株式会社内田洋行は、東京・新川の本社ビルをリノベーションし、その様子を報道関係者に公開した。
同本社ビルは、'71年に竣工した築39年を迎えるビル。地上9階、地下3階の建物をリノベーションし、ICTと情報の活用をテーマに、新たな試みを自ら実践するオフィスへと転換。さらにLED照明を全館に導入することで、照明における消費電力ならびにCO2排出量を63%削減。同社の製品、技術、運用ノウハウを活用した、ショールーム的な役割も担うビルとなっている。
代表取締役社長の柏原孝氏は、「内田洋行は今年100周年を迎える企業。それを機に、本社を新川に戻し、これまで潮見オフィスで展開してきたユビキタス・プレイスを進化させ、働き方、利用価値を実証する場とした。2010年から12次中期経営計画がスタートし、情報、オフィス、教育といった観点からユビキタス・プレイスを創造するインテグレーターとして展開していく」などとした。
代表取締役社長の柏原孝氏 | 取締役会長の向井眞一氏 | ビルの入口 |
また、実際にリノベーションを指揮した取締役会長の向井眞一氏は、「リニューアルというと、一過性のコストと考えがちだが、今回のリノベーションは、そうではなく、投資をして、価値を生み出すオフィスということを前提とした。それを証明するものになる。また、ネットワークインフラを、後から考えるのではなく、整備を優先する考えを採用した。構内LANでは1Gbpsを2系統、コンテンツ配信用およびゲスト無線LAN用にそれぞれ100Mbpsを用意。合計4本のラインを敷いている。さらに、クラウド・コンピューティングによって、どんな場所でもデータを活用できるという時代の流れにあわせて、オープンスペースとセキュリティスペースを区分し、個人認証システム、監視カメラの設置、端末機のログイン認証といったセキュリティ環境を強化することで、情報の制御ができるようにした」と説明した。
同ビルでは、リノベーションにあわせて、アスベスト除去、耐震補強を行なうとともに、全館にLED照明を導入。木材やグリーンなどのエコ素材を随所に活用しているのも特徴だ。
「LED照明は、30段階におよぶ調整が行なえるようになっている。普段は暗めの照明にしておき、人の入室を感知したら明るくするといった使い方や、プロジェクターのスクリーン近くだけ照明を暗くするといった使い方もできる。単純にオン/オフの制御だけでは、LED照明に取り替えたことによる省エネ効果は約30%の削減に留まるが、細かい制御によって、60%の省エネ化が実現できるようになる」とした。
同社では、韓国サムスンと提携して、サムスンから各種LEDモジュールを調達。制御基板や人感センサー、照度センサー、通信モジュール、制御モジュールなどと組み合わせたユビキタスデバイスとして商品化。これを自ら活用して、効果的な活用提案につなげていく考えだ。
また、向井会長は、「ユビキタスネット社会の到来によって、働き方、コミュニケーションの仕方が変わる。またホームオフィスやサテライトオフィスの活用により、毎日、会社に出てくる必要がなくなる。こうしたなかで、ユビキタス環境構築のニーズが発生している。今回のリノベーションは、それらに対応するために、自ら実証する場としている。いつでも、どこでも、誰でもに加えて、何ででもといった要素を持ち込みながら、情報が由自在に使える場を実現していく」という。
ユビキタス・プレイスでは、働く場、学ぶ場、集う場としての活用を想定し、その実現に向けては、照明やプロジェクターを自由に配置したり、柔軟にレイアウトを変更できること、さまざまなメーカーの機器を活用しながらも、操作性、接続性を損なわないこと、共同作業に適した環境であることなどが条件になるとした。
同社が提供するスマートインフィルという仕組みは、部屋の中に部屋を設置するといった考え方を導入。壁や天井に穴を開けることなく、新たなオフィス空間を創出でき、情報ケーブルや電源ケーブルも自由に敷設できるようになっている。また、携帯電話で複数の情報機器を操作したりといった提案も行なっている。こうした製品もユビキタス・プレイスの実現には必要不可欠だとする。
さらに、向井会長は、「企業を取り巻く環境はフローからストックの時代となり、同時なネットワークの普及と、ICT技術の驚異的進歩が見られている。また、異業種競争の時代を迎えており、教育分野に対しても、これまでこの分野に地盤を持たない孫さん(ソフトバンクの孫正義社長)の会社が、ハードウェアを無料でもってくるといったことさえが起ころうとしている。一方で、効率、能率の向上から知的生産性の向上が求められており、真の差別性の創出が必要な時代になっている」とし、「こうしたなかで、内田洋行の事業再構築の手法は、Build to Warpと、BtoBtoPという考え方に集約される」とする。
「スクラップ&ビルドという手法が一般的に使われるが、内田洋行は、情報、教育、オフィスという事業領域が決まっており、それらの領域における変化が激しい。変わらない事業領域における起こる市場変化に向けて体制を作り、そこに一気に移行していくという考え方が基本になる。また、BtoBtoPのPは、Personである。人をターゲットとすることがユビキタス・プレイスでは重要である。教育分野では、全国に48,000校の小中高校があるが、そこに100万人の教師、1,700万人の児童、生徒がいる。それらの人たちに直接使ってもらうえる環境の提案が必要だ」とした。
なお、内田洋行は2011年11月に、本社ビルを新川本社の2軒隣に竣工する予定であり、地上21階地下1階のビルのうち、地上8階までを内田洋行のオフィスとして使用する予定。9階から上はマンションになる。
それで写真を通じて、リノベーションした内田洋行の本社の様子を見てみよう。
9階フロアは役員フロアとなっている。 | 会議室のLEDは、30段階の調光により、効果的な省エネ化を実現している |
8階は、知的生産性研究所と教育総合研究所の2つの研究所が入居。ユニークなデザインとなっている |
7階はMy Officeとは呼ばれるサテライトオフィスが入る | ||
出張者などが利用、40席が用意されている | ||
ネットが完備されているほか、複写機や資料なども用意されている | 7階のナレッジスペースは、企業内ライブラリ「うちのほんや」とされている | |
関連会社であるウチダスペクトラムのエンタープライズサーチなどを活用している |
社外の情報と社内の情報を検索して、双方を融合した活用が可能になる。ネットの情報と紙の情報を利用できる | 書籍や雑誌の貸し出し管理も行なわれている |
7階にあるBI(ビジネスインテリジェンス)ルーム。役員会議もここで行なわれる |
6階フロアに設置されたTestbedと呼ばれるスペース。システム開発において、実際の運用環境に近づけた試験用プラットフォームとして活用される |
学校の様子を再現したクラスルーム | ショップの様子を再現 |
ボトル底面のRFIDで読みとって、ワインの情報を表示する |
内田洋行はセカンドライフ上に「ウチダ教育島」を持ち、多くの教育機関がこれを利用している。その取り組みについて向井会長が直接説明した | AR(拡張現実)にも取り組む。東京スカイツリーなども立体的に表示する | |
2階フロアの内田洋行ユビキタス協創広場CANVAS。こちらはシンポジウムやセミナーで利用される。9面のスクリーンを用意 | 2階にはCANVAS NIWAと呼ばれる日本庭園がある | 1階の受付スペースの様子 |
1階奥には100周年を迎えた内田洋行の「ウチダコーポレートミュージアム」が設置 | |
これまでの100年の歴史を紹介。そして、これからの100年の歴史を刻むスペースも用意されている | |
ブロックをかざすと、映像と音声で内田洋行の歴史を振り返ることができる | |
インターネットカフェスペース。道路をつながったオープンスペースとしても利用できる |
階段には間伐材を用い、未宗美香子さんの絵が描かれている | 内田洋行は2011年11月に、本社ビルを新川本社の2軒隣に竣工する予定 | 2011年に新本社が竣工する予定地。現在、急ピッチで建設が進んでいる |
オフィスリノベーションの基本的な考え方 | ユビキタス・プレイスの考え方 |
(2010年 6月 23日)
[Reported by 大河原 克行]