AliExpressの迷い方

コスパ最強のRaptor Lakeを求めて

円安でも1万円を切る衝撃価格

 2021年末に登場した「Alder Lake」は久しく感じていなかった飛躍感を思い出させてくれる製品だった。PコアとEコアのハイブリッド構成になった新しいCPUアーキテクチャだけではなく、DDR5、PCI Express Gen5とプラットフォーム側も一気に進化を見せ、物欲が刺激されたが、コスパ主義者の筆者はアーリーアダプタ税を払う気は一切ない。DDR4ならコスパ良く組めるが、せっかくなのでDDR5メモリの価格が落ち着くのを辛抱して待つことにした。

 その後Zen 4の登場によって普及が加速したDDR5が、今年(2023年)に入ってDDR4に迫る価格になってきた上に、Raptor Lakeも登場してついに物欲を抑えられなくなってしまった。それでもDDR5マザーボードの割高感を睨めながら物色していると、AliExpressで並のDDR4マザーボードより安いB760 DDR5マザーボードを見つけてしまった。

 今回はそのマザーボードと、同じくコスパを追求してたどり着いた中国限定のCore i5-13490Fについて報告する。

コスパが“高すぎる”マザーボードJginyue B760M Gaming D5

 マザーボードのブランドは「精粤」と書いて英語表記は「Jginyue」発音は「ジンユェー」という、日本では馴染みのないブランドだが、中国では山寨マザーボードとして少し前から出回っている。数年前までは旧世代のマザーボードを生産していたが、最近は現行世代の製品も出しており、デザインや機能もトレンドを把握している。

 LGA1700プラットフォームでは一般的なH610のDDR4マザーボードが1万円を超える中、B760搭載のDDR5マザーボードが9千円台というのは見つけた時は衝撃だった。メモリスロットが2個というのは、低価格microATXマザーボードなのでしょうがないが、M.2スロットがNVMe用に2個、Wi-Fi用に1個あるのはうれしい。さらにファンコネクタが4つあり、デバッグLEDがあり、ARGBヘッダもあり、VRMにヒートシンクがついている点も地味にうれしい。

 ただ、最近流行りの白基板なので、筆者のように白でパーツを揃えたい衝動で無駄なお金を使ってしまうところは、注意しなければならない。

 注文から7日後に到着した実物を見ていこう。

 箱は単純なデザインで、付属品はSATAケーブルとI/Oシールド、保証書のみで、マニュアルは入っていない。通常マニュアルはダウンロードすればいいのだが、この記事を書いている時点でJginyueの公式Webがダウンしているので、マニュアルもBIOSアップデートも入手できない状態だ。一応注文した時点では存在したので、いつの日か戻って来ると願おう。

 中国からマザーボードを購入するときによくあることだが、BIOS用電池は抜かれている状態で到着する。これは一般郵便でリチウム電池の郵送が禁止されることが多いためだ。

 同封されるI/Oシールドは複数モデルに対応するため、自分でいくつかのタブをノックアウトする必要がある。

 B760M Gaming D5の場合はPS/2ポート、DisplayPort、ミニD-Sub15ピン、LANポートすべてを事前にノックアウトする必要があり、筆者みたいに設置した後気づいてなんとか取ろうとすると上手くいかずに、指を切ることになる。

I/Oシールドは専用ではないため、手作業が必要

 筆者が受け取ったマザーボードは製品写真と少し異なるところがあり、チップセットのヒートシンクのフィンが一部削られていた。これはおそらくオープンエンドのPCIe x4スロットにx16カードを挿した場合でも干渉しない工夫だが、ロット次第では製品写真のとおり干渉するヒートシンクが来る可能性もある。

チップセットヒートシンクが一部切断されており、PCI Express x16カードを刺せるようになっている

 電源回りはRichtekの「RT3628AE」という8+1+1フェーズコントローラに、APECの4062C+ 4064C MOSFETの組み合わせ。DrMOSは採用していないが低価格マザーボードでは一般的だ。MOSFETの方は馴染みのないたブランドだが、スペックを見る限り58Aに対応しているため、特に問題はないだろう。

 1つ気になったのは、DDR5メモリとPCIeコネクタが両方スルーホール実装だということだ。必須ではないが、DDR5ではスルーホールコネクタのスタブによる差動信号の劣化を防ぐために面実装が推奨されており、PCI Express 5.0に至っては筆者が知る限り面実装のコネクタしかない。メモリとPCIeコネクタは一般的な面実装部品より大きく、従来の面実装の生産ラインに乗せるのは難しいため、このマザーボードではコストを抑えるために割り切っているのだろう。

 AliExpressの商品ページでもPCI ExpressスロットがGen5に対応しているとは明記されていないため、Gen4までしか対応しないと認識して良さそうだ。現時点ではDDR5と違って、使いたいPCIe Gen5対応製品がないので、ダメージはない。

 32GT/sで動作するPCIe Gen5に比べて、8GT/s以下で動作するDDR5については面実装ではなくても基板材料がしっかりしていれば動作はするはずだ。商品ページではDDR5-7000までサポートすると書いてあったが、少なくとも筆者の環境ではDDR5-6000は問題なく動作できた。

中国限定の黒箱CPU、Core i5-13490F

黒い箱で物欲がそそられる

 Core i5-13490Fは中国限定のiGPU非搭載型番のCPUだ。AliExpressではリテール版が13400Fと同価格、バルク版が13400Fより10ドル高いぐらいで販売されている。その差は13490Fに純正クーラーが付かないからだろう。リテール版は黒い箱に入っており、“Black Edition感”が出ている。

 AliExpressの新品CPUは、基本的に日本で買うのと同価格か少し高い。日本で買えるCPUは日本で買ったほうが保証も受けやすく安心なのだが、これなら取り寄せる価値はある。

Core i5-13400(F)Core i5-13490FCore i5-13500
コア数6P/4E6P/4E6P/8E
Pコアクロック2.5GHz~4.6GHz2.5GHz~4.8GHz2.5GHz~4.8GHz
Eコアクロック1.8GHz~3.3GHz1.8GHz~3.5GHz1.8GHz~3.5GHz
L2 キャッシュ9.5MB9.5MB11.5MB
L3 キャッシュ20MB24MB24MB

 スペックについては、型番はかなりCore i5-13500に近い数字に見えるが、コア数はCore i5-13400と同じだ。そのかわりクロック数とキャッシュはCore i5-13500と同じになっている。実アプリケーションにどう影響するのか、パフォーマンスの検証は記事の後半で行なう。

 こちらも注文から1週間で到着。余談だが、最近AliExpressの輸送が以前より速い。日本上陸したばかりのTemuはもっと速いが、こちらは自作PC部品のような少しでもニッチなものになるとセレクションが少ないのでまだ活用できていない。

 筆者は輸送時壊れる確率を下げるために、箱に入っているリテール版を買ったので、黒い箱で来たが、日本で買うのと違いバルク版もリテール版も売り手の15日保証しか望めないし、そもそもクーラーなし製品なので輸送で壊れた場合、クレームを入れる手間を惜しまない人はもう少し安いバルク版で良いだろう。

山寨マザーボードで Raptor Lake PCを組んでみる

 CPUとマザーボードが到着したところで、早速まずは動作確認としてバラックで仮組みしてみた。しかし、初っ端から起動しないという絶望を味わうことになった。最小構成としてメモリはKlevv のDDR5-4800品、iGPUなしのF番台CPUなので、Quadro K620を刺して起動したら、デバッグLEDはGPUで止まってしまった。

 K620が壊れたのかと思いGeForce RTX 3090で試しても同じ症状、GeForce GTX 1060でやっと起動してくれた。

 念のためK620もGeForce RTX 3090も別のPCで動作確認したが、これらは壊れていない。

 ……そして今度はGeForce RTX 3090をライザーケーブルを通して刺したら起動した。

 あれこれ試したところ発覚したのが、単純にPCI Express x16コネクタの接触が不安定だった。K620も後から試すと時々動作するが、GeForce RTX 3090の直刺しはなかなか動作しない。

 最後にきちんとケースに入れて、GeForce RTX 3090を念入りに差し込んでしっかりねじ止めすると、やっと安定してGeForce RTX 3090で起動するようになったので、このマザーボードのPCI Express x16コネクタがカードの傾きに弱いと推測できる。

 BiliBiliとDouyin(中国版Tiktok)で情報収集しても、PCI Expressで難航している人はいなかったので、個体差なのかもしれない。そもそもきちんとケースに入れてねじ止めしていない状態で動かそうとした筆者悪いとも言えなくはないが、マイナーブランドの低価格製品レベルの品質管理だと割り切る必要があるだろう。

白くないのはたくさん余っているのに、白に合わせるために白ケース、白ヒートシンクを購入した

 動作したところで、次に苦労したのがUEFIだった。まず入ると全部中国語。英語に切り替えるメニューも中国語表記なので、漢字が読める日本人はともかく、漢字圏以外ではここで撃沈するだろう。

 入ったあとも見慣れない項目がたくさんある。リファレンスデザインのUEFIをほぼそのまま持ってきており、コンシューマ向け、ゲーマー向けの項目を絞るなどの洗礼がされていないという印象だ。設定可能項目が多い方が欠けるよりましだが、使いにくいところや挙動が複雑なところがある。

 たとえばARGBの設定はR/G/Bの値を0~255決められるだけで、変化などはないうえに、欲しい色のRGB値をユーザーに計算させるお仕置き仕様だ。

 もう1つ肝心なところでいうと、メモリスピードの設定。分かりにくいのでDouyinでガイドをいくつか見たところ、要約すると以下の通りになる。

  • OCまたはXMPを使いたい場合は電圧設定項目を1.3Vか1.4Vにしなければいけない
  • ただしこの項目は本当の電圧設定ではない、でもやらないとうまくXMPが起動できないだけ
  • 本当の電圧設定は下にスクロールすると出てくるVDDとVDDQをmV単位でセットする必要がある

 新BIOSでの改善を紹介している動画もあったが、公式サイトがダウンしているので今回試すことはできなかった。幸い、筆者のメモリは動画ガイド通りに設定するとすんなりDDR5-6400までオーバークロックできて、安全なマージンを取り、今はDDR5-6000で運用している。低価格マザーボードではそもそもオーバークロック項目が足りなかったり、有って石の性能を引き出せなかったりするのは当たり前なので、ここは高評価できる点だ。

パフォーマンスはいかに?

 ここまでコスパと連呼してきたが、実際パフォーマンスはどうだろう?

 マザーボードのパフォーマンスはベンチマークスコアよりフィーチャーが重要なので、同価格帯の製品と比べてDDR5をサポートしてお。りM.2スロット数も豊富、メモリOCも難なくこなせている時点で・UEFIの使いにくさを差し引いても優秀と言って良いだろう。

 以下ではCPUを軸に現時点でコスパ最高と言える Core i5-13500と比較して、「Core i5-13400Fと同価格でどこまで13500に近づけるのか」を評価したい。

 今回検証に使ったPCのスペックは以下の通りだ。

CPUCore i5-13490FCore i5-13500
CPUクーラーThermalright Silver Soul 110
マザーボードJginyue 760M Gaming D5
メモリEssencore Klevv DDR5-4800(DDR5-6000にOC) 16GB x2
ビデオカードZotac RTX3090 Trinity
ストレージPNY CS2241 512GB PCIe Gen4x4 NVME
電源Corsair HX1200i
ケースThermaltake S100 TG

 まずはCinebench R23とGeekbenchでCPUの純粋なパフォーマンスを比較すると、予想通りの傾向になった。シングルスレッドだと全く同じスコア、マルチスレッドだとEコアが4つ多い分13500が高いスコアになり、Cinebenchにおいてはその差は24%とかなり大きい。

CPU周りのベンチマーク結果

 3DMarkにおいてCPUスコアはCinebenchと同じ傾向を確認できるが、Graphicsスコアの差は3~5%台にとどまった。物理演算というCPUを使い切るベンチマークだと24~25%の差が出ることを再確認できた。

3DMarkの結果

 PCMarkでは意外なことに、Productivityで13490Fが逆転し、総合スコアは誤差の範囲にとどまった。Productivityではワードプロセッシングとスプレッドシートがテストされるため、マルチスレッドはあまり使われず単純にクロック周波数がスコアに影響しやすい。それでもベースクロックとブーストクロックが同じである以上、13490Fが逆転することは不可解だ。唯一考えられるのは、13490Fがより長い、または高いターボブーストをしたのだろう。

PCMark 10の結果

 最後にゲームベンチマークでは旧作でGPUバウンドの「FarCry 5」では3%、「FFXV」と「Blue Protocol」では6%と8%の差を確認できた。これを見る限り、ゲーム用途では、残念ながら13490Fは13500というより、13400に近いパフォーマンスになっている。

ゲームベンチマーク

 13500には、iGPUがない“F”のSKUがないので、完全にフェアな比較ではないが、この記事を書いている時点で2つの製品の価格差は約6,000円、または2割前後だ。Cinebenchや3DMarkのCPUでは2割以上の差が出ているので、マルチスレッドが効く用途ではやはり13500のコスパが高く、その恩恵を受けるユーザーは迷わず13500を選ぶべきだ。オフィス用途ではPCMark10では逆転するシーンを見せてたが、ディスクリートGPUが不要なユースケースではそもそもiGPUがない13490Fが選択肢に入らないだろう。

 ゲームでは2割安くて3~8%遅いと考えれば悪くなく、言い換えればCPUで6,000円浮けば、同じ予算内でGeForce RTX 3060からGeForce RTX 4060に変えられると考えれば、しっくりくるかもしれない。

 残念ながら「Core i5-13500に迫る!」とは言えない結果となったが、それでもCore i5 13490Fは13400Fと同価格で上位互換、用途次第では最良のコスパを提供する選択肢になりえる。特に、ほかの人が持っていない「限定品」に弱いユーザーにはお勧めできるCPUだ。

 なお、おなじ中国限定CPUで、12490Fや13790Fも存在するが、前者はEコアがなくて面白くなく、後者はコスパが微妙なので筆者は検討しなかった。12600KFは同じC0ステッピングダイでコスパも良さそうで最後まで悩んだのだが、最終的には「限定品」という響きに傾いた形になる。

 ここまで読んできた読者は、マザーボードメーカーのWebサイトが数週間ダウンしてても挑戦する勇気を持つ玄人だと信じている。その上でこれから限られた予算でPCを新しく組もうと考えている読者には、ぜひJginyue 760M Gaming D5とCore i5-13490Fの組み合わせで予算を浮かせ、他の部品のランクアップに当てることを検討してほしい。

 ただし筆者の場合、白い部品に当ててしまい、無駄遣いになってしまった。この記事を書きながら、既にGeForce RTX 3090を持っているのに白いGeForce RTX 3060 Tiをポチろうとしているようなダメな人にならないように注意してほしい。