山田祥平のRe:config.sys

ハートウェアが仕事を変える




 日本アイ・ビー・エムと内田洋行が協業、ワークスタイル変革のコンサルティングからワークプレイス構築/運用までを一貫して支援するビジネスを開始するという。働き方と働く場の双方の変革を通じて生産性向上をめざすためのノウハウを提供するサービスである。

●ワークプレイスが支えるワークスタイル

 IBMは世界でも有数の経営コンサルティングサービスを提供する企業であり、内田洋行は今年創業100周年を迎えたビジネス空間を統合的にプロデュースする専門商社だ。今回の協業ビジネスでは、両社によって、次の8つのサービスが提供されることになっている。

(1)ワークスタイル・ワークプレイス診断
(2)ワークスタイル変革構想策定支援
(3)変革施策設計と評価指標策定支援
(4)ワークスタイル変革パイロット実施支援
(5)意識変革支援(Change Management)
(6)“Change Working”を促進するワークプレイスの構築
(7)PER(Post Execution Review:実施後評価)と運用支援
(8)PMO(Program Management Office)支援

 結局のところ、コンサルティングによって、なんらかのワークスタイルを提案することができたとしても、そのワークスタイルが自然発生的に生まれるような環境がなければ、真の意味での変革は難しい。そのあたりを、両社が協業することで、得意な層から総合的に考えていこうというのが今回の新ビジネスの趣旨だ。

 たとえば「いつでもどこでも仕事をしよう」というワークスタイルを提案する際に、都心を巡回する営業マンが、都内に散在するどの営業所に立ち寄っても、普段のデスクと同様の環境が得られるようにする。あるいは、内田洋行では「協創」という言葉で説明しているが、コラボレーションビジネスが多いなら、他業者が頻繁にオフィスを訪れるはずで、そのビジネスを円滑に進行させるためには、オフィスと同等の快適な、協業先との打ち合わせスペースを用意する必要がある。

 このように、あるべき姿をかなえるためには、必ず、そのための環境が必要になり、そのどちらが欠けてもいけない。また、環境を整えることで、現実があるべき姿に向かうこともある。

 そのあたりのコンサルティングに多大な費用をかけられる企業が、どのくらいあるのかはわからないが、両社では今後1年で、約30億円の売り上げを目指しているという。決して半端な額ではない。

●環境が気持ちを変える

 発表会の開催された都内の内田洋行新川オフィスは、「ユビキタス協創広場CANVAS」と称され、実際の業務が行なわれている館内が、そのままショールーム的にも機能している。館内は無機質にならないように、多くの木材がインテリアの一部に使われ、暖かみを感じる空間になっていた。

 興味深かったのは階段の話だ。8F建て館内の階段には踊り場に協力デザイナーの手になるイラストが描かれている。同社では、2F分上がる、3F分下がる場合はエレベータではなく、階段を使おうと提唱していたそうだが、それがなかなか守られなかったのに、このイラストを描いてから、実際に階段が使われる機会が多くなったという。壁に描かれたちょっとしたイラストが空間の移動に際して心のオアシスになるらしい。

 壁一面がプロジェクターとして機能するミーティングスペースも見せてもらった。投影されるインテリアの写真やCGに、既知の部分寸法を入力することで、その写真が実寸で表示される。デザイン画だけでは今ひとつピンとこないようなインテリアも、より具体的な形で確認することができるというわけだ。

 図書館スペース、すなわちライブラリも用意されている。情報を探し出すためには、探索と散策の両面からのアプローチが必要で、何を探すともなく情報にふれていく散策には、紙に印刷された書籍や雑誌の優位性があることをアピールしていた。

 館内には、さまざまなスクリーンにプロジェクターからの映像が映し出され、ICTを駆使した環境作りが模索されている。門外漢ながら気になったのは、プロジェクターの投影画像の視野角の狭さと、そして、そこから派生する問題でもあるが、プロジェクターごとの投影画像の色が微妙に異なる点だ。特に、色について議論するような場合は、これではまずいんじゃないかとも思った。

●対策すべきはハートウェアの脆弱性

 ビジネスの現場におけるPCのコモディティ化が言及されるようになって久しい。でも、それをそのまま受け入れてしまっていては、働く側の意識も変わらないし、新しいものも生まれない。必要以上の付加価値が差別化につながるかどうかはわからないが、売る側も、使う側も、今のままではまずいんじゃないか。4日の記者会見で話を聞いていてそう思った。

 折しも、11月4日に、ソフトバンクモバイルの発表会が開催され、大量にスマートフォンの新製品が発表された。10月中旬のauに続くものだが、さらにドコモの発表が控えている。PCがコモディティなら、ビジネス現場における携帯電話こそ、もっとコモディティ的なものになってもよさそうなものだが、実際には違う。各社ともに、個性あふれる端末が出てきているのは嬉しい。猫も杓子もiPhoneというのではつまらない。Androidスマートフォンが、現状に、どのように食い込んでいくのか、これからが楽しみだ。iPhoneの名誉のために書いておくと、現行ではAndroidを使えば使うほどiPhoneの凄さがわかる。でも、これからの進化にAndroidは期待できるし、そうならなければなるまい。

 スマートフォンはハードウェアであると同時に、ソフトウェアでもあり、そしてインフラでもある。どれが欠けても成り立たない。PCも、そのあたりを再考すべきなのではないか。仕事の道具が無愛想ではビジネスも活性化しない。今、対策すべきは、人間の心、つまりハートウェアの脆弱性ではないだろうか。