山田祥平のRe:config.sys

ノートPCを眠りにつかせないチャレンジ




 Intelが Ultrabookのコンセプトを発表した。また、Microsoftの動きにより、Windows 8の片鱗も見えてきた。どうやら、今年(2011年)から来年(2012年)にかけて、しばらく静かだったPCシーンが賑やかになりそうだ。

●スリープからの目覚めがもどかしい

 IntelのUltrabook構想は、PCの再定義であるとされている。薄く、そして、軽く、さらに、従来にないほど長時間バッテリで駆動できるものになるという。どんな体験が得られるようになるのかは、実際に出てきてみないと何ともいえないが、今の装備で、その世界を疑似体験してみようと思いたった。

 毎日、カバンに入れて持ち歩いているノートPCは、Let'snote J9のマイレッツ倶楽部モデルだ。仕様上はLバッテリ装着で、約9.5時間駆動ができることになっている。話半分としても約5時間。毎日の持ち歩きでバッテリの心配をしなければならないことは、まずない。

 この製品は、高速起動を実現するクイックブートに対応しているため、約15秒でWindowsが起動するのだが、普段は、スリープ状態で持ち歩いているため、その恩恵にはあまりあずかれないでいる。ただ、システムアップデートなどで、再起動を余儀なくされるときには、その高速化が更新時間を短縮してくれる。

 さて、カバンから取り出したLet'snoteのディスプレイを開くと、約1秒でスリープから目覚めスクリーンが復帰する。そこに表示されているのは、Windowsのログオン画面だ。ところが、すぐにパスワードを入れようとしてもキー入力を受け付けてくれない。Windowsの不具合だと思うのだが、キーボードと画面の初期化のタイミングがうまく合わず、さらに3秒くらい待たないとパスワードを入れることができないのだ。これがイライラを加速する。

 うまくパスワードが入り、デスクトップが表示されるころには、WiMAXも再接続されている。そして、それを検知したメールクライアントが、メールサーバーからたまっているメールのダウンロードを開始する。でも、この検出にも多少の時間がかかり、携帯電話で着信とその内容を知ったメールがダウンロードされるまでは1分近く要する場合もある。ブラウザなどは、すぐに使えるのだが、メールはそういうわけにはいかないようだ。

 出先で、ノートPCを開くのは、たいてい、届いたメールに、ちょっと長めの返事を書くときや、スマートフォンで見ていたサイトを、より大きな画面で見たいときなので、やりたいことは、PCをカバンから取り出す前から決まっている。だから、1秒でも速く、目的の作業がしたいのに、これら、1分近い待ち時間がもどかしい。

 それなら、いっそのこと、ノートPCをスリープさせず、稼働させたままで持ち歩いたらどうかと考えた。いくら耐衝撃性が高いとはいえ、HDDではクラッシュが心配だが、幸い、このレッツノートはSSDを搭載している。

 電源を入れっぱなしで持ち歩くに際して、電源プランを見直し、バッテリ運用時の設定を次のようにした。

・カバーを閉じたときの動作 - 何もしない
・ディスプレイを暗くする - なし
・ディスプレイの電源を切る - 1分
・コンピュータをスリープ状態にする - 2時間
・スクリーンセーバー - 5分でブランクにし、再開時にログオン画面に戻る

 ディスプレイを暗くするのをなしにしてあるのは、暗くするくらいなら電源を切ってしまえばいいという判断だ。また、2時間でスリープ状態にするのは、さすがに、そのくらい持ち歩いて使っていなければスリープにしないとバッテリの残り容量が心配になるからだ。スクリーンセーバーが5分で作動するのは、ついうっかり、ロックしないで液晶を閉じてカバンにしまっても、5分でコンピュータをロックできる安心のためだ。

●意外にバッテリを消費しないアイドル時のノートPC

 USB端子には、超小型の無線LANアダプタを装着してある。これは、自宅に戻ったときに何もしなくても無線LANに接続するようにしたいからだ。そうでないと、オフラインファイルの同期などができない。WiMAXと無線LANは排他なので苦肉の策だ。その必要がなければ、もう少し、バッテリを節約することができるだろう。

 この状態で、持ち歩いてみると、実に、快適にPCを使える。なんといっても、開いたら1秒たりとも待たずに、すぐにパスワードを入れることができ、開いたデスクトップでは、メールはダウンロードされているし、Twitterのタイムラインも更新されている。

 スマートフォンや携帯電話は、常に通信していて、使いたいと思ったときには、すぐに使えるが、それと同じことがPCでもできる。わかってはいても、それが、これほど快適なのかと、ちょっとしたカルチャーショックを受けた。

 たかが、数十秒の節約だが、それだけのことで、スマートフォンなどを使うようになって、あまり電車の中などで使うことがなくなっていたノートPCを、また、頻繁に使うようになった。

 気になるバッテリの持続時間だが、おおむね、1時間に10%くらいずつ減っているようだ。空になるまでは10時間くらい使える。普通に使っていれば1時間に15%くらいずつバッテリが消費されるので、液晶を閉じたままなら1時間につき5%分が節約できるイメージだ。とにかく、液晶のバックライトさえ点さなければ、操作していないPCが消費する電力はかなり少ないことがわかる。

 もっとも、これは、バッテリに対しては優しくない。持ち出したノートPCを出先で使うのはトータルで1日あたり1時間程度のことが多いが、使うときだけスリープから復帰させる限りは、バッテリの消費は著しく少なく、充電サイクルを消費しないが、出かけている間、ずっとバッテリを消費していることになるので、積算充電指数が、日々の運用でみるみる増えていく。バッテリの寿命を考えると、80%で満充電とみなすエコノミーモードを使うことも考えた方がいいかもしれない。

 カバンの中で発生する熱はどうかというと、気にならないといえばウソになるが、そんなに熱くはなっていないようだ。デスクトップで開きっぱなしのブラウザが、Flashを使ったページを表示していたりすると、冷却ファンが回りっぱなしになっているようなときもあるのが気になるくらいだ。もう少し、この設定で運用してみて、ファン制御モードを「低速」に設定してみることも検討しようかと思っている。

●Windows 8とUltrabookがもたらすPCの変化

 使っていないのに、ノートPCを稼働させっぱなしにすることは、この節電が叫ばれている昨今に、とんでもないことだといわれそうだが、実験と思って許していただきたい。それに、充電に電力を使うのは、ピークの時間を過ぎてからだ。

 この試みは、ユーザーサイドでできる運用的なPCのAlways ONだが、PCのベンダーが、いろいろな工夫を取り入れれば、稼働しながらのPCを、もっと長い時間、持ち歩くことができるようになるだろう。たとえば、無線関係のサボり加減として、0.5秒ごとにオンオフを繰り返すといった間欠運転や、プロセッサのベースクロックを極端に落とすようなこともできるかもしれない。徹底的に無駄を省き、1時間に5%くらいしかバッテリを消費しなくできるのなら、下手なスマートフォンより、よほど長いバッテリ稼働時間を確保できそうだ。

 もちろん、このような使い方は、セキュリティ確保の点で、ビジネスマンが携行する企業用のPCでは難しいかもしれない。でも、Intelが提唱するこれからのノートPCは、さまざまなテクノロジで、セキュリティ確保と、即座に使えることの両立をめざしていくことになるのだろう。

 Windows 8の概要が公開され、ようやくWindowsも、タッチ操作に本腰を入れるようだ。これからでてくるSlate PCなどは、従来のノートPCから単にキーボードを排除しただけのものでは世界観をを変えることはできないだろうけれど、新たなUIの提案や、Ultrabookが提案するような要素と緻密に連携することで、また、違った見方をされることになるだろう。これからの1年で、PCを取り巻く大きな変化がきっと起こる。実に、うれしいことだ。