特集

新ダイを採用したAMD「Radeon HD 7790」を試す

 AMDは3月22日、Radeon HD 7000シリーズの新モデル「Radeon HD 7790」を発表した。今回、AMDより同GPUを搭載したビデオカードを借用できたので、ベンチマークテストでパフォーマンスを測定した。

新設計のコアを採用する新ミドルレンジGPU

 今回発表されたRadeon HD 7790(以下、HD 7790)は、Radeon HD 7000 シリーズで採用されたGraphics Core Next(GCN)アーキテクチャを採用したGPUで、28nmプロセスで製造されている。

 HD 7790のGPUコアは、これまでに登場したRadeon HD 7700シリーズで採用されていた「Cape Verde」ではなく、「Pitcairn」(Radeon HD 7800シリーズ)とCape Verdeの中間に位置する規模の新設計GPUコアを採用している。HD 7790のGPUコアは、64基のStream Processors(SP)と4基のテクスチャユニットから成るCompute Unit(CU)を14基備える。合計896基のSPと56基のテクスチャユニットを備えるGPUコアは、1.0GHzで動作する。

 メモリインターフェイスは128bitで、HD 7790は1.5GHz(6.0Gbps)のGDDR5メモリを1GB備える。メモリ周りの仕様は「Cape Verde」寄りだが、搭載メモリの動作クロックが高いため、従来のRadeon HD 7700シリーズに比べ、メモリバス帯域幅は3割ほど強化されている。

【表1】Radeon HD 7790の主な仕様
Radeon HD 7790Radeon HD 7770
GHz Edition
Radeon HD 7850
アーキテクチャGraphics Core Next
プロセスルール28nm28nm28nm
GPUクロック1,000MHz1,000MHz860MHz
Streaming Processor896基640基1,024基
テクスチャユニット56基32基64基
メモリ容量1GB GDDR51GB GDDR52GB GDDR5
メモリクロック(データレート)1,500MHz
(6.0Gbps相当)
1,125MHz
(4.5Gbps相当)
1,200MHz
(4.8Gbps相当)
メモリインターフェイス128bit128bit256bit
ROPユニット16基16基32基
HD 7790の主要スペック
HD 7790には新設計のGPUコアが採用されている
HD 7790が採用するGPUコアの特徴

Radeon HD 7790搭載のSapphire製ビデオカードでベンチマークを実行

 今回、AMDから借用したRadeon HD 7790搭載ビデオカードは、Sapphireの「HD 7790 1G GDDR5 PCI-E DL-DVI+DLDVI-D/HDMI/DP DUAL-X OC VERSION」だ。2基の大口径ファンを搭載したVGAクーラーを備えた同製品は、HD 7790を1,075MHz、メモリを1.6GHz(6.4Gbps)へと、それぞれオーバークロックした製品だ。

HD 7790搭載ビデオカード「HD 7790 1G GDDR5 PCI-E DL-DVI+DLDVI-D/HDMI/DP DUAL-X OC VERSION」
ディスプレイ出力は、DVI-D、DVI-I、HDMI、DisplayPortが各1系統ずつ
補助電源コネクタは6ピン1系統

 ベンチマークテストでは、Radeon HD 7790のリファレンスクロックまでダウンクロックした際のスコアと、「HD 7790 1G GDDR5 PCI-E DL-DVI+DLDVI-D/HDMI/DP DUAL-X OC VERSION」のオーバークロック動作時のスコアをそれぞれ測定した。

 また、比較対象として、「Radeon HD 7770 GHz Edition」(以下、HD 7770)のリファレンスボードと、NVIDIAの「GeForce GTX 650 Ti」(以下、GTX 650 Ti)搭載ビデオカード「GTX650TI-DC2T-1GD5」を用意した。なお、GTX 650 Ti搭載製品はGPUクロックをオーバークロックした製品だが、テスト時はGTX 650 Tiのリファレンスクロック相当にダウンクロックしている。

【表2】テスト環境
GPUHD 7790HD 7770GTX 650 Ti
CPUCore i7-3770K(3.5GHz、Turbo Boost:オフ)
マザーボードASUS P8Z77-V (BIOS:1805)
メモリDDR3-1600 8GB×4(9-9-9-24、1.5V)
ストレージWestern Digital WD5000AAKX
電源Silver Stone SST-ST75F-P
グラフィックスドライバ12.101.2.1-130313a-154550E-ATICatalyst 13.3 BetaGeForce 314.21 Driver BETA
OSWindows 7 Professional 64bit SP1
HD 7770のリファレンスボード
GTX 650 Ti搭載のASUS製ビデオカード「GTX650TI-DC2T-1GD5」

DirectX 11対応ベンチマークテスト

 それではまず、DirectX 11対応ベンチマークテストの結果から紹介する。実施したテストは「3DMark - Fire Strike」(グラフ1、2)、「3DMark 11」(グラフ3、4)、「Unigine Heaven Benchmark 4.0」(グラフ5)、「Stone Giant DX11 Benchmark」(グラフ6)、「Lost Planet 2 Benchmark DX11」(グラフ7)、「Alien vs. Predator DX11 Benchmark」(グラフ8)。

【グラフ1】3DMark - Fire Strike(Default/1,920×1,080ドット)
【グラフ2】3DMark - Fire Strike(Default/2,560×1,440ドット)
【グラフ3】3DMark11 v1.0.4(Performance/1,280×720ドット)
【グラフ4】3DMark11 v1.0.4(Extreme/1,920×1,080ドット)
【グラフ5】Unigine Heaven Benchmark 4.0(DX11/1,920×1,080ドット)
【グラフ6】Stone Giant DX11 Benchmark
【グラフ7】LostPlanet2 DX11 Benchmark(4xAA/Setting:All High)
【グラフ8】Alien vs. Predator DX11 Benchmark(1,920×1,080ドット)

 HD 7790はDirectX 11対応ベンチマークテストにおいて、HD 7770よりおおよそ3割程度高いスコアを記録し、GTX 650 Tiとはテストによって優劣が分かれる結果となった。

 登場当初よりRadeon HD 7000シリーズの方が高いスコアが出る傾向にあると言われる3DMarkのFire Strikeでは、GTX 650 Ti相手に約2割、Extremeプリセットなら5割も高いスコアを記録する一方で、Lost Planet 2 Benchmark DX11では1割ほど後塵を拝する。

 GTX 650 Tiとの優劣はテスト条件によりけりという結果だが、HD 7790の方が大きくスコアを離されるテストが少ない分、DirectX 11対応ベンチマークでは優勢に見える。GTX 650 Tiに対して明らかに一段劣るスコアとなっているHD 7770に対し、概ね3割程度のスコアアップを果たしたHD 7790は、GTX 650 Tiと互角以上に渡り合えるパフォーマンスを持っているようだ。

DirectX 9/10対応ベンチマークテスト

 続いて、DirectX 9世代とDirectX 10世代のベンチマークテストの結果を紹介する。実施したテストは「3DMark Vantage」(グラフ9、10)、「3DMark - Cloud Gate」(グラフ11)、「3DMark06」(グラフ12、13)、「3DMark - Ice Storm」(グラフ14)、「ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア ベンチマーク ワールド編」(グラフ15)、「PSO2ベンチマーク」(グラフ16)、「MHFベンチマーク 【大討伐】」(グラフ17)、「Lost Planet 2 Benchmark DX9」(グラフ18)、「Unigine Heaven Benchmark 4.0(DX9)」(グラフ19)。

【グラフ9】3DMark Vantage v1.1.0(Performance/1,280×1,024ドット)
【グラフ10】3DMark Vantage v1.1.0(Extreme/1,920×1,200ドット)
【グラフ11】3DMark - Cloud Gate(Default/1,280×720ドット)
【グラフ12】3DMark06 v1.2.1(デフォルト/1,280×1,024ドット)
【グラフ13】3DMark06 v1.2.1(1,920×1,080ドット/8xAA/16xAF)
【グラフ14】3DMark - Ice Storm(Default/1,280×720ドット)
【グラフ15】ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア ベンチマーク ワールド編
【グラフ16】PSO2ベンチマーク(DX9/簡易描画設定:5)
【グラフ17】MHFベンチマーク【大討伐】(DX9)
【グラフ18】LostPlanet2 DX9 Benchmark(4xAA/Setting:All High)
【グラフ19】Unigine Heaven Benchmark 4.0(DX9)

 DirectX 10世代のベンチマークテストである「3DMark Vantage」では、僅差ではあるものの、描画負荷の低いPerformanceで優勢だったHD 7790が、描画負荷の高いExtremeプリセットでGTX 650 Tiに逆転されている。ただ、今回実施したテストで、このような傾向を示すテストは少数派であり、「3DMark06」や「ファイナルファンタジーXIV」のように、描画負荷が高まると、HD 7790がGTX 650 Tiに対して優位となるテスト結果が目立つ。

 テスト項目によってGTX 650 Tiとの優劣は分かれているが、HD 7790がGTX 650 Tiに大きく劣るスコアが少ない一方で、「PSO2ベンチマーク」や「Lost Planet 2」などのように、3~4割程度のスコア差をつけているテストがあるため、全体的にはHD 7790が優勢な印象だ。

消費電力の比較

 最後に消費電力の測定結果を紹介する。消費電力はサンワサプライのワットチェッカー(TAP-TST5)を利用して、各テスト実行中の最大消費電力を測定した。

【グラフ20】システム全体の消費電力

 アイドル時の消費電力については、HD 7790が54Wで比較製品の中で最も高い数値だった。とはいえ、最もアイドル時消費電力が低かったHD 7770との差でも3Wしかなく、この程度は製品の個体差で覆るので、アイドル時の消費電力はほぼ同程度と考えていいだろう。

 各テスト実行中の消費電力では、リファレンスクロック設定時のHD 7790が全てのテストで、GTX 650 Tiより低い消費電力を記録した。比較製品中もっとも低い消費電力を記録しているHD 7770と比較すると、各テスト実行中の消費電力は2~9W高い数値ではあるものの、ベンチマークでのスコア差を考えれば、HD 7790の方がワットパフォーマンス的には分があるようだ。

 HD 7790、GTX 650 Tiとも、ボードベンダーオリジナルのオーバークロックモデルであるため、リファレンスモデル同士の比較では多少結果が異なる可能性はあるが、HD 7790の消費電力はGTX 650 Tiと大差ない数値と考えていいだろう。

ミドル~ミドルハイの間を埋める、GTX 650 Tiの対抗馬

 以上のテスト結果を踏まえると、HD 7790がRadeon HD 7000シリーズのミドルレンジ~ミドルハイの間を埋める製品として、また、NVIDIAのGPUラインナップにおいて同じ位置付けのGTX 650 Tiの対抗馬として、理想的な性能とワットパフォーマンスを実現した製品であるといえよう。

 現在、ミドルレンジGPUの価格競争は激化しており、GTX 650 Tiを搭載したビデオカードは1万円台前半、HD 7790の上位モデルであるRadeon HD 7850搭載製品も1万円台後半で販売されている。これら既存の製品に対抗できる販売価格で登場すれば、HD 7790は性能、消費電力、価格の3拍子揃った製品となる。魅力ある価格での登場に期待したい。

(三門 修太)