レビュー

さらにゲーミング色を強めたSupermicroのZ97マザー「C7Z97-M」

C7Z97-M

 Supermicroから、ゲーマー向けとされるIntel Z97チップセット搭載microATXマザーボード「C7Z97-M」が発表となった。今回、新たに代理店を務めることになったアユートの協力により1枚お借りできたので、試用レポートをお届けする。2015年1月9日発売予定で、店頭予想価格は24,480円前後となる見込みだ。

 サーバーやワークステーション向けマザーボードやベアボーンキットを手がけるSupermicroだが、約1年前にIntel Z87チップセットを搭載した「C7Z87-OCE」で、個人のゲーマーやオーバークロッカーをターゲットにした製品を展開。5月にはZ97チップセットのリリースとほぼ同時に「C7Z97-OCE」を投入するなど、この市場に対し積極的な姿勢を示している。

 既にご存知の通り、世界のPC市場はほぼ横ばいか微減で推移している。しかしその中でもPCゲーミングの市場は拡大しており、多くのメーカーがラインナップを増やしつつある。マザーボードで言えば、ASUS、ASRock、GIGABYTE、MSIは漏れ無くゲーミングのラインナップを用意しているし、PC本体最大手のレノボもゲーミングデスクトップやノートPC市場に参入を始めるほど注目されている分野である。

 Supermicroとして初めて投入したC7Z87-OCEは、Xeon E3-1200 v3向けのワークステーションマザーボード「X10SAT」と設計を共通化していた。コンシューマ向け製品でありながらオーソドックスなデザインで、玄人好みに仕上がっていた。2世代目となるC7Z97-OCEでは、黒いPCBやオレンジのヒートシンクなど、デザイン面で大きく手が加えられ、コンシューマ色を強めた。

 そして第3世代目とも呼べる今回のC7Z97-Mでは、新たにmicroATXフォームファクタを採用するとともに、C7Z97-OCEからデザイン面にさらに大きく手が加えられ、パッケージも一新するなど、ゲーミング色をさらに強めたのが特徴だ。早速見ていこう。

パッケージからデザインを一新

 製品サンプルが到着してまず驚いたのが製品パッケージだ。Supermicroはこれまでリテール向けではブルーをベースとした製品パッケージが大半であり、C7Z87-OCE/C7Z97-OCEも同様であったのだが、C7Z97-Mでは黒をベースとしたシックな印象のパッケージとなった。トレードマークのようなものはないが、Intelが事業を終息した純正マザーボードのエクストリームシリーズに似た印象を受ける。

 外観は大きく変化したとは言え、パッケージの内容はこれまで通り、簡易マニュアル、SATAケーブル、ドライバDVD-ROM、背面パネルI/Oシールド、そして本体のみとあっさりしている。他社のゲーミングマザーボードに見られるさまざまなオマケや丁寧に解説されたマニュアルは一切なく、玄人向けな内容となっている。

 背面パネルI/Oシールドは、これまでメッシュのような素材で裏面が仕上げられていたが、C7Z97-Mではスポンジ+アルミ箔の仕上げとなった。質感としては従来からやや落ちた印象だが、バリがないため組み立てやすさは変わらない。

C7Z97-Mのパッケージ
パッケージの背面
パッケージの付属品は必要最低限であっさりしている
背面パネルI/Oシールドの仕上げはこれまでとは異なる

 さて本体のデザインだが、これもC7Z97-OCEから大きく変わった。C7Z97-OCEはブルーのPCI Express x16スロットに2基のブルーのメモリスロット、そしてオレンジのヒートシンクを採用していたが、C7Z97-MではPCI Exress x16スロットと2基のメモリスロットが赤となり、ヒートシンクは基板と同じ黒に統一され、カラーリングがシンプルになって洗練された。

 Supermicroのみならず、ASUS、GIGABYTE、MSI、ASRock、EVGAなど各社も、ゲーミングマザーボードに関しては、黒をベースに赤のアクセントを入れたデザインが多いわけだが、それらの定番とイメージカラーが同じになったわけだ。ゲーマーの間では黒と赤がトレードカラーとして定着していると認識したわけである。

 個人的に欲を言えば、コンデンサやUSB 3.0のポート、ジャンパー、CPUソケットまで黒く統一していただきたかったところだが、C7Z87-OCEから本製品までの進化を見ると、これは次期モデルに期待ということにしたい。

 一方、オンボード機能の実装としては、これまで特徴的であった「OC1-2-3」のハードウェアボタンが省かれているのがすぐ分かる。本製品はワークステーション向けでIPMI(Intelligent Platform Management Interface)をサポートした「C7Z97-MF」と基板を共通としており、IPMI関連のチップを実装する空きパターンが用意されているが、これに平行してmicroATXのフォームファクタにOC1-2-3を実装するのは、スペース的に無理があった、ということだろう。

 ただし、C7Z97-OCEでも用意されていた、5インチベイに格納してボタンですぐにオーバークロックできる「OCE Panel」のヘッダーピンは基板上に残されているほか、後述するUEFI BIOS上でもOCボタンの設定が残されていることから、機能としては実装されていることが分かる。

 また、POSTコードを表示する7セグメントLEDも省かれた。これもC7Z97-MFでIPMIを利用する際に、起動時に画面にPOSTコードが表示されるためだろう。その一方で、オンボードのCMOSクリアボタン、USBメモリからのBIOSリストアボタン、Boot Block切り替えによるBIOSリカバリスイッチなどは健在だ。

C7Z97-M本体。黒を基調に赤のアクセントを入れた、近年のゲーミングマザーボードのトレンドを取り入れた
IPMI関連チップの空きパターンによって、OC1-2-3のスイッチが省かれた
BIOSリストアボタン、CMOSクリアボタンは装備
Boot Blockを切り替えるスイッチも健在
フロントインターフェイスや各ジャンパーの設定は、CPUソケット付近にシルク印刷されている
オンボードの電源スイッチもCPUソケット付近に備え付けられている。欲を言えば、リセットボタンも欲しかったところ

“美しい”配線と質実剛健な部品選定は継承

 コンシューマ向けながら、配線長ができるだけ短くなるように設計された独特の“美しい”配線は、C7Z97-Mでも継承する。実はC7Z97-OCEを手にした時、PCI Express周りを除いては「随分と配線が普通になったなぁ」という印象を受けたのだが、C7Z97-Mではディスプレイ出力周りが変則的で、眺めていて飽きない。全てのパーツにシルク印刷で番号が振られているのもこれまで通りだ。

 ただ、C7Z97-MFと基板を共通している関係上、IPMI関連のチップが実装されておらず、その空きパターンが目立つのはやや気になった。本製品のみならず、Supermicroでは複数の製品間で共通基板を使うことは多々あるのだが、空きパターンが存在すると「何かしら機能が削除された下位モデル」という感想を拭えない。例えその機能が普段使わないものであったとしても……だ。

本体裏面にも細かい部品が実装されている
PCI Expressへはできるだけ最短となるよう配慮されている
ディスプレイ周りも変則的な角度となっている
PCI Expressのマルチプレクサー「ASM1480」付近の配線も変則的だ
Z97チップセット付近。左側の空きパターンがIPMI関連チップ実装用スペースと思われる
JPL1のジャンパーの2-3をショートさせると、i210-ATによるGigabit Ethernetが無効になる

 気を取り直して、電源周りに目を向けてみよう。PWMコントローラは、CPU側が6フェーズ対応のPrimarion「PX3746HDN」、メモリ側が同じくPrimarionの2フェーズ対応の「PX3743DDQ」。回路にはInfineonの統合型Driver MOSFET「TDA21215」が使われており、1フェーズあたり51W供給できるため、CPU側は306W、メモリ側は102W出力可能だ。これらはATXモデルのC7Z97-OCEと全く共通であり、オーバークロック性能に大差はないと見られる。

 以前解説した通り、Primarionは2008年4月にInfineonに買収されているので、電源周りの半導体はすべてInfineon製で固められている。この辺りはサーバー分野でも長らく採用実績があるので、Supermicroが最もこだわっており、自信を持っているポイントだと断言して良い。

CPU側のPWMコントローラはPrimarionの「PX3746HDN」
CPU側はDriver MOSFETによる6フェーズ構成
Driver MOSFETのICはInfineonの「TDA21215」
メモリ側のPWMコントローラは「PX3743DDQ」
メモリ側もTDA21215による2フェーズ構成

 実装されているインターフェイスに関しては、C7Z97-OCEから大幅に簡略化された。まず、PCI Expressスロットは、上から順にPCI Express 3.0 x16、PCI Express 2.0 x4、PCI Express 3.0 x8。PCI Expressを増やすHubチップは一切装備されていないので、最下段のx8スロット利用時は、マルチプレクサーによって分割され、PCI Express x16スロットもx8動作となる。つまり、ほぼCPUとチップセットが備えている最低限のレーンしか利用できない。

 外付けのUSB 3.0コントローラも省かれており、Z97チップセット内蔵機能により、4基の背面パネルUSB 3.0と、2基の前面用USB 3.0ピンヘッダしか備えなくなった。追加のSATAコントローラも省かれ、SATA 6Gbpsポートはチップセット内蔵の6ポートのみ。加えてネットワークも従来のIntel i217-V+i210-ATの2系統から、i210-ATの1系統のみとなっている。

 ここまでインターフェイスが減るとむしろ潔く、ゲームやオーバークロックをする上で不安定要素になりかねず、どうせ無効にされるであろう後付け要素を全て省いて設計したらこうなった、とも受け取れる。考えてみれば、ゲームをしたりオーバークロックをしたりするマシンにたくさんのストレージを積みたいというユーザーもそういないはずで、製品コンセプトには反していないだろう。

 ただ、それだけにサウンド回路周りはやや不安を覚える。近年の他社ゲーミングマザーボードは、ほかの信号線から分離したアナログサウンド回路を備え、コンデンサにもオーディオ向けのものが採用され、なおかつヘッドフォン用のオペアンプを備えているなど、「そろそろ拡張サウンドカードを引退させてもいいかな」ぐらいのクオリティになっているのだが、C7Z97-Mのサウンド回路は、RealtekのALC1150オーディオコーデックを中心とし、コンデンサもCapXon製の普通の固体コンデンサを採用している。アナログ回路とほかの信号線の分離も特に謳われておらず、オーソドックスな構成となっている。

 先述の通り、3基目のPCI Express x8スロットを使用すると、ビデオカード側で使われる1基目のスロットもx8動作になってしまうため、そういう意味ではZ97から出ている2基目の拡張スロットにサウンドカードを挿して利用したいところなのだが、2スロット占有のビデオカードを挿入してしまうと塞がれて利用できなくなるため、実質ゲーマーにとってサウンドカードで利用できるスロットはないと言っていい。

 近年のオンボードサウンドは高音質化が進んでおり、正直本機のような構成でも、スピーカーで聞く分にはほかのマザーボードに特に見劣りしないと思われるが、どうしても音質にこだわりたいというのなら、USB接続のDACを利用することになるだろう。

LGA1150のソケット。リテンションメカニズムはLOTES製
メモリスロットは、PCI Express拡張カード側にラッチがないタイプで、ビデオカードを装着したままメモリの着脱が可能
BIOSを格納するチップはユーザーによって着脱可能で、もしBIOS更新などで失敗した場合はチップのみを送付して貰える
拡張スロットは上から順にPCI Express 3.0 x16、PCI Express 2.0 x4、PCI Express 3.0 x8(利用時はx16スロットもx8動作となる)
前面パネル用のUSB 3.0ピンヘッダ
背面パネルインターフェイスはUSB 3.0×4、USB 2.0×2、HDMI出力、DisplayPort、Gigabit Ethernet、PS/2、音声入出力と最低限だ
VRMのヒートシンク。このタイプではありがちなのだが、中央部の接合が甘い
自動車のリアウイングのようなデザインとなっている
Z97チップセットのヒートシンク
ASMediaのTMDSレベルシフター「ASM1442K」。HDMI 1.4bに準拠し、4K出力も可能
IntelのGigabit Ethernetコントローラ「i210-AT」。物理層と論理層を内包している
Realtekのオーディオコーデック「ALC1150」
サウンドのアナログ回路は、特にほかの信号線と分離していないように見える
回路自身もオーソドックスな構成だ

グラフィカルなUEFI BIOSを採用。起動も高速に

 最後にUEFI BIOSを見て行きたい。C7Z97-OCEでは、C7Z87-OCEからUEFI BIOSの画面がGUI化され、マウスで操作できるようになったのだが、C7Z97-Mでもその特徴を継承しており、ユーザーフレンドリーな画面となっている。

 設定できる項目はこれまでとほぼ変わらず、電源回路の設計がC7Z97-OCEとほぼ共通化されていることもあり、設定項目は大差ない。上ペインではどの画面からでもオーバークロック設定にジャンプできるし、設定を変更すると安定性に大きく係るような設定項目は「Expert」ボタンで表示/非表示にできるのもこれまで通りだ。

 他社には類を見ないGUIであるし、これだけ新しいハードウェアであるのにも関わらず、SATAに関してはIDE互換モードで動作させることが可能なのはユニークだ。ただしC7Z97-OCEのレビューでも指摘したが、アイコンが不必要に大きいため画面のスペースの無駄が多く、1画面あたり9項目も表示できないのは頂けない。設定したい項目に移行するには、長くスクロールしなければならなず不便だ。

 また、ファンコントロールもオートかフルスピードの2パターンのみで、ユーザーによって自由に設定できないのもネック。装備されているファンコネクタの全てがPWM対応の4ピンであるのにも関わらず、この辺りはもう少し細かいところまで詰められるほうが、ゲームプレイ時の静音性が欲しいユーザーには良かっただろう。もっとも、ビデオカードが1枚しか利用できないmicroATXフォームファクタでは、それほど多くのファンを積まないのかも知れない。

 ただ、UEFI BIOS起動速度はC7Z87-OCE/C7Z97-OCEのいずれからも大幅に高速化されているのが分かる。検証にはEIZOのディスプレイ「FlexScan EV2436W-Z」を用いたが、DisplayPortによる出力では、画面が明るくなってから約1秒ほどでUEFI BIOSセットアップに入ることができる。これは大きな進歩だと言って良い。

UEFI BIOSのメイン画面
オーバークロックの設定画面
CPUの電圧のみならず、Z97側の電圧なども細かく設定できる
CPU Input Voltageのみ別画面で用意されており、発熱量が増えるという警告を受ける
内蔵GPUのオーバークロック設定。Expert Modeをオンにしないと、なぜか電圧しか調節できない
メモリもマニュアルでタイミングを選択できる
メモリによっては、XMPを備えているにも関わらず選択できない場合があった。XMPが古いためかもしれない
OC1-2-3のハードウェアボタンはないが、5インチベイの「OCE Panel」で実現できるため、設定は残されている
SATAをIDE互換モードに設定することもできる
拡張カードのROMをレガシーとして起動するか、UEFIとして起動するかを選択できる
USBデバイスのレガシー互換機能もサポートする
ファンの速度は残念ながらユーザーが自由に調節することはできない

懸念は価格だが、“組んだら触らない”ユーザーには良い選択肢

 正直なところ、C7Z97-Mの登場にはやや驚いている。タイミング的には既にZ97が発表されてから半年以上経過しているし、Supermicroがこのタイミングでゲーミング/オーバークロック向けマザーボードのラインナップを再強化するとは思わなかった。むしろゲーミングにおいては、市場そのものが拡大しているので、どのタイミングで製品を投入しても良かったという判断だろう。

 また、C7Z97-Mの製品デザインの進化にも驚いた。この短期間でこれだけ製品デザインを変更させ、今のゲーミング市場のトレンドに則って仕上げてくるとは、ASUSのR.O.G.初期のデザインから、今のデザインになるまでの期間が、ギュッと凝縮されたようにも見える。

 それだけにやや心配なのは価格面だろう。2万円台半ばという価格はゲーミングデバイスとしては妥当であるものの、C7Z97-Mはほかのゲーミング向けマザーボードで見られる付加価値が特にない。他社の同等の価格帯であれば、無線LANやBluetoothが付いてくることは珍しくなく、ゲーミング向けのソフトウェアや専用オーバークロックユーティリティも揃えているが、C7Z97-Mにはそのような華やかさはない。

 しかしこの潔さこそが、Supermicroの美学であると捉えることもできる。敢えて贅肉を削ぎ落とし、提供する配線や部品だけにこだわって、もっともシンプルで安定性を追求した形態こそ、ユーザーが求めているものかもしれない。そこに価値を見いだせるユーザーなら、24,480円は決して高い買い物ではないだろう。

(劉 尭)