イベントレポート

【基調講演レポート】モバイルデバイスはもはやコンテンツ消費だけではない

~デスクトップが連携しクリエイティブソリューションを実現

ロサンゼルスのMicrosoft Theaterで行なわれたAdobe MAX 2015

 Adobe Systems(以下Adobe)のクリエイティブ向けツールの方向性を説明するイベントAdobe MAXが、今年も米国カリフォルニア州ロサンゼルスにあるLos Angels Convention CenterおよびMicrosoft Theaterにおいて行なわれた。プレスカンファレンスを除いた実質的な初日となる10月5日午前(現地時間)には、Microsoft Theaterで基調講演が実施された。

530万契約へと成長したCreative Cloud、今後はモバイルアプリへさらなる投資

 Adobe MAX 2015の基調講演の冒頭に登壇したのは、Adobe Systems CEOのシャンタヌ・ナラヤン氏だ。ナラヤン氏は2007年の12月からAdobeのCEOを務めており、1998年にAdobeに入社してからそれまで開発を率いる本部長、上級副社長、COOなどの要職を歴任。CEOに就任してからは、現在のAdobeの基本戦略になっているCreative Cloudの事業戦略をリードして、現在のAdobe繁栄の礎を築き上げてきた。

 ナラヤン氏は「クリエイターが作り出すデジタルコンテンツの体験で、世界を変えていきたい、それがAdobeの目標だ」と述べ、Adobeはコンテンツを生み出すクリエイターの助けになるようなソリューションを提供し、それによってより良いコンテンツが生み出されという、良好なスパイラルを生み出すことが大事だとした。

 「4年前のAdobe MAXでCreative Cloudの基本的な考え方を打ち出し、それからもデスクトップアプリケーションに新機能を追加したり、モバイルアプリケーションを追加してきた。さらにマーケットプレイスの概念を取り入れ、コンテンツを流通させてきた。それにより現在では530万もの契約をしていただいている」と述べ、同社がCreative Cloudの考え方を発表した2011年のAdobe MAXから4年かけて現在の成功にこぎ着けたのだとアピール。そして「今日の基調講演ではCreative Cloudのロードマップについて説明し、明日はよりクリエイター視点での内容になる。MAXを楽しんで欲しい」と語った。

 基調講演終了後に行なわれた記者会見の中でナラヤン氏は「モバイル機器はこれまではコンテンツを消費するデバイスに過ぎなかった。しかし、これからはコンテンツをクリエーションするための機器にもなると思う」と述べ、スマートフォンやタブレットと言ったスマートデバイスが、これからは単なるコンテンツ消費のための機器ではなく、クリエイターが積極的に活用してコンテンツ作成をするための機器として活用されることになるとの見通しを明らかにし、Adobeが今後もモバイル機器向けのソリューションに投資をしていくことを示唆した。

Adobe Systems CEO シャンタヌ・ナラヤン氏
クリエイターが作り出すデジタルコンテンツにより世界は変わりつつある

モバイルアプリケーションを使って編集し、CreativeSyncを経由してコンテンツを共有

 次いで登壇したのは上席副社長 兼 Creative Cloud事業本部長のブライアン・ラムキン氏。ラムキン氏は、各製品の担当者を壇上に呼びながら、Creative Cloudに今後提供される予定の新しいアプリケーションや、既存のアプリケーションに追加される予定の新機能などについて説明した。

 「Creative Cloudはクリエイターのためのツール。今後デザインの重要性はさらに増し、画面を持つ複数のデバイスを使いこなすことが当たり前になり、個人個人に合わせた体験が重要になる」と述べ、インターネットで結ばれた複数のワークフロー、よりクリエイティブ性を上げるためのライブラリ、Adobe Stockのようなコンテンツをクリエイター皆で共有する形となるコンテンツマーケットの拡張などが、Creative Cloudの今後の成長テーマになるとした。

 その後、各製品の担当者に替わり、それぞれの製品での新機能の紹介に移っていった。一番最初に紹介されたのは、Photoshopと一緒に使うモバイルアプリとして、「Comp CC」、「Photoshop Sketch」、「Photoshop Mix」、そして今回のAdobe MAXに併せて発表された新しいモバイルアプリの「Capture CC」だ。

 Capture CCは、従来は「Brush CC」、「Color CC」、「Hue CC」、「Shape CC」として別々に提供されてきた機能を、1つのモバイルアプリにまとめたツールで、ユーザーが取り込んだコンテンツをタッチで簡単に編集して利用できるようになる。

 今回のデモでは、Adobe Stockで流通しているコンテンツを、デスクトップ版のPhotoshop CCに直接取り込み、それを加工していくというストーリー。まずはiPadのComp CCを利用して文字のデザインを決定し、iPadのPhotoshop Sketchを利用して水彩画的なスケッチを描き、iPadのPhotoshop Mixで写真に加工を加え、最後にiPhone上のCapture CCを利用して模様を変更し、それらの加工後のデータをデスクトップ版のPhotoshop CCに直接取り込んでいく様子がデモされた。この時に取り込みは、Creative Cloudの主要機能の1つであるクラウド同期のCreativeSyncを利用してシームレスに行なわれていることが盛んにアピールされていた。

 それらのデモの後、Adobeのパートナーが紹介され、その中で日本の株式会社モリサワが、Creative Cloudのフォントサービスとなる“Adobe Typekit”にモリサワグループ書体を合計20書体提供すると発表された。これにより、Creative Cloudを契約しているクリエイターが、豊かな表現力を持つ日本語フォントとして提供のあるモリサワグループ書体を利用可能になる。

Adobe Systems 上席副社長 兼 Creative Cloud事業本部長 ブライアン・ラムキン氏
今後デザインの重要性は増し、マルチスクリーンでのコンテンツクリ-ションがあたり前になり、より個人に特化した体験が重要になる
Creative Cloudのメリットをアピール
今後Creative Cloudで強化していくポイント
Adobe Stockの画面、必要なコンテンツを検索して購入したりできる
Adobe Stockで購入したコンテンツを直接デスクトップアプリケーションに読み込める
Comp CC
Photoshop Sketch
従来はこうして4つのアプリに分かれていた機能が
Capture CCとしてまとめられた
Capture CCのiPhone版
Photoshop Mix
モバイルアプリで加工されたコンテンツがCreativeSyncを通じてデスクトップ版のPhotoshopでまとめられる
株式会社モリサワがCreative Cloudのフォントサービスとなる"Adobe Typekit"にモリサワグループ書体を合計20書体提供

デスクトップアプリにタッチ対応機能を追加し、タッチやペンでの操作をより快適に

 次いで話題は、「Illustrator CC」や「InDesign CC」、「Fuse CC」などを利用したデザインへと移っていった。今回のAdobe MAXの基調講演では、ほとんどのデモがAppleのMac OS上で動くデスクトップアプリケーションと、iOS上で動くモバイルアプリケーションで行なわれた。そうした中で、唯一Windowsマシンで行なわれたのがIllustrator CC上でペンを利用した操作を説明するデモだ。

 MicrosoftのSurface Pro 3と見られるマシンで行なわれたこのデモでは、Illustrator CCでタッチやペンを利用して丸や四角を書くとそれが近い図形としてすぐに変換され、さらにその図形もペンを利用してさらに細かく編集していく様子がデモされ、普段はほとんどがMac OSのPCを使っているとみられるクリエイターも、その便利さには驚いている様子だった。そして、そのSurface Pro 3で編集したイラストは、やはりCreativeSyncを経由してMac OS上のInDesign CCに転送されて利用できるというデモが行なわれた。

 ラムキン氏は「タッチやペン機能の実装に関しては、Microsoftと協力して行なっている。今後Illustrator CC、InDesign CC、Photoshop CC、Lightroom CC、Premiere Pro CC、AfterEffect CC、Audition CC、Character Animatorなどでタッチ機能を拡張していく」と述べ、今後もWindows 8/10でサポートされているタッチ機能を、Creative Cloudのデスクトップアプリに取り込んでいくと説明した。なお、Adobeによれば、それらの新機能は、11月に予定されているアップデートで追加される見通しだということだ。

Surface Pro 3と見られるデバイスを利用してペンでIllustrator CCを操作
タッチやペンで三角や四角を書くと、それがイラストとして認識される。ペンを利用しての微調整も可能
Surface Pro 3で作成したロゴを、Mac上のInDesignに読み込む
Fuse CCのデモ
タッチの機能をIllustrator CC、InDesign CC、Photoshop CC、Lightroom CC、Premiere Pro CC、AfterEffect CC、Audition CC、Character Animatorに拡張する

スマートフォンやタブレットで撮影した写真も簡単に編集できるPhotoshop Fixが新登場

 次いで話題は、“Web & UX”へと移っていった。このパートではWebサイトを作成するツールである「Dreamweaver CC」と「Muse CC」が紹介され、特にMuse CCを使うと、難しいコーディング作業をしなくても、コンテンツを置いていくだけで、モダンなWebサイトが作れるとアピールした。中でも、PC用のサイトと、スマートフォン用のサイトを、拡大縮小だけで作れる様子が示されると、詰めかけたクリエイターからは大きな拍手が起こった。

 その後、開発コードネームでProject Cometと呼ばれているソフトウェアが紹介され、スマートフォン向けのアプリを作る際のUIを試作できるツールとして紹介された。Cometだけでプログラミングまでできるということではなく、あくまでプログラミングをする際に必要となるUIの画像などを作成するツールだ。複数の画像を選んで同時にドラッグ&ドロップすると、画像が同時に埋め込まれる様子などがデモされ、アプリベンダーなどでUIの設計を行なう時などに役立つ。Cometは現在開発中で、現在ベーターテスターを募集中。パブリックリリースは来年初頭になる予定だと説明された。

 そして話題はビデオ関連へと移っていった。ここで、アメリカのコミックのキャラクターであるDeadpoolの実写版映画の監督を務めているティム・ミラー氏が壇上に呼ばれ、ラムキン氏と、CGを利用して映画の作成についてのトークショーが行なわれた。

 ミラー氏はAdobeのPremiere Proを利用してDeadpoolの作成を行なっているそうで、デジタルの普及により以前よりも短時間で映画が作れるようになったとした。その後、実写版Deadpoolの予告編が流された。なお、映画Deadpoolは米国では来年に公開される予定だ。

 その後、Premiere ProやAfter Effectsに関するデモが行なわれ、最後の話題として、Creative Cloudのフォトグラフィプランについての紹介が行なわれた。このデモでは、従来から提供されてきたモバイルアプリのPhotoshop Mixのデモのほか、今回のAdobe MAXで新たに発表されたPhotoshop Fixのデモが行なわれた。Photoshop Fixは、iPadやiPhone向けに提供開始(Androidに関しては2016年前半提供予定)されたモバイルアプリで、写真をタッチで簡単に加工できる。

 デモでは、車に開いていた穴をタッチで簡単に加工して見えないようにする様子が公開され、そのほかにも、範囲を指定して簡単に色を変える様子、口もとをゆがめて笑っているように見せる様子などがデモされた。

 講演の最後には、ラムキン氏からのサプライズとして、富士フィルムのミラーレス一眼レフカメラであるX-T10のレンズキットが参加者全員にプレゼントされると発表されると、会場からは大きな拍手が起きた。そうした熱狂とともに、初日の基調講演は幕を閉じ、多くの来場者が会場を後にして、セッションが行なわれるLACCへと移動していった。

Muse CCのデモ、簡単にモバイルとPCの両方のモダンなWebサイトが作れる
ProcJet Cometは、モバイルアプリなどのUIを簡単に作成するツール
このように複数の画像をまとめて貼り付けたりとかができる
複数のUIの画面もこのように見たり、接続部分を確認したりできる
Project Cometは現在ベータテスター募集中
Deadpoolの実写版映画の監督を務めているティム・ミラー氏が、デジタルを活用した映画の作り方について語った
Premiere ProとAfter Effectsを利用した動画の編集のデモ。顔認識を利用して動画の人物にマスクをつけているところ
Photoshop Fixを利用して写真をタッチで本格的に編集しているところ。Photoshop FixはiOS版がリリース済みで、Android版は2016年前半
口の部分を笑わせたりなどもタッチでできる
Creative Cloudのフォトグラフィープランは9.99ドル/月。日本では980円/月と現在の円ドルの為替レートを考えるとかなりお得な設定だ
Adobe MAX 2015の参加者には富士フィルムのミラーレス一眼レフX-T10のレンズキットがプレゼントされた
今後もCreative Cloudは拡張していくとまとめられた

(笠原 一輝)