メーカーさん、こんなPC作ってください!

ミキサーを使った一歩上行くニコ生/YouTuber向けPCを作る【検証編】

 ライターの仕事をしている自分が生放送番組を持つようになるなんて、以前はまったく考えてもいなかったが、現在は隔週火曜日の夜9時からDTMステーションPlus!というニコニコ生放送の番組を展開している。ニコニコ放送を始める前のUSTREAMでの放送時代から数えればちょうど2年が経過したところだ。

 一緒にやっている作曲家の多田彰文さんがいるからこそできている番組であり、配信回りは全て多田さんにお任せではあるが、番組内容の企画から宣伝、そして設営、オーディオ機器や映像機器のセッティング、ゲストのアテンドから撮影、もちろん出演して、場合によっては演奏までして、それを放送するところまで2人だけで回しているのだから、なかなかパワーがいる。とは言え、それができてしまうのだからすごい時代である。まさに草の根放送局ではあるが、2年も続けてきたことで、多くの人が見てくれるようになり、最近ではタイムシフト視聴も合わせると1,500~2,000人の人たちに見てもらえるようになった。

 そんな音楽番組を展開しているからこそ、放送におけるサウンドのクオリティには細心の注意を払いつつ、できるだけいい音で届けられるよう工夫をしているが、音をどう届けるのかというのはなかなか難しい問題だ。

 そんな中、先日、ヤマハからニコニコ生放送やUSTREAMなどでの放送を行なうための機材が発売された。「AG03」、「AG06」そしてAG03に初音ミクのデザインを施した「AG03-MIKU」というのがそれ。これを使うことで、手軽に高音質にネット放送環境を整えることができるのだ。

AG03-MIKU

 このAG03の機能を一言で表現すれば、USBでPCと接続可能なミキサー。マイクやギター、オーディオ機器などの音をミックスできる機材なのだが、同時にPCの再生音もミックスすることができ、そのミックス結果を再度PCへ送ることができるため、それを放送できるというわけだ。Windows Media PlayerやiTunesで再生させた音、またゲームを含むアプリケーションが出すサウンドを放送することなんて簡単なように思えるかも知れないが、これがなかなか難しく、皆さんいろいろ工夫して取り組んでいるというのが実情。そして、ここがいい加減だと、放送するサウンドの質に大きな影響を与えてしまうのだ。ゲーム実況などでも、音質がいまいちなものがあるのは、そのためでもある。ところが、AG03などを使えば、それを高音質に配信できるとともに、マイクなどとの音量バランスを自由に行なうことも可能になっている。

 ただし、ミキサーだけ持っていても放送はできない。当然PCを用意する必要があるわけだが、それにはどんなマシンが必要になるのだろうか?

 それに見合うマシンを作ってもらおうと前回の記事で、パソコン工房さんに仕様の選定をお願いしたわけだが、その結果、2台のマシンが手元に送られてきた。いずれもIntelの「NUC」と呼ばれる小さな小さなデスクトップマシンで、Core-i5のCPUを搭載した上位モデルとCeleronを搭載した下位モデルの2台である。そう、前回のミーティングの結果を踏まえた“ニコニコ生放送に特化したマシン”と、“録画した動画を編集したり簡易的なDAWにも使えるマシン”ということで2つ作ってもらったのだ。

下位モデルの仕様
OSWindows 8.1 Update 64bit
CPUCeleron N3050(Braswell)
メインメモリDDR3L-1600 4GB
SSD120GB SSD
GPUIntel HD Graphics
キーボード日本語キーボード
マウス光学式マウス
税別価格4万円台
上位モデルの仕様
OSWindows 8.1 Update 64bit
CPUCore i5-5250U(Broadwell)
メインメモリDDR3L-1600 8GB
SSD240GB SSD
VGAIntel HD Graphics 6000
キーボード日本語キーボード
マウス光学式マウス
税別価格8万円台
左が下位機種、右が上位機種
下位機種

 というわけで、実際にこれで放送ができるのかなどを試してみた。まずはCeleron搭載の下位マシンからだ。

 早速AG03のドライバおよびAG DSP Controllerというユーティリティソフトをインストールし、USBケーブルでPCと接続。とりあえず問題なく動作している。試しにマイクやギターを接続して音を出してみたが、AG03本体にはコンプレッサやイコライザ、リバーブ、さらにはギターアンプシミュレータなどのエフェクトが搭載されているため、PCのCPUパワーを一切消費することなくミキサーとして使うことができる。非力なCPUではあるが、全く負荷がかからず、軽快にサウンドの入出力ができた。ギター、コンデンサマイク、AUX入力からのオーディオ入力を試す一方、PC側からはWindows Media Playerで再生するサウンドを出してみたが、こちらもほかのマイクやギターなどの入力と合わせてミックスすることができたることを確認した。

 もちろんニコニコ生放送を行なう上ではオーディオだけでなくカメラも必要だ。そこで今回は12,000円弱で入手可能なロジクールのカメラ「c920t」を用意してもらった。USB接続のこのカメラはWindows 8.1においてドライバをインストールする必要もなく、接続すればすぐに使えるようになっている。このカメラは1,920×1,080ドットのフルHDを撮れる性能を持っているだけに、ニコニコ生放送用のカメラとしては十分な画質だ。なお、ステレオのマイクも搭載しているが、マイク性能はやはりAG03を経由したレコーディング用のコンデンサマイクの方が遥かに高音質であるために、カメラ搭載のマイクは基本的に使わない。

 では、ここから実際の放送にチャレンジするが、これから初めてニコニコ生放送にチャレンジするという人のために、簡単にその手順を紹介しておこう。

 ニコニコ生放送デビューするためには、どのようにすればいいのか。そのためには事前準備としてニコニコ会員のプレミアム会員に登録する必要がある。ご存じの通り、ニコニコ動画には無料会員と月額540円のプレミアム会員の2種類が存在するが、ニコニコ生放送を放送するためにはプレミアム会員である必要があるのだ。

 その会員に登録した上で、ニコニコ生放送を行なうことができるコミュニティーというものに事前登録しておく必要がある。このコミュニティー自体は自分で作ることもできるので、とりあえず試してみたい、ということであれば自分のコミュニティーでこっそり放送するというのも手だ。

 こうした事前手続きが終わったら、ブラウザでニコニコ生放送の画面の右上にある「放送する」ボタンを押す。すると、「新規番組登録」という画面が現れるので、ここで所定事項についての記載を行ない、「ニコニコ生放送利用規約」の利用規約に同意する。これによって、放送画面に切り替わる。

プレミアム会員登録が済んだら、「放送する」を押す
タイトルなどを入力
「放送を開始する」を押す
放送画面

 このブラウザ上での放送画面だけでもセッティングして、放送開始することは可能だが、より高音質、高画質に放送を行なうのであれば、外部ツールを利用して配信するのが望ましい。この外部ツールには市販の高価なものなどもあるが、ここでは無料で入手できる純正の「Niconico Live Encoder」を利用することにする。このソフトを事前にインストールした上で、ブラウザ上の放送画面の外部ツール配信タブを選ぶと右下にNiconico Live Encoderのボタンがあるので、これをクリック。するとNiconico Live Encoderが起動する。

「外部ツール配信」タブの「ニコニコ生放送公式配信ツール」を押す
Niconico Live Encoderの画面

 ここで、まず映像ソースとしてロジクールのc920tを設定するとともに、音声設定のデバイスとしては「ライン(AG06/AG03)」を選択すれば、とりあえず準備は完了。Niconico Live Encoderにはc920tが捉えた映像が映し出されるとともに、AG03からの入力に応じてレベルメータが動くはずだ。

音声設定のデバイスとして「ライン(AG06/AG03)」を選択
「映像ソース」として配信に使うカメラを選択
下位機種にAG03-MIKUやカメラを接続してニコニコ生放送のテスト放送を行なっているところ

 ここまではとっても順調にいったが、ここで大きな問題が起こった。とりあえず、音声、ビデオ設定はデフォルトのまま、配信開始ボタンを押した。これによって、放送が始まるわけだが、その放送内容を別の環境で見てみると、音はブチブチ、画像もギクシャクしていて、まともな放送になっていないのだ。おかしいと思って、マシンの負荷を見たところ90~100%となっていて、完全に処理能力を超えていたのだ。新しいBraswellコアと言えども、リアルタイム配信には無理があったようだ。

Celeronマシンではニコニコ生放送の配信を行なうとCPU負荷が90%を超えてしまった

 今回の目的はできるだけ高音質に配信すること。そのため、詳細設定において、配信ビットレートをステレオ152kに設定。これで音はステレオで152kbpsの品質が保証される。同時に、画質は、最高で1,024×768ドットの解像度まで上げられるものをデフォルトの640×340ドットのままにし、コマ数をデフォルトの15.00コマ/秒から落としてみることにした。これを最低の5.00まで落とすと、負荷は60%前後へと低減した。多少映像の質は落ちてしまうが、この程度であれば、そこそこ安定した放送はできそうだ。無理をすると11.00コマ/秒であれば負荷85~90%でなんとか放送ができる範囲。ただし、PC上で何か別アプリなどを動かすとかなり厳しくなりそうなので、その辺の様子を見ながら調整する必要がありそうだ。

音声の品質ビットレートを「ステレオ152k」にして品質を確保
一方、画質は「5.00コマ/秒」にまで落とした
これでなんとか負荷は60%前後に落ちついた
「11.00コマ/秒」がぎりぎりの線だった

 では、同じことをCore-i5を搭載した上位マシンで行なうとどうなるのだろうか? 手順自体はまったく同じだが、5.00コマ/秒で放送してみたところ、CPU負荷は15%前後とずいぶんと余裕が出た。また15.00コマ/秒としても20%前後で、かなり安心感が出てきたし、実際の放送も安定した。こうしたことを総合的に考えると、上位マシンであれば、余裕をもってニコニコ生放送を実現できる。ただPCの価格のことを考えると、Core-i5までいかずにCore-i3あたりでもそれなりのことができるのでは……と感じた。

Core i5の上位マシンだと「5.00コマ/秒」ではCPU負荷は15%前後
「15.00コマ/秒」でも20%程度に留まる

 AG03の設定をどのようにしたのかも簡単に解説しておこう。AG03はマイク、ギター、ライン入力、AUX入力など、切り替え式で、外部から計5chの入力ができるとともに、PCのiTunesやWindows Media Playerなどで再生する音をミックスすることが可能となっている。その音は全て、AG03に接続したヘッドフォンやスピーカーから流すことができるが、通常はPCから出力された音はPCへ戻らないようになっている。つまりWindows Media Playerなどで再生した音を放送に載せることはできない。だが、TO PCというスイッチをLOOPBACKに設定すると、一般的な機器ではできないループバック再生が可能になり、Windows Media Playerなどの音を放送することが可能になるのだ。

 また、前述のAG DSP Controllerを操作することにより、マイク入力にコンプレッサをかけて音圧を整えたり、イコライザを使って聴き取りやすい声質に調整することができるほかリバーブをオンにすれば、エコーがかかったような反響があるサウンドに仕立てられる。これを利用することで、歌ってみたなどを行なう場合には大きな威力を発揮する。またAG03に接続したギターに対しては、ギターアンプシミュレータを使うことで、歪みの効いたパワフルなサウンドを実現することができる。

AG DSP Controllerによって、イコライザー、コンプレッサー、リバーブ、ギターアンプシミュレータの詳細を設定できる

 ところで、ニコニコ生放送を行なうという目的だけでなく、ニコニコ動画やYouTube向けに動画を撮影/編集する上でもAG03は威力を発揮する。これについては、そもそもCeleronマシンでは厳しいと思うので上位マシンを使って試してみることにする。

 まずは、撮影ということが必要だが、前出のc920tを使って行なう場合、Windows 8標準のカメラというアプリケーションを利用することでフルHDでビデオを撮影が可能になり、その結果はMP4の形式で保存できる。

 YouTubeなどにアップロードするにあたっては、多かれ少なかれ編集が必要となるが、今回はSony Creative Softwareの「Movie Studio 13」に取り込んでみた。さらに、アフレコの形でMovie Studio 13にてギターをレコーディング。その後、簡単な編集を行ない、MP4でのビデオ書き出してをしてみた。結果として、全くストレスなく作業をすることができた。ただし、最後のエンコードにはそれなりに時間はかかる。実際33秒の長さのテスト映像をMP4に書き出すのに2分48秒かかった。

c920tで1080pで録画した動画
Movie Studio 13に取り込んだところ
編集を終え、MP4で書き出す
33秒のMP4エンコードにかかった時間は2分48秒だった

 また単純にDTMマシンとして使えるかどうかのテストも実施。ここでは、AG03にバンドルされているDAW「Cubase AI 8」を起動して、レコーディングしてみた。さらに既存データである30トラック程度のプロジェクトを再生してみたが、負荷的にも問題なく使うことができた。このマシンなら、ある程度高度な音楽制作すらこなせると言える。

AG03に付属の「Cubase AI 8」で高度なサウンド編集ができる
マルチトラックサウンドでも、ストレスなく処理できた

 と言うわけで、下位モデルは課題があるが、上位モデルは想定した通りの性能を持っていることが確かめられたので、マシンとAG03やWebカメラのセット商品が近く発売になる見通しだ。下位マシンについては、今回の結果をパソコン工房に伝えてあり、現在下記のような検証、調整を行なっているそうだ。

パソコン工房からのコメント

 弊社の事前検証において、Celeronの下位モデルでは、かなり苦しいであろう結果も出ていたので 推奨はCore i5モデルとしつつ、実環境での最適化のノウハウを十分にお持ちの藤本さんに、Celeronモデルでも設定の工夫などで実用に耐えうるかどうかを見ていただきました。

 結果、Celeronではやはり実用的に厳しいことが分かりました。これを受け、下位モデルが「Braswell」コアの新しいCPUベースであることを念頭に、ファームウェアやドライバ面からも念のため再検証し、ハード性能の不足であれば、藤本さん側で実績のあるCore i3のモデルなどで下位モデルを検討いたします。

 そして、もう1つ。この検証で、AG03にコンデンサマイクを繋げることで、Webカメラのマイクなどよりは遙かに高音質で配信/撮影できると書いたが、具体的にどう変わるかは文字では分かりにくいだろう。そこで、Impress Watchのチャンネルを通じて、今回の環境を使った実演デモをニコニコ生放送で実際に配信することにした。

 日時は8月12日の21時から。URLはhttp://live.nicovideo.jp/watch/lv230477922。ゲストにシンガーソングライターの中原涼さん、ギタリストの堀良一さんをお迎えしてお届けする予定。ぜひ、こちらも合わせてご覧いただきたい。

(藤本 健)