【CES 2011レポート】NVIDIAカンファレンス編
~GPU統合型ARMベースCPU「Project Denver」の開発を表明

ジェン・スン・フアン氏

会期:1月6日~9日(現地時間)
会場:Las Vegas Convention Center/The Venetian



 現地時間の5日にCES会場で行なわれたNVIDIAのプレスカンファレンスでは、これまで何度か噂に上っていたNVIDIA製CPUについて、同社社長兼最高経営責任者(CEO)であるジェン・スン・フアン氏が、その存在を初めて公式に認めた。

 今回のプレスカンファレンスの主題はTegra 2で、60分の時間の内58分は、LGのTegra 2搭載スマートフォン(NVIDIAはスマートフォンを超えたスーパーフォンと呼称)や、AdobeとのFlashの協業、iPhone 4より数倍高いという3D性能といった話題について、デモや各社の首脳陣をゲストに招きながら説明した。

 そして、最後の瞬間に、「MicrosoftがARM対応のWindowsを開発中」という直近の業界の“噂話“をスライドで紹介した後に、「もう1つの発表事項」として、自社でゼロから設計した高性能なARMベースCPUである「Project Denver」(コードネーム)について紹介を行なった。

2005年以降のARMとx86プロセッサの出荷量フアン氏があくまでも“噂話”として紹介したMicrosoftの話どこかの企業を彷彿とさせる、締めくくりのもう1つの発表

 ただし、フアン氏が行なったのは、あくまでも開発を行なっていることの表明で、それがハイエンドコンピューティングに向けたものである事以外、製品の仕様などについては一切明かされなかった。

 フアン氏が引用した資料によると、スマートフォンなどの隆盛により、今後5年以内に、ARMベースのプロセッサの年間出荷量は、これまでのx86プロセッサの通算出荷量を超える勢いで伸びているという。

 しかし、PCやHPC(High Performance Computing)といった市場では、要求される性能が出さないという点と、現行のWindows OSがx86プロセッサ向けにしか用意されていないという事情から、ARMプロセッサにつけいる余地はなかった。

 そういった中、NVIDIAが投入するProject Denverは、スーパーコンピュータ用ノードとしての性能も発揮しうる、カスタムメイドのARMプロセッサとなるという。フアン氏の言葉を借りるなら、この製品によりNVIDIAは、「スーパーフォンからスーパーコンピュータまでをカバーする“スーパー”コンピューティングカンパニー」へと進化することになる。

NVIDIA自前のハイパフォーマンスARMコアこと「Project Denver」NVIDIAはGPU企業から、“スーパー”コンピューティングカンパニーへと転身する

 それを実現するには、前述のMicrosoftに関する噂話が実現する必要があるわけだが、少なくともNVIDIAのプレスカンファレンスが終わった直後の時点で、Microsoftは、自ら次期バージョンのWindowsにおいて、ARMを含むSoC(System On Chip)をサポートすることを正式に発表した。その中には、NVIDIAのARMベースプロセッサのことが言及されている。つまり、当然と言えば当然だが、フアン氏は噂話が事実であることを、すでに承知していたわけだ。

 もう1つ、このCPUについてフアン氏はカンファレンスで説明しなかったが、Project Denverは、同社のGPUと同じチップに完全に統合されることを、同社Chief ScientistであるBill Dally氏は、カンファレンス直後に公開されたブログの中で明かしている。

 現時点でこれ以外の情報はないが、Project DenverのCPUコアが、IntelやAMDのハイエンドCPUに性能で勝るとは考えにくい。NVIDIAのアプローチは、小さな、といっても次期Windowsを動かせる程度にはパワフルなCPUコアに、並列演算やメディア処理に強いGPUコアを組み合わせ、トータルでより効率的で高性能なプロセッサを開発し、タブレットやHPCなどに提供していくものと思われる。

 ただし、Project Denverは、ARMの将来のアーキテクチャを元に、ただのライセンス供与ではなく、NVIDIAがゼロから独自の開発を行なうコアとされており、その性能は未知数だ。

(2011年 1月 6日)

[Reported by 若杉 紀彦]