レビュー
ASUSのプロトタイプで次世代I/F「SATA Express」を検証
~SATA 6Gbpsを超えられるのか。そして意外な使い道
(2014/3/8 06:00)
Serial ATA International Organization(SATA-IO)では、次世代のストレージインターフェイス規格として「SATA Revision 3.2」を承認している。このうち、SATAコネクタを用いて、SATA 6Gbpsの信号、またはPCI Express 2レーン分の信号を転送する「SATA Express」は、次期マザーボードで採用されることが予定されている。
今回、このSATA Expressコネクタを搭載したASUS製マザーボード「Z87-DELUXE/SATAEXPRESS」を特別に入手できたので、使い性能と使い方を検証する。
日本に1枚しかない「Z87-DELUXE/SATAEXPRESS」
予めお伝えしなければならないのは、Z87-DELUXE/SATAEXPRESSはSATA Express検証用に作られたプロトタイプである。ASUS広報によると、日本にたった1枚しか入っていない特別な製品だ。実際にSATA Expressコネクタを搭載するのは、次世代のIntelチップセット搭載製品になると見込まれる。よってSATA Expressが実際ユーザーの手に渡った際には、このベンチマークや使い方とは異なる可能性があることを予めご了承いただきたい。
さて、それを踏まえた上でZ87-DELUXE/SATAEXPRESS本体を見ていこう。フォームファクタは一般的なATXで、特に変わったところはない。CPUソケットはLGA1150で、Haswellアーキテクチャの第4世代Coreプロセッサ/Pentium/Celeronに対応。電源は16フェーズだと思われる。
メモリはDDR3を4枚サポート。拡張スロットはPCI Express x16形状×3、PCI Express x1×4だ。1段目と2段目のPCI Express x16スロットの間には、PLX Technologyの「PEX8068」が実装されている。これはシンプルな8レーンのPCI Expressスイッチとされている。これについては後ほど考察する。
外観としては、発売中の「Z87-DELUXE」を概ね踏襲しており、SATA Express周りが異なるだけだ。
SATA Expressコネクタ
さて、注目のSATA Expressの実装について見て行きたい。本製品には2つのSATA Expressポートが用意されており、マザーボードのエッジにはASMediaの追加チップ「ASM106SE」による実装、もう1つはPCHの下側にはPCH内蔵機能による実装で実現しているという。
SATA Expressのコネクタは、従来のSATAコネクタが2基並び、その横に8ピンのコネクタを1基追加したような形となっている。このため、従来のSATA 6Gbpsのデバイスも2基接続できるようになっている。構造上、SATA 6Gbpsデバイスの利用はSATA Expressデバイスとは必然的に排他になる。
コネクタ付近にはASMediaの「ASM1467」と呼ばれるチップが、1コネクタあたり2個付いている。ASMediaで公開されているASM1467の製品情報を見ると、NGFF(M.2)リドライバのようだ。M.2では1つのコネクタでPCI ExpressとSATAのいずれかが利用できるわけだが、SATA Expressも同じということだ。M.2はSATA Expressと同時にSATA Revision 3.2で策定された規格なわけだが、これで両技術が兄弟関係であることがよく分かる。
SATA ExpressとM.2のコネクタを簡単に言えば、デバイス側がSATAの場合、SATAの信号とプロトコルが流れる。一方デバイス側がPCI Expressの場合、PCI Expressの信号とプロトコルが流れる。これまで両者はコネクタのピン配置とコネクタが共通でなかったが、それをある程度統一化を図ったのがSATA Expressだ。
よってASM106SEは「PCI Express 2.0 x2接続のSATA 6Gbps対応コントローラだが、PCI Expressデバイス接続時はPCI Expressのプロトコルをそのままパススルーするコントローラ」だと捉えて良さそうだ。PCHから出るSATA Expressコネクタのほうは、単純にPCHから出ているPCI ExpressかSATA 6Gbpsの信号とプロトコルのどちらか選択して出力しているだけだ。
同じくPCI Expressの信号を流すThunderboltと比較すると、同時に流れているディスプレイ信号や、デイジーチェーン接続を考慮せずに済むため、ハードウェアの実装がかなりシンプルだ。SATAホストコントローラが2レーン分のPCI Expressをパススルーできるように設計し直せば、低コストで実装できる高性能インターフェイスだと言える。レビュワーズガイドによると、実測性能はPCI Express 2.0利用時で8Gbps程度とされており、これが従来のSATA 6Gbpsと比較して高速と言われている所以だ。
ただZ87-DELUXE/SATAEXPRESSのブロックダイヤグラムを入手できなかったため、SATA ExpressのポートがどのようにPCI Expressバスに接続されているのか不明だ。そこで、ビデオカードとPCI Express x1→PCI Express x16変換ケーブルを利用して、スロット1基ずつ変更して接続を検証してみたところ、おおよその全体図が掴めた。
Z87チップセットでは最大で8レーンのPCI Express 2.0を実装できるが、うち2レーンはUSB 3.0 2ポートまたはSATA 6Gbps 2ポートと排他だ。Z87-DELUXE/SATAEXPRESSでは1と2レーン目をPCHネイティブのSATA Express、7と8レーン目をASM106SEに割り当てている。5と6レーンは最下段のx16形状のスロットに割り当てられており、実際の接続もx2だった。
4レーン目はPEX8608で7レーンに分岐しており、すべてのPCI Express x1スロットと、Realtek「RTL8111G」によるGigabit Ethernetコントローラに割り当てられている。
よって、Z87チップセットの3レーン目は空きなわけだが、Z87-DELUXE/SATAEXPRESSはフロントパネル用も含めて合計8ポートのUSB 3.0があり、4ポートUSB 3.0 Hubチップの「ASM1074」が見えるため、Flexible I/Oによって、PCI ExpressではなくUSB 3.0に割り当てられていると見られる。
SATA ExpressをPCI Expressスロットに変換する「RUNWAY」
現時点ではSATA Expressにネイティブに対応した製品などは登場していないので、今回マザーボードとともに、SATA ExpressをPCI Expressに再変換するボード「RUNWAY」が提供された。
RUNWAYの構造は至って単純で、SATA Expressコネクタと、PCI Express用電源を生成するためのペリフェラル4ピンコネクタが2基、PCI Express x4形状のエッジフリーコネクタが装備されている。基板上の部品は大きなコンデンサ4つと電圧レギュレータ2つ、動作を示すLED、いくつかの小型チップコンデンサなどが実装されている。
やや特殊なのは、2ピンのクロック同期用コネクタが装着されている点と、スロット後部にICS(現IDT)製のPCI Express 2.0用差動バッファ「9DB403DGLF」が実装されている点。現段階では、別途2ピンのケーブルをマザーボードと接続して差動信号を受け取り、バッファで同期クロックを再生成しなければならないようである。
PCI Express 2.0 x4でエッジフリーだが、仕様としてはZ87-DELUXE/SATAEXPRESSに実装されているSATA Expressの上限であるPCI Express 2.0 x2で動作している。
マザーボード本体との接続は、今回提供されたSATA Expressケーブルを用いる。ケーブル長は50cmであった。
実際の性能をベンチマーク
さて、前置きがかなり長くなってしまったが、いよいよSATA Expressの性能を見て行きたい。今回は評価用キットとして、PCI Express x2接続の高性能SSD「RAIDR EXPRESS」が提供されたので、これを利用して性能を評価したい。ベンチマークとしては「CrystalDiskMark 3.0.3」(以下CDM)、および「ATTO Disk Benchmark」(以下ATTO)を利用した。
CPUはCore i7-4770K(3.5GHz、ビデオ機能内蔵)を利用。メモリはDDR3-1600で4GB×2、OSはWindows 7 Ultimate(64bit)などとなっている。
まずはRAIDR本来の速度を見るため、マザーボードの最上段のPCI Express x16スロットに接続した。CDMの0Fillではシーケンシャルリード695.3MB/sec、同ライト733.6MB/sec。ATTOでもリード759MB/sec、ライト780MB/secに近い高性能を発揮した。ATTOでは8KB~128KBブロックの転送が安定しなかったが、これはOSなどとの相性と思われる。
PCH側のSATA Expressに接続した場合、CDMのシーケンシャルリードで691.8MB/sec、同ライトで685.9MB/secだった。ATTOではリードが765MB/sec、ライトが749MB/sec。先述のPCI Express x16スロットはCPU直結のため高速だが、SATA ExpressはPCH直結でワンクッション挟んだ形となり、特にCMDのシーケンシャルライトではやや不利である。また4K QD32も、バス幅がボトルネックとなって十分な命令が発行できていないと考えられる。とは言えリード結果から分かるよう、SATA 6Gbpsの上限は余裕で超えており、優位性が十分発揮されていることがわかる。
一方ASM106SEに接続した場合でも、CDMではシーケンシャルリード680.7MB/sec、同ライト693.8MB/sec、ATTOではリードが758MB/sec、ライトが749MB/secだった。CPU直結と同じくATTOでは8KB~128KBブロックの転送が安定しなかったが、最高速度はPCH直結とほぼ同じ傾向で、ASM106SEを原因とする性能低下は特に見られない。
レビュワーズガイドの8Gbpsの値に近いので、結果としては順当と言ったところだ。PCI Express 2.0 x2では本来10Gbps(1GB/sec)の性能を持つとされているが、これはRAIDR EXPRESSが持つコントローラがこれ以上の性能を出せないためだと思われる。またNANDの転送速度なども、すでに上限に達していると考えていいだろう。
ビデオカードも動作した!
さてここまでで既にお気づきの方もいると思うが、SATA Expressは単純にPCI Expressプロトコルを利用しているため、一般的なPCI Express拡張カードも動作する。そこで今回はGeForce GT 630とGeForce GTX 670を接続して、3DMarkを実行してみた。
実際のスコアは上々だ。もっとも軽いIce Stormのテストでこそ、ローエンドのGT 630で4%前後の差、ハイエンドのGTX 670で22%前後の差が付き、フレームレートを出す上で重要なテクスチャなどの転送が追いついていない感じはするものの、重たいピクセル演算が多く、実質負荷がビデオカード任せのFire Strikeでは2.5%前後の差に留まった。
わずか2.5%程度の差ならば、NVIDIA SLI構成などにすればさらなる性能向上が見込めそうだということで、GeForce GTX 670をもう1枚用意して、SLIケーブルで接続してみたが、残念ながら本製品はUEFI BIOSレベルでSLIをサポートしていないらしく、テストできなかった。
規格がオープンになっているCrossFireXだったら構築できたかも知れないが、現時点では配線やCrossFireケーブルの長さなどの制限からして難しい。またRUNWAYのような製品が実際にユーザーが入手できるかどうか分からないため、現時点では非現実的だと思ったほうが良いだろう。SATA ExpressとRUNWAYが実際に製品化されたら、またテストしてみたい。
【表1】ネイティブPCI Express x16接続時のスコア | ||
---|---|---|
項目 | GeForce GT 630 | GeForce GTX 670 |
3DMark Ice Storm | 55819 | 147739 |
Graphics score | 57454 | 327390 |
Physics score | 50764 | 50586 |
Cloud Gate | 7013 | 20816 |
Graphics score | 6936 | 44518 |
Physics score | 7299 | 7270 |
Fire Strike | 1010 | 5870 |
Graphics score | 1073 | 6457 |
Physics score | 10003 | 10028 |
【表2】SATA Express ASM106SE接続 | ||||
---|---|---|---|---|
項目 | GeForce GT 630 | 対ネイティブスコア差 | GeForce GTX 670 | 対ネイティブスコア差 |
3DMark Ice Storm | 53556 | -4.05% | 133132 | -9.89% |
Graphics score | 54800 | -4.62% | 255281 | -22.03% |
Physics score | 49615 | -2.26% | 49775 | -1.60% |
Cloud Gate | 6940 | -1.04% | 20309 | -2.44% |
Graphics score | 6897 | -0.56% | 41215 | -7.42% |
Physics score | 7097 | -2.77% | 7318 | +0.66% |
Fire Strike | 1003 | -0.69% | 5729 | -2.40% |
Graphics score | 1065 | -0.75% | 6291 | -2.57% |
Physics score | 9970 | -0.33% | 9965 | -0.63% |
【表3】SATA Express PCH接続 | ||||
---|---|---|---|---|
項目 | GeForce GT 630 | 対ネイティブスコア差 | GeForce GTX 670 | 対ネイティブスコア差 |
3DMark Ice Storm | 53344 | -4.43% | 132235 | -10.49% |
Graphics score | 54713 | -4.77% | 256062 | -21.79% |
Physics score | 49051 | -3.37% | 49112 | -2.91% |
Cloud Gate | 6992 | -0.30% | 20132 | -3.29% |
Graphics score | 6898 | -0.55% | 41298 | -7.23% |
Physics score | 7344 | +0.62% | 7206 | -0.88% |
Fire Strike | 1003 | -0.69% | 5738 | -2.25% |
Graphics score | 1065 | -0.75% | 6303 | -2.39% |
Physics score | 10010 | +0.07% | 10014 | -0.14% |
かなりの可能性を秘めたSATA Express、ユニークなデバイスにも注目
というわけで、初めてSATA Expressに触れてみたが、正直なところ「SATA 6Gbpsを超えるストレージ性能を実現できるインターフェイス」というより、「PCI Expressを(公式規格によって)ケーブルで延長できるインターフェイス」としてのインパクトが大きかった。もちろん今後は4Kコンテンツの普及次第では、6Gbpsを超える転送速度が必要になってくるかも知れないが、少なくとも今のところ6Gbps対応どころか、3GbpsのSSDでも快適にWindowsが操作できる現状からすれば、一般的な需要はそれほど大きくないように見える。
一方で単純にPCI Expressを延長できるインターフェイスとしては、Thunderbolt以上に期待が持てる印象だ。実装部品の少なさからくる低コストもさることながら(実際の製品が出てくるまで分からないが、今のところ間違いなくThunderboltより安いだろう)、ケース内蔵を前提としながらもPCI Express配線の自由度を高めるインターフェイスとしてはかなり有望である。
この辺りはPCI Express機器を製造しているメーカーがどう動くのかにも依るが、正直“SATA Expressのビデオカード”はアリだ。特に最近流行のMini-ITXフォームファクタでは拡張スロットが1基しかないため、SATA Expressによってケーブルでビデオカードを拡張ベイに伸ばす、という接続方法を取ることができ、多画面構成やマルチGPUを構築可能になる。もちろんその場合、ディスプレイ出力コネクタの位置や、SLI/CrossFireを実現するためのケーブルの問題を解決しなければならないが、ソリューションとしては面白いだろう。
いずれにしても、SATA Expressは今後さまざまな形状のデバイスが登場する可能性を秘めているインターフェイスなので、今後の動向に注目したいところである。