山田祥平のRe:config.sys

全部入り端末があればこそSIMロック解除に意味がある

 端末にSIMさえ装着すれば通信ができる。当たり前のようだが当たり前ではない。なぜなら端末は通信機で、サービスされているネットワークに対応していなければ通信ができないからだ。だからこそ、全部入りの端末が欲しい。SIMロックフリーよりもキャリアフリーの端末だ。

au端末のSIMロックを解除

 5月19日が発売日だったSamsungのGalaxy S7 edge。手元のau版端末が発売日から180日を経過したのでSIMロックを解除した。新規契約の場合、ドコモは半年後だが、auは181日目から解除できる。ほんの数日だがちょっとトクした感じだ。

 ロック解除はとても簡単だ。auのサポートサイトで、端末のIMEIを入力するとロック解除の可否が表示され、そこからすぐに解除できる。端末が手元にある必要もない。IMEIさえ分かればそれでいい。

 ただ、ロックを解除しても、特に、SMSが送られてきたりするわけではない。また、別事業者のSIMを装着して端末に電源を入れただけでは、SIMロックはまだ解除されていない。装着した状態で端末に電源を入れ、SIM設定で「SIMカードの状態を更新」すると設定ファイルがダウンロードされてSIMロックが実際に解除される。つまり、最初はWi-Fiなどでインターネットに繋いでデータ通信ができる状態にしておく必要があるわけだ。もちろんSIMロックを解除しても、auとの契約を解除するわけではないので、毎月割などを含む各種割り引きはそのまま継続される。

 今、日本のMVNOはドコモのネットワークを利用するところがほとんどだが、UQ mobileやmineoなどはauのネットワークを使うMVNOだ。ドコモMVNOのSIMは、ドコモ端末をSIMロック解除しなくてもいいが、au MVNOのSIMはau端末のSIMロックを解除しなければ使えない。一部報道では、このややこしい状態が解消される見込みだということだが、まあ、正当なエンドユーザーの権利として、SIMロックは解除しておこうというわけだ。料金はもちろん無料だ。

 SIMロックを解除したことで、手元のGalaxy S7 edgeは、au、au MVNO、ドコモ、ドコモMVNOで使えるようになった。試していないがソフトバンク、Y!mobileのSIMでも大丈夫なはずだ。

 au版のS7は、LTEのバンドでB1/18/28/41に対応している。さらに、ローミング時にはB1/3/17/19/41に対応だ。特に場所でバンドが変わるわけではないので、B1/3/17/18/19/28/41に対応ということになる。これがドコモ版(スペックへのリンク1リンク2だとB1/3/7/13/17/19/21/28/38/39/40/41で対応バンドが微妙に異なる。

 au版だからauの使っているバンドに対応しているのは当然として、困ることがあるとしたら、ドコモ系SIMを装着した時にB21が使えないことくらいだ。ここは我慢するしかない。

 また、au機にドコモ系のSIMを装着した場合、VoLTEでの通話ができない。それでも、ドコモ端末をSIMロック解除するよりは、あとの利用にずっと幅が出てくる。SIMロックを解除したドコモ端末でau系SIMを使う場合は、いろいろとやっかいな問題も出てくる。

 ちょっと検索するといろいろ出てくるGalaxyシリーズのサービスモードを使えば、いろいろな対策ができるようだが、それについては、ここでは考えないことにする。

 こうした通信スペックのことを鑑みれば、バンドといい、VoLTE対応といい、最強の対応とも言えるiPhoneはすごいなと思う。

キャリア側にも事情はある

 端末ビジネスと通信サービスは分離して考えるべきだというのがトレンドだ。実際にはその通りだとは思う。だが、キャリアはそれに前向きではないし、MVNOですらラインナップ端末の豊富さをアピールする。

 端末が通信機である限り、対応バンドのことや、最近ではVoLTEへの対応などで、いろいろと問題が出てくるのが分かっている以上、キャリアと端末ベンダーが協力しあって、キャリア個別に最適化した端末を開発して売る方がエンドユーザーは困ることが少なくなるということだ。

 iPhoneのように、全キャリアに対応するのはすごいことだと思うが、周波数などが違えば、最適なアンテナも異なる。それで犠牲になっている部分もあるはずだ。

 例えば、各キャリアともに、海外ローミング時のVoLTE対応には熱心だが、日本のキャリア間でのVoLTE相互接続はいったいどうなっているのか。本当に遅々として進まない。日本のユーザーとしては、海外でのローミング時接続などよりも、こっちをなんとかして欲しいと思う。

 さらに、今後は、4年後のサービスインに向かって5G開発の競争が激化する。各社ともに熱心に開発に取り組んでいる。

 先日、横須賀のYRPにある「ドコモのR&Dセンタ」での「DOCOMO R&D Open House 2016」を取材してきたが、そこでは、基地局ベンダーとの密接なコラボレーションを目の当たりにできた。当然、ドコモのみならず、ほかのキャリアも同様のコラボを進行中であるはずだ。基地局ベンダーは端末ベンダーでもあることが多い。きっと、各キャリアのネットワークに個別に最適化した端末も、同時進行で開発が進んでいるのだろう。

 これでは何のための標準化なのだと言われても仕方がない。4Gネットワークの延長線にある5Gネットワークなのだから、インターオペラビリティは確保されていなければおかしい。でも、いわゆる「過渡期」はまだまだ続く。枯れたように感じる4Gの世界でも、キャリア間の違いがエンドユーザーを苦しめているのだから、5Gへの移行期にどんなことが起こるのかは想像に難くない。憂鬱な予想ではあるが、当分の間、端末と通信サービスは不可分の状況が続くだろう。もし本当なら、かろうじて朗報だと言えるのは、au系MVNOがau端末をSIMロック解除しなくても使えるようになるというニュースくらいだ。

キャリアが違ってもハードウェアが同じなら機能や性能は同じにして欲しい

 結局のところ、SIMロックを解除したところで、それほど利便性は高まらないことを痛感する。海外で現地SIMを使えるようになるといったことはあったとしても、これまた周波数での不便に遭遇する。日本の端末のほとんどは、LTEのB8やB20に対応しないため、海外ではけっこう困ることが少なくない。日本で使い慣れた端末をそのまま使いたいのはやまやまだが、繋がって快適に使えるという点では専用にグローバル端末を用意するか、iPhoneを使うのが賢い。

 これから端末ビジネスがどのようになっていくのかは、まだまだ不透明だ。総務省も電波の免許制をとるなら、キャリアを問わず、日本で免許を与えた全てのバンド、そして形式に対応する端末だけしか売れないようにするくらいの荒療治をしないと状況は変わらないだろう。SIMロック解除をさらに推進し、キャリアを気にすることなく、端末を好きなキャリアで使えるようにするにはそれしかない。
 そんな端末を作って売るには、インターオペラビリティテストもたいへんなら、アンテナ等の実装も工夫が必要だ。当然、端末の開発コストは上がり、それは端末の価格にも反映されるだろう。

 だが、少なくとも、複数のキャリアに同じ機種を納入しているような端末ベンダーについては、それぞれのキャリアに最適化するためのノウハウがあるのだから、全部入りの端末を作るためにかかるコストはそう大きくは違わないはずだ。あとは、キャリアが「それはやめてくれ」と言わない限りは、やろうと思えばやれるんじゃないか。実際iPhoneはそれをやっている。

 今回SIMロックを解除したGalaxyが、au版とドコモ版でハードウェアに違いがあるのかどうかはエンドユーザーには知る術がない。Xperiaだって同じだ。仮にハードウェアが同じなのに、ソフトウェアやファームウェアで有効無効を切り替えているのだとすれば、そちらの方を何とかすることから始めて欲しい。そんな総務省意向なら歓迎するし、ベンダーやキャリアが自主的にやるなら、もっといい。