AliExpressの迷い方
一家に一台レーザーカッターの時代がやってくる
2021年5月26日 06:55
レーザーカッター。それは誰もが一度は憧れる機械だ。近年は3Dプリンタの普及と知的財産のオープン化の恩恵を受けて、クラウドファンディングなどで個人やホビー用でも手が届く機種も増えてきて身近になりつつある。そのおかげでかなり使えるダイオードレーザーを3万円前後で導入できたので、注意点も含めて報告しよう。
手が届くレーザー
今回AliExpressから買ったのは、NEJE製の「Master 2S Plus 30W」。型番がアップルをリスペクトしすぎている感があるが、着々と進化と改善を繰り返してきたシリーズだ。
筆者は3年前にNEJEの500mWのレーザー彫刻機を購入したことがあるが、その頃は未熟で、オモチャレベルだった製品ラインアップも、Masterシリーズ登場以降はMakerやホビー用途で十分使えるようになっている。
特に2S以降ではGRBL1.1をサポートしているので、純正ツールに縛られず、LaserGRBLやLightBurnなどのサードパーティツールを使えるようになったのは大きい。
30Wというのは出力ではなく入力パワーで、光学出力は7.5Wだ。金属やガラス以外はほとんどの物にマーキング可能で、カットは木材や樹脂なら8mmまで可能だ。金属もアルマイト加工されたアルミなどの表面加工を剥がす形でマーキングが可能なのでMacBookなどにも使える。
カットの性能は、出力だけではなく光の収束度合いに左右されるため、ダイオードレーザーを採用しているMaster 2S Plusでは、どんなにコリメーターレンズで頑張っても拡散してしまうため、カットできる厚さは8mmに留まる。NEJE Master 2S Plusは40Wモデルもあるが、できることは変わらず、速くなるだけである。
今回は普通送料が13ドル、DHL送料が18ドルだったのでDHLを選んだ。DHLが個人宅に届ける場合は佐川急便などの国内のパートナーが配達するため、受け取りはとてもスムーズ。注文から4日という、越境を感じさせないスピードで届いた。
コントローラをチェック
届いたレーザーカッターは組み立てが必要だが、XとY軸のレールを取り付けて、レーザーモジュールにケーブルを挿すだけだ。標準的な2020アルミフレームを使っているため、まずすべてをゆるく仮組みして、相対位置が決まってからすべて締めると、遊びやゆがみなく仕上がる。
このモデルはBluetooth搭載でモバイルアプリからもコントロールできるが、こういう製品は技適マーク付きモジュールを採用している可能性は低い。組み立てる前にコントローラ部分を分解して確認したら、やはりBluetoothは日本では使いないものだった。件のコントローラICは「BK3432」、有線用にUSB→シリアル変換の「CH340」を使っているので、おそらくBluetoothはただのシリアルポート用だろう。Bluetoothは設定で切れないので、BK3432のデータシートを調べて、電源ピンつながる線を切れば対策OKだ。
ついでに基板上のほかのICを見ると、なぜかマイコンが2つ、8bit 8051コアのSTC製「STC8A4K32S2A12」と、32bit ARM Cortex M3コアのGiga Device製「GD32F103C8T6」だ。前者は聞いたことないメーカーだが、後者はSTM32互換マイコンでよく見かける。広く普及しているSTM32F103C8T6の互換品で、クロックアップ(72→108MHz)とフラッシュ読み込み周りの改善が施されているものだ。
さらにペリフェラルとして、USB→シリアル変換用のQinheng製「CH340」、傾き検知用にSTM製「LIS3DH」、プログラム収納用のPuya製「P25D32H」32Mbit NORメモリ、ステッピングモーター制御用にHeroic製「HR4988」(Allegro製A4988互換品)が使われている。
製品Wikiを見ると、STC8の方はNEJE純正ソフト用で、GD32はGRBL1.1をサポートしているらしい。ペリフェラルとの通信はシリアルI2Cバスなので、両MCUからアクセス可能なのだろう。スペックから見れば、USB機能もついているGD32があれば、STC8もCH340も要らないが、過去の資産を使い開発の工数を減らすためにSTC8とCH340を残したのだと思われる。
早速テーブルを燃やす
初起動で純正ソフトを使い、低出力+高速度でマーキングを試そうとしたら、今まで0.5Wクラスのおもちゃレーザーしか使ったことない筆者の感覚が仇となり、マーキングしようとした厚紙を貫通して、下の木製テーブルを焦がしてしまった。幸い古い安物テーブルを使っていたので焦げても問題ないのだが、ここで1つ問題が発覚する。貫通前提のカット動作だと、下のテーブルが必ず焦げて、その煙と灰でカットしようとしている素材が汚くなるのだ。
どうやらNeje Master 2Sはレーザーカッターを使う上での必需品であるハニカムテーブルが付属していなく、別途買う必要があるようだ。しかも製品写真には写っているのに、アイテムリストにないので文句も言えないというトラップなので、これからレーザーカッターを買う読者は気を付けよう。
ちなみに目を保護するゴーグルは付属するが、使用中は必ず装着すること。当然だが、絶対直視したりはしないように。散乱した光の観察も危険だ。また、扱い方を誤れば火災に繋がりかねないので、くれぐれも周囲の安全には万全を期したい。
ソフトウェアの選択肢
NEJEの純正ソフトはマーキング用途ではとても使いやすく、筆者は小物のロゴ入れや名入れではNEJEソフトウェアを使っている。
NEJE純正ソフトだと基本的にスキャンニングモードで動作するため、マーキングには向いているが、カットには使えない。
一応カットという項目はあるが、マーキングした絵柄を切り出すためのものだ。
カットをする場合は、冒頭で触れたLaserGRBLやLightBurnを使ったほうがいい。筆者はOSSのLaserGRBLを使ったが、画像データさえ用意すれば操作はとても簡単だ。データ自体は画像ファイルをインポートしてエッジ検出でパスを作るのが一番簡単だが、寸法も含めて正確にカットしたい場合、ベクターデータを用意する必要がある。
LaserGRBLはSVGだけサポートしているので、OSSソフトのInkscapeを使えばデータを作れる。画像ファイルをインポートする場合は、スケーリングなどのオプションがあるが、ベクターデータを使う場合は問答無用で0,0を原点にした1:1スケールでインポートされて、それ以上の編集はLaserGRBLではできない。ベクターデータを使う場合はInkscapeで原点やスケール、回転などを施し済みのデータを作る必要があるわけだ。
筆者の場合使い慣れたFusion 360(個人のホビー用途は無料)でデータを作った後、InkscapeでSVG変換した。
ファンガードを作ってみる
実際試した感想としては、カットの難しいところはパワーとスピードと回数の設定の最適化ということだ。たとえばアクリルの場合、パワーが高すぎる、またはスピードが遅すぎると周りが溶けてきれいな断面にはならないが、パワーが弱いと永遠に終わらない上に、ある程度の深度以上光が拡散して切れなくなってしまうのだ。
正解はパワー100%、スピード速めで、切れるまで何回も繰り返すことだが、きれいに切れるまでは何回か試行錯誤する必要がある。アクリルを加工する場合は有害な煙が出るので換気も大事だ。レーザーの一点集中から出てくるわずかの煙なので、プラモデルの塗装ブースで使うレベルの対策で大丈夫だろう。
いったん設定を突き詰めて成功すれば、正確に、素早くパーツが作れるので、ちょっとした自作PCのカスタマイズにも結構使える。今回はファングリルを作ったが、GPUの歪みサポートやHDDのケージ、水冷パーツなども作れてしまう。そのほかでも名入れや工作でも役立つレーザーカッターが「一家に一台」の時代ももうすぐかもしれない。