AMDは2月15日、Radeon HD 7000シリーズのミドルレンジモデル「Radeon HD 7700」シリーズと、同シリーズの製品となる「Radeon HD 7770 GHz Edition」および「Radeon HD 7750」の2製品を発表した。今回、AMDより両製品を借用できたので、ベンチマークテストでその性能を探ってみた。
●28nmプロセス&GCNアーキテクチャ採用ミドルレンジGPU今回発表されたRadeon HD 7700シリーズは、AMDの新世代GPUファミリ「Southern Islands」のミドルレンジ向けGPUコア「Cape Verde」を採用する。新アーキテクチャ「Graphics Core Next」(GCN)を採用し、28nmプロセスで製造され、Radeon HD 7900シリーズのハイエンド向けGPUコア「Tahiti」と、製品未発表のミドルハイ向けGPUコア「Pitcairn」の下位モデルに位置し、従来の「Radeon HD 6700/5700シリーズ」(Jupiterコア)を置き換える。
Southern Islandsの製品群。ミドルレンジのCape VerdeとハイエンドのTahitiの間には未発表のPitcairnが用意される | Radeon HD 7700シリーズの位置づけ。ミドルレンジモデルとして、99ドル~199ドルの価格帯を担う |
Cape Verdeコアは、64基のStream Processors(SP)と4基のテクスチャユニットなどで構成されるCompute Unit(CU)を最大で10基備え、Tahitiコアと同じ第9世代のテッセレーターをジオメトリエンジン内に備える。メモリインターフェイスには、GDDR5対応の64bitメモリコントローラを2基備え、128bit幅でグラフィックスメモリと接続する。
そのほか、PCとのインターフェイスにはPCI Express 3.0を採用し、省電力機能の「AMD ZeroCore Power Technology」や、4K解像度(4,096×2,160)に対応した映像出力ポート(HDMI 1.4a 3GHz、およびDisplayPort 1.2 HBR2)、手振れ補正機能「AMD Steady Video 2.0」など、GCNアーキテクチャ採用のRadeon HD 7000シリーズでサポートされた新機能に対応する。
Radeon HD 7700シリーズの特徴 | Radeon HD 7900シリーズとの機能比較 |
今回、Radeon HD 7700シリーズの発表に合わせて、「Radeon HD 7770 GHz Edition」と「Radeon HD 7750」の2モデルが発表された。
上位モデルの「Radeon HD 7770 GHz Edition」(以下HD 7770)は、フルスペック仕様のCape Verdeコアを搭載しており、640基のSPと40基のテクスチャユニットを備える。このGPUコアは、「GHz Edition」の名が示す通り1GHzで動作する。メモリは1,125MHz(4.5GHz相当)で動作するGDDR5メモリを1GBを搭載し、一般的な3Dアプリケーション利用時の最大消費電力は80Wとなる。
下位モデルの「Radeon HD 7750」(以下HD 7750)は、2基のCompute Unitが無効化されたCape Verdeコアを搭載し、512基のSPと32基のテクスチャユニットを備える。GPUコアの動作クロックは800MHzで、メモリにはHD 7770と同様、1,125MHz(4.5GHz相当)で動作するGDDR5メモリを1GBを搭載する。GPUコアのスペックが下がった分、消費電力はHD 7770より低い、最大55Wとなっている。
Radeon HD 7700シリーズ製品の仕様表 |
【表1】
Radeon HD 7770 GHz Edition | Radeon HD 7750 | Radeon HD 6770 | Radeon HD 6750 | Radeon HD 6850 | |
アーキテクチャ | Graphics Core Next | VLIW5 | VLIW4 | ||
プロセスルール | 28nm | 40nm | 40nm | ||
コアクロック | 1,000MHz | 800MHz | 850MHz | 700MHz | 775MHz |
SP | 640基 | 512基 | 800基 | 720基 | 960基 |
テクスチャユニット | 40基 | 32基 | 40基 | 36基 | 72基 |
メモリ容量 | 1GB GDDR5 | 1GB GDDR5 | 1GB GDDR5 | 1GB GDDR5 | 1GB GDDR5 |
メモリクロック(データレート) | 1,125MHz (4.5GHz相当) | 1,125MHz (4.5GHz相当) | 1,200MHz (4.8GHz相当) | 1,150MHz (4.6GHz相当) | 1,000MHz (4.0GHz相当) |
メモリインタフェース | 128bit | 128bit | 256bit | ||
ROPユニット | 16基 | 16基 | 16基 | 16基 | 32基 |
今回AMDより借用したのは、HD 7770とHD 7750のリファレンスボードだ。
HD 7770のボードサイズは約210mmで、ボード全体を覆う2スロット仕様のクーラーを搭載する。画面出力にはMini DisplayPort×2、HDMI×1、DVI×1を備え、6pin端子1系統による電源供給を必要とする。ボードの上部にはCrossFire端子を1基備える。
HD 7750のボードサイズは167mmで、こちらは1スロット仕様のクーラーを搭載している。画面出力はDisplayPort、HDMI、DVIを各1ポート備える。電源端子は備えておらず、PCI Expressスロットからの給電のみでの動作が可能だ。ボード上部のCrossFire端子は省略されている。
HD 7770のリファレンスボード | ディスプレイ出力は、DVIとHDMI各1系統と、mini DisplayPort2系統 |
電源コネクタは6pin1系統 | 基板上部にはCrossFire端子が用意されている |
HD 7750のリファレンスボード | ディスプレイ出力は、DVIとHDMI各1系統と、mini DisplayPort2系統。 | 電源コネクタとCrossFire端子は省略されている |
●比較対象にミドルレンジ~ミドルハイ製品を用意
それではベンチマークテストの結果紹介に移りたい。今回、HD 7770とHD 7750の比較製品として、「Radeon HD 6770」(以下HD 6770)、「Radeon HD 6850」(以下HD 6850)、「GeForce GTX 550 Ti」(以下GTX 550 Ti)、「GeForce GTX 560 Ti」(以下 GTX 560 Ti)を用意した。
その他、今回利用した検証機材については、下記の表に掲載した。なお、検証機材についてはRadeon HD 7950のベンチマークレポートに使用したものと同じ機材を利用したが、マザーボードのBIOS更新に伴いCPUの省電力機能周りの再設定を実施している。性能面への影響はほとんど無いが、アイドル時消費電力については以前よりも低下している。
【表2】テスト機材GPU | HD 7770 HD 7750 | HD 6770 HD 6850 | GTX 550 Ti GTX 560 Ti OC |
CPU | Intel Core i7-2600K | ||
マザーボード | ASUS P8P67 Rev3.0 (BIOS:2103) | ||
メモリ | DDR3-1333 4GB×2 (9-9-9-24、1.5V) | ||
ストレージ | Western Digital WD5000AAKX | ||
電源 | Silver Stone SST-ST75F-P | ||
グラフィックスドライバ | 8.932.2-120206a-133032E-ATI | Catalyst 12.1 | GeForce 295.51 Driver BETA |
OS | Windows 7 Ultimate 64bit SP1 |
HD 6770搭載ビデオカード、XFX「HD-677X-ZMF3」 | HD 6850搭載のリファレンスボード |
GTX 550 Ti搭載ビデオカード、玄人志向「GF-GTX550Ti-E1GHD」 | GTX 560 Ti搭載ビデオカード、ASUS「ENGTX560 Ti DCII/2DI/1GD5」。OCモデルだが、検証の際は動作クロックを定格相当に変更している |
●DirectX 11対応ベンチマークテスト
まず、DirectX 11対応ベンチマークテストの結果から紹介する。実施したテストは「3DMark 11」(グラフ1、2、3)、「Unigine Heaven Benchmark 2.5」(グラフ4)、「Stone Giant DX11 Benchmark」(グラフ5、6)、「Lost Planet 2 Benchmark DX11」(グラフ7)、「Alien vs. Predator DX11 Benchmark」(グラフ8、9)、「Tom Clancy's H.A.W.X 2 Benchmark」(グラフ10)だ。
HD 7770のテスト結果は、HD 6770の結果を全ての項目で上回った。Radeon HD 5000シリーズ向けに最適化されているAlien vs. Predator DX11 Benchmarkでは高負荷時にその差が縮まっているが、多くのテストでHD 6770を2割以上の差をつけて引き離している。
特に、テッセレーションを多用しているStone GiantやUnigine Heavenではその差が大きく、HD 6770に最大で8割近い差をつけたうえ、ミドルハイモデルのHD 6850をも上回るスコアを記録した。Radeon HD 6900シリーズに搭載されていた第8世代テッセレーターの4倍の性能を持つという第9世代テッセレーターの効果が表れた結果と言えるだろう。
HD 7750のテスト結果は、テスト項目によってHD 6770と優劣が入れ替わる結果となった。HD 7770がHD 6770を大ききく引き離すテストではHD 7750もHD 6770を上回っているが、HD 7770が苦戦したAlien vs. Predator DX11 BenchmarkではHD 6770に2割程度の差をつけられる結果となった。
●DirectX 9/10対応ベンチマークテスト
続いて、DirectX 9世代とDirectX 10世代のベンチマークテストの結果を紹介する。実施したテストは「3DMark Vantage」(グラフ11、12)、「BIOHAZARD 5 Benchmark DX10」(グラフ13)、「3DMark06 Build 1.2.0」(グラフ14、15)、「ファイナルファンタジーXIV オフィシャルベンチマーク」(グラフ16)、「MHFベンチマーク 【大討伐】」(グラフ17)、「Lost Planet 2 Benchmark DX9」(グラフ18)、「BIOHAZARD 5 Benchmark DX10」(グラフ19)だ。
HD 7770の結果は、DirectX 11対応ベンチマーク同様GPU性能を反映する項目は全てHD 6770を上回る結果となった。HD 6850との関係についてもテスト次第で優劣が分かれる結果となったが、3DMark06やファイナルファンタジーXIVのように大差をつけられている結果もあり、DirectX 11の結果と比べると分が悪く見える。
HD 7750は多くのテストでHD 6770と同程度のスコアを記録したが、DirectX 9対応ベンチマークのGPU性能を反映する項目でHD 6770を上回ったのは1項目のみとなっており、ファイナルファンタジーXIVで約2割の大差をつけられている分、こちらもDirectX 11の結果と比べると分が悪い。
最後に消費電力の測定結果を紹介する。このデータは、サンワサプライのワットチェッカー「TAP-TST5」を利用し、各テスト実行中の最大消費電力を比較したものだ。
HD 7770とHD 7750のアイドル時消費電力は、ともに56Wと比較製品中最も低い結果を記録した。アイドル時消費電力の結果全体をみると、85Wを記録したHD 6770が頭1つとびぬけた結果となっているが、これはアイドル時にメモリクロックが下がらなかったことなどが影響しているようだ。
各負荷時の消費電力では、HD 7750が比較製品中最も低い数値を記録し、HD 7770がそれより16~30W高い数値でそれに続く結果となった。HD 6770との比較では、ファイナルファンタジーXIVと3DMark11実行中の消費電力でHD 7770が20~25W前後低く、HD 7750は40W程低い。GPUに高負荷を掛け続けるOCCT 3.1.0実行時の消費電力では、HD 7770が63W、HD 7750が92Wも低い数値を記録した。
【グラフ20】システム全体の消費電力 |
●実性能とワットパフォーマンスは順当に進化
今回のテストでは、Radeon HD 7700シリーズが、Radeon HD 6700シリーズの後継モデルとしては、十分な実性能とワットパフォーマンスを示した形となった。
HD 7770については、HD 6770に対して消費電力を下げつつパフォーマンス向上を果たしており、順調な世代交代がなされていると言える。HD 7750もPCI Expressスロットからの給電でのみ動作する製品としては、高いパフォーマンスを実現しており、消費電力を重視するユーザーにとっては注目の製品となりそうだ。
新世代のGPUとして上々のパフォーマンスを示したRadeon HD 7700 シリーズだが、この製品がヒットするかは価格次第となりそうだ。AMDはRadeon HD 7700 シリーズのCape Verdeを、99ドル~199ドルレンジを担うGPUとしているが、現在1万円台前半から中盤程度の価格帯にはミドルハイのRadeon HD 6800シリーズ製品が展開している。これを相手にコストパフォーマンスで対抗できる価格となるか否かが、Radeon HD 7700 シリーズのカギとなるだろう。
(2012年 2月 15日)
[Reported by 三門 修太]