富士通、電源装置向けの窒化ガリウム高電子移動度トランジスタ
~ノートPCのACアダプタレス化を実現可能に

今回開発した窒化ガリウム高電子移動度トランジスタの特徴

6月24日 発表



 株式会社富士通研究所は24日、電源装置向けの窒化ガリウム高電子移動度トランジスタ(HEMT)を開発したと発表した。2011年を目処に実用化を目指す。

 窒化ガリウム素材は、従来のシリコンと比較して10倍高耐圧であるため、電極間の距離を短くできる。このため電子が走る距離を短くでき、かつスイッチング速度を向上できる。シリコントランジスタと比較して、オン損失を1/5に、スイッチング損失を1/100以下に抑えられるという。

 また、オン損失の低減に伴い発熱量も低減し、冷却装置などを小型化できる。さらにスイッチング速度が向上するため、電源周辺のコイルやコンデンサ部品も小型化できるメリットを持つという。電源装置で使われる周囲のコイルやコンデンサなどを考慮して算出した場合、電源全体で損失を従来の3分の1以下に抑えられるとしている。

シリコントランジスタと窒化ガリウムHEMTの違いシリコントランジスタと窒化ガリウムHEMTの消費電力比較

 同社は2003年に無線通信機直向けの窒化ガリウムHEMT技術、2008年に待機時通電遮断可能な窒化ガリウムHEMTを開発し、発表したが、これはオン電圧が+2V以下、ドレイン電流が600mA/mm以下のもので、電源に求められる+2V~4V、600mA/mm以上を達成できなかった。

 そこで今回、同社はn型窒化アルミニウムガリウム層を薄く残すことで、窒化ガリウム電子走行層にダメージを与えない構造としつつ、ゲート電極を平坦にすることで、信頼度の高い通電動作を可能にし、オン電流の増加を可能にした。これにより、電源装置で実用可能なオン電圧+3V、ドレイン電流829mA/mmを世界で初めて達成した。

富士通のHEMT開発の歴史2003年と2008年に発表した窒化ガリウムHEMT技術今回の窒化ガリウムHEMTで電源用途に利用できるようになった

 窒化ガリウムHEMTを実用化する一例として、サーバーの電源装置などに適用した場合、データセンター全体で、サーバーによる省電力効果で8%、発熱量低下による空調の省エネ効果で4%、計12%の電力削減を実現できる。日本全体のデータセンターで置き換えれば、年間33万トン相当の二酸化炭素排出削減効果が得られるという。

 実用化後はまず同社のサーバーから導入し、それ以降はサーバーのみならず、ノートPCのACアダプタや電気自動車用電源への展開を目指す。ノートPCで採用されれば、電源内蔵によるACアダプタレス化も実現できるとした。

 なお、コストについては、素材の単価ではシリコンよりやや高いものの、本体の小型化で相殺でき、量産化されれば、現在のシリコントランジスタと同価格帯を実現できるという。

窒化ガリウムHEMTにより電源装置の発熱を抑えられるサーバー技術への適用を目指すノートPCのACアダプタレス化も実現可能という

(2009年 6月 24日)

[Reported by 劉 尭]