イベントレポート

5Gの経済的な波及効果は2035年に12兆ドルに達するとQualcomm CEO

~5Gのソリューションを加速

 Qualcommは、1月6日(現地時間)の午前中に行なわれたCESの基調講演に、同社CEOのスティーブ・モレンコフ氏が登壇し、5G(第5世代携帯電話)に対応するソリューションの紹介、およびSnapdragon 835などに関しての説明を行なった。

 この中でモレンコフ氏は「5Gの経済的な波及効果は2035年に12兆ドルに達し、これは中国、日本、フランス、ドイツ、イギリスの一般消費者の消費よりも多くなっている。5Gは多数の雇用や新しいビジネスを創造することになる。Qualcommは1Gから4Gまでの携帯電話の技術開発をリードしてきており、5Gに関してもリードしていく」と述べ、同社が昨年(2016年)発表した5G対応モデムとなる「Snapdragon X50 モデム」などのソリューションや、過去4世代に渡り携帯電話回線向けの技術を開発した蓄積を武器に、Intelなど5Gの開発するほかのメーカーとの差別化を狙っていく方針だ。

5Gの経済的な波及効果は2035年に12兆ドル(日本円で約1,400兆円)に達する見通し

 CESの会期(1月5日~1月8日、現地時間)で言えば2日目にあたる1月6日午前中の基調講演に登壇したのが、半導体メーカーQualcomm CEOのスティーブ・モレンコフ氏だ。

Qualcomm CEO スティーブ・モレンコフ氏。左手に持っているのはSnapdragon 835

 今回のCESで大きな話題になっているテーマと言えば、自動運転、IoT(Internet of Things)、そしてそれを支えているAI(Artificial Intelligence、人工知能)や5G(第5世代携帯電話)だ。5Gとは、第5世代の携帯電話回線の技術だ。

 現在日本などで一般的に利用されているLTEなどの4G世代の技術にも、Qualcommの特許が多数利用されているほか、多くのスマートフォン、タブレット、PCなどのセルラー回線モデムに同社のチップが利用されていることは繰り返すまでもないだろう。

5Gが新しい経済圏を作る

 モレンコフ氏は「5Gはモバイルだけに使われる回線ではなくなる。既に数十億のデバイスがインターネットに接続されており、それが5Gではさらに増加していく。その中にはIoT(Internet of Things)や自動車などが含まれており、社会に大きな影響を与えていくだろう」と述べ、5GではスマートフォンやPCのようなコンピューティングデバイスだけでなく、IoTや自動車などのデバイスもセルラー回線を利用してインターネットに接続される時代になるので、5Gはそれに対応できるように、帯域を増やしたり、遅延を減少させたり、セキュリティ性を向上させたりという仕組みが入ると説明した。

 5Gでは、現在主にセルラー回線で利用されているような6GHz以下の周波数帯だけでなく、28GHzなどのいわゆるミリ波と呼ばれる周波数帯も通信に利用されるようになる。これにより、ネットワーク全体でサポートできる帯域幅が増え、今後爆発的に増えると予想されているIoTや自動運転車などがインターネットに接続してネットワークの帯域を消費する時代に備えられる。また、現在の4G回線などではキャパシティの問題で、常時接続だけど、使えるパケット数に制限をかけなければいけない状況も緩和される可能性がある。その意味で、5Gは非常に大きな可能性を秘めている。

Qualcommが依頼して独立の調査機関が調べたところ、2035年までに経済波及効果は12兆米ドル
5Gが新しい雇用を作り出す

 モレンコフ氏は「我々の依頼で独立の調査機関が調査したところ、5Gの経済波及効果は2035年まで12兆ドルを越えるという予想が出ている。この規模は中国、日本、フランス、ドイツ、イギリスの一般消費者が昨年消費した額よりも大きくなっている」と述べ、5Gが登場することによる経済波及効果は、2035年までに12兆米ドル(日本円で約1,400兆円、2016年度=平成28年度の日本の一般会計予算が約97兆円なので、その約14倍)に達するとした。モレンコフ氏はさらに、そうした経済波及効果が新しい雇用やビジネスを産み、経済的な発展に大きく貢献するとした。

AT&T、Ericsson、SK Telecomと共同で5Gのトライアルを実施
Snapdragon X50 modem

 そして、そうした5Gのトライアルを米国のAT&T、スウェーデンのEricsson、韓国のSK Telecomなどと行なっていることに触れ、同社が昨年発表した5Gモデム「Snapdragon X50 modem」を紹介し、今年(2017年)の終わりから2018年の始めにかけてミリ波に対応したシステムのトライアルと開発を始めることを明らかにした。

 通信業界では2018年に韓国で行なわれる平昌オリンピック、2020年に日本で行なわれる東京オリンピックでのデモや実用化をターゲットにしており、Intelも新しい5Gモデムを今年の前半から後半にかけて出荷することを明らか(別記事参照)にしており、そうしたターゲットに向けて各社の開発競争が続くことになる。

10nmプロセスで製造される最初のモバイルプロセッサとなるSnapdragon 835

 5Gについで、モレンコフ氏は同社がCESで正式に発表したSnapdragon 835について紹介した。Snapdragon 835は、現在各社のハイエンドAndroidスマートフォンに搭載されているSnapdragon 820の後継となる製品だ(別記事参照)。

10nmで製造される最初のモバイルプロセッサとなるSnapdragon 835
Snapdragon 835の特徴

 モレンコフ氏は「Snapdragon 835は最初の10nmプロセスルールで製造されるモバイル向けのプロセッサとなる。電力効率が改善され高性能なのに低消費電力で、AR/VRに対応し、カメラ機能の強化、Gigabitのセルラー回線への対応、セキュリティ機能などの追加が行なわれている」と、Snapdragon 835の特徴を紹介し、新機能のうちVR/ARへの対応について触れ、Snapdragon 835を利用したVRソリューションなどについてゲストを交えながら説明した。

 その後、モレンコフ氏はメディカル関連のIoT製品、ドローン、さらには自動車向けのソリューションなどについて紹介した。

Snapdragon 835を利用したARデバイス
メディカル向けはIoTの巨大市場になると考えられている。QualcommはオランダのPhilipsと提携
携帯電話回線を利用してドローンを制御するデモを公開。ドローンではセキュリティや安全性などが課題になっているため、携帯電話回線を利用することはドローンの安定性向上に大きな意味がある