山田祥平のRe:config.sys

そのメールアドレスは生涯使えるか

 インターネットメールはもっともシンプルで確実なコミュニケーション手段の1つだ。ただ、勤務先や学校などの所属組織が用意したアドレスは、多くの場合、その組織を離れるときに無効にされて使えなくなる。企業などでは私用のメール利用を禁止していることもある。多くの人々にとってメールは人生における恒常的なコミュニケーション手段にはなりえないのだろうか。

住所が変われば電話番号は変わる古い当たり前

 今もそうだが、電話番号は住所という物理的位置に依存する。固定電話だったから電話機が移動することなど想定されていなかったのだ。だが、移動体通信が浸透し、世帯のものだった電話番号は、個人のものとなり、引っ越そうが、転職しようが、変わらないのが新しい当たり前になった。MNPがあるので電話会社を変えても番号は変わらない。

 もちろん、組織によっては組織の一員として使うための端末を貸与し、その電話番号を使って業務を行なわせるところもある。その場合、「会社携帯」といった種別で第三者に告知していても、組織を離れたあとは、新たな利用者として別の相手につながることになる。メールアドレスは個人ごとにユニークな文字列を使うことは簡単だが、電話番号を変える組織はあまりないことによる現象だ。

 こうした事情があったものだから、個人にしても組織にしても、昔の引っ越しは大変だった。住所はもちろん、電話番号も変わる。それらを、正確に告知しておかないと、旧知の仲間とのコミュニケーションができなくなってしまう。昔は携帯電話もなかったので、1990年代以前につながりのあった知り合いと連絡がとれなくなっているケースは少なくないんじゃないだろうか。

 ほんのちょっと前なら年賀状という定期的に近況を知らせるもってこいの手段があったが、それも古き良き時代の遺物となってしまっている。

世代によって異なる主要なコミュニケーション手段

 今、学校時代に属していた学内サークル的な組織の同窓会の手伝いをさせてもらっている。今年は推定70周年にあたるそうで、それなりに歴史のあるサークルだと改めて想う。そして、そのOBOGに対して案内を送って同窓会への参加を募る作業のお手伝いだ。

 Googleフォームなどで、申し込みフォームを作り、挨拶文に添えてそのURLをOBOG宛てに一斉同報メールで送ればいい。メールを受け取ったOBOGはそのURLを開いて必要事項を書き込む。なんならここで会費を徴収する仕組みを入れることもできるので、キャッシュレスでパーティーができる。

 だが、そうは問屋が卸さない。

 まず、OBOG全員のメールアドレスを把握できていない。メールアドレスが分かっているつもりでも、そのアドレスが今日の時点で有効かどうかはメールを送ってみないと分からない。数秒後にはUser unknownなどのエラーで戻ってきて初めて無効であることが分かる。

 キャリアメールでインターネットメールを着信拒否というケースもあれば、有効なメールアドレスなのに、本人が受信したメールに一切目を通すことがないというパターンもある。これらは未達が分からないので、余計にたちが悪い。

 このあたり、どうしようもないので、メールアドレスが分からない場合や、ある程度の年代以上のOBOGには往復ハガキなどを使い、せめて、現況情報をデジタル情報でもらうために、申し込みフォームのURLをQRコードで入れるといった方法をとる。わざわざハガキを返送しなくても、スマホでQRコードを読み取ってその場で申し込めた方がハードルが低くなるだろうという配慮をしているつもりだが、相手の年代によっては、それでもやっかいに感じられることがあるようだ。

 あわよくば、案内状だけを送りたいところだ。往復ハガキは、ほぼコストを無視できるフォームとメールに比べてカネがかかる。普通は170円かかる往復ハガキだが、私製の往復ハガキ的な非定型カードを送付すれば、復路分を相手負担にもできるので少しは安く上がる。いろんな工夫でコストを抑える……。

 このように、2025年の今になっても、異なる世代にまたがるコミュニケーション、特に100名をはるかに超えるような多数を相手にした連絡は大変だ。誰もがスマホを持っていて、メールやSMSを使えるはずという可能性は高いが、それが当たり前かどうかは人によって違う。使える道具はあっても機能を使う使わないは人それぞれだからだ。毎日ポストを覗かない人に手紙を出しても反応がないようなものだ。

 結局、メールなどの手段で連絡がとれなければ、よりコストの高い手段を使う必要が出てくる。自分が新しい手段に対応できないというだけで、自分と連絡をとりたい相手に本来なら使わなくてもいいコストを強いることになる。

生涯使えるメールアドレスを国に用意してほしい

 住所にしても、電話番号にしても、そしてメールアドレスも、常に最新の情報に更新して、一斉同報でのコミュニケーション時にちゃんと役立つようにしておかなければならない。残念ながら、これらのどれも変更のリスクはゼロではない。連絡を受け取る側にとっても、変更が生じた場合、いったいどこに連絡すればいいのかも分からない。

 ならば、一生変わらないことが保証された連絡先を伝えておくのが面倒がなくていい。そのためには普遍的なサービスの威力を借りるのがよさそうだ。

 住所や固定電話番号と違って携帯電話番号はMNPで引き継ぐことを徹底すれば生涯使えるものになるだろう。また、メールアドレスについては、それなりに実績のあるメールサービスを選ぶようにする。gmailサービスなどはなくなる心配はなさそうだ。

 一番やっかいなのは会社や学校などの組織から貸与されたメールアドレスで、それらは退職や転職、卒業などで消滅するのが普通だ。なので、プライベートの連絡先については、それらとは別に個人用のメールアドレスを用意しておき、そのアドレスを使うようにしたい。日常的に読む読まないで温度差がありそうだが、週に一度でも目を通すようにすればなんとか機能するだろう。

 そういう用途にSNSを使うという手もあるが、100人を超えるコミュニティで、数年に一度しかトラフィックがないような1対多の一斉同報コミュニケーションには向いていないと思う。やはりメールが使いやすそうだ。

 郵便ポストに届く郵便物がDMばかりになってきていて、なるべく早く目を通さなければならない普通郵便物もそう多くはないので、郵便箱を覗く頻度が激減した結果、1週間チェックしないということも個人的にはよくある。だからこういう案内は郵便で届くよりも、メールで届いてフォームで返事というのがいちばんありがたい。

 ちなみにマイナンバーカードの申請時に登録するメールアドレスは登録してもいつでも変更はできるが、登録そのものは必須ではない。スパムメールがメールシステムの信頼性を無茶苦茶にしてしまったことを反映しているようにも感じる。もしかしたらお上はメールシステムというのを信じてないのかもしれない。

 でも、人類はそろそろ、生涯変わらないコミュニケーション手段として、個人番号でメールを受け取れる国家サービスを使えるようにしてほしい。本人はそのアドレスで受け取ったメールを任意のメールアドレスに転送設定できるようにすればいいんじゃないだろうか。決して非現実的な話ではないだろう。