出てくる可能性もある。まさにOver the top(OTT)だ。

土管と小屋

 こうした状況が新しい当たり前になると、通話と文字によるコミュニケーションを、そっくり乗っ取ってしまうホームアプリが登場する可能性も出てくる。Googleの検索結果でさえ、先頭の数項目しかクリックされないのが普通だそうだから、最初に出てくる通話機能やメッセージ機能だけですべてをすませてしまうユーザーが出てきても不思議じゃない。

 キャリアがこれを黙って看過するのかどうかというのは、とても気になる事象だ。でも、今さらホームアプリを禁止するといった対処はできるはずもなく、見ているしかないというのが現実だろう。それに、データの土管としてのキャリアサービスは、十二分に使われるのだ。

 ただ、RSSがWebサイトの広告ビジネスモデルに、ちょっとした破壊を及ぼしたのと同様、ホームを乗っ取るようなサービスは、そのビジネスモデルを熟考する必要がある。FacebookにしてもTwitterにしても、今なお、その明確な結論は出せず、広告に大きく依存することなくサービスが提供されている。今回のFacebook Homeでも、広告が前面にしゃしゃり出てくることはない。

 社会現象としてのCGMやUGCは、キャリアを土管にさせる一方で、OTTのサービスをも小屋化する。ユーザーはサイトが提供するコンテンツに期待するのではなく、小屋、箱、ホール、スペース、会場、広場としての使い心地、使い勝手がいいことを求める。最初の中味は空っぽでいいのだ。誰もキャリアにサービスを求めなくなりつつあるのと同様だ。それに応えた結果が今回のFacebook Homeなのだとすれば、彼らはいったいどこにたどり着こうとしているのだろう。

(山田 祥平)