笠原一輝のユビキタス情報局
Adobe、Creative Cloud Typekit向けにモリサワTypeBankフォント10種類を追加
2017年7月27日 09:00
米Adobe Systemsは27日、同社が提供するサブスクリプション型のクリエイターツールとなるCreative Cloudの一部として提供するフォントサービス「Typekit」に、日本の代表的なフォントメーカーの1つとなる株式会社モリサワのグループ企業である株式会社タイプバンクが提供するTypeBankフォント10種類を追加したと発表した。
その発表に合わせて来日にしたAdobe Systems Adobe Type /Typekit担当マーケティングマネージャのニコル・ミニョーサ氏に話を伺う機会を得た。現在のPCやクリエイターツールにおけるフォントを巡る環境、そしてユーザーにとってTypekitのメリットとは何なのかについて紹介していきたい。
OS標準のフォントとサードパーティが提供するフォント
今読者が読まれているこの記事も、Webブラウザにあらかじめ指定してあるフォントで表示されている。多くのブラウザではフォントを変えることができるので、興味がある読者はフォントを変えてみると、同じ記事でも大分違った印象になるはずだ。
PCのOSにおけるフォントは、OSが標準で持っているOS標準フォントと、ユーザーがアプリケーションと一緒にインストールするサードパーティフォントの2種類がある。前者は、Windowsの場合にはC:WindowsFontsフォルダにインストールされており、基本的にあらゆるアプリケーションからそのフォントを利用できる。OS標準フォントとしては、Windowsで言えば、Windows 7で導入されたメイリオが有名だし、Windows 8.1では游ゴシックや游明朝などのいわゆる游書体が追加されており、Office 2016ではこれが標準のフォントとなっている。
後者は、フォントメーカーが販売しているもので、日本の有名なフォントメーカーには株式会社モリサワがある。モリサワは手動写植機、電算写植機のメーカーだったが、近年はDTP(DeskTop Publishing、書籍や雑誌などPCなどを利用して編集を行い出版すること)向けのフォントメーカーとしても定評がある。
そしてAdobeも最近フォントを供給するソフトウェアベンダーとして注目を集めている。同社がCreative Cloudの機能の1つとして提供しているフォントサービスがAdobe Typekitになる。
無償版も用意されているTypekit
AdobeのTypekitは、Creative Cloudの機能の1つとして提供されている。ユーザーのPCに導入するCreative Cloudのデスクトップアプリケーションから必要なフォントを選んで導入する。
ただし、一部の書体に関してはCreative Cloudの有効な契約を持っていなくても利用できる。具体的には平成明朝、ゴシック、丸ゴシック、源ノ角ゴシックといったフォントは、Adobeのアカウントを持っていれば、無料で使える。Adobeは、このTypekitの無償利用分に関してCreative Cloudのプロモーションとして位置づけている。
もともとCreative Cloudがスタートした2012年の段階ではTypekitは提供されていなかった。Creative Cloudがスタートした後にAdobeが買収したフォント関連の会社のビジネスがTypekitのベースになっており、徐々に対応するフォントを増やしてきた。欧文ではすでに5千書体を越えている。
日本語フォントで言えば、2015年10月にロサンゼルスで行なわれたAdobe MAX 2015において、モリサワのフォントが追加されることが発表(【Adobe MAX基調講演レポート】モバイルデバイスはもはやコンテンツ消費だけではない参照)されたのが1つのターニングポイントになっている。以降、日本語フォントも増えており、これまでに97書体がTypekitの日本語フォントとして追加されている。
Adobeは本日(7月27日)の午前9時からTypekitの日本語フォントに、新たにモリサワのグループ企業である株式会社タイプバンクが提供するTypeBankフォント10種類を追加すると明らかにした。
Adobe Systems Adobe Type /Typekit担当マーケティングマネージャのニコル・ミニョーサ氏は、「モリサワは日本における最初のパートナーで、非常に重要なパートナーであり、われわれの顧客にとってもモリサワのフォントが使えることは大きな意味を持つ。実際Typekitのうち、日本語フォントは60%近くがモリサワのフォントでユーザーにも人気がある。そのモリサワのTypeBankを追加することは、Creative Cloudを利用している顧客に大きなメリットをもたらすと考えている」と語る。
今日から新たに提供されるのは漢字タイポス48および412、TBUDゴシックRegular、Bold、Heavy、TBUD丸ゴシックRegular、Bold、Heavy、TBUD明朝Medium、Heavyの10書体。
TBUDはTypeBank Universal Designの略で、いわゆるユニバーサルデザインと呼ばれる誰が見ても読みやすく、見やすく、美しく、内容を間違いなく伝えるために開発されたフォントになる。最近ハンディキャップを持っっている人にも見やすい機会をということで、チケット販売機などにユニバーサルデザインのフォントを採用することが増えているが、TBUDはモリサワ版ユニバーサルフォントということになる。今回のアップデートではTBUDゴシック、TBUD丸ゴシック、TBUD明朝の標準版や太字版などが提供開始される。
Creative CloudにTypekitが用意されているメリットはポータビリティ
Typekitが使えるユーザーのメリットはなんだろうか? Adobeのミニョーサ氏によれば、それはCreative Cloudでのフォントのポータビリティ(可搬性)だという。
すでに述べた通り、これらのサードパーティのフォントもシステムフォルダ(Windowsで言えばC:WindowsFonts)にインストールされれば、どのアプリケーションからでも使うことができる。Typekitのフォントもここにインストールされるので、Creative Cloudのデスクトップアプリケーション(Photoshop Creative Cloud、Illustrator Creative Cloudなど)だけでなく、Microsoft OfficeなどAdobe以外のアプリケーションからも利用できる。
ただし、サードパーティフォントが利用できるのはTypekitのフォントををインストールしたPCのみとなる。そのため、Typekitのようなサードパーティフォントを利用して、ユーザーがPowerPointで資料を作った場合、ユーザーのPCではTypekitのフォントを利用して表示することができるが、当該フォントがインストールされていない他のPCに持っていった場合には、代替フォントで表示され、資料作成者が意図した通りには表示されなくなる。
Creative Cloudのアプリケーションを利用している場合にはこの問題を避けられる。たとえばIllustratorで、利用マシンにインストールされていないTypekitフォントを使ったデータを読み込んだ場合、Creative Cloudの同期ツールを利用してワンクリックでインストールして表示することが可能だ。
Typekit以前は、グローバル企業は、日本語、英語圏、中国語圏、フランス語圏、と別途フォントをそれぞれに購入する必要があった。Typekitが導入されたことで、Creative Cloudを契約するだけで、容易に高いクオリティのフォントを利用してやりとりできる。
同じことはOSにも言える。Windows OSとMac OSではシステムが標準で用意しているフォントが異なる。だがCreative Cloudであれば、Typekitを利用すれば、必要なフォントはクラウドからダウンロードしてくることができるため、OSの差を意識する必要もなくなってくる。
今後も対応フォントは増やしていく、日本語フォントも急ピッチに充実が進む
ミニョーサ氏によれば、フォントメーカーとの契約はそれぞれ異なっているため詳しくは説明できないということだったが、大雑把に言えばユーザーがインストールした数などからのレベニューシェア(売り上げを共有すること)のビジネスモデルになっており、フォントメーカーと共存共栄を目指しているという。
逆に言えば、まだTypekitに入っていないフォントメーカーにとっては新しいビジネスチャンスでもあり、Creative Cloudのクリエイター業界でのシェアの高さを考えれば、考慮に値するのではないだろうか。
ミニョーサ氏は「今後もフォントの拡張を行なっていくというのがAdobeの基本戦略。日本語のフォントも含めて今後も追加していきたい」と説明する。欧米の数千種類に比べると、日本語は100種類ちょっとまだまだ成長途上という印象だが、2015年10月のAdobe MAXでモリサワのフォントが追加されると発表されて以降、高い勢いで増えておりその動向には今後も要注目だ。