山田祥平のRe:config.sys

2画面Androidで新たなユセージモデルを模索するNECのLifeTouch W




 NECが2画面Android端末、LifeTouch Wの出荷を開始した。現時点でのビジネスモデルはB2Bで、まだ、コンシューマーが量販店などで気軽に入手して使える製品ではないが、クラウド端末としての、1つの方向性を提案するユニークなものに仕上がっている。

●専用アプリが提案する2画面の使い方

 LifeTouch Wは、7型の抵抗膜タッチパネルを2画面持ったAndoroidタブレットで、2つ折りにするブック形状がその大きな特徴となっている。本のように開くと、右側のスクリーン下に、ホームボタン、メニューボタン、戻るボタンが並び、さらにその右側に方向キーとして使える5Wayキーが配されている。このキーの中央にあるボタンは決定キーとして機能する。

 重量は約530gで、持った感じは意外に軽快だ。タブレットの一種ではあるが、Andoroidのバージョンは2.2を搭載し、Honeycombではない。通常のAndroidは、特に2画面操作に最適化されているわけではないので、普通に使おうとすると、最初はいろいろと戸惑いも多い。

 まず、端末を普通に開くと、ホーム画面が表示される。この状態で、何らかのアプリを起動すると、まず、右側の画面で、そのアプリが開く。このとき、左側の画面はまだホーム画面なので、同様に、別のアプリを起動すると、今度は左側の画面にそのアプリが開く。これで、2つのアプリが左右の画面で個別に開いている状態になる。

 アプリ画面のタップでそのアプリがアクティブになり、操作が可能になる。従って、通常のAndroidアプリでは、この2画面を有効に活かすことはできないわけだ。感覚としては、2つのAndroidタブレットが合体しているような錯覚に陥りそうだ。

 ところが、この端末に最適化された専用アプリを起動すると、そのふるまいはガラリと変わる。たとえば、標準添付されたブラウザは、一般的なアプリ同様に片方の画面だけで使うことができるほかに、全画面モードと2画面モードという別のモードを持つ。

 全画面モードでは、左右画面を連続した1画面とみなし、表示エリアを広く使うことができる。もちろん、縦方向に端末を構えれば、上下をつないだ状態で全画面操作ができる。また、2画面モードでは、片方の画面で開いているリンクをクリックしたときに、そのリンクをもう片方の画面で開くようになっている。例えば、片方の画面で検索結果の一覧を表示させ、そのリンクを次々に開いて順に見ていくような使い方ができるわけだ。

 専用アプリのサンプルとしては、このブラウザのほかに、電子書籍アプリ、教育アプリ、メモパッドアプリなどが添付されていて、2画面の使い方の提案が為されている。これらアプリの作り込みは、サンプル的なものにすぎないが、2画面がどのようなユーザー体験をもたらすかを示すには十分なものとなっている。

 NECでは、この端末を、デベロッパーズパックとして、SDKをセットにしたものとして販売し、B2B2Cでのビジネスを展開していくということだ。

 もちろん、素に近いOSを実装した通常のAndroid端末で、Googleのロゴも取得しているため、マーケットからアプリをダウンロードしてインストールすることもできる。Android端末であることを強調せずにリリースすることもできたはずだが、あえて、標準的なAndroid端末であるとしたのは、デベロッパーが参入する際のハードルを少しでも低いものにすることも考えられていたに違いない。

●ベンダーの想定を超えた使い方を模索

 この端末が、最初に紹介されたのは、今年の頭、米ラスベガスで開催されたInternational CES 2011だった。参考出品されていたブースはSouthホールの2F奥エリアで、決して目立つ場所ではなかったのだが、海外の企業やSIerからは、大きな反応が得られたという。

 もちろん、国内でも、開発途上の段階からプリセールスが行なわれ、どの顧客も高い関心を示しているそうだ。ブック形状なので電子書籍リーダーとしての使い方や、教育産業における多面展開で効果的な学習ができるといったことをセールスポイントに想定していたが、その想像以上に、どういうところでこの端末を活かせるのかを考える顧客が増えているという。NECとしては、同社のソリューションと、サードパーティのアイディアを合体したビジネスにして展開していくもくろみだ。

 冒頭に書いたように、この製品を、一般コンシューマーがいきなり手にしても、それほど魅力は感じないだろう。2画面対応アプリが豊富に揃っているわけではないので、かえって使いにくいと感じるかもしれない。だからこそ、NECと組んでもらえるサードパーティが重要な役割を果たす。従来は、PCや専用機でやってきたことを、Android端末で実現することで、低コストで特定用途を実現できるのが強みだ。そういう点では、企業内での専用端末や、流通業における発注端末、また、旅行代理店が説明用に使うAR端末やなどの打診もあるという。

●2画面だからこその使い方

 この製品の仕様を決める時点で、2つの画面を大きな1つの画面として使うモードを用意することもできたはずだ。そうすれば、通常のタブレットのように、広い画面で標準的なAndroidアプリを使える。でも、NECはそうはしなかった。そこに、同社がこの端末にこめたこだわりを感じる。あくまでも、2画面であることを主張することで、デベロッパーの発想の広がりを抑制せず、新たな発想を誘うことをもくろんでいるとさえ思う。

 これからの1年、さまざまなキャラクタを持ったクラウド端末が出てくるだろう。OSの1つとっても、Androidはもちろん、Windows Phoneもあれば、webOSもある。もちろん、Windows 8のことも気になる。

 解消できない不便はないし、その不便は新たな使い方のスタイルを生む可能性だってある。その選択肢の1つとして素に近いAndoroidを実装したNECのLifeTouch Wの今後に注目したい。