福田昭のセミコン業界最前線

ルネサス、初めての年間最終黒字を達成

 国内最大の半導体専業メーカー、ルネサス エレクトロニクス(以下:ルネサス)の年間業績が初めて最終黒字に転じた。ルネサスが2015年5月12日に発表した2014会計年度(2014年4月〜2015年3月期)の通期決算によると、最終黒字823億6,500万円を計上した。ルネサスが年度の通期決算で最終黒字を計上するのは、同社が2010年4月に設立されて以降、初めてのことである。

 2014会計年度(以下は「会計年度」を「年度」と表記)の業績をまとめると、売上高が7,911億円で対前年比5.0%減、営業利益が1,044億円で同54.4%増である。純利益は前述の通り824億円で、前年度は純損失53億円(最終赤字)を計上していた。

 ルネサスの損益を設立以降から振り返ると、設立初年度の2010年度(2011年3月期)こそ営業利益145億円を出していたものの、最終損益は事業再構築の費用と東日本大震災による損失のために赤字で、1,150億円もの純損失を計上していた。設立2年目には営業損益、純損益とも赤字に転落した。2011年度(2012年3月期)の営業赤字は567億5,000万円、続く3年目の2012年度(2013年3月期)の営業赤字は232億1,700万円といずれも大きな赤字。最終赤字はそれぞれ626億円と1,676億円で、尋常でない金額の赤字を流していたことが分かる。

 2012年度半ばの時点で、ルネサス内部出身の経営幹部による事業再構築ではルネサスの立て直しは無理であることが、誰の目にも明らかになっていた。第三者割り当てによる増資を産業革新機構が中心となって引き受けるとともに、経営幹部を外部から送り込むことが、2012年12月10日に公表された。2013年には経営幹部が交代し、苛烈な事業再構築へとルネサスは突き進む。その効果は迅速に現れた。2013年度第3四半期(2013年10月〜12月期)には、四半期純損益が初めて黒字になり、純利益を計上した。2013年度(2014年3月期)の通期決算では、営業損益が黒字に転換した。営業利益は676億円となり、業績は急回復した。そして2014年度(2015年度3月期)へと至り、純損益も黒字に転換した。

ルネサスの年度別業績(営業損益と純損益)。2009年度以前は、母体であるNECエレクトロニクスとルネサス テクノロジの業績を単純合計したもの。2010年度以降は、ルネサスの公表値を基に筆者が作成した
ルネサスの年度別売り上げ推移。2011年度以降は、売上高が8,000億円前後で推移していることが分かる。2009年度以前は、母体であるNECエレクトロニクスとルネサス テクノロジの業績を単純合計したもの。2010年度以降は、ルネサスの公表値を基に筆者が作成した
ルネサスの2014年度(2015年度3月期)業績と2014年度第4四半期(2015年1月〜3月期)の業績。ルネサスが2015年5月12日に開催した記者説明会の資料から

営業利益率2桁を目標時期から2年早く達成

 ルネサスの収支が大幅に好転した主な理由は、損益分岐点の低下にある。言い換えると固定費を大きく下げたことで、収支が均衡する売り上げ金額が大幅に減少した。固定費とは、製造ラインの減価償却費や従業員の人件費などである。このことは2015年2月7日付けの本コラムで既に述べた。ルネサス発足当初の2010年度〜2011年度は、四半期の売上高が2,500億円を超えないと、営業損益が黒字にならなかった。それが2013年度以降は、売上高が2,000億円を切っても営業利益を確保できるようになった。営業収支の損益分岐点は、売上高換算でおよそ1,000億円近くも下がった。

 そして営業利益率(営業利益/売上高)は2013年度〜2014年度に大きく改善した。2012年度の営業利益率がマイナス3%であったのに対し、2013年度の営業利益率はプラス8%に転じ、2014年度はさらに改善してプラス13%に達した。2013年10月にルネサスが構造改革案「変革プラン」の目標として掲げた2016年度(2017年3月期)の営業利益率2桁を、2年ほど早く実現したことになる。

ルネサスの四半期売上高と四半期営業損益の推移。ルネサスの公表資料を基に作成した
ルネサスの年度別営業利益率推移。ルネサスの公表資料を基に作成した

従業員の削減と拠点の統合を前倒しで進めた

 固定費の一部である、従業員の削減も前倒しで達成した。以前の本コラムで指摘したように、2014年1月の労使協議でルネサス経営陣は2016年3月までに人員を5,400名程度、追加削減する必要があると説明した。単純計算では、2016年3月末時点の従業員数(目標値)は2万,219名となっていた。

 この目標に対し、この5月12日に東京で開催された報道機関/アナリスト向けの業績説明会で、3月31日時点の従業員数は21,100名との数値を質疑応答によって得た。従業員数は、2016年3月末時点の想定よりも少なくなってしまった。当初の目標時期に比べて1年ほど前倒しで、目標数値を達成したことになる。

ルネサスの従業員数(連結ベース)推移。ルネサスの公表資料を基に作成した

事業再構築は2015年3月末でほぼ完了

 忘れてはいけないのが、2014年度の仕上げに相当する第4四半期(2015年1月〜3月期)の業績である。売上高は対前年同期比9.1%減、対前四半期比5.1%減の1,822億円、営業利益は244億円(前年同期の営業利益は170億円)、純利益は90億円(前年同期の純損失は155億円)。前年同期に比べると売上高は183億円ほど減少しているのに対し、営業利益は75億円ほど増えている。固定費の減り具合がよく分かる。

 第4四半期(2015年1月〜3月期)の営業利益が244億円であるのに対し、純利益が90億円と大幅に減少しているのは、特別損失を計上したことが大きい。特別損失の金額は154億円。内訳は、滋賀工場の8インチラインをロームに譲渡することに伴う減損損失等62億円と、設計・開発拠点の再編成に伴う設備の撤去・移設費用や減損損失等92億円である。

ルネサスの2014年度(2015年度3月期)業績と2014年度第4四半期(2015年1月〜3月期)の業績(再掲)。ルネサスが2015年5月12日に開催した記者説明会の資料から
2014年度第4四半期(2015年1月〜3月期)の純損益概要。ルネサスが2015年5月12日に開催した記者説明会の資料から

 事業再構築に伴う特別損失の発生は、この段階で一段落する。このことを良く表しているのが、2015年度第1四半期(2015年4月〜6月期)の業績予想だ。売上高は1,800億円、営業利益は250億円、純利益は200億円である。事業再構築に伴う大きな特別損失がない。このため、大きな純利益を見込んでいる。

2015年度第1四半期(2015年4月〜6月期)の業績予想。ルネサスが2015年5月12日に開催した記者説明会の資料から
2015年度第1四半期(2015年4月〜6月期)の純損益見通し概要。ルネサスが2015年5月12日に開催した記者説明会の資料から

 気になるのは売上高の行方である。売上高の減少基調はどこで止まるのだろうか。5月12日の説明会では、撤退を予定している製品分野(非注力分野)がまだ残っており、その割合は売上高全体の12%〜13%と質疑応答で説明があった。非注力分野の割合を減らしていくので、売上高はまだ減る可能性がある。四半期ベースの売上高が底を打って反転する時期は、しばらく先になるようだ。

産業系国内企業出身のCEOからIT系外資企業出身のCEOへ

 また、この4月1日には重要な発表があった。ルネサスの経営トップが今年(2015年)6月に交代する。産業系国内企業であるオムロン出身の作田久男現CEOが退任し、IT系外資企業出身の遠藤隆雄氏が作田氏に替わってルネサスのCEOに就任する。遠藤氏を指名した理由について5月12日の説明会で筆者が質問したところ、作田氏から具体的な回答が得られたので、以下に少し説明しよう。

 まず、作田氏が退任する理由は、高齢であることが大きい。オムロンでおよそ10年にわたって代表取締役を務めた作田氏は、今年で71歳になる。ルネサスの経営では2つのステップを考えていた。最初のステップが事業の選択と集中を進めるとともに構造改革によって営業利益の出る体質を作ること。次のステップがグローバル化と、選択と集中による成長である。しかしこの2つのステップを実行していくのには、かなりの年数がかかる。高齢である作田氏が両方のステップを担うのは、かなり厳しい。

 そこで作田氏は大株主の産業革新機構と相談し、2つ目のステップを担うCEOを選んだという。選択の条件は大きく分けると2つある。1つは、若返りである。年齢としては50代が望ましい。もう1つは、半導体ユーザーとしてのソリューション、特にソフトウェアとシステムに通じていることだ。遠藤氏は2015年6月時点で61歳なので50代ではないが、作田氏に比べると10歳ほど若返ることになる。また日本アイ・ビー・エムと日本オラクルというITソリューション企業で経営幹部や経営トップなどを務めてきたので、ソフトウェアとシステムに明るい。

作田氏の略歴。ルネサスの公表資料を基に作成した
遠藤氏の略歴。ルネサスの公表資料を基に作成した

 作田氏の回答にはなかったが、遠藤氏の経歴で重要なのが外資系(米国系)日本法人で経営トップを務めてきたことだ。ルネサスの成長にはグローバル化、言い換えると海外市場での売り上げ拡大が欠かせない。利益率の高い製品による売り上げの拡大を意識したときに、米国市場に食い込むことはきわめて重要な課題となる。この点で遠藤氏には、大いに期待がかかる。

(福田 昭)