福田昭のセミコン業界最前線
東芝の「不適切会計」問題(経緯編)
(2015/7/27 06:00)
「不適切な会計の処理」に関する問題で東芝が揺れている。2008年度第1四半期から2014年度第3四半期(2008年4月~2014年12月)までの6年9カ月間で、利益を過大に計上していたことが発覚した。過大に計上した利益の金額は累計で1,600億円近い。金額の大きさもさることながら、不適切な会計処理を実施していた事業部門が連結子会社を含めて多岐に渡っていること、当時の社長が不適切な会計処理に関わっていたことなどから、東芝グループ全体の不正行為であることのイメージを持たれてしまった。
点火:証券取引等監視委員会が問題を把握
2015年6月25日に開催された定時株主総会で、東芝の代表執行役社長を務めていた田中久雄氏(肩書は当時のもの)は、不適切会計問題に関する当日までの経緯を説明した。2015年2月12日に東芝が、証券取引等監視委員会からの報告命令を受け取ったのが、不適切会計問題の始まりである。同委員会と東芝による調査の結果、同年3月下旬には一部の案件(インフラ工事)で会計処理に問題があったことが判明した。
そして同年4月3日には東芝が社内外のメンバーで構成される「特別委員会」を設置し、一部の案件に対して会計処理の手続きを調査すると公表した。この発表によって不適切な会計処理の疑義が広く知られることとなった。
導線:第三者委員会の設置と大規模な調査の実施
特別委員会の調査の結果、会計処理に問題点が見つかるとともに、さらに大規模な調査の必要があることが判明した。そこで日本弁護士連合会(日弁連)のガイドラインに準拠した中立の調査機関「第三者委員会」を設立し、調査を委託することにしたと5月8日に発表した。
また過去の不適切な会計処理による影響が2014年度(2015年度3月期)の決算に及ぶことが避けられなくなったため、同年度の通期決算の予想額を「未定」に変更するとともに、2015年3月31日を基準日とする株式配当を無配(前期は半期で4円を配当)にすることを決定した。このことも同じ5月8日に東芝は発表した。
爆発:調査対象事業がインフラから映像、PC、半導体に拡大
続く5月13日に東芝は、不適切な会計処理があったことによる業績修正が必要な社内カンパニーの名称と、修正金額の予想値を発表した。社内カンパニーは「電力システム社」(発電所の設備を含む請負工事等)、「社会インフラ・システム社」(太陽光発電システムや鉄道・自動車システムなどの請負工事等)、「コミュニティ・ソリューション社」(受変電システムや防災・通信システム、上下水道システムなどの請負工事等)の3社。修正金額は営業損益で累計500億円強である。
この500億円強という金額は巨大であり、かなりの衝撃を持って受け止められた。ちなみに東京株式市場における東芝の株価は、5月1日と7日の安値がいずれも476円であったのに対し、5月12日には375.2円、13日には401.6円の安値を付けた。
5月22日になると、第三者委員会に調査を委託する会計処理が当初のインフラ事業だけでなく、映像事業、PC事業、半導体事業に拡大した。不適切会計問題は、東芝グループ全体を巻き込む大きな問題へと広がってしまった。
燃焼:第三者委員会で1,518億円、独自調査で44億円の巨額修正が必要に
東芝は第三者委員会へ委託した案件とは別に、独自調査によって不適切な会計処理の有無を洗い出していた。その結果を6月12日に公表した。12件の不適切な会計処理があり、修正金額は営業利益の累計で約36億円となった(その後、監査法人のチェックによって約44億円に金額を訂正した)。
7月21日、「不適切会計問題」は大きなヤマ場を迎えた。第三者委員会が調査報告書を7月20日に東芝に提出したのである。東芝は受け取った調査報告書を直ちに公表するとともに、当面の対応策を21日に発表した。
第三者委員会の調査報告書によると、営業損益の修正が必要な不正会計処理の金額は、累計で1,518億円に達した。インフラ事業と映像事業、パソコン事業、半導体事業のいずれにも不適切な会計処理の存在を認めた。独自調査で判明した修正金額44億円と合わせ、総額で1,562億円もの下方修正が必要となった。
放熱:経営陣を刷新して信頼を回復へ
経営責任を明確化するために、2008年度から現在までに社長を務めた西田厚聰氏、佐々木則夫氏、田中久雄氏を含む7名が現職を7月21日付けで退いた。執行役と取締役の処分は21日発表分だけにとどまらず、後日に追加で処分を発表する予定である。
さらに、新しい経営陣を選任するため、社外取締役と社外専門家で構成される「経営刷新委員会」を設置すると21日付けで発表した。8月中旬には、新しい経営陣を公表するとともに、今後の対応方針を説明する予定である。
原点:2013年10月に公表された東芝孫会社の「不適切会計」問題
東芝が「不適切な会計処理」を公表することになったのは、今回が初めてではない。東芝の孫会社である「東芝医療情報システムズ株式会社」で不適切な会計処理があったことを、親会社(東芝の子会社)である「東芝メディカルシステムズ株式会社」が2013年10月30日に発表した。
発表資料によると、経費(売上原価、販売費、一般管理費)を減額して資産勘定(仕掛品やソフトウェア勘定など)に振り替えることで資産を過大に計上する、売上原価として計上すべき仕掛品と減損処理すべき仕掛品の処理を実行しない、といった手法によって利益を過大に計上していた。
この不正な会計処理の期間は、2006年度~2012年度の7年間の長期に及んだ。累積の影響額は98億6,300万円である。東芝医療情報システムズの取締役管理部長(経理責任者)が不正会計を主導し、部下の経理グループ長に指示することで不正な処理は実施された。
この不正会計は、東芝医療情報システムズの経営状況の不自然さ(資金収支の過度の悪化や仕掛品勘定の金額増加など)を親会社が把握することとなり、2013年4月頃から親会社が東芝医療情報システムズの取締役管理部長に説明を求めたものの明確な回答を得ることができず、さらに同年7月に同部長の部下である経理グループ長が上司の指示の下で不正会計を実施しているとの報告を親会社が受けたことから発覚した。親会社である東芝メディカルシステムズは特別調査委員会を設置し、調査の結果、会社ぐるみの(経営陣の関与による)組織的行為ではなく、取締役管理部長の主導による不正会計であることが明らかとなった。
東芝メディカルシステムズは、東芝医療情報システムズにおける不適切な会計処理の発生を受けて同日に再発防止策を発表した。皮肉にも当時の東芝グループでは、東芝本体の社長が関与する不適切な会計処理が進行していた。再発防止策でうたっている「会計上の知識・能力の強化」や「コンプライアンス意識の徹底」などは、東芝本体には届かなかったようだ。