山田祥平のRe:config.sys

次の10億人より、目の前の5,000万人

 モバイルシーンは、新興国にスマートライフをもたらそうと、低価格スマートフォンの開発などに躍起になっている。だが、それ以前に考えなければならない事実として、日本にはまだ6,176万件のフィーチャーフォン契約がある。全契約数のほぼ半分に相当するこの数字をどう見ればいいのだろう。

ガラスマ、ガラケー、ガラホ

 auがシャープ製の端末「AQUOS K」を発表した。この「K」は「ケータイ」を意味するという。シャープではMM総研調べのデータを引き、今後、フィーチャーフォンとしてのケータイは出荷台数を下げ止め、年間約1,000万台の市場となると考えているようだ。スマートフォンはケータイじゃないのかといういちゃもんはさておき、ガラホ時代の到来だ。占有率が下がることは認めつつも、ある程度は残るはずだから、そこを狙うという戦略だ。

 「K」は、フィーチャーフォンでありながらAndroid OSを採用している。ただし、画面はタッチには非対応で、また、GoogleのPlayストアからアプリのダウンロードもできない。一般的なAndroidアプリが動かないのではなく、従来のいわゆるガラケーのように、キャリアから独自アプリをダウンロードしてインストールする仕組みになっている。だから、OSがAndroidだからといって、Androidスマートフォンのユーザー体験を想像すると大きく期待を裏切られることになる。あくまでもフィーチャーフォンなのだ。

 テンキー部分には全体が静電式のセンサーを実装、まるで、PC等のタッチパッドのように、テンキー部分で指を動かすことで、スクリーン上のポインタを動かすことができる。これで、Webなどは方向キーでフォーカスを動かすような煩雑なことをしなくても、思ったリンクを思ったようにタップして目的のページに遷移できる。あくまでも片手操作が前提なのだそうだ。

 もちろんこんなことは、シャープの独断ではできない。ビジネスとしても成り立たないと言う。キャリアとしてのauとの話し合いの中で、これからのフィーチャーフォンの在り方を考えた結果だ。

・ケータイユーザーは低リテラシー
・ケータイユーザーはやがてスマホに移行
・ケータイユーザーは現状に満足

 これらはケータイに関する3つの誤解であるとシャープは考える。あえてケータイを選ぶ層が、選びたい対象がなくなってしまうことに困惑していることへの回答が、この「K」だと考えているようだ。

ガラパゴスで何が悪い

 日本の携帯電話ユーザーの半分がフィーチャーフォンを使っているなら、もう半分が既にスマートフォンを使っていることになる。おおざっぱにいうと、その半分がiPhoneで、残りがAndroidスマートフォンである。前者はみんなと同じであることを選んだし、後者は似ているようでみんなと違うことを選んだ。

 その両派を合わせたのと同じくらいの数がいるとされる人々は、いったい何を求めているのだろう。その多数は50代のユーザーのようだが、確かに今50歳だとすると、20年前の30歳でWindows 95の洗礼を受け、35歳くらいでケータイメールを使い始め、40歳くらいで「写メ」を撮り溜めるようなり、Windows XPで年賀状ソフトを使い、PCのフルキーボードのタッチタイプでWordによる文書作成ができるようになり、45歳くらいでスマートフォンのトレンドを横目に、ボロボロになった折りたたみケータイを肌身離さず使っているという像が浮かび上がってくる。スマートフォンを触らせたら手足をもがれたように、そのまどろっこしさに途方にくれてしまうにしても、決して機械音痴で低リテラシーではない。それどころか、いわばデジタルの王道を歩んできた層だといってもいい。

 「K」は、第二、第三のガラパゴスを作るだけではないかとKDDIの田中孝司社長に聞いてみた。

 「ガラパゴスとよくいいますが、ガラパゴスがどうして悪いんだという考え方もあるんじゃないでしょうか」。

 という言葉が返ってきた。端末ベンダーにとってのガラパゴスは死活問題に繋がる可能性はあるが、国内でのビジネスを追求するキャリアにとっては、ガラパゴスの何が悪いという発想が出てくるのは、ある意味でむしろ当たり前に近いことなのかもしれない。

どんでん返しは起こるのか

 2つ折りの機構やゴージャスなテンキーなど、フィーチャーフォンはいろんな意味でコスト高だ。キャリアがさまざまな施策で見かけの価格を安くして売らなければ、とてつもなく高価なデバイスになってしまうだろう。メーカー主導で作るわけにもいかないからMVNOにも手が届かない領域となる。仮にSIMロックフリーの時代がやってきたとしても、キャリアと密接に結び付いたサービスあっての端末だから、auから離れるわけにはいかないという面もあるわけだ。

 auは、そのことをちゃんと分かってる。浮気なスマートフォンユーザーより、頑固なフィーチャーフォンユーザーを大事にすることが通信維新時代の手っ取り早い囲い込み方法だという判断なのだろう。

 懸念もある。

 シャープによれば、今、「リンク先など、見れないサイトが増えてきて、間接的仲間はずれになっている気がする」と考えるフィーチャーフォンユーザーが少なくないそうだ。それはすなわち間接的に誰かに迷惑をかけてしまうことになりかねないと疑心暗鬼になってしまうということにも繋がっていく。

 仲間で飲み会を計画し、日程やエリア、メンツなどをSNSで話し合いつつ時間を調整、幹事役の誰かが店の地図を共有し……といったありがちなコミュニケーションの流れの中で支障が出てくることもあるだろう。もちろん確率的には半分がそうなのだから自分だけじゃないという言い訳もできるかもしれない。

 かつてPCがそうであったように、スマートフォンは使えれば自分がそれなりのトクができるデバイスだった。でも、スマートフォンを使えなければ損をする時代となり、その時代を経て、今、人に迷惑をかけてしまう時代になってしまった。ただ、迷惑だと思っているのは2人に1人しかいないということを、冒頭の数字が物語っている。

 フィーチャーフォンのどこが好きで離れられないのかを考えると同時に、彼らはスマートフォンの何がイヤなのかを考えて穴を埋める努力も必要だ。過去の常識にとらわれている中で、既に埋まってしまっている穴もたくさんある。

 拮抗する両派だが、ぼく自身としては、まるでオセロのように、ある一手で黒と白がひっくりかえるタイミングがあるような気がしてならない。早い話が、そのくらいのドラスティックな変化がなければ未来がつまらないじゃないか。

(山田 祥平)