1カ月集中講座
パーソナル3Dプリンタ導入の手引き 第4回
~3Dプリンタを使った実際の造形手順と品質を高めるポイント
(2014/1/31 13:48)
1カ月に渡ってお届けしてきた本講座も、今回で最終回となる。今回は、パーソナル3Dプリンタを使って、実際に造形を行なう際の手順と、上手に造形するためのポイントを解説する。
パーソナル3Dプリンタで造形を行なう手順
前回は3Dプリンタでの造形に必要な3Dデータの作り方を解説した。そこで今回は、その3Dデータを使って、3Dプリンタで造形を行なう手順を解説する。その手順は、以下のようになる。
(1)3Dデータに不具合がないかチェック
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(2)3Dデータをスライスソフトでツールパスデータに変換
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(3a)スタンドアロン動作が可能な3Dプリンタの場合:ツールパスデータを3Dプリンタに読み込ませて造形を行なう
(3b)スタンドアロン動作に対応していない3Dプリンタの場合:プリンタ制御ソフトにツールパスデータを読み込ませて造形を行なう
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(4)ラフト(土台)やサポートなどの不要な部分を除去し、必要なら表面を磨くなどして仕上げを行なう
3Dデータチェックツールを使って3Dデータをチェックする
まずは、3Dデータの整合性チェックを行なう。STLデータを3D CADソフトで作成した場合はデータに不具合が生じることはそう多くはないが、3D CGソフトで作成した場合は、作成時に注意していないと、厚みが0(ゼロ)の物体ができてしまったり、ポリゴンの一部が裏向きになるといった、データの不具合が生じることがある。3D CGソフトの画面で見ていると、一見正常に見えるのだが、こうした不具合のあるデータでは3Dプリンタでうまく造形することができない。
そこで、いきなり造形するのではなく、事前に3Dデータチェックツールを使うことで失敗を防ぐことが可能だ。業務用3Dデータチェックツールは高価なものが多いが、「MoNoGon」は低価格で、個人でも気軽に利用できる。800円で当日24時まで利用できる当日ライセンスが用意されているほか、データチェックだけなら無料で利用可能(修正にはライセンスが必要)。
3Dデータチェックソフト「MiniMagics 3.0」も、フリーライセンス(無償)を取得するだけで継続して利用できる。高機能で使いやすいので、パーソナル3Dプリンタユーザーなら是非使ってみることをお勧めする。
また、Shade 3Dの最新バージョン「Shade 3D Ver.14.1」には、3Dデータの整合性をチェックし、自動修正してくれる「3Dプリントアシスタント」が搭載されているので、こちらの利用もお勧めだ。
【1月31日15時50分追記】「MoNoGon」は開発を終了しているとのご指摘を頂きましたので、同じく無償利用が可能な「MiniMagics 3.0」の説明を追記しました。
3Dデータをスライスソフトでツールパスデータに変換
3Dデータのチェックが完了し、不具合がないことを確認できたら、3Dデータをツールパスデータに変換する。このときに使われるソフトが、スライスソフトと呼ばれるソフトである。3Dデータ(STLデータ)はポリゴンの集合体だが、それを1層ずつスライスしていき、一筆書きのようにヘッドを動かすためのパスデータ(経路データ)に変換する必要がある。それを行なうのがスライスソフトだ。
RepRapベースのパーソナル3Dプリンタでは、オープンソースで開発されているスライスソフトを利用することが多いが、MakerBotの「Replicator」シリーズや3D Systemsの「Cube」シリーズといった、大手メーカー製3Dプリンタは、独自のスライスソフト(後述するプリンタ制御ソフトも統合されていることが多い)を利用する。ツールパスデータに変換する際のオプションとしては、積層ピッチやラフトの有無、サポート部分の有無、造形密度などがある。これらのオプション設定については、後述する。
3Dプリンタで造形を行なう
3Dデータをツールパスデータに変換できたら、3Dプリンタで造形を行なえばいいのだが、スタンドアロン動作が可能な製品と、そうでない製品では多少手順が異なる。
スタンドアロン動作が可能な製品では、USBメモリやSDカードにツールパスデータをコピーし、その記録媒体から3Dプリンタが直接データを読み出して造形を行なえる。
スタンドアロン動作に対応していない製品の場合は、3DプリンタとPCをUSBケーブルで接続し、PC側でプリンタ制御ソフトを動作させて、3Dプリンタに造形を行なわせることになる。
不要な部分を除去し、仕上げを行なう
熱溶解積層(FDM)方式のパーソナル3Dプリンタの多くは、溶解ヘッドを1つしか備えていないため、サポート専用材料を利用できず、造形用材料でサポート部分も一緒に出力することになる。そのため、サポート部分を溶かして除去することはできず、ニッパなどで切り取っていくことになる。
造形する形状によっては、サポート部分の生成をオフにすることもできるが、オーバーハング(大きなせり出し)があるような形状では、サポートをオンにしないと、崩れてしまうことが多い。また、サポートをオフにしても、土台となるラフトを出力するようにした方が、途中で剥がれてしまうといったトラブルが少なくなる。そのため、パーソナル3Dプリンタでの造形物は、ラフトやサポート部分を除去する必要があることを前提にした方が良い。サポート部分が多いと、除去に手間がかかり、無理をすると、必要な部分まで折れてしまうこともある。モデリングを行なう時点から、サポート部分がどこに必要かということを意識し、できるだけサポート部分を減らせるようにモデリングを行なうことがポイントだ。
また、熱溶解積層方式では、積層段差が気になることがあるが、紙やすりなどで表面を磨くか、パテで埋めることで、積層段差を目立たなくすることが可能だ。造形後にどれだけ手間をかけるかによっても、仕上がりは大きく変わってくる。
造形途中に剥がれてしまうことを防ぐには
パーソナル3Dプリンタは、コンシューマ機器としてはまだまだ未完成な部分が大きく、上手に造形を行なうには慣れやコツが必要である。そこで、造形失敗を防ぐためのコツについて説明しよう。
まず、よくあるのが、造形途中にプラットフォームから樹脂が剥がれてしまい、ぐちゃぐちゃになってしまうトラブルだ。当初はうまくいってるように見えても、目を離した隙に、プラットフォームから剥がれてしまって、もう1度最初からやり直す羽目になってしまうことは意外と多いのだ。
これは、樹脂が冷えて固まる際に縮むのが原因で、特にABSは、PLAに比べて固まる際の収縮率が大きいため、剥がれやすい。途中で剥がれるのを防ぐには、プラットフォームと樹脂の食い付きを良くすればいい。プラットフォームはアルミやガラスでできていることが多く、そのままでは、樹脂との密着性があまり高くない。そこで、プラットフォームに耐熱性のカプトンテープやマスキングテープを貼るなどして、樹脂の食い付きを高めることが有効だ。ガラス製プラットフォームの場合は、液体糊を塗るという手もある。また、ヒーテッドベッドを備えた製品では、ヒーテッドベッドが指定された温度まで上昇したことを確認してから、造形を開始するようにする。
また、周囲の環境にも注意が必要だ。夏や冬は、エアコンなどを使用していることも多いだろうが、エアコンや扇風機からの風が直接3Dプリンタの造形エリアに吹き付けると、ヘッドやプラットフォームの温度が安定せず、造形を失敗する確率が高くなる。室温が低すぎる場合も急激に樹脂が冷えるので、やはり剥がれやすくなる。どうしてもエアコンの風が当たる場合は、3Dプリンタの周囲を段ボール箱で覆うといった工夫をするとよいだろう。
樹脂詰まりを防ぐには
パーソナル3Dプリンタによっては、造形途中にフィラメントが詰まってしまい、樹脂がヘッドから出てこなくなる、俗にエアプリントなどと呼ばれるトラブルが起きることがある。
エアプリントを防ぐには、品質の高いフィラメントを使うことや、ヘッドの温度を適切に設定することが重要である。
フィラメントによって、最適な温度は異なるので、サードパーティ製の安価なフィラメントを使う場合などは、温度をいろいろ変えてみるとよいだろう。また、フィラメントリールをプリンタの直上に設置し、エクストルーダーがフィラメントを送りやすくすることで、樹脂詰まりが改善される場合もある。
ラフトとサポート部分、造形密度について
初心者に分かりにくいのが、ラフトやサポート、造形密度の設定である。大手メーカー製3Dプリンタなら、基本的にはデフォルト設定で問題はないが、より短時間で造形をしたい場合や、強度を重視したいという場合は、設定を変更する必要がある。
ラフトとは、土台を意味し、縦横に互い違いに数層の土台を造形し、その上に本造形物を造形していくものだ。ラフトの上に造形していくことで、プラットフォームとの密着性が高まり、剥がれにくくなるとともに、わずかなプラットフォームの狂いを吸収する役割もある。基本的にはラフトは“あり”にした方が失敗は少なくなるが、ラフトを綺麗に除去するのも形状によっては難しいため、ラフトなしで造形してみて、うまくいくようならラフトなしで、どうしてもうまくいかない場合は、ラフトありにするというのも手だ。
サポート部分についても、オーバーハングがある形状、空中に横に棒が出ているような形状では、基本的にサポートが必要になる。しかし、角度や飛び出す部分の長さによってはサポートをオフにしても造形できる場合がある。このあたりは、プリンタや設定によっても異なるので、いろいろ試してみることをお勧めする。
造形密度は、ソリッド(立体の中身)をどう充填するかを決めるもので、数種類の選択肢が用意されていることが多い。当然、密度を高くすると、造形物の強度や精度は向上するが、造形時間が長くなり、フィラメントも多く消費する。まずは、密度を低く設定してテスト造形を行ない、形状などに問題がないことが分かったら、密度を高くして本造形を行なうと、時間と材料の無駄を防げる。
以下に、ホンダが提供しているNSXコンセプトモデルの3Dデータを、「ラフトあり、サポートあり」「ラフトなし、サポートあり」「ラフトなし、サポートなし」の3パターンで造形してみたので参考にしてほしい。使用した3Dプリンタは3D Systemsの「Cube」で、造形材料としてはPLAを利用している。密度は「Strong」設定とした。
オリジナルUSBメモリを作ってみた
最後に、自分でモデリングを行ない、何か作ってみることにした。筆者は、3D CADソフトも3D CGソフトも素人なので、簡単に作れそうなものとして、市販の超小型USBメモリにかぶせる“ガワ”を作ってみることにした。
利用した超小型USBメモリは、サンワサプライの「UFD-P16GBK」だ。まずは、サイズの計測からだ。UFD-P16GBKをUSBポートに装着したときに、外に飛び出る黒い部分のサイズを定規で測ったところ、14×7×9mm程度であった。このサイズにあわせた穴を作り、そこにこのUSBメモリを差し込んで接着剤で固定すれば、オリジナルUSBメモリが完成することになる。
使った3Dプリンタは、さきほどと同じく3D SystemsのCubeで、造形材料としてはPLAを利用した。CADソフトとしては、Webアプリの「Tinkercad」を利用した。
本当は、かわいいキャラクターやカッコイイクリーチャーなどをモデリングできれば、より目を惹きそうだが、3D CADソフトや3D CGソフトを使いこなしていない筆者にはハードルが高い。そこで、メインマシンであるVAIO Sのサイズに合わせたUSBメモリを作ることにした。つまり、液晶を閉じた状態で指すと、ちょうどVAIO Sの厚さになり、液晶のストッパーとして利用できるわけだ(ラッチレスでも液晶が勝手に開くことはまずないのだが)。色も蛍光グリーンで目立ち、サイズも大きくなるので、UFD-P16GBK単体で使う場合に比べて、紛失しにくいのもメリットだ。
なお、下の写真を見るとずいぶん単純だなと思われる方もいるかも知れないが、何個も試作品を作っては、実物を合わせて修正を繰り返し、ようやくぴったり合うものができたのだ。こんな単純なものであっても、自分でモデリングしたものが、実際に手で触れられるリアルなものになるというのは、非常に楽しい経験だ。
パーソナル3Dプリンタは、まだまだ発展途上の製品であり、今後さらに使い勝手や性能が上がることは間違いない。しかし、3Dプリンタが進化しても、真に活用するに3Dモデリングのスキルが重要になる点は変わらないだろう。3Dプリンタに興味を持った人は、まずは、簡単なものの3Dモデリングに挑戦してみてはいかがだろうか。