山田祥平のRe:config.sys

聴くメガネをかけて戦闘モードをオンにする

 スピーカー付きメガネなら身にまとう感覚でサウンドを楽しめる。果たしてその実体はというと、スマートグラスの斜め上を行くベーシックなデバイスだ。そこが実にいい。環境音を普通に聞きつつ、仮想現実サウンドをそこにミックスし、長時間続くWeb会議などでも重宝する。MR(複合現実)というほどではないにせよ、現実味を帯びた聴くことのミライが耳元でささやく。

メガネ型スピーカーとしてのEyewear

 ファーウェイのメガネ型スピーカー「Eyewear」がいい。3万2,780円と、衝動買いするにはなかなか勇気のいる価格だが、その軽さ、フレームのバリエーションなど、ガジェット好きにはうれしい面がたくさんある。

 とにかくメガネを模した不自然さがなく、パッと見には普通のメガネにしか見えないのが素晴らしい。また、全国のOWNDAYS(オンデーズ)で度付きレンズ、サングラスやブルーライトカットなど付加価値レンズを購入して交換してもらえる。つまり常用メガネとしての選択肢にもなりえる。

 ほかのメガネショップで引き受けてくれる場合もあるようだが、OWNDAYSはファーウェイとの協業で公式に対応するとのことだ。コラボモデルの販売もある。

 仕組み的にはスマートデバイスとBluetoothで接続し、メガネのテンプル(ツル)に実装された内蔵スピーカーでサウンドを再生する。つまり、耳の至近距離にスピーカーを置くことになる。

 イヤフォンのように耳穴に栓を突っ込むというのではなく、むき出しのスピーカーが耳のそばで鳴る。当然、その音は、大音響ではないにせよ、自分の周辺にも聞こえてしまう。イヤフォン以上ネックバンド未満という距離で身にまとう自分専用スピーカーだ。音質についても十二分に良好で、音楽も十分に楽しめる。

 気になる音漏れだが、それを最小限に抑える仕組みも実装されている。スピーカーの反対側に音漏れ防止ホールと呼ばれる孔が設けられ、そこから再生中のサウンドの逆相音を出すことで、周辺にまき散らすであろうサウンドを打ち消す。いわゆるアクティブノイズキャンセルの仕組みで音漏れを抑える。

 とはいうものの、その音漏れは電車の中で隣にいる人がEyewearを装着して音楽を楽しんでいれば、かなり迷惑に感じるレベルだし、環境によっては通話の内容も筒抜けだ。気休め程度の音漏れ抑止だと思っていた方がいい。

専用アプリと提供元不明問題

 製品のコントロールのためには専用アプリとして「AI Life」が用意されている。Google Playに登録されているが、更新は2年前だ。最新版の入手はファーウェイのAppGallery経由となる。

 Google Playで入手後、最初の起動時にAppGalleryのものに更新されるのだが、提供元不明のアプリとして認識されるので、設定でそれを許可する必要がある。また、インストール後は以前のものと新しいものの2つが同じ名前のアプリとして存在するので、Google Playで入手した最初のバージョンは、手動でアンインストールする必要がある。

 この専用アプリを使わないとできないのは、テンプルをタッチして各種操作をするジェスチャーのカスタマイズ、メガネをかけたり外したりの装着検出のオン/オフ、そして肝心なことだがファームウェアのアップデートくらいなので、提供元不明のアプリをインストールすることに抵抗があるなら、OSの標準機能だけで接続して使えばいい。

 PC用のアプリは提供されていないので、PCだけで使うにしても、メンテナンスのためにはAndroidやiOS用アプリを使う必要がある。マルチポイント対応なので、PCとスマホの同時併用はカンタンだ。

 アプリの悩みは今のファーウェイ製品全般に言えることだ。同社はこの状況を冷静に受け止め、本体だけですべての機能を使えるように努めてほしい。また、それが完全にはできないにしても、できる限り不便がないようにしてほしい。たとえば協業しているOWNDAYSにメンテナンスを委ねるというのも1つの手ではなかろうか。

 ハードウェアとしては、とても優れたものなのだから、特にオーディオや映像関連デバイスのような汎用的なものについては、そうなっていればうれしい。PC用のアプリを用意するというのも1つの手だと思う。

相性のいいメガネとサウンド

 メガネとサウンドはとても相性がいい。ぼく自身は、小学校に上がる前からメガネをかけていて、コンタクトレンズへの移行にも挫折したので、メガネ歴は長く、メガネをかけることにまるで抵抗がない。ただ、コロナ禍のもと、マスクを長時間着用するようになり、レンズの曇りなどがうっとうしくなり、メガネを装着するのをやめてしまった。

 裸眼でもなんとかやっていけるし、近年は、至近距離の文字を読むのにメガネを外すようになってきていたので、不便を感じることもあまりなくなっていた。そんな中でのこうしたデバイスとの出会いだ。

 この製品には出荷時に度数のないガラスが装着されているが、ぼく自身の乱視混じりの視力は、度数のないガラスレンズごしでも見るのが多少ラクになるというメリットがある。それを差し置いても、ガラスを外してしまって素通しの状態で使う提案もできそうなくらいに、メガネ形状とサウンドは相性がいい。

 Web会議のときにメガネをかけるというのは、自分自身を戦闘モードに切り替えるきっかけにもなる。相手の声をクリアに聞こえるようにしつつ、会議中にも自分の環境音が通常通りに聞こえることが、玄関ベルやスマホの着信を聞き逃さないことや、周囲の人との会話をさまたげないというメリットを生む。

 さらに、出かけるときにも、電車内などでは音漏れが気になるが、街を歩いている分には、他人の目ならぬ耳をあまり気にする必要はない。屋外の環境では、環境音がきちんと聞こえることは、危険を回避するためにも重要だ。

 ぼくは、長い間、骨伝導イヤフォンにその役割を担わせてきたのだが、この製品のようなメガネ型スピーカーが新たな選択肢として加わった。

音声アシスタントの使用頻度が高くなる

 最近のサウンドデバイスは、GoogleアシスタントやAlexaに対応している。Eyewearも例外ではなく、アシスタントを呼び出して会話することができる。アプリでジェスチャーをカスタマイズすると、テンプルのダブルタップに音声アシスタントの呼び出しを割り当てることができるようになっている。

 ぼく自身は小心者なので、人に自分の声が聞こえる可能性が高いパブリックスペースで「OK Google」や「Alexa」といったウェイクワードを発声することには抵抗があるのだが、ジェスチャーでアシスタントを呼び出すことができれば、「夕方の天気は?」「今何時?」などと用件だけをつぶやけばいい。それだけのことでアシスタントを使うときのハードルはかなり下がる。結果として、雑踏などのパブリックスペースで音声アシスタントを使う機会が増えた。

 ただ、Eyewearでは、デフォルトの音声アシスタントをGoogleに設定しても、なぜかAlexaが応答し、そして、ロック画面からは使えないという現象に悩まされている。Pixel Buds Proなどでは正常に使えるのにだ。Pixel Buds Proは、イヤフォンのセンサーを長押ししている間だけ、コマンドとして人間の音声を聴く仕様だ。Eyewearは、長押しジェスチャーに対してアシスタント呼び出し割り当てができないので、そのあたりが関係している可能性もある。

 このあたりがすっきりすれば、もっと実用性は高まるに違いない。特に、メガネを常用しているユーザーなら、最も活用できるデバイスになるはずだ。それだけに3万円を超えるデバイスが、バッテリと同時に寿命を迎えてしまうことになるのはサステナ的にも悩ましい。