山田祥平のRe:config.sys

メールに「いいね」ができたらいいね

 PCを含むスマートデバイスは現代のコミュニケーションに欠かせない道具だ。今も昔も基本は電話であるのは変わらないにしても、多くのコミュニケーションは、メールやインスタントメッセージに置き換わってきたし、これからもそのトレンドは続くだろう。そのトレンドを支えるだけの体制は、整っているのだろうか。

自由なメールが不自由な理由

 メールが好まれなくなる方向にあるという。件名欄に収まりきらないほどの Re: がついたタイトルと、延々とスクロールする過去のやりとりがくっついた古式ゆかしきスタイルのメールは、確かに、何を伝えたいのか分かりにくいことがある。かといって、過去のやりとりを割愛してしまっては、話のプロセスを追いかけるのに複数のメールを抽出してこなければならない。

 「いつもお世話になります」で始まり「以上、取り急ぎご連絡まで」で終わるような典型的なビジネスメールはよく見かける。それが面倒だという声も聞こえてくる。中には、こいつ、絶対、署名に紋切り型の文言を含めて登録しているぞ、と推測できるものもある。いちいち書くのがめんどうだから、最初から書いておこうというわけだ。それはいい。スマートデバイスはラクをするための道具だ。

 「了解しました」の一言を書くのにメールはめんどうだという気持ちも分かる。インスタントメッセージなら「いいね」をタップしておしまいにするような場面だ。いや、それどころか既読が分かるから、読むだけで「了解」を暗に伝えることもできる。

 メールでも、そういうことがしたければ、すればいいのにと思うが、なかなかそうはいかないようで、あちこちで堂々巡りが起こっている。それは日本人のきまじめさにも起因しているのだろう。

一長一短の人気インスタントメッセージ

 今、インスタントメッセージはどうかというと、プライベートではLINEのトーク、パブリック未満のところではFacebook Messengerが使われることが多いようだ。Twitter DMの人気も根強い。かつてのMicrosoft(MSN) Messenger、つまりSkypeを使うユーザーはめっきり減ってしまったようにも感じる。Skypeには、ビジネスユーザーのために、以前Lyncと呼ばれていたSkype for Busuinessもある。会社内、あるいは、組織をまたぐビジネスメッセージのやりとりで使われることが多いようだ。企業によっては音声通話が必要なときは、これらのインスタントメッセージの音声通話を使うように指示しているところも多いと聞く。

 LINEは1台のデバイスにしかインストールできないのが不便だ。正確には、PC、スマートフォン、iPadという3種類のデバイスに同時にインストールして使えるが、PCを3台とか、スマートフォンを2台といったインストールはできない。そういう意味では携帯電話番号でメッセージをやりとりできるSMSと似ている。

 Skypeは、それなりに便利だし、一般の電話回線にダイアルアウトもできる。ただ、相手が着信したときに見る電話番号が不定(表示圏外と表示される)で、不審な電話に思われて着信を拒否される可能性がある。また、過去にやりとりしたメッセージが、その一部しか残っていないのも不便だ。

 今のところ、もっとも潰しがきくインスタントメッセージは、Facebook Messengerだろうか。過去のメッセージは全て残っていて、無制限にインストールできる全てのデバイスでそれを確認することができる。

名刺とアドレス

 ビジネスマンと言えば、初対面では名刺を交換するわけだが、その名刺に記されたコミュニケーション手段にはどのようなものがあるだろうか。

 名前は当然として、住所、部署名、そして電話番号が刷り込まれているのは昔から変わらない。名刺に電子メールアドレスが刷り込まれるようになったのは20年くらい前のことだ。その当時も、部署のメールアドレスであって個人のメールアドレスではなかったり、パソコン通信のメールアドレスだったりして、混乱期はそれなりに長く続いた。また、最近では部署の電話番号に加えて、個人が持つ会社支給の携帯電話番号が併記されていることも多くなっている。

 高校を出て大学に入り、卒業して企業に就職するという人生を歩んだ場合、場合によっては高校、大学、会社という3つのメールアドレスを引っ越さなければならない。少なくとも、大学生は就職活動などのためにメールアドレスは必須のはずだが、その慣れ親しんだアドレスが卒業とともに失われてしまう。かといって、個人で取得したアドレスを就職活動に使うのはなんとなくためらってしまうんじゃないだろうか。

 結局、大学生のときのメールアドレスは卒業と同時に捨て、就職して会社に入ったところで新しいアドレスを使うようになるわけだ。

 その就職も、かつてのように終身雇用が当たり前ではなくなっている。だから転職するたびにメールアドレスが変わる。そのたびに煩雑な連絡が必要になるのだ。退職する会社のメールアドレスで退職を案内するのはいいが、職務上知り得たメールアドレスを退職時に持ち出すわけにはいかないから、新しい就職先での配属先を案内するときに困るという状況に陥ってしまう。

 そういう意味では会社でのメールアドレスは、固定電話の内線番号的なものだと考えることができる。かつての電話は「場所」にかかってくるものだったが、今は、携帯電話の普及で「人」にかかってくるものになった。社会人のほぼ全てが携帯電話を持ち歩くようになり、人によっては会社の携帯電話と私物の携帯電話の両方を持ち歩いている。メールにしても、会社のメールアドレスとプライベートのメールアドレスをうまく使い分けている場合もよく見かける。

 理想的には、一生変わらないことが保証されるメールアドレスを全ての人々が持つのがいいと思う。だが、そのサービスプロバイダーをどこにするかが悩ましい。以前は、インターネット接続プロバイダーとの契約時に発行されたメールアドレスを使うのが一般的だったが、今は、GmailやApple(iCloud)メールが一般的に使われている。ケータイメールアドレスは、インターネットメールとの親和性が高まったものの、MNPで電話番号が変わらないのに、メールアドレスは失われてしまう。本当は、ここのところをなんとかしなければならないはずだ。

コミュニケーションクライアントの一元化

 メールアドレスでさえやっかいなのに、インスタントメッセージはどうか。名刺をやりとりする中で、インスタントメッセージのプロバイダーとアドレスを名刺に刷り込んでいるケースはほとんどない。まずは、メールでやりとりをするようになって、必要に応じて知らせるといったところだろうか。

 ビジネスでのコミュニケーションにおいて、インスタントメッセージはそれなりに便利に使われてはいるものの、致命的な欠点もある。それは検索ができないことだ。少なくとも、LINE、Facebook Messenger、Skype(for businessも)には検索機能がない。だから、1年前にやりとりしたメッセージを探し出すのは大変だ。各社がインスタントメッセージのクライアントアプリに検索機能を付けないのが不思議でしょうがない。

 そこにいくとメールはいい。メールクライアントにもよるが、検索機能が充実しているので過去のやりとりから必要な情報を抽出するのに手間がかからない。10年前に打ち合わせで使った喫茶店だってすぐに分かる。そういう意味では数十年分のメールの蓄積は、コミュニケーションのデータベースだ。だからこそ、なるべく大事な話はメールでするようにしている。

 いろいろなコミュニケーション手段を体験してきたし、SNSもいろいろ使ってはいるが、自分で書き込んだ内容でさえうまく探せないのは不便極まりない。うまいウナギを喰った時に、その写真を投稿したはずなのに、それをすぐに探し出せないのだ。もちろんそれは、通話でのやりとりにも言えることだ。

 これからの時代を考えた時に、電話もメールもインスタントメッセージも、あらゆるものを引き受けることができる一意のアドレスというものが必要になるのではないだろうか。そのアドレス宛のメッセージを、自分が選んだ任意の手段で受け取れれば便利だ。送る側は、相手がそれを何で読むのか気にせずに送りたいようにして送る。届いた内容は受ける側の手段に最適化された形で届き、それで足りないものは、オリジナルに当たることができるといった具合だ。そんな一意のアドレスを、一生変わらないものとして、社会人の誰もが持つようになれば便利だ。

 もちろん、人にはメールアドレスを変える権利もある。また、会社員であれば、個人である前に組織の一員であり、そのコミュニケーションは監視、管理されるのは仕方のないことだ。退職とともにメールアドレスは返却だ。それも仕方がない。だからこそ、携帯電話同様に、プライベートのメールアドレスと、会社のメールアドレスの両方を持ち、必要に応じて、また、セキュリティポリシーに則った上で両社を関連付けるという工夫も必要になるだろう。

 これほどのIT時代なのに、コミュニケーションを一元化するためのソリューションがない。朝起きたら、TwitterとLINEとFacebookとメールと、そして電話とSMSの着信をチェックしなければならない。これが永遠に続くというのはカンベンだ。